河川・ダム

2015年12月21日 (月)

札内川「礫河原」再生事業を受け売りで正当化する報道への疑問

 昨日、12月20日の北海道新聞社会面に「札内川『礫河原』再生中」という記事が掲載されていた。要約すると、以下のような内容である。

 礫河原をもつ札内川は、近年の治水事業(堤防を保護するコンクリート構造物の設置)や降雪量の減少で川の流量が減り、土砂が堆積して河畔林が繁茂したことでケショウヤナギの生育できる礫河原が減少している。礫河原は1987年と2011年を比較すると、上流で約3分の1、下流で4分の1ほど減少した。このため北海道開発局帯広開発建設部は土砂が堆積した場所や樹林帯に水路を掘削し、土砂やヤナギの種が流れるような工事をしたほか、札内川ダムの放流量を一時的に増やすなどの対策を行った。これによって、上流の礫河原の面積は3年前と比べて約20ヘクタール増え、樹林面積は20ヘクタール減少した。15年度の事業費は6100万円で、16年度も同程度。

 この記事を読んで、私はかなり唖然とした。まるで帯広開発建設部の受け売りであり、事業の正当化だ。

 この記事の最大の問題点は、礫河原が減少した本質的原因にまったく触れていないことだ。礫河原の減少は、言うまでもなく札内川ダムを造ったことによって洪水が抑制され河川敷が撹乱されなくなったからである。ところが新聞ではダムについて一切触れず、原因を治水事業と降雪量の減少へと誘導している。

 また、礫河原再生事業のメリットばかりを強調している。礫河原を増やすために土木工事で手を加えたなら、もちろんそのときはある程度の成果は出るだろう。しかし、それはあくまでも対処療法に過ぎない。ダムによって撹乱がなくなってしまった以上、礫河原を維持するためには永遠に税金を投入して「礫河原再生事業」を続けなければならないし、上流からの砂礫の供給が絶たれてしまったので、今河川敷に堆積している礫は次第に流され河床低下が懸念される。そして河床低下はさまざまな悪影響を及ぼすのだ。

 開発局がやっていることは、札内川ダムという根本原因を棚に上げ、地域住民などの意見も取り入れる形式をとりながら「礫河原再生」という対処療法事業の正当化をしているだけだ。過去の事業への反省がないところには責任意識もないし、将来を見据えた問題解決もない。

 なぜ私がこのようなことを書くのかといえば、開発建設部の発想が常に「はじめに事業ありき」であることを身を持って知っているからだ。これまでの開発建設部との話し合いにおいても、彼らは過去の事業の過ちを決して認めない。そして、過去の誤った治水事業に対してただただ対処療法的な事業を重ねていくだけなのだ。

 しかも、以下の記事に書いたように、開発建設部は「やらせ」の疑いも拭えない不自然な公聴会を開いて事業の正当化をしてきた。

ダムで砂礫を止められた札内川で砂礫川原再生はできるのか? 
続・ダムで砂礫を止められた札内川で砂礫川原再生はできるのか? 
業界関係者も公述した十勝川水系河川整備計画公聴会 
十勝川水系河川整備計画に寄せられた不自然な意見書 

 もちろん、礫河原減少の原因はダムだからすぐにダムを撤去せよとまでは言わない。しかし、過去の治水事業の過ちや悪影響を検証し反省することなく自然の摂理を無視した対処療法事業を続ければ、負の連鎖を起こす可能性があるし税金の無駄遣いになりかねない。

 マスメディアが開発建設部の事業の本質を見抜こうとせず、安直な受け売りで事業を正当化する報道をすることに大きな疑問を抱かずにはいられない。

2014年9月17日 (水)

異常気象で危険が増大している首都圏

 守田敏也さんが東京新聞の記事を元に非常に重要な指摘をされていたので、紹介したい。

東京は世界一危ない都市・・・警鐘「首都沈没」(東京新聞より) (明日に向けて)

 簡単に言ってしまうと、関東平野は山に囲まれ東京湾に向かって緩く傾斜しているので、堤防が決壊したら首都圏は大洪水に見舞われ、日本は機能を失うというのだ。

 3.11以来、首都圏を襲う大地震や大津波の危険性、あるいは富士山噴火による降灰の被害などについてはしばしば報道されてきた。しかし、堤防の破堤による洪水被害に関しては、ほとんど知られていないのではなかろうか。

 守田さんも指摘しているように、江戸時代の治水は堤防の間に水を閉じ込めるのではなく、意図的に堤防から溢れさせることで決壊を防ぐというものだった。霞堤も同じような考え方だ。そして、溢れたときには防水林によって水の勢いを落とすという仕組みが造られていた。昔の日本人は自然の摂理に逆らわない治水をしていたのだ。

 ところが、ヨーロッパで発達した土木技術を導入したことでこうした優れた治水は廃れ、堤防とダムで水を抑え込む治水工事が進められてしまった。その結果、破堤した場合はとんでもない被害が生じるようになったのだ。ヨーロッパでは封じ込める治水が誤りであったことを認め、かつて日本で行われていたような「溢れさせる治水」に方向転換している。

 ところが日本の役所というのは、自分たちの過ちを決して認めようとはしない。だから、河川管理者は相変わらずダムだ、堤防だといって水を封じ込める治水にこだわり続けている。欧米では実行できていることが、日本ではできない。否、分かっていてもしようとしないのだ。

 昨今は地球温暖化で異常気象が激増していると言われている。毎年のように各地でゲリラ豪雨と呼ばれる集中豪雨があり、土砂災害や洪水被害で大きな被害が出ている。かつてのように「溢れされる治水」を維持していれば、洪水で浸水するところは居住地にできるわけがない。しかし「封じ込める治水」へと転換したために、洪水被害のことなど頭から消え去り、川のすぐ近くも宅地にしてしまった。「封じ込める治水」が洪水被害のリスクを大きくしているのだ。

 洪水に対してもっとも高いリスクを抱えているのが首都圏ということになる。本来東京湾に注いでいた利根川を大改修して大量の水を堤防で封じ込めているために、万一堤防が決壊したなら、大量の水が東京湾に向かって、すなわち首都圏に向かって流れ込むことになる。それが首都東京の置かれている状況だ。

 集中豪雨で洪水被害が出るたびに、相変わらず「堤防の強化やかさ上げ」「ダムによる治水」を声高に主張する人がいる。しかし、堤防もダムも限界があり想定外の大雨には対処できない。3.11の大津波には巨大防潮堤が役に立たなかったように・・・。

