環境問題

2018年8月 5日 (日)

猛暑と暑さ対策

 北海道に住んで40年弱になるが、私にとって夏が涼しく夏バテにならないというのはとてもありがたい。考えてみたら、東京にいた頃は毎年夏バテで辛い思いをしていた。あの頃はまだ暑いといっても最高気温は32度とか33度くらいが普通だったのだから、昨今の35度を超えるような暑さなら堪らないだろうと思ってしまう。

 といっても子どもの頃は夏バテをしたという記憶はない。30度を超えるような日も外遊びをしていたし、食欲が落ちたりはしなかったと思う。ところが、いつからか夏がとても苦手になった。夏バテで思い当たるのは、家を建てて引っ越したこと。

 普通、家を建てて引っ越したなら居住環境が改善されそうなものだ。ところが私の場合は違った。家を建てるに当たって、父は洋風の外見にこだわり屋根をトタン葺きにした。2階の子ども部屋はそのトタン屋根の直下。当時の住宅は断熱材などほとんど入っていないのが当たり前だったので、夏になるとジリジリと熱したトタン屋根によって2階は猛烈な暑さに見舞われることになった。

 室温を測っていなかったので何度くらいだったのか分からないが、おそらく外気温よりかなり高かったと思う。35度以上あったのではなかろうか。当時は一般家庭ではクーラーなどまずなかったので我慢する他ない。あまりに暑いので、夏休みなどは夜遅くまで起きていて夜明け前くらいに寝るようにしていたこともあったが、陽が昇るとどんどん室温が上がって眠っていられなくなる。そんな環境で過ごしていたことが夏バテに関係していたのではないかと私は疑っている。

 私が北海道に来た後に実家では増築をした。ダイニングキッチンを南側に張り出す形で増築したが、この部屋もトタン屋根ですぐに暑くなる。ゆえに、すぐにクーラーを取り付けたようだ。また、私が使っていた2階の部屋は父が使うようになったのだが、父は即、クーラーを取り付けた。

 母はあまりクーラーを好まない人だったが、あまりに暑いとダイニングキッチンのクーラーをつける。ところが、しばらくして涼しくなると「電気代がもったいない」とばかりに電源を切って窓を開け放つ。クーラーを切るとすぐに部屋が暑くなるから窓をあけて風を入れたほうがいいと言う。日中の暑い時間帯はクーラーの設定温度を高めにしてずっとつけていればいいのにと思うのだけれど、高齢者はすぐに節約ばかり考えてしまうのだろう。

 話しは変わるが、今住んでいる家を新築するにあたってもっとも拘ったのは高断熱・高気密住宅だった。私が北海道に来たころは、高断熱・高気密住宅はまだそれほど普及していなかった。断熱材がろくに入っていない古い住宅の場合、狭い家でも1日10リットルくらい灯油を炊くことになる。二日で千円札を1枚燃やしているような勘定で、北海道は大変なところだとつくづく思った。しかも長時間家を空けたり夜にストーブを消せばすぐに氷点下になってしまう。数日旅行をしている間に、調味料まで凍りかけたこともあった。北欧やカナダなどでは高断熱・高気密の家が当たり前なのに北海道はずいぶん遅れていると思ったものだ。

 そこで家を建てる際には多少高くついても高断熱・高気密住宅にしようということで、壁にも天井にも20センチのグラスウールが入っている外断熱工法を選んだ。窓は高断熱ペアガラス。その結果、住宅の体積が以前の3倍以上になったのに、灯油使用量は以前より少なくて快適な生活ができるようになった。1台のストーブで家中が暖かく、トイレや浴室で寒さを感じることもない。真冬に3日くらい留守にしても、室温は10度くらいまでにしか下がらない。高断熱・高気密住宅というのは夏も涼しいし冷房の効率もいい(私のところではクーラーはないし、必要もない)。

 東京の実家に帰るたびに感じたのは、本州の住宅の気密性・断熱性の悪さだ。朝目覚めるとスズメの声がまるで外にいるかのように聞こえてくる。だから、暖房をしても冷房をしても効率が悪い。それだけ熱が外に漏れてしまっているということに他ならない。

 高断熱・高気密住宅に住んでみて、なぜ本州でもこういう工法がなかなか普及しないのだろうかと不思議でならない。建築費が高くなるとはいえ、おそらく暖房費や冷房費は相当な節約になるはずだし、何より快適な生活ができる。節電になれば温暖化防止にも寄与するだろう。節電の面からも高断熱・高気密住宅を増やしていくべきだと思う。

 とは言うものの、既存の住宅をすぐに高断熱・高気密にするわけにもいかない。ならば、よしずなどを利用してできるだけ涼しく過ごす工夫も大事だ。エアコンも室外機によしずを立てかけたりカバーをかけて日陰にするだけでも効率が良くなるという。

 エアコンの電気代を抑えるには、「外気温と設定温度の差が大きい時には自動運転でつけっぱなし」「30分くらい出かけるような場合もつけっぱなし」が良いそうだ。また、高めの温度設定でも扇風機と併用すれば涼しくなるとのこと。フィルターもこまめに掃除しないと効率が悪くなるとのことなので要注意。

 節電ではないが、熱中症対策として外出時の日傘もお勧めしたい。以前は日傘といえばご婦人専用だったが、今は男性用の日傘もある。私も日傘をつかってみて、その涼しさを実感した。老若男女問わず日傘はとても有用だと思う。

 昨今の異常気象や猛暑はもちろん地球温暖化が関係しているのだろう。とするなら、今後も猛暑が続くことになる。化石燃料の大量消費をなくして再生可能エネルギーに転換していくことは必須だが、同時に猛暑対策もしていかないと健康が脅かされかねない。

2018年1月27日 (土)

温暖化への警告の書、ナオミ・クライン著「これがすべてを変える」

 カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインの「これがすべてを変える 資本主義VS 気候変動」(上・下2巻 岩波書店)を読み終えた。上下巻合わせ、本文だけで600ページ(引用文献が上下巻合わせ130ページほど)を超える大作だ。

 近年は夏の異常な高温や集中豪雨、あるいは寒波などの異常気象が目に見えて増えてきているにも関わらず、日本では地球温暖化の問題が深刻に捉えられているとは思えない。アル・ゴアの「不都合な真実」が話題になった頃は温暖化議論も活発化したが、昨今では温暖化問題はさっぱり目にしなくなった。

 それどころか、「地球は寒冷化しているから化石燃料をどんどん燃やしても問題ない」「温暖化説は陰謀」などといった温暖化否定論や陰謀論が一定程度の支持を得ているようだ。とりわけ反原発を唱える人の中にこうした陰謀論が根強いように感じる。CO2温暖化説は原子力推進派による陰謀だと。

 私もブログやツイッターで温暖化説を支持する発言をした際に、否定派の人から「説得」とも受け取れる反論をされたことがある。彼らは完全に否定論や陰謀論を信じこんでいるから本書などは読む気もないのだろうけれど、本書を読めば、化石燃料採掘会社と、化石燃料の消費によって富を得ている一握りの人たちこそが温暖化否定論や陰謀論の根源であることを思い知らされる。

 今や97%の科学者がCO2による地球温暖化を認めているし、このまま二酸化炭素の放出量が増え続けると今世紀終わりまでに世界の気温は今より4度上昇するという予測まである。4度上昇した世界がどんなものになるのか。海水面が上昇し、いくつかの島嶼国家だけではなく広範囲にわたって海岸部が水没する。熱波が人の命を奪い、暑さのために主要作物の収穫量が大幅に減少。干ばつや洪水、害虫の大発生、漁業の崩壊、水供給の破壊・・・。そして何よりも恐ろしいのは、ティッピングポイントと呼ばれる臨界点を超えてしまった場合に起こる暴走。そうなったらもはや人の力で阻止することは不可能だ。

 地球温暖化をこのまま放置したなら世界中の人々に壊滅的な影響を与える。だからこそ世界の国々が温室効果ガス削減に向けて交渉を続けてきたが、二酸化炭素の放出量を減らし、再生可能エネルギーに転換する取り組みは遅々として進まない。二酸化炭素の排出量は増える一方で、最悪の事態に向かって突き進んでいる。著者はその理由を規制緩和とグローバル化を推し進めてきた市場原理主義にあると喝破する。

 大量生産と大量消費、グローバル化による物資の大量輸送が化石燃料を大量に消費することは言うまでもない。さらに、新自由主義によって富の極端な集中と格差の拡大がもたらされた。今すぐに市場原理主義から持続可能な経済へと変革していかなければ温暖化による壊滅的な被害は避けられないが、今ならかろうじて間に合うと著者は言う。

 端的に言うなら経済成長を目指す資本主義から脱するしか解決の道はない。本書のタイトルには「資本主義 VS 気候変動」とあるが、だからといって社会主義を主張しているわけではない。独裁的社会主義もまた資源をむさぼり廃棄物をばら撒いてきたからだ。すなわち、搾取主義と過度の輸出から脱し、持続可能な社会を築くしか道はない。

