自然保護

2015年11月 2日 (月)

然別湖周辺の風倒被害

 北海道は10月初旬に台風と低気圧で強風が吹き荒れた。この強風で大雪山国立黒煙の南東部にある然別湖周辺では、比較的大規模な風倒被害が発生した。

 道路沿いを見る限り、然別湖の北岸にある野営場の一帯でかなりの風倒被害が見受けられる。全面的に倒れたという状態ではないにしても、場所によっては薄暗かった森林がスカスカの明るい疎林になってしまったところもある。下の写真の場所ではトドマツやエゾマツがかなり倒れたため、今まで見えなかった背後の山が見えるようになってしまった。

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 東ヌプカウシヌプリの登山道も、ちょうど風穴のあるあたりで集中的に風倒被害が発生していた。このあたりは岩塊地で樹木は深く根を張れないことが風倒被害につながったようだ。

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 気になるのは、今後の風倒木の処理だ。大規模な風倒木が発生すると、森林の管理者(ここの場合は国有林なので十勝西部森林管理署)がキクイムシの発生などを理由に風倒木を運び出すのが普通だ。昨今ではブルドーザーで作業道をつくって搬出するのが一般的なのだが、重機を入れると稚樹が潰されるだけでなく、植生が破壊されて土砂の流出が生じる。これまでも、そんな現場をあちこちで見てきた。

 しかし、キクイムシが大発生したとしても数年で自然に収束するし、キクイムシはキツツキ類の餌となる。北海道の森林は過去になんども大きな風倒被害を受けてきたはずだが、風倒木を放置しても自然に森林は回復するのだ。倒木がそのままになっている景観はたしかに美しいとは言い難いが、倒木もやがて朽ちて後継樹の苗床となる。

 また風倒木は風で揺すられて繊維が破断されるため材としての価値も下がる。自然保護の観点からも、また自然の遷移を見守るという観点からも、風倒木のある風景を自然の摂理として受け止め、基本的に手をつけないという選択をしてほしい。

2015年6月 8日 (月)

日高地方のサクラソウ移植に思う

 6月7日付けの北海道新聞の日曜版「日曜Navi」に、全道の植物調査をしている五十嵐博さんの活動が紹介されていた。その記事の中で、むかわ町の「まちの森」に移植されたサクラソウのことが紹介されている。

 サクラソウの仲間にはオオサクラソウやエゾコザクラ、クリンソウなどいろいろな種があるが、単に「サクラソウ」という種名のものもあるのでちょっと紛らわしい。このサクラソウは、江戸時代に荒川の河川敷に自生していたものを栽培してさまざまな品種が生みだされたことで知られている。

 サクラソウは、北海道では日高地方にのみ分布しているのだが、自生地が日高自動車道(国道の高規格幹線道路)の用地となり危機に瀕しているということを、かつてサクラソウ研究者である鷲谷いづみさんからお聞きしたことがある。鷲谷さんはサクラソウ保護のために開発局に申入れをして尽力されたと聞く。

 このサクラソウ保護の件をめぐって日高地方の植物愛好者の方などとやりとりしたことがあるが、結局、自然保護運動という形にはならなかったようだ。日高地方にはいわゆる自然保護団体がない。だから、平取ダムの反対運動なども地元からは起きなかった。

 で、このサクラソウの件がその後どうなったのか知らなかったのだが、新聞記事によると町民有志が数年がかりで自生地から「まちの森」に移植したそうだ。「まちの森」には現在1万5千株以上が生育しているという。

 高規格道路で自生地が縮小されておしまい、となってしまうよりは確かにいいのだが、移植でしか対処できなかったことはやはり残念というしかない。移植は「種」の保全にはなっても決して生育地保全ではないし、これでは日高のサクラソウ群生地が守られたとは言えない。野生生物や生物多様性保全というのは本来の生息・生育地そのものが守られてこそのものだからだ。

 サクラソウは環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されているし、北海道では日高地方の限られたところにしか生育していない。道路建設にあたっては環境アセスメントを実施しているはずだが、保護すべき希少植物の生育地があってもこの国では生息地保全が優先されないのだ。「はじめに建設ありき」で計画が進められるために、希少動植物や生物多様性保全は単に努力目標になっているにすぎない。レッドリストに登載されたからといって保全義務があるわけではないのは事実だが、いったい何のためのレッドリストであり生物多様性保全なのかと思わざるを得ない。

 開発予定地に希少な植物が生育している場合、その保全策の定番が「移植」だ。しかも、移植をした後に枯れてしまう場合も少なくない。「まちの森」に移植したサクラソウは無事生育しているようだが、サクラソウは一般に種子でもよく増えるし有毒でシカが食べないなどの条件も関係しているのだろう。これを保護の成功例とか美談にしてはならない。

2015年5月31日 (日)

日向市のスラグ問題と自然保護・環境保護運動

 このブログでも何回か取り上げてきたが、宮崎県日向市では日向製錬所から排出されるフェロニッケルスラグという鉱さいが「造成」の名の元に里山等に埋められている。このスラグ問題をブログなどで明らかにしたのが日向市在住の黒木睦子さんだが、彼女は日向製錬所とスラグの運搬会社サンアイから名誉毀損および業務妨害で訴えられてしまった。