 いいかげんに「水を封じ込める治水」を転換していく必要があるだろう。とは言っても危険な地域に住む人たちをすぐに移住させることなど不可能だ。ならば今抱えている危険な状況を多くの人に知ってもらうために、堤防決壊のハザードマップを住民に配布すべきだ。あとは各自でできる対策(記事ではライフジャケットやペットボトルなどの用意を勧めている)をするしかない。

 それにしても、河川管理者はこういうリスクについて分かっているに違いない。にも関わらず首都圏の人には知らせない。この国がいかに国民の命をないがしろにしているかが分かる。

2013年6月10日 (月)

居辺川の現状(その2)

 前回の記事では居辺橋(下流の方の居辺橋)より下流側の河床低下を見たが、その上流では大きな浸食は見られない。砂礫川原が広がる河川がしばらく続いている。
P10408461


 下の写真は上流の方の居辺橋から上流側を見た光景だ。ここから上流が、今回帯広建設管理部が遊砂地(2カ所)と護岸工、床固工(12基)を計画している場所だ。このあたりは砂礫川原が広がりセグロセキレイやイカルチドリの良好な生息地になっているのだが、この写真の川原は遊砂地工の予定地だ。
P10408482


 帯広建設管理部によると、遊砂地工は「河川の広がりを利用して、洪水流を減勢して土砂を計画的に堆積させます」とのこと。計画図面を見ると、遊砂地工の上部と下部に堰を造り、その間にも6本ほどの河川を横断する構造物を入れるようだ。おそらく階段状態にするのだろう。つまり、洪水のときにここに砂礫を落とし、下流に土砂が移動しないようにするということだろう。

 遊砂地工については以下を参照していただきたい。おおよそのイメージがつかめると思う。

遊砂地の仕組みと役割(福島河川国道事務所)

 オカバルシ遊砂地(ikuzus-h雑記帳)

 もしここに遊砂地ができると、土砂が移動せずに安定するため、砂礫川原がなくなってしまうのではなかろうか。さらに下流へ砂礫が供給されなくなるので、下流の浸食が進むことになる。

 居辺橋は平成15年の大雨による洪水で橋のたもとの河岸がえぐられて道路が陥没し、自動車が川に転落するという事故が起きた場所だ。この災害によって橋が架けかえられた。

 この遊砂地工予定地のすぐ上流に廃校になった東居辺小学校がある。平成15年の大雨のときにはこの小学校のあたりの河岸が浸食されて河岸の建物が流されるという被害が生じた。もっともここは河川の氾濫原であり、洪水があれば浸食されるのは当たり前の場所だ。このようなところに小学校を建ててしまったのが間違いなのである。

 今回の砂防事業はこの時の洪水が契機になっているそうだ。しかし、すでに被災地の復旧工事は済んでいる。しかも小学校はすでに廃校になっているのだから、洪水による人的被害を考える必要はない。

 下の写真はさらに上流の東居辺橋から下流側を見た光景だ。正面に見える崖は河川への砂礫の供給源になっている。ところが、近年この崩壊地の浸食が深刻になってきており、北海道は植樹を行って斜面の安定化を図るという。非常に急な斜面なのだが、重機が入って治山工事をしていた。
P10408493


 帯広建設管理部の説明では、このあたりに堆積した土砂が洪水で一気に下流に流される恐れがあるという。それを抑制するために、ここの下流部にも遊砂地を予定している。  東居辺橋から上流が床固工の設置区間になる。下の写真の中央あたりが最下部の床固工予定地だ。つまり、ここから上流に向かって12基もの堰を造るという。
P10408514


 下は、東居辺橋の上流の柏葉橋から下流側を見た光景だ。このあたりもそれほど浸食はされておらず、砂礫川原がある。
P10408525


 さらに上流の東大橋までいくと、浸食が目立つようになる。
P10408546


 帯広建設管理部の説明では、ここの上流の清進橋下流の河岸・河床の浸食が著しいために床固工によって土砂の流出を食い止めたいとのことだった。たしかに清進橋の下流は河岸と河床が浸食されていた。この下部が最上部の床固工予定地になる。
P10408907


 しかし、ここのすぐ上流には落差工が設置されていたのだ。
P10408608


P10408629


 ここはもともと河床勾配が急なところだが、この落差工によってさらに河床低下が生じたのだろう。しかし、帯広建設管理部はここに落差工があるという説明を私たちにはしていなかった。

 清進橋の上流の清進1号橋までくると、もはや川というより直線化した三面張りの水路となり、ところどころに落差工が設置されている。このような水路が上流へと続いている。
P104086510


 居辺橋から上流部を見て感じたのは、ここでは砂防工事が必要な場所はほとんどないということだ。

 清進橋の下流部はたしかに河岸・河床の浸食が見られる。しかし、地形図を見るとこのあたりの右岸は崖状になっている。段丘面を流れてきた川が谷に入るところだから勾配がきつく、もともと浸食が活発なところなのだ。浸食が加速したのは、農地の排水事業によって三面張りの水路としたため激しい流れが発生するようになったからだ。つまり、清進橋下流の浸食は農地の排水事業と落差工が原因だろう。

 しかし、浸食が著しいのは一部だけで、柏葉橋あたりまでくると浸食はそれほど生じていない。このままで特に問題があるとは思えない。12基もの床固工と2基の遊砂地工という大工事をする必要性が、私には皆目分からない。

 このような工事をしたら、下流への砂礫の流下が抑制され、新たに下流の河床低下が生じるだろう。さらに砂礫の移動が抑えられるために河川敷に植物が繁茂し、砂礫川原が消失する可能性が高い。砂礫川原特有の野鳥や昆虫類への影響は甚大になるだろう。居辺川の砂防事業は川を殺す事業と言わざるを得ない。

 札内川ではダムを造ったことで河畔林が繁茂してしまい砂礫川原の再生事業が計画されているが、砂礫川原再生も対処療法にすぎず、ダムを壊さない限り元の状態に戻すことは不可能だ。居辺川で砂防工事を行えば札内川の二の舞となって砂礫川原が消失し、下流部ではさらに河床低下が進むだろう。生態系を破壊する愚かな工事は止めるべきだ。

【関連記事】
砂防工事で居辺川を殺してはならない 
川を荒らす農地の排水事業

2013年6月 9日 (日)

居辺川の現状(その1)

 帯広建設管理部が居辺川で大規模な砂防事業をやるとのことなので、現場を見に行ってきた。居辺川は利別川を経て十勝川に注ぐ砂礫川原をもつ河川だ。帯広建設管理部の説明によると中流部の下居辺あたりで河床低下が生じているとのことだったので、下流から上流に向かって川の様子を見ることにした。