 具体的には、大量消費のライフスタイルを見直すとともに、リサイクル、公共交通の利用や農産物の地産地消などを進める。また国による規制強化や炭素税、富裕層への課税強化などによる収入の確保、地域コミュニティーによる再生可能エネルギーの管理、公共交通や再生エネルギーなどへの公共投資を提案する。経済成長から定常経済への移行は決して不便な時代への逆戻りではない。真の民主主義を取り戻すことで格差を解消し人々の生活を向上させることが可能だという。

 著者が最も言いたいのは、我々が直面している地球温暖化の危機は、新自由主義による暴走や格差の拡大を絶ち切って真に民主的な社会を構築するチャンスになり得るということだ。たとえば著者が「抵抗地帯」と呼ぶ化石燃料採掘やパイプラインの建設に反対する住民運動が世界で繰り広げられるようになった。こうした人たちが再生可能エネルギーの推進、転換へと動き始めている。地域に根差した草の根の運動こそが改革を可能にするというのが著者の考えだ。

 私自身、これまでもブログやツイッターで「永遠の経済成長などあり得ない」という主張をしてきた。地球の資源は有限であり、人類も地球の生態系の一員である以上、資源の浪費を止め持続可能な暮らしを維持しない限り、人類は自分で自分の首を絞めることになりいつか破綻すると。地球温暖化は人類が地下に眠っている化石燃料を使い放題にし、そこから得られる利益を一部の人たちが独占するという資本主義のシステムによってもたらされたというナオミ・クラインの指摘はその通りだと思う。

 地球上で、環境を汚染させ、富の蓄積を目指す生物など人間の他にいない。地球のシステム、自然の力は人類の知恵や技術に及ばない。生態系から大きくはみ出して環境を汚染させ続けたなら、必ず自然によるしっぺ返しがくる。その一つが地球温暖化だ。

 昨今は石油に変わって天然ガスがもてはやされている。しかし、フラッキング(水圧破砕)によるシェールガス・オイルの抽出やオイルサンドの採掘が従来の化石燃料の採掘より遥かに多くの温室効果ガスを排出することは日本ではほとんど報じられない。またこれらの採掘は自然破壊だけでなく有毒物質による環境汚染を引き起こし、パイプラインからの漏出は大規模な環境汚染を引き起こしている。私たちはこうした事実を知り、危機感を持って向き合わねばならないと痛感した。

 本書は2014年に出版され、すぐさま25カ国語に翻訳されたという。それほど注目を浴びる書だ。しかし、恐らく日本ではこの大著を手にする人は多くないだろう。なぜか日本ではあまりに地球温暖化に対して危機感が薄く、不思議なほど大きな話題にならない。福島の原発事故を体験したがゆえ、とりあえずは化石燃料の利用もやむを得ないという考えがはびこっているような気がしてならない。しかし、いつまでも化石燃料に頼っていることにはならないだろう。

 自分の利益しか考えない人たちによって地球に危機がもたらされたのだ。地球温暖化の事実を知った私たちの世代こそ、地球の未来に大きな責任を負っている。

2017年4月30日 (日)

化学物質過敏症は炭鉱のカナリア

 わが家では、洗剤は基本的に無添加の固形せっけんと粉せっけん。あとは掃除や洗濯に重曹を使う。これらがあればほとんどの汚れに対応できる。髪を洗うときも固形せっけんを使うし、セーターもせっけんで洗う。

 もともとは環境問題のことがきっかけでせっけんを使いはじめたのだが、洗剤類に含まれる香料にどんどん過敏になってしまったこともあり、香料入りの固形せっけんも使わない。香料の匂いで気持ちが悪くなったり頭が痛くなったりするのだ。それだけではない。化粧品や整髪料、ワックス、塗料類、たばこなどの匂いに対しても同じような症状がでるようになった。どうやら化学物質過敏症のようだ。さらに、化学物質とは言えないニンニクの匂いもダメになってしまった。

 子どもの頃は、匂いに対して特別に敏感だったという記憶はない。化粧せっけんの匂いも、シャンプーの匂いもさほど気にはならなかった。

 私が強い匂いが苦手だと気づいたのは東京に住んでいた20代の前半のことだ。当時、日本フィルハーモニー協会合唱団に参加していた。日本フィルハーモニー交響楽団ではオーケストラ付合唱曲の演奏に合わせて一般の人たちから合唱団の団員を募集していた(今でも続いているらしい)。私は友人と出かけた演奏会で団員募集のチラシをもらい、団員に応募した。週1回の練習を重ねて本番の演奏会で解散となる合唱団なのだが、その演奏会のときに化粧品の匂いで気分が悪くなってしまったのだ。

 演奏会では合唱団員はオーケストラの後ろにぎっしりと詰めて並ぶのだが、舞台は人々の体温とライトの熱気、そして化粧品の匂いが充満する。この匂いがかなり強烈で次第に気分が悪くなり、途中で舞台の袖に引っ込んで休ませてもらったことがあった。他の人たちは平気なのに、なぜ私はこんなに気持ちが悪くなってしまうのだろうという疑問が頭の中で渦巻いた。そして、自分が化粧品の匂いに人一倍過敏であることに気がついた。

 私はほとんど化粧をしないのだが、それからというもの冠婚葬祭などでごくたまに化粧をして車に乗ったとき、自分の化粧品の匂いで気分が悪くなった。自家用車の狭い車内で匂いがこもるとひどく気分が悪くなる。同乗者がたばこを吸っても同じで、窓を開けないと耐えがたい。ところが他の人はそうでもないらしい。その時には化学物質過敏症であるということは知らなかったが、最近になって自分が過敏症であることを認識した。

 化学物質過敏症という以上は天然の匂いは大丈夫かといえば、必ずしもそうではない。北海道ではおなじみの山菜であるギョウシャニンニクを採って車に持ち込んだときも、吐き気に襲われるようになった。ギョウジャニンニクの匂いはニンニクよりさらに強烈だ。北海道では戸外でバーベキューと言えばジンギスカンが定番なのだが、これにしばしばギョウジャニンニクを入れる。はじめのうちは私も少しくらいは食べることができた。ところが、食べたあとがいけない。自分の吐く息の匂いで気持ちが悪くなるのだ。以降、ギョウジャニンニクは食べないようにしているのだが、家族が食べ、夜中に息の匂いで気持ちが悪くなって耐えられなくなり、布団をもって別の部屋に逃げだしたこともある。そんなこともあってニンニク臭も過剰反応するようになってしまった。

 ワックスがけなども同じで、ワックスをかけた後はしばらく窓を開け放していないと頭が痛くなってたまらない。そんなわけで、今では香料と無縁の生活をしている。料理にもニンニクは使わない。

 先日、北海道新聞に化学物質過敏症の記事が何回か掲載されたのだが、私と同じような人は一定程度いるらしい。なるほどと思った。発症のメカニズムはよくわかっていないらしいが、花粉アレルギーなどと同様に、一定の限界を超える化学物質を取り込んでしまうことが関係しているらしい。

 私は若い頃から化粧はほとんどしなかったので、なぜ化粧品の香料で過敏症になったのか分からない。職場ではタバコの匂いがかなり苦痛だったが、父がタバコを吸っていたことが関係しているのかもしれない。昨今は乗り物は原則として禁煙になったのでとても助かっているが、飛行機やバスなどで化粧品や整髪料の匂いが強い人が近くにいるとかなり辛い。

 ところで、私のような過敏症の人は生まれ持った体質が関係しているのではないかと思えて仕方ない。たとえば、ハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)という気質の人が知られているが、この気質の特徴の一つに、強い匂いなどの刺激に対して敏感であることが挙げられている。特定の物質に対する感受性が高いのだ。HSPの人は人口の約15~20%に見られるとされており、5、6人に一人はHSPだ。私は自己診断テストでは明瞭なHSPというほどではないが、傾向は比較的強い。子どもの頃に診断テストをやっていたら、間違いなくHSPに該当したと思う。

 ときどき体感で地震の前兆をキャッチする人がいるが、彼らの多くもHSPなのではないかという気がしている。て電磁波過敏症なども同じだろう。低周波音で体調が悪くなる人もそうかもしれない。私は地震の体感者でも電磁波過敏症でも(多分)ないが、匂いに対してはどうもかなり過敏な体質のようだ。

 過敏症は化学物質や電磁波が溢れるようになった現代の病だ。自然界にはない化学物質が人間にとってマイナスに働くことはあっても、プラスに作用することは考えられない。化学物質過敏症は、ある意味「炭鉱のカナリア」なのだ。

 現代社会は化学物質まみれだし携帯電話やWiFiの普及で日常的に電磁波にさらされる。5、60年前には考えられなかった状況になっている。過敏症の人は増え続けるだろう。化学物質過敏症は人類に警告を発しているのだと思う。

