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2019年2月 2日 (土)

宮崎・早野論文の驚くべき不正と隠蔽(訂正と追記あり)

 岩波の「科学」2019年2月号に、高エネルギー加速器研究機構名誉教授の黒川眞一さんと福島県伊達市民の島明美さんによる「住民に背を向けたガラスバッチ論文 -7つの倫理違反で住民を裏切る論文は政策の根拠となり得ない」という論文が掲載された。問題にしているのは2016年12月および2017年7月にJournal of Radiological Protection誌に掲載された宮崎真氏と早野龍五氏の二つの共著論文である。

 この宮崎・早野論文では「同意のないデータが使われていた」ことが明らかになりマスコミでも報道された。黒川氏らは伊達市への情報開示請求によって入手した資料を精査し、宮崎・早野論文は文科省と厚労省が定めている「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と照らし合わせて7つもの倫理違反があると驚愕の指摘をしている。

倫理違反と不正の数々

 7つの倫理違反として挙げられているのは以下だ(本文より引用)。

1 医大の研究に自分のデータを提供することに同意していない伊達市民のデータを使用していること
2 研究を実際に始める前に、研究対象者である伊達市民に研究内容を公知せず、同意撤回の機会を与えなかったこと
3 伊達市長室から論文作成を依頼されたことを隠していたこと
4 研究が倫理審査委員会による審査を通り学長による承認を得る前に、伊達市民のデータが宮崎氏と早野氏に提供され、このデータを使った研究発表が早野氏によって行われていること
5 研究計画書に書かれている内部被曝線量と外部被曝線量の相関を調べる研究を発表せず、研究を終了したこと
6 研究終了報告書に研究計画書には書かれていない研究を成果として報告していること
7 倫理指針がデータをできるだけ長期保管するようにと定めているのにもかかわらず、前データを研究終了時に破棄していること

 詳しくは論文をお読みいただきたいが、とりわけ重要と思われる5~7に関して以下に取り上げるとともに、疑問に思うことなどを記しておきたい。

第3論文を書かずに不都合な事実を隠蔽か

 研究計画では4つの予測がなされており、そのうちの3つは第1論文と第2論文として公表された。しかし「個人の外部被ばく線量と内部被ばく線量との間には相関がない」との予測がなされていた研究(第3論文として公表予定)は公表されなかった。その代わりに解析結果を利用した別の論文を公表することで委託業務を終了させたのである。なぜそんなことをしたのか。

 黒川氏らが情報公開で入手した資料中に書かれていた文書をGoogle検索して、伊達市のホームページ上で見つけを読み込んで検討したところ、外部被ばく線量と内部被ばく線量との間には明らかな相関を認めたという。つまり計画段階での予想とは異なる結果が得られていたことになる。また、2011年と2012年の4,3261人の受検者のうちセシウム検出率は子どもを含めて9.4%あり、4000人が検出限界以上の内部被ばくをしていたとのこと。4000Bq超、6400Bq、5700Bqの内部被ばくが検出された市民がいることも分かった。

 こうしたことから黒川氏らは「第3論文を発表しない本当の理由は、外部被曝線量と内部被曝線量の間の相関がはっきり表れたためであり、2015年になっても数千Bqの内部被ばく者が存在するためと考えられる。伊達市から内部被曝線量のデータを受け取りながら、都合が悪い結果がでたときは論文を発表しないことは研究倫理に反して言わざるを得ない」と指摘している。これは看過することのできない事実の隠蔽であり不正だ。

 研究計画に掲げた論文を提出せず、計画になかった別の査読付き論文を研究成果として提出するという形をとったのは、第3論文を別の論文で代替することで不都合な結果を隠蔽したい、という意図があったとしか考えられない。

黒川氏のレター論文を知って慌ててデータ廃棄か?

