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2015年11月 4日 (水)

陰謀論考-特にSEALDs陰謀論をめぐって

 私は基本的に陰謀論には慎重だしむしろ警戒することにしている。もちろん、世の中には策略や謀略といったものが溢れていることは十分承知している。たとえば、安全神話と地元自治体への交付金で誘致し推進してきた原発などその最たるものだろう。実際に最悪の事故が起こっても、被ばくのことをひた隠しにし、健康被害を過小評価して汚染地に住民を戻そうとする政府と電力会社は今も国民を騙している。除染だって福一の事故処理だって利権が絡んでいる。

 検診・検査づけあるいは薬づけにして儲けようとする医療業界、大義もないのに推進する公共事業なども同じ。これらはほぼ全てが利権構造と結びついている。マスコミが正面からこうした策略や利権構造を報じないとしても、自ら情報を収集し、感性を磨いていれば、そうしたはかりごとは見抜くことができる。私は若い頃から自然保護に関わってきたが、国の大型公共事業には必ずといっていいほど政官財の癒着があり「事業を行うこと自体が目的」となっていることを身にしみて感じる。政治における策略は利権とほぼ一体となっている。

 しかし、だからといって疑わしいと思うことは何でも「仕組まれている」という陰謀思考はしない。なぜなら利権による策略といわゆる陰謀論は同一視できないし、陰謀論の多くはその思考過程が科学的でも論理的でもないからだ。陰謀論の原点は不安からくる疑心暗鬼と思い込みであり、論理ではなく感情に基づいている。誤った陰謀論は嘘を流布することでしかないし、嘘をもとに特定の個人や団体を批判したなら明らかに権利侵害だ。したがって、陰謀論には慎重にならざるを得ない。

 以前、「陰謀論の思考と紙一重のニセ科学批判」lという記事で陰謀論について言及した。この記事では辻隆太朗氏の「世界の陰謀論を読み解く」という本について紹介したが、ここで引用した辻氏の発言をもう一度紹介しておきたい。つまり、陰謀論者がなぜ陰謀論思考をするのかと言うことについての辻氏の意見だ。

 この社会がどのように動いているのか、誰がどのような目的で動かしているのか。そもそも誰かが動かしているのか、勝手に動いているのかもわからない。そのなかに存在する自分の生活や選択は、本当に自分の意志によるものなのか。本当は他の誰かの意志に踊らされているだけなのではないか、知らないあいだに社会的に構築されコントロールされているのではないか。
 そのような不安に対し、陰謀論は世界の秩序構造を明確に説明し、世界やわれわれを操作する主体を一点に集約し可視化するとともに、陰謀論者たち自身の自律性の感覚や自己の独自な存在意義を回復し保証する機能をもつ、と考えることができる。陰謀論は世界がどうなっているのか、何が正しく何がまちがっているのか、誰がどのように世界を動かしているのかを明快に説明してくれる。簡単に言えば、陰謀論はわかりにくい現実をわかりやすい虚構に置き換え、世界を理解した気になれるのだ。(253ページ)

 つまり個人に生じた不安が疑心暗鬼を生み、それが発展して誰かに操られているのではないかという思考になる。そして、自分たちを操作する主体を明確にすることで、自分の自律性の感覚や自己の存在意義が保障される。「仕組まれている」と考えることで、わかりにくい現実をわかりやすい虚構に置き換え、世界を理解した気になっているのが陰謀論者といってもいいだろう。

 陰謀論者の口からときどき発せられる「騙されている者は愚か」「気づかない者はバカ」といった類の発言は、陰謀論者の内にある「自己の自律性や存在意義」を自ら吐露したものと言えるだろう。

 福島の原発事故以来、反原発派の一部の人において陰謀論思考が広まったように思えてならない。たとえば原発の嘘に目が覚めた一部の人が、原発や被ばくに関して不安を抱え疑心暗鬼になった結果、人為活動による地球温暖化論を詐欺だと主張するようになった。また政府による被ばく隠し、被ばくの過小評価を目の当たりにして、「健康被害や避難のことを言わない」人たちを疑い、そのような人や組織を「ニセモノ」「エートス」「御用組織」と認定することで、政府の方針を後押しする陰の組織が存在すると主張する人もいる。