2016年1月23日 (土)

温暖化の脅威

 昨年(2015年)の世界の平均気温は過去最高を更新したそうだ。

2015年の世界平均気温 過去最高を大幅更新 (BBC)

世界の年平均気温の編差の経年変化(0891~2015:速報値) (気象庁)

 世界の平均気温は2000年ころから10年ほど横ばいだったため、温暖化は嘘だとか寒冷化が始まっていると主張する人もいたが、どう見ても温暖化は止まるどころか加速しているとしか思えない。

 昔と比べて暖かくなった、というのは私自身も実感している。

 私の生まれ故郷は長野県の上諏訪だが、上諏訪はとても寒いところだった。冬の朝、玄関前に配達された牛乳が凍って紙のふたを押し上げて盛り上がるほど冷えるのが日常だった。とはいっても私が住んでいたのは幼児期なので、寒さの記憶自体はほとんどない。暖房といえば炬燵があったことしか覚えていないが、今になって考えるとよくあの寒いところでストーブも使わず過ごしていたものだと思う。今はたぶんそこまで冷えないのだろう。

 母が子どもの頃、諏訪湖は毎年全面結氷してスケートをしたそうだが、近年では全面結氷の頻度が減り、氷の厚さも薄くなっているという。

 私が北海道に来た35年ほど前も、今と比べると冬はずいぶん寒かった。当時住んでいた住宅は、ストーブを焚いている昼間でも長時間水道を使わないと凍結してしまうこともあったくらいだ。半日ほど外出しただけで、家の中はたちまち氷点下になる。帰宅してもしばらく防寒着が脱げない。夜はストーブを消すが、寒いときは寝室がマイナス8度くらいまで下がったこともあった。

 寝る前はストーブの上で沸騰していた薬缶の湯が、朝には凍っている。水道はもちろん水抜きをするが、冷えた日は蛇口が凍って回らなくなってしまう。目覚めたらまずストーブのスイッチを入れて、部屋が暖まるまでまた布団に潜り込む。部屋が多少暖まってから起き出して着替え、薬缶の湯を蛇口にかけて回るようにしてから止水栓を開く。だから、ストーブには必ず水を入れた薬缶や湯沸かしを乗せておかねばならない。これが冬の日課だった。

 数日間家を開けて帰ってきたときには、何もかもが凍ってしまって大変だった。北海道の場合、冷蔵庫は、冬に食べ物を凍らせないという役目もあるのだが(冗談のようだけれどホントの話し)、もちろん冷蔵庫の中のものまで凍っている。花瓶の水が凍って花瓶が割れていたり、調味料まで凍ってビンが割れていたり・・・。

 真冬はマイナス20度以下になるのは当たり前で、25度以下になることもしばしばあった。最低気温がマイナス15度くらいだと「今日は暖かいね」という感じだった。狭い家なのに、厳冬期はストーブだけで一日10リットルほどの灯油を燃やした。

 今こそ断熱性・機密性のいい住宅なのでこんなことはあり得ないのだけれど、それにしても3、40年の間にずいぶん暖かくなった。最近ではマイナス25度以下になる日は滅多になく、20度以下になってようやく「今日は冷えたね」となる。冬暖かいのは暖房費の節約になるが、もちろん喜んでなどいられない。

 地球温暖化の危機が叫ばれるようになってから久しいが、これを止めるのは本当に厳しい状況になってきている。地球上の生物は戦争、放射能や化学物質による環境汚染、そして地球温暖化(含異常気象)と、いくつもの脅威にさらされているのに、この国を見渡してもなぜか危機感が感じられない。

 人間は「ゆでガエル」のように、自分の身に危機が降りかからないと気づかないのだろうか? その時はすでに遅しなのだけれど。

2015年12月 6日 (日)

フェロニッケルスラグ微粉末の有害性をめぐって(追記あり)

 (株)日向製錬所と(有)サンアイが黒木睦子さんを訴えた裁判では、黒木さんがフェロニッケルスラグ(グリーンサンド)を「有害なゴミ」と書いたことが真実であるか否かが大きな争点になっていた。

 有害性に関することで黒木さんがブログに書いていたのは2点。ひとつは、造成工事の際にフェロニッケルスラグの粉塵が黒木さんの実家まで飛んできて咳がでるようになったということ。これは粉じんを吸引したことによる健康被害という主張だ。もう一つは、造成地の斜面の最下部にある沈殿池の水から基準値を大幅に超える重金属が検出されたということ。黒木さんは、スラグからしみ出た水が重金属で汚染されており、その水が川に垂れ流しになっていること、さらにその水が水田にも使われていると主張していた。この発言から、黒木さんはスラグから有害物質が溶け出ていると考えていることがわかる。

 なお、沈殿池の水から有害物質が検出された件については、「黒木さんの水質検査で確認された有害物質は何に起因するのか?」および「黒木さんの水質検査で確認された有害物質は何に起因するのか? その2」を参照していただきたい。

 こうした流れから、有害性に関する争点は「粉じんによる咳」と「スラグから重金属が溶出するか否か」になる。ところが、この裁判がはじまってからツイッターで、フェロニッケルスラグに含まれるシリカ粉じんが発がん性物質であるから、それを主張すればスラグの有害性の立証になるという主張をする人が出てきた。この裁判の情報をチェックしている人ならすぐにピンとくると思うが、現在のツイッターアカウントでいうと、@honest_kuroki さんだ。さらに、黒木さんの裁判に関心をもってブログ記事を書いてきた香取ヒロシ@EG_Hiroshiさんも同じ主張をしている。お二人の主張は以下のようなものだ。

 フェロニッケルスラグ(グリーンサンド)の主成分はシリカ「SiO2」で、46~58%である。そして世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は石英結晶(シリカ)を「ヒトに対する発がん性が認められる」物質に指定している。また、多量のシリカ粉じんの吸引は珪肺の原因にもなる。黒木さんの裁判で裁判長は「有害であることを証明しなさい」と言っているのだから、裁判でこの主張をすれば有害性の立証になる。香取さんの主張は以下の記事に詳しい。

 【追記あり】池の水は争点じゃない。衝撃の発がん性物質。 
知っとこう・見据えとこう。尋問らしからぬ尋問。 
司法にもとる裁量。そして今後のこと。 

 ただし、私はこの件については重視していなかった。なぜなら黒木さんはそういう指摘をしていなかったし、シリカの危険物指定は労働者が長期間にわたって微粉末を吸いこんだときのはなしであり、造成は一時的な飛散だからだ。

 香取さんとツイッターでこのことに関する議論をしているとき、「だぶ」@fluor_doublet さんが、スラグに含まれるシリカは石英結晶ではないから、WHOが珪肺の危険性を指摘している結晶質二酸化ケイ素微粉末とは違い、有害性はそれほど高くないというツイートをしていたことを知った。「だぶ」さんにこれについてお聞きしたら、詳しい説明をしてくださった。以下が「だぶ」さんの説明。

労働安全衛生法においてシリカ微粉末が通知対象物質にかかっているのは、主に粉塵吸引の長期間曝露を念頭に置いてのことです。これは、主に鉱山の坑内の作業従事者が極めて微細な石英粉を長期間吸っていると、重篤な肺疾患(珪肺)が起こることによっています。このときのシリカは、石英です。

ちなみに、シリカというのはケイ素酸化物という意味ですが、これがまた多彩な構造をもつ物質で、結晶構造が数種あり、非晶質もかなり安定です。一番身の周りに多いのは低温石英(石英、αクオーツ)で、高温相もあります。トリディマイト、クリストバライトのような別の結晶構造もあります。

非晶質シリカも多いです。一回石英を溶融し、冷やすと石英ガラスになり、結晶構造は戻ってきません。水を多く含んだものはオパールであり、シリカゲルであります。これらのうち、珪肺を強く引き起こすのは石英、もしくはクリストバライトの非常に細かい粉です。

二酸化ケイ素(シリカ)は非常に安定な物質ですが、結晶構造をきちんと取るとさらに安定になり、微粉末を長期間吸いこんむと、そこに長い間留まり、肺に異物として認識され、悪さをし出すようですね。珪肺は復帰が難しく、鉱業では代表的な労働疾患です。アモルファスのシリカはそうでもありません。

んで、ではフェロニッケルのスラグはどうか、という話ですが、その前にひとつ、無機化学のおさらいをしておきましょうか。酸化物およびケイ酸塩の相は、通常の酸化数のものであれば、陽イオンのすべては酸素が陰イオンになっています。で

んで、そういった系の純物質もしくは化合物は、複雑な組成のものでも、純酸化物の組み合わせで表現することが多いです。例えば、頑火輝石という鉱物があります。これはMg2Si2O6という組成を持っていますが、しばしば 2MgO・2SiO2 という表現をします。