 里山の自然を根こそぎ破壊してしまうことがまずは自然保護上大問題だ。しかも産業廃棄物として排出された鉱さいは、本来であれば管理型最終処分場ないしは遮蔽型最終処分場で処分されなければならないのだが、製品・リサイクルという名目でなんの遮蔽処理もせずに山野に埋められているのであり、産廃問題・環境問題でもある。こうした実態を何ら問題がないとして認可している行政の責任もきわめて大きい。仮に私の住む十勝地方でこのような造成が行われたなら、大問題として反対運動が展開されるだろう。しかし、日向市ではスラグの埋め立てに関して市民による反対運動が起きている様子は窺えない。

 このスラグ埋め立て問題では、いろいろなことを考えさせられる。説明を尽くさずに抗議する市民を訴えるという企業のやり方は横暴だし、ブログの削除は口封じだと思うが、かといって企業や行政に抗議を続ければ問題が解決する訳ではないのも事実だ(ただし黒木さんにはそれ以外の方法が思いつかなかったのだろうし、彼女を批判するつもりはない)。では、こういう問題に直面したとき、いったい市民はどう対処したらいいのだろうか?

 住民が個人的に企業や行政に説明を申し入れることは可能だが、多くの場合、話し合いは平行線ないしは決裂に終わって事業が強行される。個人での反対行動には限界がある。つまり利害関係のある地域住民が組織をつくって住民運動を起こしたり、あるいは地元住民に拘ることなく市民が反対運動を起こして闘うのが普通だ。

 私は東京に住んでいた十代の後半から自然保護運動に関わってきたし、今も北海道で自然保護運動に関わっている。つまり、かれこれ40年以上自然保護とか環境問題に関わってきたのだが、日本各地で自然破壊に対してさまざまな反対運動が活発に繰り広げられた頃から今に至るまで、住民運動・市民運動の基本的な闘い方は大きく変わっていないと思う。

 まず、自然保護上の問題が発覚した場合、情報収集や事実確認を行う。現地の確認を行ったり、事業者などの関係者に説明を求めたりする。そして問題点を明確にし、どうやったら破壊を食い止めることができるかを組織内部で話し合う。

 次に、事業者に対し申入れや質問書を提出したり、問題解決のための話し合いを行う。公共事業など行政が相手の場合、昨今では説明や話し合いそのものを拒否することはほとんどない。「生物多様性国家戦略2012-2020」においても、生物多様性の保全及び持続可能な利用のために地方自治体、事業者、NGO・NPO等の民間団体、市民などが連携して取り組みを進めていく必要性が述べられており(99ページ)、行政は市民団体をないがしろにすることはできない。

 規模の小さな事業であれば、こうした要請や話し合いで計画が変更されたり中止されることもあり得る。ただし、大きな事業の場合は話し合いで解決することはほとんどない。とりわけ企業による事業の場合は、申入れや質問への回答を無視したり話し合いに応じないこともある。

 しかし企業による事業の場合、開発行為にあたって行政の許認可が必要な場合がほとんどなので、許認可を出した行政の責任を追及して交渉をする必要もある。もちろん行政は自分たちの許認可に問題はないと主張するのが普通だが、実に安易に許認可を出していることも多い。加森観光が建設したヒグマの野外展示施設「ベア・マウンテン」の事例だが、柵に熊が通り抜けできる大きな空隙があったまま許認可が出されていた。これを見つけたのは自然保護団体のメンバーである。

 士幌高原道路(道々)の建設をめぐっては、十勝自然保護協会は北海道の出先機関である帯広土木現業所と緊迫した交渉を重ねた。「建設にあたっては地元自然保護団体の合意を得る」という約束があったからだ。事業者が強引に調査などに着手した際には、プラカードを掲げて現場での抗議行動も行った。大規模林道問題でも、北海道の自然保護団体のメンバーが何度も道庁に出向き、担当者と話し合いを続けてきた。ほとんどの場合、話し合いは平行線になるが、こうした交渉を重ねることで問題点がより明確になっていく。

 それから現地視察や現地調査、観察会なども行う。ナキウサギの生息地保護などでは、何回も現地に足を運んで調査をした。大きな事業の場合は事業者は環境アセスメントを行っているが、自然保護団体による調査で事業者の調査の杜撰さを確認できることは多い。道路予定地がナキウサギの生息地に重なっている場所では、データを操作したとしか思えない事例もあった。

 上ノ国や大雪山国立公園の国有林、えりもの道有林での森林伐採問題に関しても、自然保護団体による伐根の調査によって違法性が明らかにされた。具体的データを得られる調査活動は、反対運動を進める上で大きな武器になる。

 また問題を多くの人に知らせるために、問題点をまとめたリーフレットを作成したり、専門家を呼んで講演会やシンポジウム、学習会等を開催することも有効だ。こうした問題をなかなか取り上げないマスコミも、講演会やシンポジウムを行うと取材して記事にすることも多い。

 運動を進めるにあたり、情報公開制度も大いに活用できる。大規模林道問題でも、森林伐採問題でも美蔓ダム問題でも情報開示を最大限に利用した。

 状況によっては署名活動も展開する。士幌高原道路の反対運動では全国の自然保護団体に署名用紙を送付して署名を呼び掛けた。十勝自然保護協会が行った士幌高原道路反対のネット署名は、今では広く普及したネット署名の先駆けになった。

 一つの団体だけでは困難な場合は他の自然保護団体と共闘することもある。北海道の場合は賛同する他の道内の自然保護団体と連携したり、連合組織をつくって闘うこともある。士幌高原道路、日高横断道路、大規模林道問題では連合組織で活動して成果を上げた。

