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2017年11月27日 (月)

福島の原発事故による被ばくで健康被害は生じないと断定できるのか?(追記あり)

 ここ数日、映画監督の想田和弘さんが早野龍五氏の姿勢を批判したことで想田さんに対する攻撃が続いている。私も「福島の原発事故による被ばくで健康被害は生じない」と断定的な発言をしている菊池誠氏などに対する批判的なツイートをしたのだが、菊池誠氏や早野龍五氏らの批判をすると攻撃的なツイートが湧いてきた。まるでネット右翼の様相だ。

 私の言いたいことの要点は以下。

 福島の原発事故後には体調に異変を来たしたなどの報告が多数あったし、福島県で行われた小児の大規模な甲状腺検査では多数の甲状腺がんが確認された。福島の原発事故よる被ばくと健康被害の因果関係については現時点では明確に否定できる状況ではなく、「健康被害は生じない」と断言するのは科学的な態度ではない。

 私のツイートにムキになって揚げ足取りのいちゃもんをつけてきた人が何人もいた。自分の身分も示さず匿名でいちゃもんをつける人にいちいち返信するつもりはないが、ここでは、現時点で「福島の原発事故による被ばくで健康被害は生じない」などと断定できる状況ではないと考える理由についてまとめておきたい。

過剰診断説について
 健康被害は生じないと主張する人たちは、福島の場合、検査によって放置しても問題のない癌を見つけているだけで、多発ではなく多発見だと主張する。その根拠として持ち出すのが韓国での成人の甲状腺検査のデータだ。これに関しては国立遺伝学研究所の川上浩一教授が以下のように指摘している。

 福島の小児の甲状腺検査によるがんの多発に関し、検査によって問題のない良性のがんが発見された可能性があることは否定しない。超音波診断の専門家である筑波メディカルセンター病院乳腺科の植野映氏は、超音波検査では微小甲状腺癌が多数発見されることを指摘している。また「福島県外でのスクリーニングは論外である。これは香川の武部晃司先生(たけべ乳腺外科クリニック)も述べているが,彼は私と同じく,超音波による甲状腺癌のover surgeryを唱えており,小児でも同じであると警鐘を鳴らしてきた」と書いている(https://togetter.com/li/900034 参照)。ただし、成人と小児でスクリーニング効果が同じであるとするデータは示されていない。

 福島の小児の甲状腺がんで重視しなければならないのは、転移をするような悪性のがんの発症率や、がんの進行速度であろう。これに関しては、手術を行った鈴木真一氏が「過剰診療という言葉を使われたが、とらなくても良いものはとっていない。手術しているケースは過剰治療ではない」と主張しているし、手術している子どもにリンパ節転移をはじめとして深刻なケースが多数あることが分かっている(リンパ節転移が多数=福島の甲状腺がん 参照)。放置しても問題がない良性のがんが検査で見つかっているだけであるなら、なぜ転移もしていて手術が必要な深刻ながんが多数見つかるのだろう。

 私はテレビを見ていないのだが、昨日はNHKのBSスペシャルで「原発事故7年目 甲状腺検査はいま」という番組が放送された。この放送を見た方がこんなツイートしている。

 1巡目で発見されないのに2巡目で悪性腫瘍が見つかった子どもが60数名もいたのであれば、がんの進行が非常に速いということではなかろうか。

 なお、福島とチェルノブイリで甲状腺被ばく量を比較すると、福島の場合は圧倒的に被ばく線量が小さいので、福島での甲状腺がんの多発は放射線の影響とは考えにくいという意見がある。しかし、staudy2007氏の「見捨てられた初期被曝」(岩波書店)では、福島では事故直後に速やかに被ばく量検査が行われなかったために被ばく量の推計を著しく困難にしてしまったこと、3月26日から30日にかけて1080人の小児に対して行われた甲状腺被ばく調査は過小評価であることが指摘されている。

 被ばくと健康被害の因果関係を証明するのはきわめて困難であり、数十年にわたる疫学調査が必要だ。チェルノブイリの原発事故でもスクリーニング効果があることは分かっており、甲状腺癌と被ばくの関係について決定的なエビデンスを得るまでに約20年かかっている(チェルノブイリ甲状腺がんの歴史と教訓 参照)。