要するに、純酸化物で換算してどのくらい、という表現ですね。これは、実験上、分析上、あるいは考察上、非常にわかりやすい表現なのです。でも、 2MgO・2SiO2 の頑火輝石に、石英が入っているわけではないのです。単なる純シリカ換算なだけで

フェロニッケルのスラグもそんな感じで、複雑なケイ酸塩の結晶および非晶質(アモルファス、ガラス)の混じりで、その鉱物組成は原料や製法によってばらつきます。急激に冷やせばガラスになりますし、ゆっくり冷却すれば結晶化しやすいものから分化結晶化します。

ちなみにフェロニッケルのスラグは、二価の鉄、カルシウム、マグネシウムのケイ酸塩の組成です。ただし複雑な混じりの結晶もしくはガラスなので、構成鉱物種での表現は難しく、FeO ○○%, CaO ○○%, MgO ○○%, SiO2 ○○% といった表現をします。た

ただし、純シリカ分換算で SiO2 が ○○% 入ってる、という表現になってても、それが石英なわけではありません。そのほとんどはケイ酸マグネシウムやケイ酸カルシウムのケイ酸分です。ケイ酸の量が多ければ、スラグだとクリストバライトが結晶化することがありますが、ごく少量です。

なので、フェロニッケルのスラグの組成のコンテンツに SiO2 が ○○% 入ってる、という分析値が出ているからと言っても、それは石英であることはほとんどないのです。石英は融点が高く、それが多く入っているとスラグの流動性が下がりますしね。他の成分がみんな融かしてしまうのです。

ちなみに、フェロニッケルのスラグの組成だと、頑火輝石(エンスタタイト)がかなりメジャーな、安定相になってきます。ゆっくり冷やせばこれが結晶化してくるでしょう。あとはカンラン石かな。シリカ分は通常の岩石の組成から考えるとかなり少なめです。

なお、今はスラグの大部分は、融けてメルトになっている状態で水に放り込みます。こうすると体積収縮でバキバキに割れ、数ミリ大の粒になります。だから「グリーンサンド」というのですが。粒径分布を考えると、重量比率で一番大きいのは数ミリ大でしょうね。

そして一番大事なこと。地殻で一番多い元素は酸素、二番目はケイ素です。ですので、シリカ、具体的には石英は、ほとんどの岩石に含まれています。そこら辺にある砂を取って分析すれば、数割は石英ですし、海砂なんかは5割6割は当たり前、9割以上が石英なところもあります。

地球上のすべての生物はシリカ(正確には石英)の上に生きていると言っても過言ではありません。そのぐらい石英って多いのです。

以上のことから、フェロニッケルのスラグの組成に SiO2 が入ってる、石英は労働安全衛生法の通知対象物質に入ってる、だからフェロニッケルスラグは危ないんだ、という三段論法は、いろいろな点で間違いなのです

普通の窓ガラス(ソーダガラス)も、SiO2 ○○%, Na2O ○○%, CaO ○○%, B2O3 ○○% みたいな表現で書きますよ。でも、石英が入っているわけではないのです。

 ちなみに「だぶ」さんは、無機と有機金属化学の研究者でシリカの専門家とのこと。とても噛み砕いて説明してくださったので、鉱物や化学に疎い人でも理解できると思う。

 で、私も調べてみたが、以下のサイトでも「だぶ」さんと同じ説明がなされている。

 5.SiO2の頂点に立つ水晶の構造(水晶と鉱物)

 フェロニッケルスラグの冷却条件によって、スラグの主成分の結晶がどのような変化を示すかを実験した論文があるのだが、急速に冷却した場合はSiO2はすべてガラス質、つまり非結晶になったという結果が得られている。

フェロニッケルスラグの冷却条件と組織に関する研究(資源・素材学会誌 105(1989)No.14)

*上記の論文について「だぶ」さんが図を引用して詳しく解説をしてくださった。詳しく知りたい方は、以下のツイートをお読みいだだきたい。
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673918886845153280
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673929874915004416
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673929931722633216
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673929964157190144
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673930026706862080
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673930103248707584
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673930131308605440
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673930163046887425
https://twitter.com/fluor_doublet/status/673930802439188480

 製錬の過程は住友金属鉱山のHPで説明されていて、日向製錬所では溶融したスラグを水砕している。つまり、融けた高温のスラグを水で急速に冷却しているといえるだろう。
http://www.smm.co.jp/business/refining/group_domestic/hyuga/kyoten.html 

 珪肺について調べてみると、原因物質は「シリカ結晶」「結晶シリカ」「石英」などと書かれている。

珪肺(ウィキペディア)
塵肺の一種である珪肺(けいはい)の原因はシリカ粉塵の吸入!? (カラダノート)

 発がん性に関しても、IARCは「石英またはクリストバライトとして結晶質シリカが職業暴露により吸入された場合、ヒトに対して発がん性がある(ただし非晶質シリカはGroup3(発がん性が分類できない))」としている。以下、参照。

発がん物質暫定物質(2001)の提案理由(日本産業衛生学会)

 珪肺やがんの原因とされるシリカ微粉末というのは天然に存在する結晶石英もしくはクリストバライトであり、これを長期間吸引することによって引き起こされる。一方、スラグは粉砕した鉱石を電気炉で溶融しメタルを取り出したあとの鉱さいであり、鉱石に含まれる結晶石英は溶融後に固化しても結晶石英にはならない。とくに急速に冷却すると非結晶質分が多くなり、石英に相当するものはほとんどなくなってしまう。スラグ成分にSiO2と書かれているからといっても、それが結晶石英やクリストバライトを指すわけではないということだ。

 これらのことから、日向製錬所から排出されるフェロニッケルスラグには珪肺やがんを引き起こすと認められている結晶シリカはほとんど含まれておらず、含まれていたとしてもごく少量と言えそうだ。ならば、スラグの主成分がSiO2だからという理由でスラグ微粉末は発がん性があるとか珪肺の原因になるという主張は的外れであり、間違いといってもいいだろう。

 もちろん、粉じんの吸入は咳などの健康被害を引き起こすし、スラグ粉じんが無害だとは思わない。また、現時点では非結晶シリカが絶対にがんや珪肺の原因にならないとは断言できないだろう。しかし、結晶石英とそうではない非結晶シリカでは有害性に大きな違いがあるということはきちんと認識しなければならない。

 香取さんの主張は、まさにシリカSiO2という記述だけに着目し、シリカ(ケイ素酸化物)と結晶石英を混同した勘違いだ。専門知識がないことで間違いを犯すことがあるのは往々にしてあるが、間違いに気付いた時点ですみやかに訂正するべきだと思う。間違ったまま突っ走ってしまうと後戻りができなくなり、自分で自分の首をしめることになりかねないことを指摘しておきたい。

【12月6日追記】
香取さんから以下の2点についてツイッターで意見および要望があったので、記事にコメントしてほしいと返事をしたのだが、なぜかコメントはしないとのこと。そこで、追記としてここで返事をしておきたい。

香取さんからの意見・・・松田さん。ご紹介頂いた僕のブログ記事で、結晶ってことについて書いてますよ。 国交省の資料もあげてます。 シリカ(SiO2)などの主成分が「徐冷・急冷のいずれの場合にも」「安定した結晶構造」とのこと。 

国交省の資料では、香取さんの指摘のように「フェロニッケルスラグはシリカ(Sio2)とマグネシア(MgO)を主成分とし、徐冷・急冷のいずれの場合にも主な鉱物組成は安定した結晶構造である」と記述されている。しかし、その記述の前に、「風冷スラグは水砕スラグに比べガラス量は低いが・・・」との記述があり、水砕スラグはガラス質が多いと理解できる。

この資料は学術論文ではなく、鉱物や化学の専門家が書いているとも認められない。「主な鉱物組成は安定した結晶構造である」という表現は具体的な結晶の名称が示されていないあいまいな記述であり、この記述のみを取り上げて、フェロニッケルスラグのシリカが結晶シリカであるという根拠にはならないと判断した。学術論文やシリカの専門家の説明の方が信ぴょう性が高いと考える。

なお、国交省の資料とは以下である。
http://www.mlit.go.jp/kowan/recycle/2/12.pdf

香取さんからの要望・・・シリカ(SiO2)は、労働安全衛生法で「有害物・危険物」に指定されている。 発信事項とブログ記事を紹介された者として、この強調している事が触れられず伝えられないのは困ります。 松田さんの記事に加えて下さい。

労働安全衛生法で「有害物・危険物」に指定されていることを香取さんが強調しているのは知っているが、黒木さんの裁判は労働裁判ではないので私は労働問題にまで話しを広げないほうがいいとの立場をとっている。また、労働安全衛生法に関する記事は、私が紹介した香取さんの記事からもリンクされていて知ることができる。したがって、それらの記事は取り上げなかった。必要性を感じていないので、要望を受けて加筆するつもりはない。

