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2015年5月31日 (日)

日向市のスラグ問題と自然保護・環境保護運動

 このブログでも何回か取り上げてきたが、宮崎県日向市では日向製錬所から排出されるフェロニッケルスラグという鉱さいが「造成」の名の元に里山等に埋められている。このスラグ問題をブログなどで明らかにしたのが日向市在住の黒木睦子さんだが、彼女は日向製錬所とスラグの運搬会社サンアイから名誉毀損および業務妨害で訴えられてしまった。

 里山の自然を根こそぎ破壊してしまうことがまずは自然保護上大問題だ。しかも産業廃棄物として排出された鉱さいは、本来であれば管理型最終処分場ないしは遮蔽型最終処分場で処分されなければならないのだが、製品・リサイクルという名目でなんの遮蔽処理もせずに山野に埋められているのであり、産廃問題・環境問題でもある。こうした実態を何ら問題がないとして認可している行政の責任もきわめて大きい。仮に私の住む十勝地方でこのような造成が行われたなら、大問題として反対運動が展開されるだろう。しかし、日向市ではスラグの埋め立てに関して市民による反対運動が起きている様子は窺えない。

 このスラグ埋め立て問題では、いろいろなことを考えさせられる。説明を尽くさずに抗議する市民を訴えるという企業のやり方は横暴だし、ブログの削除は口封じだと思うが、かといって企業や行政に抗議を続ければ問題が解決する訳ではないのも事実だ(ただし黒木さんにはそれ以外の方法が思いつかなかったのだろうし、彼女を批判するつもりはない)。では、こういう問題に直面したとき、いったい市民はどう対処したらいいのだろうか?

 住民が個人的に企業や行政に説明を申し入れることは可能だが、多くの場合、話し合いは平行線ないしは決裂に終わって事業が強行される。個人での反対行動には限界がある。つまり利害関係のある地域住民が組織をつくって住民運動を起こしたり、あるいは地元住民に拘ることなく市民が反対運動を起こして闘うのが普通だ。

 私は東京に住んでいた十代の後半から自然保護運動に関わってきたし、今も北海道で自然保護運動に関わっている。つまり、かれこれ40年以上自然保護とか環境問題に関わってきたのだが、日本各地で自然破壊に対してさまざまな反対運動が活発に繰り広げられた頃から今に至るまで、住民運動・市民運動の基本的な闘い方は大きく変わっていないと思う。

 まず、自然保護上の問題が発覚した場合、情報収集や事実確認を行う。現地の確認を行ったり、事業者などの関係者に説明を求めたりする。そして問題点を明確にし、どうやったら破壊を食い止めることができるかを組織内部で話し合う。

 次に、事業者に対し申入れや質問書を提出したり、問題解決のための話し合いを行う。公共事業など行政が相手の場合、昨今では説明や話し合いそのものを拒否することはほとんどない。「生物多様性国家戦略2012-2020」においても、生物多様性の保全及び持続可能な利用のために地方自治体、事業者、NGO・NPO等の民間団体、市民などが連携して取り組みを進めていく必要性が述べられており(99ページ)、行政は市民団体をないがしろにすることはできない。

 規模の小さな事業であれば、こうした要請や話し合いで計画が変更されたり中止されることもあり得る。ただし、大きな事業の場合は話し合いで解決することはほとんどない。とりわけ企業による事業の場合は、申入れや質問への回答を無視したり話し合いに応じないこともある。

 しかし企業による事業の場合、開発行為にあたって行政の許認可が必要な場合がほとんどなので、許認可を出した行政の責任を追及して交渉をする必要もある。もちろん行政は自分たちの許認可に問題はないと主張するのが普通だが、実に安易に許認可を出していることも多い。加森観光が建設したヒグマの野外展示施設「ベア・マウンテン」の事例だが、柵に熊が通り抜けできる大きな空隙があったまま許認可が出されていた。これを見つけたのは自然保護団体のメンバーである。