 福島の場合も、現時点で「被ばくによる健康被害はない」などと断言できる状況ではないと思う。

ホットパーティクルに関する最新の知見について
 私は原発事故による人工放射能の問題について、「科学と認識」というさつきさんのブログをしばしば参照し、紹介もしている。さつきさんは大学の教員であり、放射線に関して専門的知識がある方だ。とりわけさつきさんが今年8月に紹介している福島の事故で放出されたホットパーティクルに関する論文は興味深い。その概要とさつきさんのコメントは以下だ。

放射性セシウム微粒子についての最新の研究論文の紹介(その1) 
放射性セシウム微粒子についての最新の研究論文の紹介(その2) 
放射性セシウム微粒子についての最新の研究論文紹介(コメント) 

 私は専門的なことは分からないが、さつきさんは「コメント」で重要な指摘をしている。その部分を引用したい。

 ポイントは、この論文の要旨で「CsMP は、放出された放射性核種のうち体内に吸引摂取され得る形態のものを運搬する重要な媒体であった」と指摘されている点であり、また、イントロに書かれている「難容性の CsMP は、東京に最初に降下した Ce の主要なキャリアとして認定された」も重要である。(中略)

 核兵器の爆発の場合は、その破壊力に比べて実際の核分裂生成物の量は原発よりはるかに少ないし、メルトダウンに引き続く、コアーコンクリート反応のような、比較的ゆっくりとした反応が進行する時間的余裕もない。実際、大気圏内核実験によるグローバルフォールアウトの人工核種をトレーサーとした海洋の三次元的海水循環の研究(例えば、Eigle et al., 2017 )を参照すると、採水測定によって得られた鉛直方向の拡散速度は、粒子として沈降した成分の存在を否定しており、大部分が海水に溶けていると模擬することでうまく説明できるという。

 チェルノブイリはどうか。これは黒鉛炉であり、メルトダウン時に還元的な雰囲気になった筈で、この点で軽水炉である福一とは反応環境が大きく異なっていたであろう。チェルノブイリ周辺でこのような放射性微粒子を探す努力がどの程度なされたか知らないが、ATOMICA に記載されているチェルノブイリで見つかった粒子は、本来のホットパーティクルの概念とは異なる性質のものである。もしかしたら、福一から放出された放射性物質の主成分が CsMP であったことは、地球上に本格的な多細胞生物が出現したおよそ6億年前以降、生命が初めて直面する種類の脅威であるのかもしれない。

 福島の原発事故で放出されたホットパーティクルは、核実験によって放出された放射性物質ともチェルノブイリの原発事故で放出された放射性物質とも形状が異なるそうだ。そして、3月15日に東京にまで流され降下したホットパーティクルは「体内に吸引摂取されえる形態のものを運搬する重要な媒体」であるという。

 また、さつきさんはICRPの被ばく線量評価に最高を迫る最先端研究を無視するサイエンスライターで、上記の論文の著者のお一人が書かれた健康影響についての予察を引用して紹介している。福島の小児の甲状腺がんを含め、健康被害について考える上でも重要な指摘だ。

 こうした新知見が提示されているのだから、内部被ばくの人体への影響に関しては福島とチェルノブイリを単純に比較できないのではなかろうか。ホットパーティクルの健康への影響については分かっていないことも多く、この点を考慮せずに「健康への影響はない」などと断言するのは安易と考えざるを得ない。

「断定できない」について
 私が「福島の原発事故による被ばくで健康被害は生じない」とは断定できない、と書いたら、「UNSCEARの報告を信用しないのか」という批判がきた。これについては以下のツイートを貼っておく。