 データの廃棄に関しても不可解なことが多々ある。

 黒川氏は論文掲載誌にレター論文を送っているが、この経緯に関しては横川圭希氏がツイッターで説明しており、以下のtogetterの「黒川レターへの早野龍五氏らの反応の時系列」にまとめられている。

「宮崎真・早野龍五論文」掲載「Journal of Radiological Protection」のコメント・リプライの手順について(2019.1.11作成) 

 横川氏によると、黒川さんがレター論文を送ったのは2018年8月。9月には宮崎・早野両氏に届いているとの返答が黒川さんにあった。黒川さんがご病気のため12月の半ばに回答をもらうことになっていたが、回答がないために年末にレターを公表とのこと。

 黒川氏らが開示資料を調べたところ、研究計画書では2018年11月末に研究終了としているのに、どういうわけか2018年10月23日に研究終了報告書が提出され、10月末に研究を終了しデータが廃棄されたことが分かった。計画より1カ月も早く研究を終了しデータを廃棄しているのだ。

 伊達市議の高橋一由議員が9月4日の市議会でレターのことに言及しており(追記参照)、横川氏の説明のとおり早野氏が9月中にレター論文のことを知っていたのなら、研究終了を1カ月繰り上げて10月末にデータを削除してしまうというのは訳がわからない。自分の研究に疑問が呈されている以上、それに対する返答のためにデータを保存しておかなければならないのは自明だ。

 これらのことから、早野氏は自分の論文に不正がありレター論文に答えられないためにレター論文の受理(受理は11月16日)に先立って研究を終了させ、データを削除してしまったのではないかという疑惑が生じる。もしそうであるなら、データ削除によって不正の発覚から逃れようとしたことになる。

 データを廃棄してしまえば研究不正があった場合にも検証をすることができなくなる。しかも研究終了と同時のデータ廃棄は倫理指針、学術会議の「科学研究における健全性の向上について」、文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」のいずれにも反する。東京大学教授の早野氏がこうしたことを知らなかったとは考えられず、恣意的な削除だったのではないかという疑惑が深まる。

論文修正に関わる早野氏の欺瞞に満ちた説明

 一方、早野氏は2019年1月8日にツイッターに文書を公表して黒川氏のレターに触れるとともに新たに発見したミスおよび今後の対応についての見解を表明した。この早野氏の文書の概要は以下のようになる。

 11月16日に掲載誌から連絡があり、黒川氏のLetterにコメントをするように求められた。そこで解析プログラムなどを見直したところ、黒川氏の指摘とは別の重大な誤りに気付いた。11月28日に掲載誌に「重大な誤りを発見したので、Letterへのコメントとともに論文の修正が必要と考える」との申し入れをした。これを受け、掲載誌は12月13日に早野氏に修正版を出すように求めた。2018年12月14日に筆者らの二本の論文に不同意のものが含まれていることを報道によって知った。しかしデータを削除してしまったので修正版を出すためには伊達市から同意の得られている方のデータをあらたに提供してもらわなければならない。

 早野氏のこの説明は欺瞞に満ちている。

 早野氏の言う「修正版」は第二論文の修正にはならない。なぜなら、第二論文でつかったデータとは異なるデータを取得して解析をやり直し論文を全面的に書き直す、すなわち新たに論文を書くと言っているのだ。しかし黒川氏のレター論文は宮崎・早野論文の第2論文に対するものであり、掲載誌が著者に求めているのも第2論文の修正だ。早野氏の説明は「修正」について誤魔化しているとしか思えない。

 いずれにしても第1と第2の二つの宮崎・早野論文は多数の倫理違反や不正が明らかになっているわけで、この二つの論文はもはや取り下げをするしかない。

 早野氏は毎日新聞の取材に対し「伊達市から同意のあるデータの再提出を受けられなかった場合、両論文の撤回もやむを得ない」と述べている。しかし伊達市から同意のあるデータの再提出が受けられなかった場合は新たな論文が書けないということであり、第1および第2論文の撤回の理由にはならない。