 また、裁判にするという闘い方もある。北海道では、士幌高原道路、えりもの森違法伐採、北見道路、サホロスキー場拡張工事などで裁判が起こされている。この場合は協力的な弁護士がいることが必須だし、環境裁判は勝訴が難しい。しかし、反対運動を無視して事業が強行される場合は、こうした手段も大きな意味がある。「えりもの森裁判」は10年目に入ってまだ決着していないが、裁判を起こしたことで実質的に大規模な伐採を中止に追い込んだともいえる。

 沖縄ではやんばるの森を守るために、林道建設や森林伐採を差し止めを求めて裁判が起こされた。今年3月には「請求を却下する」という門前払いの判決が下されたのだが、判決文をよく読むと、自然保護団体による様々な活動によって沖縄県が林道建設や伐採を中止していたために裁判所は差止を命ずる必要がなくなり、その結果としての却下判決だった。つまり、形式的には敗訴であっても実質勝訴という内容だった。

 このように、大きな開発行為などでは一人で事業者と交渉したり抗議行動をしても限界があるが、住民運動あるいは市民運動という形をとることで問題が広く認知され、解決の道も広がる。

 黒木さんの裁判がどのような結果になるか分からないが、弁護士もつけずに一人で闘っている現状を見る限り厳しいと感じざるを得ない。ただし、裁判を起こしたことでスラグによる埋め立て問題が地域に知れ渡って今後埋め立ての反対が強まるのなら、製錬所とサンアイはたとえ裁判で勝訴したとしても実質的敗訴と言えるかもしれない。もっとも、政官財の癒着が強く疑われる問題だし、製錬所が稼働している限りスラグが増えつづけるのだから、スラグ問題がそんなにすんなりと解決するとは思えない。

 日向市のスラグ埋め立て問題は、抗議をした市民一人の問題ではない。ただし裁判は黒木さんが誰の力も借りずに自分で闘うと宣言している以上、誰も関与はできない。裁判とは別に、できれば住民運動として地域の人たちが取り組む必要があると思う。もっとも地方では地元企業に対して声を上げにくいという事情もあるだろうから、住民運動が困難であるなら、地域の(たとえば宮崎県の)市民運動として取り組んでいくべきことのように思える。ちなみに私の所属する十勝自然保護協会は十勝地方での自然保護問題を対象にしているが、十勝地方(10,831.24平方キロメートル)は宮崎県(7,735.31平方キロメートル)より広い。

 宮崎県にこうした問題に取り組める市民団体があるのかどうか分からないが、黒木さんによる問題提起を基に、今後、地域の人たちがこの問題にどのように取り組んでいくのか、あるいは何もしないのかが問われているのだと私は思う。

 昨日は以下の連続ツイートをしたが、それは私がこの問題に関して上記のように考えているからである。

①「日向ミナマタ水・土壌汚染・防災研究会」というブログがある。http://blogs.yahoo.co.jp/teisitu_minamataサブタイトルに「住友金属鉱山の日向製錬所は、かつてのチッソと同じ企業体質。黒木睦子さんを助けよう!」と書かれているので、黒木さんを支援していることが分かる。

②いわゆる勝手連のような立場と推測されるし、そういう意味では「日向製錬所産廃問題ネットワーク」と共通する。ただし、黒木さんはご自分の裁判において金銭的支援を含む一切の支援を断っており、自分の力で裁判を闘うと明言している。つまり、第三者による支援を拒否している。

③黒木さんは、「スラグは産廃で有害」という立場でこの問題を検証しているブログ記事などを裁判で十分活用しているとは思えない。こうしたことからも、彼女は自分の力で自分の気の済む闘いをしたいのだろうと私は理解している。だから、弁護士もつけなかったのだろう。

④このような彼女のやり方に私は賛同しないが、どんな闘いをするかは彼女自身が決めることなので第三者がとやかくいうことではないだろう。いずれにしても、黒木さんが誰の助けも借りないという方針である以上、裁判に関しては第三者は見守るしかない。

⑤「日向製錬所産廃問題ネットワーク」は、黒木さんの支援を掲げて水質検査などを行ったが、計画性のない水質検査を行って結果を公表したことで黒木さんを不利にした。そして、その件に関してなんら弁明もなされていない。支援するといいながら、結果として迷惑をかけただけだった。

⑥この裁判に関心を持って見守っている人は、こういう状況であることはすでによく分かっているだろう。だから、勝手連のような形で黒木さんを支援することは意味がないと私は考えている。それにも関わらず、なぜこの団体は「黒木さんを助けよう」と掲げているのだろうか?

⑦この団体は、以前から存在する環境保護団体ではなさそうだ。日向のスラグ問題で情報公開を行って公文書を入手しているし、それらはスラグによる環境問題を考える上で活用できるだろう。ところが、この団体の主宰者が誰なのかが全く分からない。

⑧これは私の意見だが、日向製錬所のスラグ問題に関心を持ち、スラグがあちこちに埋められるなどしている問題をなんとかしたいのであれば、黒木さんの裁判とは切り離して独自に活動するべきだし、団体の目的や代表者名くらい明らかにしなければ信頼性に欠ける。

⑨また、主に日向製錬所のスラグ問題を取り上げている多数のYahooブログが存在するのだが、同じ内容の記事が掲載されていたり、互いにトラックバックしたり、互いにコメントしたりしている。どうやら同じ人物ないしは同じグループの人がブログを書いているように思える。

⑩しかも、記事の中には他のサイト記事あるいは写真の無断転載も見受けられる。「日向製錬所産廃問題ネットワーク」も無断転載をしていた。問題意識を持って情報開示を行ったり情報提供するのは評価できるが、こうしたやり方には非常識さを感じざるを得ないし、手放しで賛同できない。