【12月7日追記2】
 昨日の追記の「香取さんからの要望」への返事に補足する。

 この記事の主旨は、急冷されたフェロニッケルスラグにはほとんど結晶石英やクリストバライトが含まれていないと判断できること、珪肺やがんの原因とされているシリカとは結晶石英やクリストバライトを指すこと、したがって、日向製錬所から排出されたフェロニッケルスラグには発がん性や珪肺の原因物質はほとんど含まれていないということの指摘である。

 さらに香取さんはご自分のブログでフェロニッケルスラグが珪肺の原因になったり発がん性があると主張されていたので、間違いであるとの指摘をした。香取さんが、日向製錬所から排出されるフェロニッケルスラグは発がん性物質であり珪肺の原因になると主張されるのであれば、フェロニッケルスラグには結晶石英やクリストバライトが含まれていることを科学的根拠に基づいて示すか、あるいは結晶石英やクリストバライト以外のケイ素酸化物も発がん性が認められるとか珪肺の原因になるという根拠を示すべきだろう。それらについて明確な根拠が示され、私のこの記事が間違いであることが明確になったなら、私はこの記事を訂正し、香取さんに謝罪したい。

 労働安全衛生法で「有害物・危険物」とされるシリカにはたしかに非結晶シリカも含まれているようだが、このことと結晶石英の発がん性や珪肺の問題は別である。本記事の主旨である発がん性、珪肺のことを棚に上げて労働安全衛生法を根拠に有害性を主張するのは論点を逸らすことになる。

 その後、香取さんは労働安全衛生法で「有害物・危険物」とされるシリカには非結晶シリカも含まれていると主張していた。「危険有害性の要約」の「310 シリカ」にはさまざまな構造のシリカが記載されているが、この中でGHSの対象となっているのは「結晶質-石英」だけであり、それ以外は対象となっていない。したがって、香取さんのこの主張も誤りである。

 なお、スラグ微粉末の吸引が健康被害を引き起こすことは当然考えられるし、私のこの記事でも「粉じんの吸入は咳などの健康被害を引き起こすし、スラグ粉じんが無害だとは思わない」と書いている。したがって、長期間にわたるスラグ粉じん吸引が健康被害を及ぼすことは否定していない。

【12月9日追記3】
 以下の3点について追加および修正をした。
・沈殿池の水質検査に関わる過去記事を追加。
・「フェロニッケルスラグの冷却条件と組織に関する研究」について、「だぶ」さんの解説を追加。
・「追記2」の一部に誤りがあったので修正。

【12月12日追記4】
 住友金属鉱山はホームページでは以前はグリーンサンド(フェロニッケルスラグの商品名)の成分をSiO2、Mgo、CaOと化学式で表記していたが、その後Si、Mg、Fe・・のように元素表記に書き変えた。このような成分表記が適切なのかどうか「だぶ」さんにお聞きしたところ、問題ないとのこと。住友金属鉱山は、二酸化ケイ素が「物質として」含まれていると誤解されないために、このような元素表記に変えたのではいかと思う。以下、「だぶ」さんからのお返事。

https://twitter.com/fluor_doublet/status/674783490559250432 

 また、これに関連する「だぶ」さんの一連のツイートも紹介しておきたい。

うーん。フェロニッケルのスラグ、酸化物成分の値で書くと勘違いする人が出るので、各元素で表記してみますか。

元論文はこれです。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigentosozai1989/105/14/105_14_1067/_pdf スラグ二種類の挙動が書いてあるので、スラグAとスラグDについて、元素の重量百分率で示しますよ。

スラグDは SiO2 53.9%, MgO 27.8%, Fe (all) 6.5%, CaO 5.4%, Al2O3 2.4%, Ni (all) 0.26% の酸化物換算組成です。足らないところは鉄およびニッケルに結合した酸素でしょうから、それで 100% にします。

すると、Si 25.2%, Mg 16.8%, Fe 6.5%, Ca 3.9%, Al 1.3%, O 46.0% になります。スラグD は20℃/sec以上の冷却温度で冷却すると、そのままガラスになるので、ガラスの成分はこのままです。マグネシウムに富んだケイ酸塩ガラスですね。

これには、非晶質の二酸化ケイ素 (SiO2)、結晶質の二酸化ケイ素(石英、クリストバライト)の物質は一切含まれていません。単なるガラスです。

ちょっと厄介なスラグA,こっちはもっとマグネシウムに富み、50℃/sec の速度で冷却すると、重量%で 10% が苦土カンラン石になります。苦土カンラン石の組成は Mg2SiO4 です。

スラグAの組成は SiO2 52.4%, MgO 34.3%, Fe (all) 6.5%, CaO 0.35%, Al2O3 1.9%, Ni (all) 0.11% です。酸素で帳尻を合わせてやります。ここから、重量で 10% の Mg2SiO4 の結晶が落ちます。

その分を引いて規格化して、元素ごとに残りのガラスの重量百分率を出しますと、Si 25.0%, Mg 19.1%, Fe 7.2%, Ca 0.28%, Al 1.1%, O 47.1% になります。こういうガラスがスラグAから 90% の重量百分率でできます。

50℃/secの冷却速度で冷やしたスラグAは、10% の苦土カンラン石 Mg2SiO4 と、90% のガラスです。ガラスの部分は、非晶質の二酸化ケイ素 (SiO2)、結晶質の二酸化ケイ素(石英、クリストバライト)の物質は一切含まれていません。これもまた単なるガラスです。

先の論文には、そういうことが書いてあるのです。フェロニッケルのスラグを水砕しても、シリカガラスも、結晶質シリカもできませんよ、と。

だから、フェロニッケルスラグの中の物質の二酸化ケイ素について考えても、意味がないんです。入ってないんですから。

(承前)一番右はケイ酸ナトリウム(水ガラス)ですが、Naイオンをマグネシウムに置き換えて考えてみてください。フェロニッケルのスラグは一番右のようなものであって、左でも真ん中でもないのです。

なので、シリカを悪者にしても、このフェロニッケルのスラグの場合はホントに頓珍漢な話なのです。

2015年10月15日 (木)

黒木睦子さんの裁判の判決について思うこと

 昨日10月14日に、(株)日向製錬所と(有)サンアイが黒木睦子さんを訴えた裁判の判決が出た。いつものようにイワシさんと大谷さんがその報告をして下さっている。それらの報告をもとに、今回の裁判についての感想を書きとめておきたい。まず、お二人の報告は以下。

 宮崎地方裁判所延岡支部10月14日判決言渡 

平成26年(ワ)第86号、第89号損害賠償請求等事件 判決書概要

 この裁判は黒木睦子さんがブログやツイッターに書いた記述が名誉毀損に当たるかどうか、原告企業に対する抗議行動が業務妨害に当たるかどうかを問われた裁判である。そして結論から言うなら、名誉毀損を認め、被告にブログの文言の一部の削除と損害賠償(72万5千円)の支払いを命じるという判決であった。名誉毀損は認めらたが、業務妨害は認められていない。つまり、原告の全面勝訴とは言えない。

 名誉毀損に関しての最大の争点は、黒木さんが造成工事に用いられたフェロニッケルスラグは「有害なゴミ」と書いたことの真実性だと私は認識している。企業側は「無害な製品」と主張して「有害なゴミ」であることを否定していた。したがって、間接的には産廃問題であり環境問題でもあった。しかし、不可解なことに裁判所は有害性には着目したものの「ゴミ」、すなわち産業廃棄物と書いたことについては判断していないようだ。ということは、裁判所はゴミ(産廃)であることを認めたということなのだろうか? いずれにしても、造成に用いたフェロニッケルスラグが「有害である」とか「健康被害が生じた」ということをネットで書いたりその他の方法で流布してはなららない、というのが裁判所の結論である。

 さて、私がお二人の報告を読んで最も疑問に思ったのは、裁判所が黒木さんの提出した沈殿池の水質検査結果(計量証明書)について、「第3者の立会いがなく、場所を示す写真もない」「対象試料が沈殿池から採取した水であると認めるに足りない」という判断をしたことだ。それに対し、「県や市の公共機関が『公益財団法人・環境科学協会』に依頼した検査は、企画・試料採取時・検査時・結果の公表まで各検査の信用度が高い」「原告日向製錬所が東洋環境分析センターに依頼した検査は、公共機関による検査と同様の結果を示しており、正確性・信用性を担保するものといえる」としていることである。(引用はイワシさんの報告より)

 この判断はとても納得いかない。そもそも、このような検査では検査試料は採取した者が持ち込むのが普通だ。つまり自己申告である。ところが、裁判所のような判断をしてしまえば、採取時の写真がなく立会人がいない一市民からの持ち込み試料はすべて疑わしいということになりかねない。しかし、実際にはそのような持ち込み試料など多数存在するだろう。

 福島の原発事故により、日本は広範囲にわたって放射能に汚染された。その汚染を調べるために市民が土壌を採取して検査機関に送り、土壌汚染の一覧やマップなども公開された。裁判所の考えに従うのなら、市民が採取した土壌試料で採取時に写真や立会人がいない場合は検査結果が「信用ならない」ということになりかねない。市民による調査を否定することに繋がる。