 地球温暖化に関しては、原発推進派が温暖化を口実に原発を促進してきたのは事実だし、原発の温排水が海を温めてきたのも事実だ。温暖化の原因は人為由来の二酸化炭素の増加だけではないというのも確かにそうだろう。しかし、地球温暖化は基本的に科学として考えねばならないし、さまざまな研究結果からもそう簡単に否定できるものではない。ところが陰謀論者は原発推進派による嘘だと信じ込んでいるために、「否定的な言説」だけを探し集めて詐欺だと断言する。あまりに科学をないがしろにした短絡的思考だと思う。

 このまま温暖化が進めば地球の気候や生物に極めて大きな影響を与えるであろうことを考えるなら、ことは極めて重大でありとても楽観視できることではない。嘘の流布は責任問題であり、人の命に関わってくる。だから、私は温暖化詐欺論の流布には与しない。

 SEALDs陰謀論ももちろん同じだ。客観的かつ冷静に彼らを見ていれば、学生たちが自主的につくった組織であり、陰謀などどこにもないのは直感でわかる。否、直感だけではない。彼らのスピーチやホームページ、出版物などに目を通しても、陰謀などどこにも感じられないし、メンバー個人の主張も筋が通っている。人工芝運動、共産党の下部組織、改憲誘導などといった陰謀論に明確な裏付けはない。むしろ共産党が政府側などという主張はあまりに現実離れしている。妄想同然の根拠薄弱な状況証拠を並べて騒いでいるとしか思えない。

 メンバーの出身高校の偏差値だとか、出版した本のゴーストライター説などまで出回る始末だが、出身高校の偏差値などはメンバーの主張や人格になんら関係がないし、このような発言は差別や侮辱でしかない。ゴーストライター説に至っては状況証拠すらなく単なる妄想の類だ。SEALDsの本は対談や個人の意見から成り立っているのであり、ゴーストライターの紡ぐ文章とは対極にある。

 陰謀論者のツイートを見ていると、明らかに陰謀だという盲信が先にあり、そのためにメンバーの発言の一部を切り取ることで理由を後付けしているとしか思えない。勝手に疑心暗鬼になって疑問を呈するだけならそれも自由の範疇だろう。しかし気になるのは、SEALDsが御用組織であると断定し、メンバー個人に対する暴言や揶揄、嘲笑にまで及んでいる人がいるということだ。事実ではないことを断定的に主張して拡散させ、実名の個人を中傷したり侮辱したなら、明らかに権利侵害だし、場合によっては犯罪だ。

 もし、彼らが政府のまわし者であり恣意的に改憲に誘導しているのであれば(私にはそう考える理由などまったく思い当たらないが)、黙っていてもいずれそのことが誰の目にも分かるようになるはずだ。従って、とりあえず静観し、明確になった時点で批判すればいいことなのに、陰謀論者はそういう冷静さを持たない。陰謀が正しいと信じ切っているし、それを主張することが正義だと思っているからだろう。

 嘘を振りまかれた上に、名指しで侮辱されて冷静な気持ちでいられる人などいない。奥田愛基さんや牛田悦正さんが陰謀論者をブロックしたことに対して「対話をしようとしない」「異なる意見を聞こうとしない」と批判している人もいるようだが、とんだ勘違いだ。  

彼らがブロックするのは、対話できない陰謀論者など相手にしても無意味だと判断しているからだろう。なぜなら陰謀論者は陰謀を信じているから、どんなに説明を尽くしても理解しようとはぜず、相手にしてもさらに難癖をつけてくるからだ。そういう意味ではネトウヨと何ら変わらない。そういえば日向製錬所とサンアイが黒木睦子さんを訴えた裁判でも、原告らを擁護し黒木さんとその応援者を罵倒する人たちがいた。彼らの思考も陰謀論者と同じで「はじめに批判ありき」だ。だから、どんなに論理的に反論したところで、はぐらかしや人格否定をする。そして、ブロックすれば「対話しない」「逃げた」と騒ぐ。SEALDs陰謀論者も、それと大差ない。

 SEALDs陰謀論者は圧倒的に「脱被ばく派」に多いようなのだが、なぜこんな思考になってしまうのか? それは恐らく、「反原連(首都圏反原発連合)」や「しばき隊」とSEALDsメンバーとの関係からきていると思われる。SEALDsのメンバーが活動の参考にするために反原連の官邸前デモに参加していたのは本人たちも本で説明しているし事実だ。  陰謀論者たちは反原連のメンバーが避難について主張しないので「反原連=エートス=政府側」と考えているようだ。また「しばき隊」の言動への反感もあるようだ。それでSEALDsを支持している反原連とSEALDsは「同じ穴の狢と」判断しているのだろう。私も「しばき隊」メンバーなどの言動を支持しているわけではなく疑問もある。しかし、反原連と交流があるという事実がSEALDsを御用組織と決めつける根拠にならないのは明白だ。