2015年5月 9日 (土)

更別村の十勝坊主とその保全

 若い頃からいわゆる観光旅行というものに興味がない私は、どこかに出かけたくなっても観光地に行くことはほとんどない。出かける先はほとんどが山野だ。

 先日は、暖かな日和に誘われて十勝坊主を見にいった。十勝坊主というのは周氷河地形の構造土の一つで、地面がこぶ状に盛り上がった地形だ。構造土は地中の水分が凍結と融解を繰り返すことで形成される。たとえば大雪山の高山帯で見られるアースハンモックや多角形土、階状土なども構造土だが、十勝坊主は平地で見られる構造土だ。

 帯広畜産大学農場にある十勝坊主は北海道の天然記念物に指定されている他、音更町にあるものは町指定文化財になっている。また更別村のイタラタラキ川流域の十勝坊主群の一部は、北海道の学術自然保護区(勢雄地区)に指定されている。他に、帯広空港の近くにも十勝坊主群がある。

 今回、見にいったのは更別村と幕別町の境界付近を流れるイタラタラキ川流域の十勝坊主群だ。左岸の一角、さけ・ますふ化場の近くに学術自然保護区があり看板が出ている。

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 実際に行って驚いたのだが、ここの保護区の十勝坊主群は猫の額のように小さい。そして保護区の南のイタラタラキ排水路流域にはもっと広い十勝坊主群がある。ササに覆われているので写真だと凹凸がちょっと分かりにくいのだが、直径が1メートル前後、高さが50センチ前後くらいのこぶがポコポコと連なり、不思議な光景だ。

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 しかし、なぜ広い方の十勝坊主群を保護区に指定せず、猫の額のようなところを保護区にしたのだろうか?

 実はイタラタラキ川流域に広がる十勝坊主群は、バイパス水路工事によって分断され一部が壊されてしまっている。以下参照。

 2.化石構造土:北海道更別村(農林水産省)

 つまり、広大な方の十勝坊主群にはバイパス水路の計画があったため保護区指定をせず、規模のごく小さい一部の場所のみを保護区指定したということではないかと思われる。貴重な周氷河地形の保存よりバイパス水路工事を優先したがゆえに、十勝坊主群の一部が壊されてしまったと言えそうだ。

 バイパス水路の工事に当たっては十勝坊主の調査が行われているのだが、農水省は「バイパス水路整備後における十勝坊主の形態変化や周辺植生の変化は認められず、現況河川を存置した工法は、自然環境への事業の影響軽減を十分果たしていると考えられます」と記している。工事が周氷河地形に変化を与えていないので問題ない、と言いたいようだ。ただし、工事が本当に影響を与えていないかどうかはそう簡単には分からないだろう。何十年も経過してから変化が現れるかもしれないのだから。

 では、何のためにバイパス水路を造ったのだろう?

 上記サイトの空中写真を見るとよく分かるのだが、イタラタラキ川流域は十勝坊主群のある部分を除き河川の直線化工事が行われている。十勝坊主群のある区間はその保護のために直線化工事をせずに蛇行した自然の状態を残したのである。しかし、もともと森林だったところを農地開発すれば大雨のときには河川に一気に水が流出するようになる。さらに流域に湿地が広がっていた蛇行河川を直線的に改修し河岸まで農地にしたのである。流速が落ちる蛇行部周辺で水が溢れ、その周辺の農地で湛水被害や過湿被害が生じるのは当然のことだ。その解消のために十勝坊主群を壊してバイパス水路を造ったのだ。

 また、十勝坊主群の上流にはヤチカンバの保護区があるのだが、周辺の農地の過湿被害を防ぐために行われた排水工事によってヤチカンバ生育地が乾燥化し、危機的な状況になっている。ヤチカンバは湿地に生育する植物なのだが、乾燥化によって生育地にササやヤマナラシなどが侵入してしまったのだ。

 結局、十勝坊主の分布域やヤチカンバの生育地のみ手をつけなければ保全できるという訳ではないことがよく分かる。森林や湿地を農地にしたり蛇行河川を直線化するということは、これまで保たれてきた自然のバランスを崩してしまうことに他ならない。自然のバランスを崩してしまったら、真の保全にはならないのだ。

 排水事業によって農地の排水は良くなったとしても、大雨などの際に河川に一気に水が流れ込むことに繋がる。水の出方が変わってしまえば河川にさまざまな影響を与えるし洪水の原因にもなる。そのために下流では床固工やら落差工などの治水工事が行われることになる。それらの工事がさらに下流の河床低下を引き起こすことになる。こうなると永遠に公共事業にお金をかけることになり自然破壊はさらに進むという悪循環に陥る。昨今、河川管理者によって行われている河川整備事業は、まさにこの悪循環といっても過言ではない。

 開発できるところはとことん開発しようという人間の傲慢さが、取り返しのつかない自然破壊を招き、税金の無駄遣いへと繋がっているのだ。

2015年4月22日 (水)

講演報告「国立公園における地熱開発の規制緩和の経緯と問題点」(辻村千尋氏)

 4月18日に新得町でシンポジウム「大雪山国立公園トムラウシの地熱発電計画を問う」が開催され、在田一則氏(北海道自然保護協会会長)、寺島一男氏(大雪と石狩の自然を守る会代表)、辻村千尋氏(日本自然保護協会)による講演が行われた。また翌19日に帯広市で辻村千尋氏による講演会が開催された。ここでは、辻村千尋氏の講演「国立公園における地熱開発の規制緩和の経緯と問題点」の概要を紹介したい。
 なお、シンポジウムの講演要旨は以下を参照いただきたい。