 また県や市などの公共機関が実施した検査の方が信用度が高いというが、その根拠は何によるのだろう? たとえば、福島の原発事故では空間線量を計測するために公共機関が線量計を設置したが、その数値が実際より低くなるように設定されていたとか、モニタリングポストの周辺が除染されていたという情報がある。公共機関の実施する検査なら信用できるというわけではない。

 常識的に考えても、一市民があのように高濃度に汚染された水をどうやって入手できるのかという疑問がある。たとえば鉱山跡などでは重金属に汚染された水が出てくるが、そのような場所は普通立入禁止になっている。黒木さんの検査結果で検出されているセレンは極めて限られたところにしか存在しないとされる。判決では、そういう視点が全く欠けている。

 黒木さんの提出した計量証明書は、黒木さんが有害と信じた根拠として極めて重要な証拠だった。計量証明書が証拠採用されていれば、黒木さんが有害と信じるに足る根拠となり、名誉毀損が成立しないことにもなり得た。それを、このような理由で退けてしまったことは不当としか思えない。

 スラグ粉じんによる健康被害についても証明されなかったとしているが、粉じんの吸引で咳などの健康被害が生じることは一般に知られており、それを何ら考慮していないようだ。もっとも、これは黒木さんが積極的に立証すべきことではあった。

 ただ、今回の裁判では黒木さんが弁護士をつけなかったばかりか、名誉毀損裁判において立証責任が被告にあることを理解せず、逆に原告に説明責任があると勘違いしたまま自己流で裁判を進めてしまった。このために黒木さんは自らの立証を怠ってしまったのも確かだろう。こうした黒木さんの勘違いが判決に大きな影響を与えたことは否めない。もし、弁護士をつけていたなら、このような初歩的なミスを犯すことはあり得なかっただろう。また、ネット上には黒木さんに有利な情報を提供しているサイトが複数あった。黒木さんがこれらを活用しなかったのは本当に残念である。

 名誉毀損が認定された理由として「本件ブログ投稿及び本件ツイッター投稿が誰でも自由に閲覧することができ、かつ、拡散性の高いインターネットという媒体に1年6か月弱にわたり掲載され続けていること、断定的表現を用いて繰り返し投稿がされていることなど」としている(大谷さんの報告から引用)。つまり、疑惑や推測でしかないことに関して断定的な表現をすると名誉毀損になりかねないということが示された。これは、ネットで表現活動をしている人は気をつけねばならないことだろう。

 黒木さんにとってはかなり厳しい判決だし、納得していないに違いない。私も部分的には不当な判決ではないかと感じている。この判決を受けて、黒木さんが控訴するかどうかは分からないが、もし控訴するのであれば、彼女が1審で繰り広げた自己流の闘い方を全面的に改めなければならないと思う。

 また、黒木さんは弁護士をつけなかったが、弁護士を付けて勝訴したとしても相当額の弁護士費用が発生しただろう。今回は業務妨害についての訴えは退けられた。それを考慮して控訴しないというのもひとつの選択肢ではあると思う。

2015年9月 2日 (水)

黒木さんの水質検査で確認された有害物質は何に起因するのか? その2

 この記事は、こちらの記事の続きである。

  京都に行っている間、Super-Kさんがブログを更新された。以下の記事だ。

 日向製錬所跡地の汚染と日向市で黒木さんが検出した汚染物質 

  この記事では、ある方が情報開示請求で入手した資料をもとに、日向製錬所の跡地における地下水汚染のことを取り上げている。ここに重要なことが書かれている。以下にその部分を引用する。

更に(株)日向製錬所は裁判の中で、黒木さんが提出した有害物質による汚染を示すデーターにはグリーンサンドに含まれない成分があると言っていますが、本当にそうでしょうか?

前に、ダストと言う言葉も気になっていると書きましたが、こちらの報告書には、ニッケル製錬所の金属炉のヒューム等を高温でニッケル酸化物にする時に発生するヒュームに、セレン、テルル、ヒ素、カドミウム、鉛が含まれるとあります。

ヒュームとは粉塵や煙、蒸気の事ですからダストともつながりそうで、他にもロータリーキルンから発生するロータリーキルンダストという物もあります。

もちろんこれらから有害物質を除去する作業も行われてはいるんでしょうけど グリーンサンドを精製する環境にこれらの有害物質は存在していると言う事です。

また、フェロニッケルスラグを水砕する時に使用する水も工業用水として、構内で循環使用しているという事ですが、どこかで洗浄が必要な訳で

下の図は汚染土壌を洗浄し排水を循環使用する時の例ですが

恐らく似た様な設備は(株)日向製錬所にもあるのだろうと思われるのですが、以前このブログに頂いた「沈殿汚泥の不法投棄かもしれない」というコメントは、この辺りの事を言っている訳です。

ツイッターでも、このシックナーから出る汚泥(図で言う脱水ケーキ)の処理がどうなっているか?と言及されていて、既に開示請求が出されているかも知れませんね。

 この説明から分かるように、黒木さんの水質検査で検出されているセレン、ヒ素、カドミウム、鉛などの有害物質は、日向製錬所に存在していると言えるだろう。

 Wikipediaの「鉱山」の「鉱害」の項には、「採掘・選鉱・製錬などの工程で発生した排水には重金属などが含まれている事から、そのまま河川に放流することはできない。このため、沈殿池などを設置し、石灰などの薬品で浄化し、重金属や有害物質を除去して河川に排水する。」という記述があり、製錬の工程で発生した重金属や有害物質を含む排水処理の際に、石灰を使っている可能性がある。もし日向製錬所で石灰による有害物質の除去が行われているとしたら、この有害物質を含む石灰の化合物はどう処理されているのかという疑問が生じる。

 それからもう一つ、よしおかさんの記事を紹介したい。

グリーンサンドには含まれないと言うフッ素やセレン等はH製錬所で使っている石炭からか? 

 よしおかさんによると、フェロニッケルの製造工程で使われる石炭の石炭灰には、ヒ素、セレン、六価クロム、フッ素、ホウ素が含まれているとのことで、これらの物質も黒木さんの水質検査で確認されている。

 こうしたことから、黒木さんの水質検査によって確認された有害物質は日向製錬所に由来するのではないかと考えるのは極めて自然だ。製錬の際に発生する有害物質の処理はどうなっているのだろうか? 有害物質の不法投棄はなかったのだろうか?

 ところで、Sper-Kさんも取り上げているが、川の白濁に関して黒木さんは以下のようにツイートで説明している。

https://twitter.com/mutsukuroki/status/632712307185872896?ref_src=twsrc%5Etfw
@HyuugaNanasi 白く濁った川の写真は、つぎの通り証拠説明書で提出済みです。 →『雨の日も工事を行っており、ダンプの行き来で道路にこぼれ、まきちらされたゴミをサンアイ従業員が ほうきで掃いて清掃するが掃いたものを拾い上げて処理することはせず、側溝側に寄せていた。(続く

https://twitter.com/mutsukuroki/status/632714828365234176?ref_src=twsrc%5Etfw
@HyuugaNanasi  寄せていたゴミが雨にうたれ溶出され、そこから白く濁った色の水が流れだしており 下流域に続いていた。」という状況でした。ですから、あれが石灰なのかは知りません。言えることはサンアイ従業員が掃いて積んだグリーンサンドのゴミから流れ出していたという事です。

 つまり、造成工事の際に道路にこぼれ落ちたスラグが作業員によって道路わきに掃いて寄せられており、雨の日にはそのスラグから白く濁った水が流れ出ていたという状況のようだ。とすると、スラグに白濁の原因となる物質が含まれていたのではないかと推測できる。

 そこで気になるのが、日向製錬所の北側にあるスラグの山である。航空写真で見ると、日向製錬所の北側にスラグの堆積場があり、その山のちょうど稜線のあたりが、まるで雪をかぶったように白くなっている。
Hyuugaseirenjo1


 これを拡大してみると、白い物質がスラグの山の上に積まれているのが見て取れる。そしてその一部は雪崩のように崩れ落ちているのが分かる。この白い物質は一体何なのだろう? 崩れ落ち方から見るなら、さらさらの粉状の物質というより、粘性のある物質が固まったもののように感じられる。そして、この白い物質の左端の部分を見ると、その白い物質はスラグと共にダンプで運ばれているように見える。
Hyuugaseirenjo2

 もし強度を上げるためにスラグに石灰を混入しているのであれば、石灰がスラグに均一に混ざるようにするのではなかろうか? しかし、この写真では均一に混ぜ込んでいるようには思えない。有害物質の処理で発生した石灰化合物をスラグと一緒に造成地に運んでいるという可能性はないだろうか? もしそのようなものが造成地に持ち込まれたなら、沈殿池から高濃度の有害物質が検出されることもあり得るのではなかろうか。  