 下の写真は下流部の常盤旭橋からの光景だ。ここは部分的に護岸がなされてはいるが、それほど浸食されていない。

P10408411

 常盤旭橋の上流にある更正橋あたりに来ると河床が低下してきており、護岸ブロックの下部が崩壊している。

P10408392

 さらに上流の下居辺大橋では浸食が進んで左岸は護岸工事がなされている。

P10408363

 下居辺大橋の上流側は峡谷状になっている。

P10408344

 その上流の睦橋では浸食によって河岸のコンクリートの基部がえぐられている。河床は砂利が流され基盤が剥き出しになっている。

P10408315

 さらに上流の、道の駅「しほろ温泉」のあたりも浸食が進み、高さ5メートルほどの崖が出現していた。

P10408706

 河床低下により護岸ブロックが崩れ落ちてしまったらしく、川の中には壊れた護岸ブロックが無残に散乱し、支流は滝のようになって注いでいる。

P10408747

 この崖のすぐ上流には石を組んで造った帯工がある。左岸は石を積んで護岸している。河床低下を抑えるための対処療法のようだ。

P10408258

 その上の居辺橋(居辺川には「居辺橋」という名の橋が二つもあるのだが、下流の居辺橋)から川を覗いて、なるほどと思った。橋の下流側には落差工が設置されていたのだ。

P10408869

 居辺橋から下流の浸食の原因が浮かび上がってきた。ひとつは川の直線化だ。かつては居辺川はもっと蛇行をしていたのだが、蛇行部をショートカットして直線化してしまった。曲がりながら流れている川を直線化すると、河床勾配が急になって流速が早まり浸食が加速されるのだ。

 もうひとつは落差工だ。落差工の部分では流速が弱まるため、上流側に砂利が溜まる。そのために下流部に砂礫が供給されなくなり河床低下の要因となる。

 人間が川を改造したことが下流部の河床低下の最大の原因だ。

つづく

2013年5月29日 (水)

川を荒らす農地の排水事業

 私が関わっている十勝自然保護協会では、これまで自然保護の立場から「美蔓地区国営かんがい排水事業」「富秋地区国営かんがい排水事業」という二つの「かんがい排水事業」に関し、希少動物の生息地に悪影響を与えるとして反対を表明してきた。

 その中で明らかになってきたのは、「国営かんがい排水事業」の必要性だ。事業者は、排水事業の目的は大雨による農地の湛水被害による穫量減の解消だと説明している。ところが事業者との話し合いの中で、「湛水被害による収量減の解消」では排水事業の費用対効果が説明できないことが分かった。つまり、被害額より工事費のほうがはるかに大きいのである。詳しくは以下をお読みいただきたい。

明確になった「富秋地区」国営かんがい排水事業の欺瞞 

上記記事の要点部分を以下に書き出しておく。

大雨などによって畑に水が溜まると農作物に被害が出るのだが、その被害の解消目的で排水事業を行うと採算が全く合わない。そこで、公共事業をやりたい事業者が思いついたのは「作物生産効果」である。「水はけを良くすることによって生産性が上がり、国民の食糧増産に寄与する」との名目で、根拠も良く分からない「作物生産効果」を持ち出して、費用対効果があると主張する。しかし、金銭的負担があれば事業に参加しないという農家も出てくるだろう。それでは事業ができないので、受益者負担も地元の市町村が肩代わりするという仕組みだ。

 要するに、工事をすることが目的の事業だと言ってもいい。無駄な公共事業の典型だろう。

 民主党政権での公共事業の縮小により、十勝地方での「かんがい排水事業」はほぼ終わったかのように思えた。ところがアベノミクスによって公共事業にじゃぶじゃぶと予算がつけられたため、また復活したのだ。以下に「国営かんがい排水事業」の説明があり、美蔓地区、札内川第二地区、上士幌北地区、士幌西部地区、富秋士幌川下流地区が挙げられている。このうち、アベノミクスによって新規に予算がついたのが、上士幌北地区、士幌西部地区だ。

農業農村整備事業マップ(帯広開発建設部)

 そもそも、湛水被害というが、大雨が降れば多くの農地で一時的に水たまりができる。これは農地に限らず校庭や住宅の庭でも同じであり、当たり前のことだ。ところがその当たり前のことすら「湛水被害」だといって公共事業の目的にするのだから呆れる。

 このような自然の摂理に反したことをすれば、当然その影響が出る。排水事業を促進することで、大雨などのときに水が河川に一気に流れ出るようになる。

 昨年の3月に「砂防工事で居辺川を殺してはならない」という記事を書いた。比較的自然のままの姿を残している十勝北部の居辺川で大規模な砂防工事が計画されている。この工事について、今年の4月に事業者である帯広建設管理部に説明を求めると、上流部の河岸・川床の浸食が著しいため、河床の浸食防止と土砂の移動抑制のために床固工と遊砂地工を行うとの説明があった。

 その工事内容の説明を聞いて唖然とした。居辺川の上流部は増水時でなければ長靴でも渡れる小河川なのだが、そこに切り欠きを入れた約100メートルもの堰堤を12基も造るという。つまり、川の両側の段丘をまたぐようにコンクリートの巨大な構造物を造るということだ。景観破壊はもちろんのこと河川生態系への影響が懸念されるし、下流部への影響も生じるのではなかろうか。

 居辺川では以前に比べ、大雨が降ると一気に増水するようになったのは確かなようだ。それが上流部の浸食を加速させたのだ。では、なぜ一気に増水するようになったのか? それは森林を伐採して農地にしたり、排水事業によって水はけを良くしてしまったからだ。自然に逆らって排水を促進すれば河川が荒れたり災害が発生し、それを防ぐために砂防事業を行うことになる。さらに、上流での砂防事業は必ず下流に影響を及ぼすことになる。

 事業費に見合った効果があるとは思えない(少なくとも事業者は具体的に説明できない)農地の排水事業が、河川の自然を破壊する砂防工事へと繋がっているのだ。アベノミクスによる公共事業を評価する人は、税金がこのように使われていることをきちんと知ってほしい。

2013年3月12日 (火)

十勝川水系河川整備計画に寄せられた不自然な意見書

 昨日、北海道開発局帯広開発建設部のホームページを見たら、「十勝川水系河川整備計画[変更](原案)について寄せられたご意見」が掲載されていた。

関係住民の方々から寄せられたご意見 

 ざっと目を通してみたが「やっぱりね~」という感想をもった。つまり、寄せられた意見の大半は計画案に対する具体的な問題提起ではなく、抽象的な賛成意見ばかりだ。札内川は樹林化が進んで礫川原が減少してしまったから自然再生に賛同するとか、地震・津波対策は重要、といったものばかり。