 ところで、「避難を主張しない=エートス=政府側」だと言えるのだろうか? 私自身、福島の原発事故のあと、原発問題や被ばく問題についてブログで頻繁に記事にしてきたし、汚染地からは避難するのが最善だと思っている。しかし、だからといって声高に避難を叫び続ければ問題解決になるわけではない。

 汚染地に住む人たちで被ばくについて意識が高く避難が可能な人の大半はすでに自主避難してしまっただろう。今も汚染地に住んでいる人たちは、意識が高くてもさまざまな理由で簡単に避難したくてもできない人と、それほど深刻に考えていない人のどちらかだと考えられる。前者の人たちは恐らく汚染食品を避けるなどの努力をしているだろうし、後者の人たちも何も知らないわけではなく、安心情報を頼りにしたり正常性バイアスによって自分を維持している人も多いに違いない。

 こういう状況のなかで第三者が汚染地に住む人たちの立場を考えてできることと言えば、被ばくや健康被害に関する知識や客観的事実を広めて避難の判断に供することと、政府に「避難の権利」を求めていくことしかないのではないか。避難、避難と騒いても汚染地に住む人たちの心には響かないし、お節介でしかない。脱被ばく派の中には「避難しないのは愚か」「東京は人の住むところではない」などと平気で口にする人もいるが、こういう発言は避難できない(しない)人たちを見下し、反発を買うことにしかならない。結局、政府が「避難の権利」を認めない以上、現実を踏まえて避難するかどうかは個人個人の意識と事情と判断力にかかっている。他人が押しつけることではないのだ。

 また、どの地域なら避難すべきかという判断にしても、個人個人で違う。福島から東京に避難した人もいるし、東京から西日本などに避難した人もいる。仮に東京も避難すべき汚染地だと認定したなら、首都の移転問題にも発展するし、そもそも狭い日本で首都圏の人たちをどこに移住させるのか、仕事や住居はどうするのかという極めて難解な問題に直面する。汚染の程度も場所によって異なり均一ではない。チェルノブイリの原発事故でも、汚染地に住み続けざるを得ない人たちは、子どもを保養に出したりペクチン製剤(ビタペクト)で体内のセシウムを排出させるなど、できることをしてきた。避難が最善とはいえ、避難できない彼らを批判することは誰にもできない。

 汚染を知りつつ東京に住まざるを得ない人たちが、安易に避難を口にできないのは当然だろう。また、汚染地に住む人たちの判断を尊重するなら、第三者が避難のことをあえて主張しないというのは決しておかしなことではない。こう考えると、「避難を主張しない=エートス=政府側」などということには決してならない。現実を踏まえるなら、物事はそれほど単純ではない。

 小出裕章さんが年齢に応じて汚染した食品を食べるべき、という主張をしていることを理由に彼はエートスだという人もいる。私は小出さんのこの考えには賛同しないが、かといって小出さんの反原発がニセモノだとか、エートスだとは決して思わない。小出さんの言動を見れば、彼が真に原発に危機感を抱き警鐘を鳴らしていたことは明らかだし、被ばくによる健康被害は極めて深刻だからこそ原子力は危険だと言ってきたのだ。

 最後に、辻隆太朗氏の言葉をもう一度紹介しておこう。

私たちには世の中すべての情報を検証する能力も余裕もないが、自分の判断が正しいかどうかをつねに問うことはできる。可能であれば、自分の信じることや意見に対する反証を求めること、自分に対する反論を自分自身で考えることが一番だろう。陰謀論はたしかに物事に対する疑いを出発点としているが、その論理は健全な疑いとは正反対のところにある。陰謀論には自らに対する疑いがない。一言でいえば、信じたいものを信じるだけでは駄目なのだ。(285ページ)

 SEALDs陰謀論は「反原連」や「しばき隊」メンバーに対する個人的感情から始まっているとしか思えないし、その主張は第三者の私にとっても反論できることばかりで論理性にも欠ける。彼らは自分の信じたいことを信じているだけであり、その疑いは「健全な疑いとは正反対のところにある」と私は見ている。

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