シンポジウム「大雪山国立公園トムラウシの地熱発電計画を問う」報告(十勝自然保護協会活動速報)

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国立公園における地熱開発の規制緩和の経緯と問題点 辻村千尋

 日本自然保護協会の国立公園での地熱開発についての基本スタンスは、原子力発電をなくすこと、省エネを第一に進め、地域の自然にあったエネルギーシステムに転換することが前提である。自然再生可能エネルギーとしての地熱発電や風力発電等の導入を否定するものではない。

 しかし、自然環境や生物多様性に与える影響、温泉への影響など、問題点の議論が不十分であり、デメリットも含めたコンセンサスづくりが必要である。

 2010年6月18日に再生可能エネルギーの導入促進に向け、環境省に対して国立公園での規制緩和を検討するよう閣議決定がなされた。これを受け、環境省は2011年6月から2012年2月にかけて5回にわたって「地熱発電事案に関わる自然環境影響検討会」を開催し、科学的な議論を実施した。日本自然保護協会はこの会議において専門家として以下の点について科学的な指摘をした。

①国立・国定公園と地熱発電との関係
 国立・国定公園は特別保護地区、特別地域(第1種~第三種)、普通地域に区分されている(地種区分)。しかし、実際には自然度と地種区分が合致しておらず、バッファーのない特別保護地区や特別地域があったり、規制の弱い、あるいは保護されていない重要な自然環境がある。地熱発電所が計画されているトムラウシ地区(第三種特別地域)はすぐ隣りに原生自然環境保全地域があり、バッファーがない。地種区分の拡充や再編が必要である。

②持続可能性についての疑問
 地熱発電を行うための生産井は寿命があり、次々と新しい井戸を掘り続けなければならない。また、生産井からの蒸気や熱水は還元井によって地下に戻すシステムだが、水蒸気として大気に出ていくものもあるので、すべて地下に還元できるわけではない。

③不確実性と予防原則について
 蒸気が取り出せるかどうかは、実際に掘ってみないと分からないという不確実性があり、蒸気が出なければ堀り直すことになる。また地下2000~3000メートルのところに空気を嫌う微生物がいることが分かっており、このような微生物にどのような影響を及ぼすのか分からない。したがって予防原則の立場をとるべきである。

④地表部の自然保護上の問題点について
 森林であったところにパイプラインだらけの工場が出現することになり、景観を破壊する。

⑤環境影響評価の手続きについて
 資源探査は環境アセスメントの対象にならない。しかし、道路の開削や坑井などの開発行為が伴う。また試験井を掘って蒸気がでればそれを使うことになり、事業に移行する。

⑥自然保護上の解決を要する技術的課題
 パイプラインの景観、ヒ素を含む還元水の地下への影響、火山景観への影響、大量の還元水の地盤変動への影響、噴気蒸気の不安定さと掘削井の持続性への疑問、人の健康に与える影響など、自然保護上解決しなければならない課題がある。

 これらのことから、日本自然保護協会としては、地熱発電所は国立・国定公園内では行うべきではなく、規制緩和には反対であるとの意見を表明した。そして、検討会では普通地域での開発は個別判断で認める、第二種および第三種特別地域への地下へのななめ掘りは地表面に影響がなければ認める、これ以外については合意できず両論併記、の三点が合意された。

 しかし、環境省としての結論は、①普通地域は認める、②地表でも、第二種および第三種特別地域での開発を優良事例に限り認める、③特別保護地区、第一種特別地域も調査は認める、ということになり、検討会での科学的議論が軽視されてしまった。これは政治的な判断がなされたことを意味する。

 人口が減少していく中で、どれだけ電力が必要なのか、省エネがどこまで可能なのかという議論がない。国立・国定公園での地熱開発は公園指定を解除するに等しく、自然公園の風景と調和しない工作物は許可してはならない。生物多様性の保全上も、国立・国定公園での地熱開発許可は難しい。

 地球温暖化への対処と生物多様性の保全は両立させなければならず、温暖化対策のために生物多様性を壊すのは矛盾する。

 日本の山岳地帯は3000m級の山としては世界一の強風にさらされている。これは、ヒマラヤ山脈で分流したジェット気流が日本で合流するためである。また、日本は氷期に氷河で全体が覆われなかったため、植物の絶滅が免れた。地質も複雑である。このような要因が重なり、日本は生物のホットスポットとなっており、国立公園で守っていかなければならない。

 2010年に名古屋で開催されたCOP10(生物多様性条約第10回締結国会議)で、「陸域及び内陸水域の17%の保全」が採択されたが、この17%は保安林も含めてようやくクリアされた。

 歴史学者の色川大吉氏は著作で「風景が無くなるということは、その歴史がなくなるということ」と記しているが、この言葉をしっかりと受け止めていかなければならない。

2014年10月29日 (水)

問題だらけの地熱発電

 今年の春、道南に旅行に行った際に、森町の濁川にある森地熱発電所を見てきた。北海道電力の地熱発電所だ。日本では地熱資源のある場所の多くが国立公園や国定公園に指定されているのだが、ここはそのような自然公園ではない。