 意見は24件寄せられているのだが、河川管理者の提案に基本的に賛成するという意見ばかりというのがまず不自然だ。もし私が原案に賛成する立場だったら、わざわざ賛意を示す意見など送らないだろう。原案に納得できない部分や訂正すべきことがあるからこそ意見を述べるというのが普通の人の感覚だと思う。

 もう一つ不可解なのが、今回の意見募集が果たしてどれほど一般住民に知れ渡っていたのかということ。帯広開発建設部のホームページを定期的に見ている一般市民などほとんどいないだろうから、新聞などでお知らせしなければまず知ることができない。今回の意見募集が新聞に掲載されたかどうか知らないが、私は気がつかなかった。掲載されてもこのような記事は地方版にごく小さく載るだけだ。知っていた人がそれほど多いとは思えない。

 ただし業界関係者は別だ。たとえば「NPO法人十勝多自然ネット」。日頃帯広開発建設部の事業を請け負っている土建業者の団体だから、当然このような情報は知っているだろう。帯広開発建設部は「札内川懇談会」という組織を設置しているのだが、「NPO法人十勝多自然ネット」もこの懇談会に参加している。

 つまり、意見を寄せた人の中に業界関係者が多数入っている可能性が高いと思えてならない。公表の際には意見を寄せた人の名前を伏せているのだから、いくらでもそういうことはできるだろう。もしそうであるなら、意見募集など出来レースみたいなものだ。

 ところで「業界関係者も公述した十勝川水系河川整備計画公聴会」に、十勝多自然ネットのT氏が公聴会で「開発行政を天まで持ち上げるかのような発言までし、・・・」と書いたが、意見書のその部分を以下に引用しておこう。

最後になりますが、未開地北海道が僅か60年余りで、私たちが衣食足りてと感じるまでに成った背景には、「北海道開発局」の一元的な組織体制で、総合開発計画の基、弛みない社会基盤整備の成果と理解し、感謝しています。
時代の流れと共に、社会的ニーズも様変わりする昨今ですが、これからも一貫して大切なことは、維持管理を含む基盤整備イコール「国土の強靭化」だと思います。
更なる60年先を見定め、自信と誇りを持って「地域全体の幸福度の向上」に努めていただく事をお願いいたします。

 歯が浮くようなお世辞とはこのことではなかろうか。川のあちこちにダムや堰をつくって河川生態系を大きく破壊し、札内川の砂礫川原を減少させたのは開発局なのである。河川管理者が河川生態系を破壊して、今度は自然再生事業・・・こういうのをマッチポンプという。

 ところで礫川原の再生事業は札内川に限ったことではない。インターネットで検索してみると全国で河川敷の樹林化が進行し、同じような再生事業が始まっている。取手川、多摩川、天竜川、鬼怒川などいろいろ出てくる。ダムで砂礫の流下を止めてしまったのだからこれは当然の結果なのだ。

 天竜川支流の三峰川に関する論文では、樹林化と礫川原減少がダムや砂防事業、砂利採取が原因であるとはっきりと書かれている。

セグメント1河道における礫河原環境再生に向けた三峰河青島地区での実証的研究 

 国土交通省はどうやら、新しい公共事業の創出として礫河原再生を推進しているらしい。こうした事業で一時的には砂礫川原が出現するだろうが、所詮対処療法である。日本も欧米のように老朽化したダムから撤去を考えていくべきではなかろうか。

2013年3月 1日 (金)

業界関係者も公述した十勝川水系河川整備計画公聴会

 昨日2月28日は、北海道開発局帯広開発建設部による「十勝川水系河川整備計画[変更](原案)に関する公聴会」が帯広市で開催された。私は公述人として参加したので、その様子を報告したい。

P10407631

 今回は1月22日から2月20日までの1カ月間、原案の縦覧および意見募集が行われた。この間に24人が意見を寄せたそうだ。このうち、公聴会での公述を希望した人は7人だった。7人のうち、変更案の具体的問題点を指摘したのは十勝自然保護協会と私の2人だけである。十勝自然保護協会の意見は以下を参照していただきたい。

十勝川水系河川整備計画変更原案に意見公述(十勝自然保護協会 活動速報)

 あとの5人は基本的には開発局の提示した変更案に賛意を示す内容だった。たとえば、洪水や地震・津波などに対する防災対策を評価する意見、ケショウヤナギの幼木の生育地をつくるために砂礫川原再生は望ましいという意見、子供たちの野外活動を行っているボランティア団体として砂礫川原の再生は喜ばしいという意見、地域特性に配慮した変更案を評価するとともに河川敷の樹林化を抑制するための湿地造成の提案など、変更案に対する具体的意見というより抽象的な賛成論が大部分といった感じだった。

 傍聴した知人は、傍聴席は女性の姿がほとんど見られず、地域住民というより関係者中心に感じられ異様な気がしたし、公述人にも違和感を覚えたとの感想を漏らしていた。河川整備や道路関係の公聴会、説明会などではしばしば声高に賛成意見を述べる人がいるのだが、一般の傍聴人がほとんどいない中、抽象的賛成意見の目立つ公聴会は明らかに不自然だ。提示された案に賛意を示すためにわざわざ公述するという行為の裏に、どうしても恣意的なものを感じてしまう。

 事実、意見を述べる人の中に業界関係者も混じっている。今回公述したT氏がそうである。T氏は前回の「十勝川水系河川整備計画(原案)」に対する公聴会(2009年10月29日)でも意見を述べている。以下の15ページ参照。

十勝川水系河川整備計画(原案)に関する公聴会議事録 

 ここでT氏は公述の始めにNPO法人十勝多自然ネットに携わっていると述べているのだが、「NPO法人十勝多自然ネット」とは土木建設業界の人たちでつくっている団体である。つまり、日頃帯広開発建設部から仕事を請け負っている業界団体の一員だ。例えて言うなら、原発に関する意見交換会の場に原子炉メーカーである日立や東芝などの社員が出向いて賛成意見を述べるのと似た構図だ。利害関係者が意見書を出し公述を申し込むという厚かましさには呆れてしまう。

 また、今回の意見募集は変更部分に対するものだ。つまり「地震・津波対策」と「札内川の樹林化防止策(礫川原再生)」についての意見に限って受け付けていた。ところが、T氏は何を勘違いしたのか、十勝川について「健全な河川をそこなわない治水が大事」だとか「多様な自然環境が重要」だとか「サケが自然産卵できる川にしてほしい」とか、さらには開発行政を天まで持ち上げるかのような発言までし、意見募集の趣旨からずれた意見をとうとうと述べた。