フェロニッケルスラグそのものからは容易に有害物質が溶出されないとしても、スラグに混じて有害物質が不法投棄されているとしたなら、将来的には地下水を汚染する可能性があり、それはそれで大問題である。

 裁判とは別に、黒木さんの確認した汚染の原因を解明しない限り、日向のスラグ問題は解決しないだろう。

2015年8月11日 (火)

言いがかりとしか思えないIWJへの削除要請

 日向製錬所とサンアイが黒木睦子さんを名誉毀損および業務妨害で提訴した件で、木星通信(主宰 上田まみ氏)と市民メディア宮崎CMM(主宰 大谷憲史氏)が、IWJの記事に関して削除を求めている。これについて私の意見を以下に述べたい。

 削除を求められているIWJの記事は以下。
宮崎県日向市在住の主婦をめぐる裁判はSLAPPなのか?! ~黒木無ル湖さんと日向製錬所を直接取材(前編) 

宮崎県日向市在住の主婦をめぐる裁判はSLAPPなのか?! ~黒木無ル湖さんと日向製錬所を直接取材(後編)

【木星通信の申入書の事実誤認】
 以下は木星通信の申入書。

日向製錬所が提訴した黒木睦子さんへの記事について。IWJへの申入書 

 木星通信はIWJの記事では二つの事実無根の主張がなされていると指摘している。その二つとは以下である(申入書より引用)。

①被告はIWJの取材に対して「原告企業が工事に使ったグリーンサンド」によって家族に健康被害が出たと企業や行政に訴え続けてきた。」として被告の家族の健康被害、および水質汚染被害を示し、IWJも記事化しました。

②また被告は工事現場から粉塵被害以外にも重大な環境汚染が発生してると主張してその汚染値を示し、IWJもそれを掲載しました。

 上田氏はこれらについて以下のように主張している。

①は被告の子供の診断書が出されましたが、咳の原因は「マイコプラズマ肺炎」でした。微生物(ばい菌)による感染症で人工由来の被害ではなかったのです。

②は裁判所に『宮崎環境科学協会』が計量した汚染値の計量証明書が出されましたが、それは当該被告が主張する工事現場から採取したものだとする証明はなされませんでした。

 しかし、上田氏のこれらの主張こそ事実誤認だ。その理由を以下に述べたい。

①について。
 黒木さんが子どものマイコプラズマ肺炎の診断書を提出したのは事実だ。しかし、それをもって、スラグ粉じんによる咳がなかったという証拠にはならない。この場合1スラグ粉じんによる咳とマイコプラズマ肺炎による咳の両方があった。2スラグ粉じんによる咳だけであり、マイコプラズマ肺炎は誤診であった。3スラグ粉じんによる咳はなく、マイコプラズマ肺炎で咳が出た。という三つの可能性が考えられる。しかし、上田氏はそのうちの一つをのみ取り上げて、健康被害はなかったからIWJの記事は事実誤認だと主張しているのだ。論理性のない主張である。

 黒木さんはIWJの取材に対し「私も含めて咳が止まらない。子どもは今でも具合が悪い。病院へ言っても『風邪』と診断されるだけです」と答えており、子どもだけが咳を出していたわけではないようだ。また、「風が強い時などは、ぱーっと降ってきて、白いものが舞い上がっているのが目で見て分かる。そういう時は咳が出て止まらなくなるので、日向製錬所に、住民説明会を求めました」と答えている。咳の原因が粉じんであると考えるのは自然だ。

 以下の記事にもあるように、鉄鋼スラグにおいては住民に粉塵・臭気による健康被害が生じたという事例があり、粉じんが咳などの健康被害を生じさせる可能性は十分にある。

鉄鋼スラグ問題とは何か

②について
 黒木さんは第一工区の沈殿池から水を採取して宮崎県環境科学協会に検査を依頼しており、計量証明書が裁判に提出されている。それに対して原告は、その水が第一工区の沈殿池から採取されたという証明がなされなかったと主張をしている。つまり、別の場所から採取した可能性があると言っているのだ。しかし、あのような汚染された水が採取できる場所を具体的に示しているわけではない。

 原告の言うように、黒木さんが第一工区の沈殿池から採取したということを証明する客観的な証拠はない。しかし、証明できないことをもって第一工区の沈殿池で採取した水ではないと結論づけることができないのは自明である。そして、黒木さんが検査機関に持ち込んだ水から環境基準を超える汚染が確認されたのは事実である。

 上田氏は「行政や支援者が当該地の汚染値を計っても汚染値は検出されませんでした。被告は今も重金属に汚染された水が垂れ流しだとTwitterで訴えていますが、日向JA 延岡JAに確認してみても公害被害は一切確認できませんでした」と主張している。

 黒木さんがツイッターで「今も重金属に汚染された水が垂れ流しになっている」と書いているのは事実だ。しかし、黒木さんはそれによって現在公害が発生しているなどとは言っていない。将来、発生するかもしれないので責任をとってほしいと主張しているのだ。

 黒木さんのツイッターでの「今も重金属に汚染された水が垂れ流しになっている」という主張が嘘であり風評被害を生むというのなら、それは黒木さんに伝えるべきことであり、IWJに対して言うことではないだろう。

 上田氏による削除の申入れは、上田氏の一方的な解釈に基づいたものであり、単に自分の意見を押しつけているだけだ。事実誤認はIWJの記事ではなく、上田氏の申入書の方だろう。

 なお黒木さんは水質検査の件に関しIWJの取材で「私たちがもらったというのは有害という報告だった。県はその報告書のコピーをもっていると思いますが、それでも何もしない。自分たちが無害だからといって、何で結果が違うのだろうかと考えてくれない」と言っている。黒木さんから検査結果を渡されたなら、県や市はすぐにでも現場に行って水を採取して検査すべきだし、有害となった原因について究明する努力をすべきだ。ところが、市が沈殿池の水を採取したのは2カ月以上も経ってからだ。これだけの間隔が開いてしまえば、汚染を隠すために対策を講じることも可能である。

 記者ならこのような点について追及してもらいたいものだ。

【市民メディアみやざきCMMの削除要請の不当性】
 大谷憲史氏の削除要請キャンペーンの方も言語道断である。大谷氏の削除要請の理由が釈然としないのだが、ひとつは「記事の一断片だけで記事を掲載することをやめてほしい」ということであり、もうひとつは名誉毀損および営業妨害にかかる損害賠償請求裁判なので「SLAPPなのか?!」という記事のタイトルが誤解を生むという主張のようである。

 つまり事実誤認を指摘しているわけでも権利侵害を指摘しているわけでもない。またIWJはスラップだと断定しているわけではなく、単に疑問を呈しているだけだ。裁判の当事者でもない者が、そんなことを理由に削除を求めるキャンペーンを行うというのは言いがかりとしか思えず、言論の自由の侵害である。

 なお、私は、この裁判がスラップである可能性が高いと思っている。もし埋立に用いたスラグが産廃であるなら、日向製錬所は嘘を言って黒木さんの記事を削除させようとしたということになり、紛れもなくスラップだろう。宮崎県は産廃であるか否かを判断した理由を黒塗りにしていることからも、産廃ではないかという疑惑を持たれても仕方ない状況である。

 上田氏にしても、大谷氏にしてもおよそジャーナリズムに関わる者の言動とは思えない。お二人には以下のフランスの哲学者ヴォルテールの名言を贈りたい。

私はあなたの意見には反対だ、たがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る

2015年8月 2日 (日)

宮崎県によるグリーンサンドの廃棄物該当性の判断理由はなぜか黒塗り

 昨日(2015年8月1日)に、重要な情報が公開された。ある方が宮崎県に開示請求をしていた「グリーンサンド造成工事における廃棄物該当性の検討について」という文書である。つまり、平成25年3月29日の環境省の指針に基づいて、日向市の土地造成工事に資材として用いられたグリーンサンド(フェロニッケルスラグのリサイクル製品)が廃棄物であるかどうか宮崎県が検討した資料だ。以下のサイトに掲載されている。

住友金属鉱山子会社の日向製錬所から排出されるグリーンサンドの廃棄物の該当性について、廃棄物とには当たらない理由がまっ黒です。やっぱり廃棄物? (心は丸く 気は長くのブログ)

 公開された公文書では、運搬会社の社名や所在地、造成工事の流れ、グリーンサンドの売買代金など重要な項目がすべて黒塗りになっている。また、「本件造成工事に係るグリーンサンドの廃棄物該当性」の項目では肝心の判断理由がすべて黒塗りだ。そして、総合判断の項で「総合劇に判断して、現時点で、造成工事に使用されるグリーンサンドが廃棄物に該当するとはいえない」という結論の部分だけは黒塗りになっていない。