 濁川に沿った道を上流へと進んでいくと直径が2キロメートルほどの濁川盆地に出る。周囲を山に囲まれた盆地は田畑が広がり温泉がある。この盆地は、火山活動によってできたカルデラである。
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 森地熱発電所の場合、地下から熱水や蒸気を取り出す生産井や、発電に利用したあとの熱水を地下に戻す還元井は盆地にあるのだが、発電所と冷却塔は盆地を取り囲む山の中腹にある。盆地からはもくもくと蒸気を上げている冷却塔が見える。

 まず発電所に行ってみた。蒸気を上げている冷却塔はかなりの騒音をたてている。なるほど、こんな大きな音が出るのであれば、民家や温泉がある盆地に発電所を造れないだろう。しかも盆地は農業地帯なので、冷却塔からの水蒸気に含まれる硫化水素や亜硫酸ガスの影響も考えて山の中に造ったのではなかろうか。電源開発がトムラウシの地熱発電について説明をした時に騒音はほとんど出ないと言っていたが、とんでもない。せめて「ある程度の騒音は出ます」くらい言うべきだろう。

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 発電所が山の中にあるので、生産井や還元井との間には太いパイプラインが敷設されている。

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 盆地にはパイプを巡らせた施設がいくつかある。生産井や減圧器、還元井などであろう。

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 まさに大規模な工場群だ。しかも生産井は次第に蒸気量が減少するので次々と新しい井戸を掘らなければならないし、還元井も還元能力が低下してくるので新しいものを掘る必要がある。トムラウシのような山の中に造った場合、新たな井戸を掘るたびに自然が破壊されるだろう。

 水蒸気には硫化水素や亜硫酸ガス、熱水には砒素などの有毒物質が含まれており、毒性のある物質によって大気や土壌、あるいは地下水が汚染される危険性がある。また、熱水のくみ上げによって温泉の枯渇のほか、地震が誘発されたり地盤沈下が起きることが懸念される。

 ところで森地熱発電所は、当初出力5万キロワットとして認可された。しかし、その後蒸気量が減少して近年では発電出力が1.5万キロワット程度になったという。このために認可出力は半分の2.5キロワットに縮小された。(ウィキペディア参照)

 また、地熱発電は非常にコストの高い電力だ。事前の調査が必要な上、発電所の建設にも長い時間やコストがかかる。森地熱発電所のように発電出力が低下してしまうと、採算割れを起こしてしまうことになりかねない。かといって、新たな生産井や還元井を掘り続けるのもコストがかかるし環境破壊になる。

 国立公園など自然の保全を優先すべき場所の場合、初期調査ですら環境に悪影響を及ぼしかねない。

 電力会社はメリットばかりを強調するが、デメリットも多数あることを認識する必要がある。

2014年10月27日 (月)

トムラウシ地区の地熱発電計画に自然保護団体が反対を表明

 大雪山国立公園のトムラウシ地区に電源開発が地熱発電を計画していることについては1年ほど前に記事を書いた。

 トムラウシ地区の地熱発電計画で電源開発が説明会 

 この時点では、地元合意が得られれば年内にも調査に着手したいとの説明が電源開発からあった。しかし、地元の自然関係の団体等は難色を示し、地元住民の合意も得られない状況にある。

 地元の自然保護団体である十勝自然保護協会と地元新得町の自然関係団体は、トムラウシ地区での地熱発電開発について議論を重ねてきた。そして、計画の中止を求める要望書を関係省庁および電源開発に送付した(新得町には手渡し)。

 今回の要望には北海道の6団体(新得おもしろ調査隊、大雪と石狩の自然を守る会、十勝川源流部を考える会、十勝自然保護協会、北海道自然保護協会、北海道自然保護連合)のほか、日本自然保護協会も名を連ねている。以下が要望書。

自然保護団体がトムラウシ地区での地熱発電計画中止を要望(十勝自然保護協会活動速報)

 何と言っても、予定地は国立公園の第2種および第3種特別地域で、すぐ近くに原生自然環境保全地域がある。このようなところに巨大な排気塔やパイプラインなど大規模な工場ともいえる地熱発電所を建設するということ自体が容認しがたい。景観破壊はもとより、自然破壊、生物多様性の破壊につながるのは言うまでもないし、環境汚染や騒音なども懸念される。

2013年10月20日 (日)

トムラウシ地区の地熱発電計画で電源開発が説明会

 国立・国定公園内での地熱発電について、国は1974年以降は景観および風地上支障がある地域での新規の調査や開発を認めていなかった。しかし、2012年3月に、条件付きで特別地域内での地熱発電を認めた。

 これを受けて、大雪山国立公園では二つの地熱発電計画が持ち上がっている。一つは層雲峡の近くの白水沢で、事業者は丸紅である。もう一つは、電源開発株式会社によるトムラウシ地区での計画だ。

 電源開発の計画は6月4日の北海道新聞で報じられ、地元合意が得られれば年内にも調査に着手したいとのことだった。地元新得町の自然関係の団体には7月4日に説明が行われたとのことだが、十勝自然保護協会に対してはなんら連絡がなかった。そこで、10月5日付で電源開発に説明を求め、18日に説明会が開催されることになったのである。