 公述人は事前に意見書を提出しており、公述はその意見の範囲でしかできないことになっている。事前に意見を把握しておきながら、このような人物を公述人として選出した帯広開発建設部の見識が問われる。

 蛇足だが、T氏は「札内川の起源は1000万年前」とか「十勝川のサケは固有種」などという主張もしていた。「十勝の自然を歩く」(十勝の自然史研究会編、北海道大学図書刊行会)によると、1000万年前というのは日高造山運動が始まって日高山脈が海底から顔を出した頃である。札内川はまだ影も形もない。また、十勝平野は第四紀のはじめ(170万年前から100万年前:なお現在は第四紀の始まりを258万年前としている)は巨大な沼や湿原だった。更新世中期(50万年前)頃から日高山脈はふたたび激しく上昇しはじめ、この頃に十勝川が今の流路になったと言われている。こうした経緯から考えると、札内川の誕生は更新世中期以降と考えられるのではなかろうか。

 また「十勝川のサケが固有種」というのは誤りだ。固有種とは、その地域にしか分布していない「種」のことを指す。十勝川に遡上するサケも石狩川に遡上するサケも「サケ(シロザケ)、学名はOncorhnchus keta」という同一の種である。たしかに十勝川で生まれたサケは海を回遊した後に産卵のために十勝川に戻ってくるが、だからといってそれを「十勝川の固有種」とは言わない。

 なお、私の公述は提出意見を若干変えたので、以下に掲載しておく。帯広開発建設部は議事録作成のために録音をしていたが、書き起こし作業軽減に寄与したい。

**********

 今回の変更案は地震津波対策と札内川の樹林化に対する取り組みが主な変更点ですが、ここでは札内川の樹林化への対策について意見を述べます。
 私は、2010年7月に川と河畔林を考える会、十勝自然保護協会、十勝の自然史研究会が共同で開催した「2010川の講座 in十勝」に参加して、平川一臣北海道大学大学院教授の講義を受けました。なお、平川教授は第四紀学、周氷河地形環境、第四紀地殻変動の専門家です。
 平川教授は、講義のなかで次のように述べていました。「河川は、自己制御することによって、可能な限り効率のよい形、すなわち横断形、縦断形を維持しようとする。つまり砂防ダムを始めとして人間の手が加わると、河川は川幅、水深、流送河床物質の粒径などの間で、内部調整、自己制御をやって確実に応答している。人の愚かさを試しているとも言える」、「河床の砂礫を上流のダムが止めてしまうと、それより下流の砂礫供給量・運搬量に見合った川になってしまう。戸蔦別川や札内川はダムの建設前後で別の川になってしまったことを意味する。現在は、その変化への適応・調整、すなわち河床低下の過程にあり、河畔林の繁茂はその一端である」また、「札内川では、従来の堤防の位置などから推測すると、数メートルも河床が低下しており、今では堤防から水が溢れることはまずないだろう」「札内川は札内川ダムや戸蔦別川に造られた多数の砂防ダムによって著しい河床低下を生じ、高水敷はヤナギが繁茂してすっかり姿を変えてしまった」とのことでした。
 札内川から砂礫川原が激減したのはダムによって砂礫の流下が止められてしまったことが原因であり、また河川敷にヤナギなどが繁茂したのは札内川ダムの貯水機能によって流量が抑制され洪水が生じにくくなったことも関係しているのです。したがって、ダムを造ってしまった以上、砂礫川原が減少し河畔林が繁茂することは当然の結果と受け止めなければなりません。
 十勝川水系河川整備計画変更原案89頁の「(6)札内川における取り組み」を読むと、「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた礫河原が急速に減少しており、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている。そのため、ケショウヤナギ生育環境の保全に加え、札内川特有の河川環境・景観を保全するため、礫河原の再生に向けた取り組みを行う」と書いてあるだけで、札内川ダムや戸蔦別川の巨大砂防ダム群の影響に全くふれていません。
 「札内川の礫河原再生の取り組みについては、礫河原再生の目標や進め方等について記載した『札内川自然再生計画書』を踏まえ」るということですので、札内川自然再生計画書のほうに目を通しました。6頁に、「昭和47年より直轄砂防事業として札内川上流域において砂防えん堤や床固工群の整備を実施してきた。昭和60年には、治水安全度の向上、高まる水需要に対応した水資源の開発を図るため、洪水調節、流水の正常な機能の維持、かんがい用水、水道用水の供給、発電を目的とした札内川ダムの建設に着手し、平成10 年に供用を開始した」とあるのですが、これらのダムが札内川にどのように影響したかについては一言も書かれていませんでした。
 ダムなどの構造物が河川を大きく変えることは河川学では常識であり、河川技術者も十分知っていると平川教授は言っていました。それにもかかわらず、十勝川水系河川整備計画変更原案にも札内川自然再生計画書にもダムの影響について触れていないのはどうしたことでしょう。
 札内川ダムも戸蔦別川砂防ダムも帯広開発建設部が良かれと思い、多額の税金を投じて建設したものです。これらのダムのために札内川の自然再生が提案されたとしても、隠し立てすることではないでしょう。
 札内川自然再生計画書では、砂礫川原の再生のために河床撹乱が提案されていますが、ダムによって砂礫の流下が止められて砂礫川原が減少しているのですから、たとえばダムからの放流量を増やして意図的に洪水状態をつくりだし河床の撹乱を促しても砂礫川原は再生されないばかりか、さらに河床の低下が進み、場所によっては基盤が露出するものと思われます。平川教授は、礫がなくなって粘土層が露出している戸蔦別川の写真を提示していました。礫層がなくなり、粒径の小さなものが流されるようになるのは大問題とのことです。また、このような状態になると増水のたびに流路に面した高水敷の縁が浸食されて崩壊し、高水敷に堆積している砂礫はさらに流されてしまいます。もちろん、高水敷に生育しているヤナギも根元から浸食を受け、流木となります。
 さらに問題なのは、河床低下によって橋脚や堤防の基部が露出してしまうということです。現に、戸蔦別川の上戸蔦橋では橋脚の根元がえぐられてきています。河床低下を放置していれば、橋脚や堤防の基部がえぐられて強度に問題が出てくるでしょう。河川管理者がこのことを知らないはずはありません。
 河畔林を伐採し重機などで撹乱して砂礫川原をつくりだしても、上流から砂礫が供給されないのですから、増水のたびに砂礫が流されて減少していきますし、河床低下がさらに進むと考えられます。このような方法は一時的には砂礫川原を生じさせるかもしれませんが、永続的な砂礫川原の再生にはつながらないでしょう。砂礫を人為的にどこからか運んでこない限り砂礫川原は再現されませんし、運んできたとしても増水によって下流に流されてしまうので、砂礫川原を維持するには人によって継続的に砂礫を運んでくるしかありません。しかも、このような手法では、砂礫地を生息・生育地としている動植物に大きな影響を与えます。
 砂礫川原を維持するのであれば、ダムで川をせき止めてはいけない、という教訓を十勝川水系河川整備計画変更原案に盛り込まなければなりません。
 私は、納税者である国民の前にすべてを明らかにすべきと考えますので、札内川ダムと戸蔦別川の砂防ダムの建設の結果として砂礫川原が激減したこと、またこのような河川における砂礫川原再生の手法は確立されておらず永続的な砂礫川原の再生はきわめて困難であることを十勝川水系河川整備計画変更原案および札内川自然再生計画書に明記するよう求めます。
 なお、ダムによる砂礫の流下の抑制は海岸線の後退にもつながっています。海岸線の後退は全国で深刻な状況になっており、人為的に砂の運搬などの対応がなされているところもありますが、いくら運んでも沿岸流や波によって浸食されるので際限なく砂を運ばなくてはなりません。ダムによって自然のバランスを崩してしまうと、人間の力では元の状態に戻すことはできません。
 昨今は自然再生事業が行われるようになってきましたが、壊したなら再生すればいいというものではありません。人が構造物によって自然をコントロールしようとすれば、その弊害が必ずどこかに現れるのです。とりわけ河川では平川教授の言うように、人の技術ではどうにもならない取り返しのつかない状態にまでなってしまいます。そうなれば自然再生は不可能です。このことを河川管理者は肝に銘じなければなりません。