 以上のことをまとめると、早野氏が第2論文に対するレターに答えようとしないのは、レター論文のことを知りながら掲載誌がそれを受理する前にデータを(恐らく恣意的に)廃棄してしまったからであり、論文を撤回しなければならない本当の理由は倫理違反や不正ということであろう。早野氏はそれを隠して「伊達市が同意のあるデータを再提出しない」と、伊達市のせいにしようとしているのだ。

はじめに結論ありきの研究計画

 予定されていた第3論文を公表しないことで不都合な結果を隠蔽したことから、この一連の研究自体が「はじめに結論ありき」でスタートしていたことが分かる。線量を過小評価するために恣意的な数値の操作が行われていたのであれば、過小評価ははじめから予定されていたと言えよう。研究終了と同時にデータを廃棄し黒川氏のレター論文に回答しないのは、そうした不正を隠すためとしか考えられない。

 それにしても多数の矛盾点や疑問が指摘されるような論文が査読を通ってしまったことも驚きだ。学術雑誌の査読がこんなに杜撰であるなら、論文不正は他にもあるのではないかと疑問が湧く。

 宮崎・早野論文が掲載されたJournal of Radiological Protection誌はヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする医学研究に関わる医師、その他の関係者に対する指針を示す倫理的原則)を全面的に支持するとしているのだが、宮崎・早野論文はこのヘルシンキ宣言に反しており、そもそも「刊行のために受理されるべきではない」論文なのだ。

 宮崎・早野論文の倫理違反や線量の過小評価、計算ミスはきわめて悪質であり、科学史上に残るスキャンダルだ。マスコミが大きく報じないほうがおかしい。

責任者は誰なのか?

 ところで、宮崎・早野論文は第一著者(共著の論文で第一番目に名前が記される著者で、研究や執筆に最も貢献度が高い)が宮崎氏で第二著者が早野氏だ。Our Planet-Tvのこちらの記事によると、この論文によって宮崎氏博士号を取得したと書かれている。ならば第一著者が宮崎氏になるのは当然であり、宮崎氏はこの論文の内容を最も理解し最終的な意思決定を下した者と理解できる。第二著者である早野氏は東大教授として宮崎氏の研究の指導にあたる立場といえよう。

 従って、黒川氏のレター論文に答える立場にあるのは宮崎氏ということになる。ところが黒川氏のレター論文に関して見解を公表しているのは早野氏だ。早野氏は1月8日の文書で「主としてデータ解析を担当した早野の見解を述べさせていただきます」と書いているからデータ解析をしたのは早野氏だしその内容を最も理解しているのも早野氏であろう。

 上記のOur Planet-Tvの記事に掲載されている情報公開の資料を見ると、この研究の責任者は福島県立医大放射線健康管理学口座の大津留晶教授となっている。伊達市から研究の委託を受けた責任者は大津留氏だ。宮崎氏は大津留教授と同じ講座の助手であり部下にあたる。そして分担研究者(データ分析)として東大教授の早野氏の名前が書かれている。研究場所も東京大学になっている。

 データを解析したのが早野氏ならば、宮崎氏はデータの解析や論文執筆にどの程度の貢献をしたのだろう? もしデータ解析や意思決定にあたって早野氏の方が主導権を握っていたのなら、第一著者は早野氏にしなければならない。しかし、そうしてしまったら宮崎氏の学位論文にはなり得ない。このあたりのことも矛盾しており不可解としかいいようがない。

 これは単なる私の想像だが、宮崎氏は上司である大津留教授から学位の取得と昇進を持ちかけられてこの研究に関わったが、実質的にデータ解析を行い執筆の主導権を握っていたのは早野氏だったのではなかろうか?

 「人を対象とする医学研究に関する倫理規定」や「ヘルシンキ宣言」についても、医大の教授である大津留氏が知らなかったとは考えにくい。知っていながら、倫理違反に目をつむったということはなかったのだろうか?