 士幌高原道路(道々)の建設をめぐっては、十勝自然保護協会は北海道の出先機関である帯広土木現業所と緊迫した交渉を重ねた。「建設にあたっては地元自然保護団体の合意を得る」という約束があったからだ。事業者が強引に調査などに着手した際には、プラカードを掲げて現場での抗議行動も行った。大規模林道問題でも、北海道の自然保護団体のメンバーが何度も道庁に出向き、担当者と話し合いを続けてきた。ほとんどの場合、話し合いは平行線になるが、こうした交渉を重ねることで問題点がより明確になっていく。

 それから現地視察や現地調査、観察会なども行う。ナキウサギの生息地保護などでは、何回も現地に足を運んで調査をした。大きな事業の場合は事業者は環境アセスメントを行っているが、自然保護団体による調査で事業者の調査の杜撰さを確認できることは多い。道路予定地がナキウサギの生息地に重なっている場所では、データを操作したとしか思えない事例もあった。

 上ノ国や大雪山国立公園の国有林、えりもの道有林での森林伐採問題に関しても、自然保護団体による伐根の調査によって違法性が明らかにされた。具体的データを得られる調査活動は、反対運動を進める上で大きな武器になる。

 また問題を多くの人に知らせるために、問題点をまとめたリーフレットを作成したり、専門家を呼んで講演会やシンポジウム、学習会等を開催することも有効だ。こうした問題をなかなか取り上げないマスコミも、講演会やシンポジウムを行うと取材して記事にすることも多い。

 運動を進めるにあたり、情報公開制度も大いに活用できる。大規模林道問題でも、森林伐採問題でも美蔓ダム問題でも情報開示を最大限に利用した。

 状況によっては署名活動も展開する。士幌高原道路の反対運動では全国の自然保護団体に署名用紙を送付して署名を呼び掛けた。十勝自然保護協会が行った士幌高原道路反対のネット署名は、今では広く普及したネット署名の先駆けになった。

 一つの団体だけでは困難な場合は他の自然保護団体と共闘することもある。北海道の場合は賛同する他の道内の自然保護団体と連携したり、連合組織をつくって闘うこともある。士幌高原道路、日高横断道路、大規模林道問題では連合組織で活動して成果を上げた。

 また、裁判にするという闘い方もある。北海道では、士幌高原道路、えりもの森違法伐採、北見道路、サホロスキー場拡張工事などで裁判が起こされている。この場合は協力的な弁護士がいることが必須だし、環境裁判は勝訴が難しい。しかし、反対運動を無視して事業が強行される場合は、こうした手段も大きな意味がある。「えりもの森裁判」は10年目に入ってまだ決着していないが、裁判を起こしたことで実質的に大規模な伐採を中止に追い込んだともいえる。

 沖縄ではやんばるの森を守るために、林道建設や森林伐採を差し止めを求めて裁判が起こされた。今年3月には「請求を却下する」という門前払いの判決が下されたのだが、判決文をよく読むと、自然保護団体による様々な活動によって沖縄県が林道建設や伐採を中止していたために裁判所は差止を命ずる必要がなくなり、その結果としての却下判決だった。つまり、形式的には敗訴であっても実質勝訴という内容だった。

 このように、大きな開発行為などでは一人で事業者と交渉したり抗議行動をしても限界があるが、住民運動あるいは市民運動という形をとることで問題が広く認知され、解決の道も広がる。

 黒木さんの裁判がどのような結果になるか分からないが、弁護士もつけずに一人で闘っている現状を見る限り厳しいと感じざるを得ない。ただし、裁判を起こしたことでスラグによる埋め立て問題が地域に知れ渡って今後埋め立ての反対が強まるのなら、製錬所とサンアイはたとえ裁判で勝訴したとしても実質的敗訴と言えるかもしれない。もっとも、政官財の癒着が強く疑われる問題だし、製錬所が稼働している限りスラグが増えつづけるのだから、スラグ問題がそんなにすんなりと解決するとは思えない。