2013年2月22日 (金)

続・ダムで砂礫を止められた札内川で砂礫川原再生はできるのか?

 帯広開発建設部は2010年9月に「十勝川水系河川整備計画」を策定したのだが、今回、河川整備計画の一部変更を行うという。変更部分は、地震津波対策と、昨日の記事にも書いた札内川に関する取り組みだ。この変更案について意見募集をしていたので、意見を提出し、公聴会での公述も申し込んだ。公聴会は2月28日である。

 以下が、私が提出した意見書。

**********

 今回の変更案は地震津波対策と札内川の樹林化に対する取り組みが主な変更点ですが、ここでは札内川の樹林化への対策について意見を述べます。

 私は、2010年7月に川と河畔林を考える会、十勝自然保護協会、十勝の自然史研究会が共同で開催した「2010川の講座 in十勝」に参加して、平川一臣北海道大学大学院教授の講義を受けました。なお、平川教授は第四紀学、周氷河地形環境、第四紀地殻変動の専門家です。

 平川教授は、講義のなかで「河川は、自己制御することによって、可能な限り効率のよい形、すなわち横断形、縦断形を維持しようとする。つまり砂防ダムを始めとして人間の手が加わると、河川は川幅、水深、流送河床物質の粒径などの間で、内部調整、自己制御をやって確実に応答している。人の愚かさを試しているとも言える」といい、「河床の砂礫を上流のダムが止めてしまうと、それより下流の砂礫供給量・運搬量に見合った川になってしまう。戸蔦別川や札内川はダムの建設前後で別の川になってしまったことを意味する。現在は、その変化への適応・調整、すなわち河床低下の過程にあり、河畔林の繁茂はその一端である」とし、「札内川では、従来の堤防の位置などから推測すると、数メートルも河床が低下しており、今では堤防から水が溢れることはまずないだろう」「札内川は札内川ダムや戸蔦別川に造られた多数の砂防ダムによって著しい河床低下を生じ、高水敷はヤナギが繁茂してすっかり姿を変えてしまった」と述べていました。

 札内川から砂礫川原が激減したのはダムによって砂礫の流下が止められてしまったことが原因であり、また河川敷にヤナギなどが繁茂したのは札内川ダムの貯水機能によって流量が抑制され洪水が生じにくくなったことも関係しているのです。したがって、ダムを造ってしまった以上、砂礫川原が減少し河畔林が繁茂することは当然の結果と受け止めなければなりません。

 十勝川水系河川整備計画変更原案の「(6)札内川における取り組み」(89頁)を読むと、「近年、河道内の樹林化が著しい札内川では、かつての河道内に広く見られた礫河原が急速に減少しており、氷河期の遺存種であるケショウヤナギの更新地環境の衰退が懸念されている。そのため、ケショウヤナギ生育環境の保全に加え、札内川特有の河川環境・景観を保全するため、礫河原の再生に向けた取り組みを行う」と書いてあるだけで、札内川ダムや戸蔦別川の巨大砂防ダム群の影響に全くふれていません。

 「札内川の礫河原再生の取り組みについては、礫河原再生の目標や進め方等について記載した『札内川自然再生計画書』を踏まえ」るということですので、札内川自然再生計画書のほうに目を通しました。6頁に、「昭和47年より直轄砂防事業として札内川上流域において砂防えん堤や床固工群の整備を実施してきた。昭和60年には、治水安全度の向上、高まる水需要に対応した水資源の開発を図るため、洪水調節、流水の正常な機能の維持、かんがい用水、水道用水の供給、発電を目的とした札内川ダムの建設に着手し、平成10 年に供用を開始した」とあるのですが、これらのダムが札内川にどのように影響したかについては一言も書かれていませんでした。

 ダムなどの構造物が河川を大きく変えることは河川学では常識であり、河川技術者も十分知っていると平川教授は言っていました。それにもかかわらず、十勝川水系河川整備計画変更原案にも札内川自然再生計画書にもダムの影響について触れていないのはどうしたことでしょう。

 札内川ダムも戸蔦別川砂防ダムも帯広開発建設部が良かれと思い、多額の税金を投じて建設したものです。これらのダムのために札内川の自然再生が提案されたとしても、隠し立てすることではないでしょう。

 札内川自然再生計画書では、砂礫川原の再生のために河床撹乱が提案されていますが、ダムによって砂礫の流下が止められて砂礫川原が減少しているのですから、たとえばダムからの放流量を増やして意図的に洪水状態をつくりだし河床の撹乱を促しても砂礫川原は再生されないばかりか、さらに河床の低下が進み、場所によっては基盤が露出するものと思われます。平川教授は、礫がなくなって粘土層が露出している戸蔦別川の写真を提示していました。礫層がなくなり、粒径の小さなものが流されるようになるのは大問題とのことです。また、このような状態になると増水のたびに流路に面した高水敷の縁が浸食されて崩壊し、高水敷に堆積している砂礫はさらに流されてしまいます。もちろん、高水敷に生育しているヤナギも根元から浸食を受け、流木となります。