 黒川氏と島氏の論文で、宮崎・早野論文の倫理違反や不正は揺るぎないものになった。宮崎・早野論文はもはや取り下げるしか選択肢はなく、宮崎氏は学位を失うことになるだろう。場合によっては失職もあり得る。しかし宮崎氏はこの研究に関しどこまで主導権を握っていたのだろうか? この数々の倫理違反や不正に関する責任は誰にあるのか、明らかにする必要がある。

 東京大学は伊達市民からの申し立てによって調査を進めていると思うが、こうした責任問題についてもきっちりと検証して事実を明らかにしてほしい。

 なお、黒川眞一氏による宮崎・早野論文の日本語訳は以下で読むことができる。

【第1論文】
パッシブな線量計による福島原発事故後5 か月から51 か月の期間における伊達市民全員の個人外部被曝線量モニタリング: 1. 個人線量と航空機で測定された周辺線量率の比較
【第2論文】
パッシブな線量計による福島原発事故後5 か月から51 か月の期間における伊達市民全員のたいする除染の効果の検証

黒川氏による宮崎・早野論文(第1論文)の問題点の指摘は以下のWEB RONZAに掲載されている(一部有料)

被災地の被曝線量を過小評価してはならない

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【2月3日 訂正と追記】

 記事中の横川圭希氏のツイートに誤りがあるとの指摘があったためその部分に取り消し線を引いた。レター論文に関する経緯は以下の通りである(黒川氏に確認)。

2018年8月17日掲載誌にレター論文投稿、11月16日“is ready to accept”(著者の応答を待ち、批判的レターと著者からの応答を論文誌に同時に掲載する)となった。12月末になっても著者から応答がなく、2019年1月1日に arxiv.org に掲載された。

 なお、9月4日の伊達市議会で高橋一由議員が宮崎・早野論文について追及した。議事録は以下参照。  

伊達市 平成30年 9月定例会(第5回)議事録

 高橋議員は住民の同意・不同意について質問したほか、データを破棄しないように申し入れ、市側も「データベースはしっかりと保持して、分析していきたいというふうに考えております」と答弁している。しかし、島氏が伊達市に開示請求したところ「事実上不存在」との回答があったとのこと。議会での答弁と一致していない。データには同意・不同意の欄があるので、これを削除してしまえば倫理違反の証拠を消すことができる。

 また高橋議員は黒川氏のレターにも言及しており、市政アドバイザーでもある宮崎氏は9月に黒川氏が宮崎・早野論文に批判的レターを上げたことを知ったと考えられる。著者らが今後、倫理違反が追及されることを恐れ、あるいは黒川氏の批判的レターのことを知って研究終了を繰り上げ、不都合なデータを削除したという疑惑は消えない。 黒川氏のレターに言及している質問部分を以下に引用しておく。

◆16番(高橋一由) ぜひそのようにお願いしたいと思います。  それから、研究計画書にも書いてあるのですが、市民に周知するべき論文を日本語に直して、市民に提示することが大事なのではないかと。我々だって全然知らないまま、どういう中身なのかもわからなくて、伊達市がお願いした論文が世の中に出回るのですね。そうすると、それはやはりかなりインターネット上でも検索されていることがわかっているし、これがひとり歩きしていって、最終的に伊達市のせいになどされると困るので、実は、黒川眞一氏は批判のレターを上げています。ですからそのこともどういう結果になるかということもちゃんと見守って、正しい論文にしていく必要があるだろうというふうに思っていますから、今のデータ保持は重要になりますので、どうぞぜひよろしくお願いしたいという思いです。


【2月4日追記】

 一部の説明に不正確なところがあったので、加筆修正した。

 2月4日にハーバー・ビジネス・オンラインに掲載された牧野惇一郎さんの記事も紹介しておく。

宮崎早野論文を、「削除はするが問題はない」とした放射線審議会の異常さ

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