 日向市のスラグ埋め立て問題は、抗議をした市民一人の問題ではない。ただし裁判は黒木さんが誰の力も借りずに自分で闘うと宣言している以上、誰も関与はできない。裁判とは別に、できれば住民運動として地域の人たちが取り組む必要があると思う。もっとも地方では地元企業に対して声を上げにくいという事情もあるだろうから、住民運動が困難であるなら、地域の(たとえば宮崎県の)市民運動として取り組んでいくべきことのように思える。ちなみに私の所属する十勝自然保護協会は十勝地方での自然保護問題を対象にしているが、十勝地方(10,831.24平方キロメートル)は宮崎県(7,735.31平方キロメートル)より広い。

 宮崎県にこうした問題に取り組める市民団体があるのかどうか分からないが、黒木さんによる問題提起を基に、今後、地域の人たちがこの問題にどのように取り組んでいくのか、あるいは何もしないのかが問われているのだと私は思う。

 昨日は以下の連続ツイートをしたが、それは私がこの問題に関して上記のように考えているからである。

①「日向ミナマタ水・土壌汚染・防災研究会」というブログがある。http://blogs.yahoo.co.jp/teisitu_minamataサブタイトルに「住友金属鉱山の日向製錬所は、かつてのチッソと同じ企業体質。黒木睦子さんを助けよう!」と書かれているので、黒木さんを支援していることが分かる。

②いわゆる勝手連のような立場と推測されるし、そういう意味では「日向製錬所産廃問題ネットワーク」と共通する。ただし、黒木さんはご自分の裁判において金銭的支援を含む一切の支援を断っており、自分の力で裁判を闘うと明言している。つまり、第三者による支援を拒否している。

③黒木さんは、「スラグは産廃で有害」という立場でこの問題を検証しているブログ記事などを裁判で十分活用しているとは思えない。こうしたことからも、彼女は自分の力で自分の気の済む闘いをしたいのだろうと私は理解している。だから、弁護士もつけなかったのだろう。

④このような彼女のやり方に私は賛同しないが、どんな闘いをするかは彼女自身が決めることなので第三者がとやかくいうことではないだろう。いずれにしても、黒木さんが誰の助けも借りないという方針である以上、裁判に関しては第三者は見守るしかない。

⑤「日向製錬所産廃問題ネットワーク」は、黒木さんの支援を掲げて水質検査などを行ったが、計画性のない水質検査を行って結果を公表したことで黒木さんを不利にした。そして、その件に関してなんら弁明もなされていない。支援するといいながら、結果として迷惑をかけただけだった。

⑥この裁判に関心を持って見守っている人は、こういう状況であることはすでによく分かっているだろう。だから、勝手連のような形で黒木さんを支援することは意味がないと私は考えている。それにも関わらず、なぜこの団体は「黒木さんを助けよう」と掲げているのだろうか?

⑦この団体は、以前から存在する環境保護団体ではなさそうだ。日向のスラグ問題で情報公開を行って公文書を入手しているし、それらはスラグによる環境問題を考える上で活用できるだろう。ところが、この団体の主宰者が誰なのかが全く分からない。

⑧これは私の意見だが、日向製錬所のスラグ問題に関心を持ち、スラグがあちこちに埋められるなどしている問題をなんとかしたいのであれば、黒木さんの裁判とは切り離して独自に活動するべきだし、団体の目的や代表者名くらい明らかにしなければ信頼性に欠ける。

⑨また、主に日向製錬所のスラグ問題を取り上げている多数のYahooブログが存在するのだが、同じ内容の記事が掲載されていたり、互いにトラックバックしたり、互いにコメントしたりしている。どうやら同じ人物ないしは同じグループの人がブログを書いているように思える。

⑩しかも、記事の中には他のサイト記事あるいは写真の無断転載も見受けられる。「日向製錬所産廃問題ネットワーク」も無断転載をしていた。問題意識を持って情報開示を行ったり情報提供するのは評価できるが、こうしたやり方には非常識さを感じざるを得ないし、手放しで賛同できない。

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