 河畔林を伐採し重機などで撹乱して砂礫川原をつくりだしても、上流から砂礫が供給されないのですから、増水のたびに砂礫が流されて減少していきますし、河床低下がさらに進むと考えられます。このような方法は一時的には砂礫川原を生じさせるかもしれませんが、永続的な砂礫川原の再生にはつながらないでしょう。砂礫を人為的にどこからか運んでこない限り砂礫川原は再現されませんし、運んできたとしても増水によって下流に流されてしまうので、砂礫川原を維持するには人によって継続的に砂礫を運んでくるしかありません。しかも、このような手法では、砂礫地を生息・生育地としている動植物に大きな影響を与えます。

 砂礫川原を維持するのであれば、ダムで川をせき止めてはいけない、という教訓を十勝川水系河川整備計画変更原案に盛り込まなければなりません。

 私は、納税者である国民の前にすべてを明らかにすべきと考えますので、札内川ダムと戸蔦別川の砂防ダムの建設の結果として砂礫川原が激減したこと、またこのような河川における砂礫川原再生の手法は確立されておらず永続的な砂礫川原の再生はきわめて困難であることを十勝川水系河川整備計画変更原案および札内川自然再生計画書に明記するよう求めます。

 なお、ダムによる砂礫の流下の抑制は海岸線の後退にもつながっています。海岸線の後退は全国で深刻な状況になっており、人為的に砂の運搬などの対応がなされているところもありますが、いくら運んでも沿岸流や波によって浸食されるので際限なく砂を運ばなくてはなりません。ダムによって自然のバランスを崩してしまうと、人間の力では元の状態に戻すことはできません。

 昨今は自然再生事業が行われるようになってきましたが、壊したなら再生すればいいというものではありません。人が構造物によって自然をコントロールしようとすれば、その弊害が必ずどこかに現れるのです。とりわけ河川では平川教授の言うように、人の技術ではどうにもならない取り返しのつかない状態にまでなってしまいます。そうなれば自然再生は不可能です。このことを河川管理者は肝に銘じなければなりません。

2013年2月21日 (木)

ダムで砂礫を止められた札内川で砂礫川原再生はできるのか?

 札内川は日高山脈に源を持ち、帯広市の東で十勝川に注いでいる河川だ。北海道には礫の多い川は多くないのだが、札内川は勾配が急で流れが速く、大量の礫を運ぶ川だ。ところが近年、河川敷にヤナギが茂るようになり、以前見られたような玉砂利が広がる砂礫川原が激減している。

 河川の砂礫地には特有の生物がいる。私の専門のクモの例では、カワラメキリグモ、ゴマダラヒメグモ、キシベコモリグモ、ハイタカグモなどがそれに当たる。植物では、カワラハハコ、カワラノギク、ケショウヤナギなどが知られている。鳥類ではセグロセキレイ、イカルチドリなどが礫川原に生息している。

 河畔林が繁茂すると、当然のことながら砂礫川原に生息・生育している動植物が減っていく。そこで、北海道開発局は、札内川の砂礫川原の再生事業を提案し、十勝川水系河川整備計画の変更案にそれを盛り込んだ。

 絶滅危惧種などを守るためのこうした取り組みを評価する人がいるかもしれない。しかし、ちょっと待ってほしい。まず、自然再生事業をする際には、どうして札内川は樹林化したのかという原因の解明がなされなければならない。原因の解明がなされなければ、その場しのぎの事業になりかねないし、同じことが繰り返される。

 実は2010年7月31日に、北海道大学大学院環境科学研究院教授の平川一臣さんによる「川とは何だろうか?」という講座が開かれた。この話しの舞台は札内川とその支流の戸蔦別川だった。この時の話しについては以下の記事にしているのだが、平川さんは戸蔦別川や札内川の姿が以前とはまったく変わってしまったことについて、写真をつかって説明された。

平川一臣さんによる講座「川とは何だろうか?」 

 川の姿をすっかり変えてしまった原因をつくったのは、ダムである。札内川では1998年に多目的ダムである札内川ダムの運用が開始された。また、戸蔦別川では1970年代から次々と砂防ダムを造ってきた。これらのダムによって上流から流れ下ってくる砂礫が止められてしまったのだ。

 ダムによって砂礫の供給がストップすると、ダムの下流では川底にあった礫がどんどん流されてしまう。このために川底(河床という)の位置が低くなっていく。こうした現象を河床低下と呼んでいる。ダムなどの構造物の下流では、まず河床低下が見られる。河床が低下すると、流路と高水敷の間に段差ができ崖状になる。融雪や大雨などで増水すると、崖の部分が水で削られていき礫も流されてしまう。ダムでせきとめられた札内川は、このような運命をたどっているのである。

河床低下と河岸崩壊 

 川底に堆積している砂礫層が流されてしまうと、やがて基盤が露出してしまう。戸蔦別川では、すでに基盤の粘土層が露出しているところがある。基盤は岩盤のこともあるし、粘土層や火山堆積物のこともあるのだが、軟らかい火山堆積物の場合はすごいスピードで川底が削られて峡谷のようになってしまう。十勝川水系、芽室川支流の渋山川がその事例。以下のサイトの写真を参照していただきたい。

第3日目:河床低下減少について② 

 このようになると、いくら護岸工事をしても崩れてしまい工作物で制御することはできなくなる。これが自然の摂理なのだ。

 札内川ダムがない頃は大雨が降って川が増水すると河川敷が洗われ、砂礫川原が出現するということを繰り返してきた。しかし、ダムは洪水調節の役目をするので大雨が降っても増水が抑えられてしまう。この結果、ダムから下では撹乱が生じにくくなり、河川敷にはヤナギなどが繁茂してしまう。河畔林は融雪期の増水程度では流木とはならないので、茂る一方となる。こうして、川原は樹林化してきたといえるだろう。つまり、砂礫川原が減少し河畔林が繁茂した背景には、ダムによる河床低下と洪水調整がある。

 こうして樹林化してしまった河川敷を、再びかつてあったような砂礫の川原に戻すことはできるのだろうか? 帯広開発建設部は砂礫川原再生のために、「札内川技術検討会」を立ちあげて検討してきた。そこで提案された方策が、以下だ。

礫河原再生の方策 

 ここでは、以下の再生方法が検討されている。
1.札内川ダムからの疑似融雪出水放流
2.砂州上部の掘削
3.水際掘削
4.砂州上の樹木の間引き
5.河原へのツルヨシの生育促進
6.ケショウヤナギの生育特性を踏まえた対策

 1は、融雪期にダムの水を放流することで川の水量を増やし、それによって生じた礫河原にケショウヤナギを定着させようという発想だ。しかし、これはケショウヤナギを増やすことにつながっても、川の樹林化そのものを防ぐことにはならない。