 電源開発でトムラウシの地熱発電計画について説明できる社員は本社にしかいないようで、本社から6名もの方が説明にやってきた。説明の概要は以下。

・電源開発は1975年から宮城県大崎市で鬼首地熱発電所を運転している。また、秋田県湯沢市において他企業とともに4万2千キロワット級の山葵沢地熱発電所の計画を進めており、現在、環境アセスの段階。
・再生エネルギーの湖底価格買取制度により経済性の問題をクリア。国立・国定公園内での規制緩和で開発の可能性が出てきた。
・地熱発電は、地下の貯留層から熱水と蒸気を噴出させ、蒸気を利用してタービンを回して発電する。熱水は還元井によって地下に戻す。
・トムラウシ地区を選定した理由は、過去の調査(NEDO)で有望視されていることによる。
・調査地域は大雪山国立公園の第2種および第3種特別地域内で、初期調査は主に林道沿いで行う。
・初期調査の内容は、地表調査(重力探査、電磁法探査、および弾性波探査)、小口径調査井掘削、温泉モニタリング。重力探査は約70地点、電磁波探査は約80地点、弾性波探査は林道沿いで予定。小口径調査井は3本で、一地点あたりの広さは1,000~1,500平米程度。径は深いところで10センチ。
・今後の予定は初期調査(ステージ1 約3年)、資源量調査(ステージ2 約4年)、環境影響調査(ステージ3 約3~4年)、建設・運転(ステージ4 約4年)。

 説明会のはじめに、新得町の自然関係の団体には7月に説明をしておきながら、十勝自然保護協会には何らコンタクトがなかったことについて質した。これに対する電源開発の回答は、まず町内の関係者に理解を深めてもらって合意形成をする中で、町外の団体にも参加してもらうというように段階を経て進めていきたいと考えており、十勝自然保護協会ともちょうどコンタクトを取りたいと思っていたとのことだった。本当だろうか?

 国は「国立・国定公園内における地熱発電の取り扱いについて」で、国立・国定公園の特別保護地区および第1種特別地域では地熱発電は認めないが、それ以外の地域では地熱開発の行為が小規模で風致景観等への影響が小さいもののみ認めるとしている。また、「国立・国定公園における地熱開発の実施については、地域の持続的は発展にとっても大きな関わりのある行為と考えられることから、温泉関係者や自然保護団体をはじめとする地域の関係者による合意形成が図られ、かつ当該合意に基づく地熱開発計画が策定されることを前提とする」とされている。

 原則として第2種および3種特別地域においても地熱発電は認めないが、小規模で自然環境への影響が小さいものは認めることができるということだ。ただし、その場合も自然保護団体の合意を得ることが必須と理解できる。

 十勝自然保護協会はサホロスキー場の問題で新得町とも話し合いをしているので、新得町はもちろん十勝自然保護協会について知っている。また、電源開発は上士幌町に電力所をもっており、十勝自然保護協会は糠平ダムの放流問題でここに質問書を送付している。したがって十勝自然保護協会の存在や連作先を知らないということにはならない。実際、新得町の自然関係の団体に説明した際に、十勝自然保護協会にも説明したいと言っていたそうだ。新得町で7月と9月に説明会を開催する一方、十勝地方でもっとも精力的に活動している自然保護団体である十勝自然保護協会への説明を放置していたのは恣意的としか言いようがない。

 地熱発電に関してはさまざまなデメリットがあるのだが、電源開発はデメリットについて一切説明しなかった。たとえば多くの施設・工作物が必要で敷地面積が広大になることや、坑井には寿命があり次々と新しい坑井を掘っていかねばならないという重大な問題がある。しかし、施設についての具体的説明はしない。

 そこで敷地面積について質問したのだが、地形などによって異なるので一概に言えないとしか答えない。具体的な質問になると明らかに及び腰になっているのが感じられた。鬼首地熱発電所の坑井の数と廃止した坑井の数を聞いたのだが、これまでに生産井は13本掘っておりそのうち4本を廃止しているそうだ。還元井は12本掘り、5本が廃止になっているという。

 地熱発電というのはさまざまな施設を造るだけでもかなりの森林伐採を必要とする。さらに新しく坑井を掘るたびに自然破壊の面積が増大していくのだ。発電所からの送電線部分も伐採が必要になる。きわめて大きな自然破壊を伴うことは必須だ。ほかにもさまざまなデメリットがある。

 今後、こうした問題点に対して具体的に説明を求めていくことになるだろう。

2013年10月 7日 (月)

富士山山頂に自販機を置く恥ずかしい国

 週刊金曜日の10月4日号(962号)の「満腹の情景」というシリーズ記事の写真を見て、目を疑った。早朝から富士山山頂でご来光を待ち構える人々の横に飲み物の自動販売機が2台写っている写真だ(実際には3台あるとのこと)。記事のタイトルは「富士のご来光をあびる自動販売機」。

 この写真を見た瞬間、何かの冗談じゃあないかと思ったのだが、解説を読んでいくうちに本当に富士山山頂に自販機があるのだと知って心底びっくりした。この自販機は1997年ごろに設置されたそうだ。日本の最高峰で3776メートルを誇る富士山の山頂は、永久凍土があることでも知られている。富士山の山頂は植物も生育できない砂礫地のはずだ。

 山頂に気象観測所があることは知っていたが、まさか自販機があるとは思ってもいなかった。それで、グーグルで「富士山 自動販売機」と検索したら、以下の動画が出てきた。

 これをみて、さらにびっくり仰天。8合目にも山小屋があり、山頂には自販機だけではなくお店も・・・。

 学生の頃、グループで富士山に行ったことがある。5合目から登り始めたのだが、私ともう一人は頭が痛くなり8合目でリタイアした。おそらく高山病だったのだろう。皆が山頂まで往復する間、登山道脇の斜面で昼寝をしていた。その時の記憶は鮮明ではないのだが、あちこちにある石に囲まれた山小屋には異様なものを感じた。ただし8合目にまで山小屋があっただろうか? 記憶にない。