 「断定」に関しては、悪しき相対主義 を読めという意見もあった。

 私は今までに公表された情報や専門家の指摘から、「エビデンスを得るためには長期間にわたる調査が必要であり現時点で安易に断定するべきではない」という立場で意見を述べているにすぎない。この記事で指摘しているような相対主義的な考え方を推し進めているわけではない。私が批判しているのは菊池誠氏や早野龍五氏といった大学教授であり科学者だ。彼らはその立場から社会に与える影響がきわめて大きいゆえ、発言には慎重さや正確性が求められると考えている。

最後に
 原発は「トイレのないマンション」と言われるように核廃棄物の処理技術すら確立されていない未完成の技術といえる。現時点では原発事故を完全に防ぐこともできないし、環境中に放出された放射性物質を回収することもできない。福島第一原発では融け落ちた核燃料も手をつけられず、放射性物質は未だに海へ大気へと垂れ流しが続いている。原発こそニセ科学といえるものではなかろうか。

 私は菊池誠氏や早野龍五氏にはこうした原発の問題点についてご自身の意見を明らかにしてほしいと思っている。

 原発が国策として推進され、安全神話という嘘が振りまかれてきた以上、原発問題は政治とは切り離せない。したがって、原発についての意見を述べることは政治的姿勢と関わらざるを得ない。しかし、被ばくに関する意見を発信して注目を浴びている科学者である以上、原発に対する自らの意見、立ち位置を明らかにする責任があるのではなかろうか。

 今回の想田さんへの攻撃や私への攻撃は、いわゆるネット右翼と呼ばれる人たちの言動と何ら変わらない。私は原子力推進派がツイッターを利用し、菊池氏や早野氏などの安全発言をする科学者を擁護し、彼らを批判する人たちを攻撃することで情報操作をしているのではないかという疑念が払しょくできない。つまり、菊池氏や早野氏は原子力推進派に利用されていると感じている。

 彼らが御用学者ではないという立場であるなら、なおさら原発にまつわる問題に関し、科学者としての意見を明らかにすべきだと思う。

 なお、原発事故後の体調不良や健康被害の増加に関しては、以下の記事が客観的データとして信頼できると考えている。

東京電力原発事故、その恐るべき健康被害の全貌 ―Googleトレンドは嘘をつかない― ②データ編 

【11月29日追記】

林 衛氏が以下のツイートをしている。

 ここで引用している鈴木眞一「福島原発事故後の福島県小児甲状腺県信と小児甲状腺癌」(「医学のあゆみ」2017年3月4日号特集:甲状腺疾患のすべて)の内容は以下。

 一方では過剰診断治療が問題とされている。超音波検査の利益・不利益は当初から理解し、わが国の甲状腺専門家たちのコンセンサスを得たうえで抑圧的な検査基準を設定している。すなわち著者らは、検診をはじめる際にも超音波を検診に用いると多数例がみつかることを想定し、二次検査での精査基準を設けた。5mm以下は細胞診をしないで経過観察。5.1mmは甲状腺結節の超音波診断基準の悪性7項目のほとんどが合致する場合は細胞診を、それ胃倍は経過観察としている。10.1~20mmでは同じ診断基準悪性7項目のうち、1項目でも悪性を疑う場合やドブラ法で貫通血管が認められる場合に細胞診をする。20.1mm以上では前例細胞診を施行することとして腫瘍径とエコー所見で性弁をかけ過剰診断にならないように努めている。ATAのガイドラインでも10mm以下は細胞診をしないとされているが、悪政を疑う場合は別であり、同様の対応を明確にしているものである。また、非手術的経過観察には進められない画像をLeboulleuxらは提示しているが、著者らの精査基準と同様であり、今回の手術された微小癌のほとんどが湿潤型で被膜外湿潤、リンパ節転移も高率であった。このように、抑制的にしているにもかかわらずアメリカ・韓国の過剰診断論から同様に問題とする方がいる。

 鈴木氏によれば超音波の検診ではスクリーニング効果があることを認識しており、福島の検診では過剰診断にならないよう基準をつくって抑制したとのこと。したがってアメリカ・韓国の過剰診断論をそのまま当てはめられないことが分かる。過剰診断にならないよう抑制的にしてもリンパ節に転移しているなど手術を必要とする事例が多数あったのだから、今後はその原因が問われることになるだろう。

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