 この開示請求は平成27年5月20日付けで申請がなされ、本来は6月3日までに開示の決定がなされなければならないのだが、「開示請求に関わる公文書に第三者に関する情報が記載され、第13条第1項又は第2項の規定により第三者に対し意見書提出の機会を与える必要があるため」との理由で、7月2日まで開示決定が延長された。

 第三者とは誰なのだろう? 考えられるのは日向製錬所と運搬会社のサンアイだろう。実際、運搬会社の名前や住所などは黒塗りにされている。しかし、不思議なのは、造成工事の流れや売買代金の項目まで黒塗りにしていることだ。ここに第三者の情報があるのならその部分だけを黒塗りにすればいいのだが、すべて黒塗りなのだ。

 廃棄物該当性の判断理由も同様に、ここに書かれていることすべてが第三者の情報というわけではないだろう。しかしなぜかすべて黒塗りになっている。理由の部分がまったく開示されないというのは、不可解を通り越して不当としかいいようがない。廃棄物と判断すべきところを、無理矢理廃棄物ではないとこじつけたのではないかと疑われても仕方ないだろう。ここまで情報を隠蔽するなら、なんでも「廃棄物ではない」とすることができるのではないか。

 どうやら、黒塗り部分を明らかにして、宮崎県の判断が妥当なものかどうかを第三者が検討する必要がありそうだ。

 黒塗りが不当だと思う場合は、異議申立をすることができる。異議申立を行うと審査が行われ、開示が決定されることもある。決定まで時間がかかるが、開示請求をした方には、ぜひこの手続きをしてほしいと思う。

 ただし、異議申立をしても開示されないことは多く、それでも開示を求める場合は裁判をしなければならない。私の知人で本人訴訟で裁判を行い、開示を勝ち取った事例がある。つまり、情報公開には不当な非開示(黒塗り)があるというのが実態だ。

2015年7月25日 (土)

フェロニッケルスラグによる埋立造成は日向市の条例に抵触しないのか?

 日向市の西川内地区の里山で、フェロニッケルスラグを用いて谷を埋める造成工事が行われたが、この工事では「日向市の環境と自然を守る条例に基づいて土地開発行為の届出がなされており、日向市長は付帯事項をつけたうえで届出を受理している。届出書および受理の通知はこちらこちらを参照していただきたい。

 この届出書には、「事業計画書、行為の平面図、断面図、給排水施設計画図、行為地付近の地形図及び天然色写真、植生の復元計画書、その他市長が必要と認める書類を添付するものとする」と書かれており、届出といっても審査がなされた上で受理するか否かが決定されると理解できる。たとえば住所変更届などのように届出がそのまま受理されるという訳ではなく、不備があったら受理されないこともあり得ると考えられる。また、第21条第1項、第27条第1項若しくは第34条第1項の規定による届出をしなかったり、虚偽の届出をした者は5万円以下の罰金に処するとなっている。罰則規定もある重要な手続きである。

 受理の通知の付帯事項には以下の条件が書かれている。

1.土地開発行為については、「日向市の環境と自然を守る条例」を遵守するとともに、土地開発行為に関わる工事期間及び工事完了後について、当該土地周辺の環境保全対策については適切に対応すること。

2.土地開発行為に関わる土砂や資材等の運搬経路の図面を提出するとともに、運搬経路の市道については、原因者において定期的な清掃を実施するなど、機能の維持に努めること。なお、開発行為以前の市道の損傷個所については、事業者で調査後、建設課と事前に協議することとし、開発行為により損傷した場合については事業者の責務において原形復旧を行うこと。また、開発行為地に隣接する里道の機能の維持に努めること。

3.工事期間中は、公道等への出入りを含め、地域への安全対策を十分配慮すること。

4.開発行為により盛土した法面等が災害等で崩れたとしても、災害復旧事業の対象とならないため、申請者の責任において原形復旧等の解決を図ること。

5.土地開発行為に伴う区域内からの排水及び土石については、下流域の影響を及ぼさないよう、排水構造物等の適切な維持管理を行うこととし、区域外流出におけるトラブルは、当事者間で解決すること。

6.周辺土地所有者との同意形成の努力を今後も続け、施工中、施工後のトラブルについては、当事者間で解決すること。

 では西川内地区の開発行為は果たして「日向市の環境と自然を守る条例」条例を遵守しているのだろうか?

 この条例では(工事施工者の責務)および(事業者の努力義務)(公害の防止)として以下の定めがある。

(工事施工者の責務)
第7条 土木工事、建築工事その他の工事を行う者は、その工事に際し、土砂、廃材、資材等が道路その他の公共の場所に飛散し、脱落し、流出し、又は堆積しないようこれらの物を適正に管理しなければならない。
(事業者の努力義務)
第8条 事業者は、法令及びこの条例に違反しない場合においても、良好な環境の侵害を防止するため、最大限の努力をするとともに、その事業活動による公害等に係る紛争が生じたときは、誠意をもってその解決にあたらなければならない。
(公害の防止)
第9条 何人も、法令及びこの条例に違反しない場合においても、悪臭、騒音その他の公害の発生により近隣の生活環境を妨げないよう努めなければならない。

 黒木さんは、スラグの粉じんによって咳が出たと主張している。つまり、事業者は工事にあたって粉じん公害の対策を十分に行っていなかった可能性が高い。条例を守るなら、事業者は工事施工者の責務に従って、粉じん飛散防止の措置をとらなければならない。

 また、黒木さんは第一工区の沈殿池の水質検査を行い、重金属などによる高濃度の汚染を確認している。そして沈殿池は排水パイプによって河川につながっている。したがって、事業者はこれらのことに関して黒木さんに誠意をもって対応しなければならないはずだ。しかし、そのような対応をしたという情報はない。事業者の対応は、条例違反になるのではなかろうか?

 条例には(公害対策の推進)として以下の定めがある。

(公害対策の推進)
第3条 市長は、公害の苦情、良好な環境の侵害に関する苦情及び公害に係る紛争が生じたときは、関係者と協力して迅速かつ適正な処理を図るとともにその公正な解決に努めるものとする。
(公害防止の指導及び援助)
第4条 市長は、公害が発生し、又は発生するおそれがあると認めるときは、公害を発生させ、又は発生させるおそれがある者に対し、公害の防止のため必要な措置を講ずるよう指導しなければならない。

 日向市は、黒木さんの水質検査結果を受けて沈殿池の水質検査を行った。しかし、それは黒木さんが水質検査を行った7月下旬から2カ月以上も経過した10月10日のことだ。沈殿池の水の採取なら黒木さんの苦情を受けた翌日にもできることだが、なぜ2カ月以上も放置したのだろう? とても迅速かつ適正な対応とは言えない。

 また、黒木さんの検査で有害と出たことが原因で紛争になったのだから、日向市は「関係者と協力して迅速かつ適正な処理を図るとともにその公正な解決に努め」なければならない。黒木さんの検査と日向市の検査は検査機関が同じなのだから、日向市は検査機関に問い合わせたり、専門家の意見を聞いて原因の究明に努める責務がある。

 しかし、日向市がそのような対応をした事実は見当たらない。果たして、これで事業者や日向市長は条例を遵守していると言えるのだろうか?

 なお、この条例には(処理困難な製品の回収義務)という項目もある。

(処理困難な製品の回収義務)
第15条 廃棄物となった際、適正な処理が困難な製品及び容器(以下「製品等」という。)を製造し、加工し、又は販売する事業者は、その製品等若しくは廃棄物を引取り、下取り等の方法によりその責任において回収しなければならない。

 つまり、造成につかったフェロニッケルスラグがもし廃棄物であるということが明確になれば、日向製錬所は埋めたスラグを回収しなければならないと解釈できる。宮崎県は造成に用いたものはグリーンサンドという製品であると判断しているようだが、製品であろうとなかろうと、埋立資材に廃棄物が含まれると判断された場合は、事業者は条例に基づいて撤去しなければならないのではなかろうか。黒木さんの「責任のとれないものは片づけてください」という主張は、実にまっとうなものだと思う。

 それと、もう一つ、「日向製錬所残渣による造成工事と訴訟の経緯。ご意見募集」という記事によると、西川内地区の造成工事に関しては、「騒音規制法及び振動規制法に規定する特定建設作業届出」、「建設リサイクル法に基づく届出」および「土壌汚染対策法第4条に基づく届出」も出されていないようだ。

 冒頭に示した「土地開発行為届出書」の備考欄の4(2)には「他の法令の規定による当該行為が行政庁の許可、認可その他の処分又は届出を必要とするものであるときは、その旨を記載すること」という記述がある。したがって、事業者は上記の届出について備考欄に記入する必要があるのだが、記入されていない。届出を出していないようなので記載がないのは当然といえば当然なのだが、日向市はこのような不備のある届出を受理しているのである。

 このように法令を遵守しない事業者の届出を受理した日向市にも、責任の一端があるのではなかろうか。

 いずれにしても、西川内地区の造成に関してはさまざまな法律違反があるように思われる。

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