 富士山にこれほどまで山小屋が林立し、自販機まであるのはブル道があるからだ。週刊金曜日の記事によると、登山道とは別に物資を運ぶブル道が整備されているという。私はてっきり山頂の気象観測所のためにブル道があると思ったのだが、以下の記事によると山小屋や山頂の売店、郵便局で使う資材や商品を運ぶために使っているのだという。しかもブル道は4本もあるというのだから、仰天する事ばかりだ。

富士山は「車」で登れる! 混雑対策の切り札に(日本経済新聞)

 こんなところにまでブル道をつけ観光に利用してしまうというこの国の節操のなさは、つくづく恥ずかしいと思う。世界遺産なども同じで、地元自治体が積極的に登録を目指すのは保護が目的ではなく、利用をしてもらってお金を落としてもらいたいという不純な動機が見え見えだ。

 富士山は富士箱根伊豆国立公園だ。地種区分図を確認したら、5合目あたりから上は開発行為が厳しく規制される特別保護地区に指定されている。

 しかし、いったい環境省はなぜ特別保護地区内にブル道や自動販売機の設置を許可したのだろう? 植物がほとんど生えていないガレ場だから、ブル道をつけても植生を痛めることがないので問題ないとでも思ったのだろうか? 山小屋だって、こんなにたくさん必要なのか? 首をかしげたくなることばかりだ。入山料をとることを否定はしないが、入山規制こそ取り組むべきではなかろうか。

2013年9月 9日 (月)

ミチゲーションというまやかし

 9月6日に行われた学園通の説明会で「ミチゲーション」という言葉を持ち出した参加者がいて驚いた。

 ミチゲーションの本来の意味は「和らげること、緩和、軽減」であるが、環境対策に関して使われる場合は回避、最小化、矯正、軽減、代償のことを指す。

 大きな開発行為においては環境アセスメントが義務付けられているが、アセスメントに際しコンサルタント会社が行っているのがミチゲーションだ。

 日本の場合、環境アセスといっても「事業をしない」という選択肢はまずない。とてもおかしなことなのだが、はじめから事業を行うことが前提となっている。だから希少な動植物などが確認されたからといって事業を取りやめたりはしない。事業の中止はありえないのだから、環境対策として取り入れるのは部分変更とか、影響の低減ということになる。

 たとえば、道路の建設予定地にナキウサギの生息地があった場合を考えてみよう。まず、ナキウサギの生息地を壊してしまうのは影響が大きすぎるので、ルートを変えることで生息地破壊を避けようとする。どうしてもルート変更ができない場合は、改変面積を最小限になるように工法を検討したりする。また、繁殖期を避けて工事をするとか、できるだけ騒音や振動が小さい機械を使うなどの対策をたてる。

 しかし、そのような影響低減のための対策をしたところで、影響を完全にゼロにすることなどできないし、もしナキウサギがいなくなってしまったら、それまでだ。事業実施後にモニタリング調査を行うこともあるが、それが新たな事業で活かされたという話しも聞かない。

 植物の場合、よく行われるのが移植だ。北見道路では移植したホソバツルリンドウが消えてしまったそうだ。つまり、移植というのは失敗するというリスクをいつも伴っている。そして消失しても誰も責任をとれない。

 森林を伐採したら、別の場所に植林をするなどして新たに森林を確保するなどということもある。代替である。以前、十勝地方の林道で世界ラリー選手権が行われたことがあった。主催者はラリーで二酸化炭素を排出した代償として、植樹を行っている団体に寄付をしたそうだ。これなども一種の代替であろう。もっとも、林道を滅茶苦茶に荒らし、動物との衝突事故を起こしているのだから、そんなことをしてもラリーによる自然破壊の代替にはならない。また、植林で炭素を固定する森林を育成するのなら、しっかりと手入れをしなければならないし、100年も200年もかかる。樹を植えさえすればいいというものではない(「植樹とカーボンオフセット」参照)

 いわゆる自然再生、復元もそうで、「破壊する代わりに別のところに復元する」などというのはまやかしでしかない。たとえば湿原には湿原特有の昆虫やクモなどの無脊椎動物が多数生息しているが、湿原を壊せばそれらがまるごと失われてしまう。湿原ではないところに水を溜めて湿原を造っても、それは壊した湿原と同じものにはなり得ない。とりわけ、移動能力の低い小動物などは新たに出現した湿原に簡単に移動することはできない。環境保全で一番大切なことは、「壊さない」ことだ。

 自然を破壊から守るためには、まず破壊を回避しなければならない。少なくとも回避できる方法を探り、努力しなければならないだろう。学園通りの件で言うなら、カシワ林を伐採しないで済む方法を考えるということになる。そして、自然保護団体の提案した暫定二車線案は、伐採を回避できる案なのだ。だから、伐採面積の縮小という帯広市の見直し案より優先して、時間をかけて議論すべきだと私は思う。

 ミチゲーションは、開発行為の免罪符として使われているのである。だから、自然破壊を行う事業者やコンサルタント会社はミチゲーションが大好き。そのことに気づかずに安易にミチゲーションなどという言葉を持ち出したなら、事業者は大喜びすることにもなりかねない。少なくとも自然保護の議論の中で、自然保護団体が自ら口にすべき言葉ではない。

 以下は建設業界に関わりを持つ技術者の方のブログだが、業界関係者もそのことがよく分かっているのである。

ミチゲーションという仮面(思考の迷路)

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