 2および3は、流路に沿って河畔林を帯状に伐採し、その部分を掘削するというもの。この方法では確かに一時的には砂礫川原が出現すると思われる。しかし、増水のたびに掘削部の砂礫が流されていくことになる。上流からの砂礫の供給がないのだから、やがては砂礫も尽きてしまうだろう。

 4の間引きも一時的な効果はあるかもしれないが、頻繁に間引きをしなければおそらくすぐに元の状態に戻ってしまうのではなかろうか。5のツルヨシの生育促進も、オノエヤナギの定着を抑制するだけで、以前の砂礫が広がっている河川の再生にはつながらない。

 結局、ダムで砂礫の流下を止めてしまった以上、下流では砂礫は減る一方なのだ。河川敷に堆積した砂礫はすぐにはなくならないだろうが、次第に減っていくだろう。つまり、どこかから砂礫を運んでこなければ、やがて砂礫川原は衰退していく運命にある。永続的に砂礫川原を維持するのなら、ダムに堆積した礫をダムの下流部に定期的に運ぶか、ダムを壊すしかない。永遠に続けなければならない事業になるだろう。

 河川管理者はもちろんこうした川のしくみやダムの弊害がよく分かっている。ところが、「札内川技術検討会」では、札内川ダムがあることを前提として話しを進めているので、ダムという原因について突き詰めて議論することはしない。樹林化した原因に目をつむって、小手先の対処療法を試みてみようということだ。なぜなら、原因を突き詰めてしまえば新たなダムづくりに矛盾が生じてしまう。だから大元の原因については極力触れないのだろう。

 人が川のバランスを崩してしまったのなら、川の生態系に留まらず海岸にまで影響が及ぶ。ダムによる弊害が深刻であることが分かってきたからこそ、欧米ではダムの撤去まで行われるようになったのだ。

 ところが日本の河川管理者はダムに起因する自然再生事業を提案する一方で、さらなるダム建設に突き進んでいる。北海道ではサンルダムや平取ダムだ。開発局は過去の教訓から何も学ぼうとしないのである。利権で固まったムラ社会だから、理屈だとか自然の摂理などは無視しなければならないのだろう。実に愚かなことである。

続く

2012年3月26日 (月)

砂防工事で居辺川を殺してはならない

 十勝総合振興局帯広建設管理部(旧帯広土木現業所)から十勝水系の居辺川(おりべがわ)で砂防事業を行うという話があり、先日、事務所に赴いて説明を聞いてきた。

 砂防事業の予定地は上士幌町内の全長約6キロメートルの区間。河床に堆積している土砂が浸食によって移動するのを防ぐというのがこの砂防工事の目的だという。上流より床固工(とこがためこう)12基、護岸工600メートル、遊砂地工1カ所を造る計画だ。以下のサイトの6番の事業計画だ。

平成22年度事業計画(案)策定段階事業一覧表

 「床固工12基」と聞いて、これは川が死ぬのではないかと強い危惧を抱いた。床固工というのは、小規模の砂防ダムのようなもので、堰で段差をつけ、川床の一部を凹凸のあるブロックなどで固める工法だ。段差をつけることによって河川勾配を緩やかにし、川底の浸食を防止するというものだ。説明によると一つの堰堤の落差は1.5メートルから2.5メートルとのこと。このような構造物を連続して12基つくるというのだ。イメージとしては以下を参照していただきたい。

http://www.ktr.mlit.go.jp/nikko/nikko00006.html 

 また遊砂地というのは、河川を掘削してポケット状にすることで土砂をそこに堆積される施設だという。説明から、やはりかなりの自然破壊になるものと推測される。自然の河原が広がっている居辺川にこのようなコンクリートの構造物ができると想像しただけで、ぞっとする。

 居辺川では、周囲の農地開発により大雨での増水が顕著だという。たしかにそれは事実だろう。大雨のたびに河川敷が洗われ、蛇行も変化して景色が一変することも珍しくない。平成15年の大雨では浸食によって被害が生じているし、道路の崩落による死亡事故も起きている。

 この時はもちろん災害復旧工事をしたので、それ以上手をつけるとは思っていなかったのだが、河川管理者はとにかく川をいじりたいらしい。

 私は居辺川には何度も行っているのだが、居辺川上流は礫の豊富な小河川で、十勝平野でもすぐれた自然が残されているところだ。河川敷、河畔林、農耕地、河岸段丘の森林などが一体となって、多様な生態系を保っており、野鳥が豊富でワシタカ類もよく見られる。

 河川敷には礫河原特有のクモが生息している。たとえば、ゴマダラヒメグモ、カワラメキリグモ、ハイタカグモ、ハモンエビグモ(本種は礫河原特有といえるかどうか分からないが、少なくとも私は礫河原でしか見たことがない)など。いずれもレッドリストなどに掲載されているような種ではないが、北海道ではどこにでも生息しているというクモではない。

 また、ここは十勝地方でも有数のセグロセキレイの生息地だ。セグロセキレイも礫河原に特有な鳥で、北海道では生息できる河川が限られているのだが、居辺川周辺では越冬もしており重要な生息地となっている。

 ここに床固工群をつくって砂礫の動きをとめてしまったなら、これらの動物の好適な生息地がはたして保たれるのだろうか?

 十勝には然別川という小河川があるのだが、ここでも床固工群をつくって河川生態系を滅茶苦茶にしたという経緯がある。この川を見るにつけ、あまりの河川生態系破壊に唖然とする。

 そもそも砂礫の移動を防ぐのが目的だというが、川が砂礫を運ぶのは自然の摂理だ。それを砂防工事で止めてしまうと礫が下流に運ばれなくなって下流域が浸食される。このためにさらに砂防工事を行うという悪循環を生みだしかねない。札内川支流の戸蔦別川がいい事例だ。戸蔦別川では、上流にいくつもの砂防ダムをつくったため下流部が浸食され15基もの床固工群を造った。それでも川床低下は止まらず橋脚の下部がえぐられるなど深刻な状況になっている。

 また、砂防工事で土砂を止めてしまうと海への砂の流出が減り、海岸浸食が加速される。海岸線がどんどん後退し、護岸工事で固められることになる。砂防工事に起因する浸食は取り返しのつかないことになるのだ。このような例はいくつもある。

 河川の周辺に人家や道路などがある以上、ある程度の護岸工事などはやむを得ないが、砂防ダムや床固工などによる河川生態系への悪影響は計り知れない。居辺川の床固工と遊砂地は取りやめるべきだろう。

より以前の記事一覧

フォト

twitter

2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

最近のトラックバック

無料ブログはココログ