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2014年9月26日 (金)

故郷の光景(2)霧ヶ峰とクヌルプヒュッテ

 かつて上諏訪に住んでいた私の両親にとって、霧ヶ峰は何度行ったかわからない場所だろう。とりわけ若い頃から山やスキーが大好きだった父は、バス一本で行ける霧ヶ峰に頻繁に出かけた。母が霧ヶ峰で赤ん坊の私を背負っている写真もある。霧ヶ峰は私の両親にとって、自分の庭のような存在だった。

 東京に引っ越してからも、霧ヶ峰には時々行った。強清水(こわしみず)のスキー場でスキーをしたこともよく覚えている。強清水には父が勤めていた会社の宿泊施設があり、そこに泊まっては1基のリフトしかない猫の額のようなスキー場でスキーを楽しんだ。当時は今のようにリフトに頼るスキーではなく、歩いて登って(階段登行)は滑るということを繰り返していた。良い防寒具もないあの時代、きっとずいぶん寒かったのだろうが、不思議なことに寒かったという記憶はない。

 宿の窓から、雪を被った木々や、そこに時折訪れる小鳥(たぶんカラ類だったのだろう)を眺めたり、赤々と燃える食堂の薪ストーブで暖をとった記憶も蘇ってくる。あまりの静けさに耳鳴りがしたものだ。しかし、それが何歳くらいの頃だったのか、しかとした記憶がない。

 ニッコウキスゲが高原を黄色に染める7月、クヌルプヒュッテの裏から蝶々深山の方に登ったことがある。あの頃は道がなく獣のように草原を漕いで歩いたが、歩道にロープが張られた今ではとてもそんなことはできない。高原にはヒョウモンチョウやクジャクチョウが無数に舞い、ときおり憧れのキベリタテハも頭の上をかすめるように飛んでいた。8月の高原は赤とんぼ(アキアカネ)の大群が空を埋め、晩夏の高原は薄紫のマツムシソウに彩られる。高原はすばらしく魅力的な世界だった。

 父が亡くなってからは、母と上諏訪にお墓参りに行く度に霧ヶ峰に行った。いつもマツムシソウの咲く季節だ。父が「自分の山」と呼んだ殿城山にも二人で行った。母が亡くなりそんな山行も今は思い出となってしまった。

 今年は車山肩までバスで行き、車山湿原を回って常宿である沢渡(さわたり)のクヌルプヒュッテに泊まった。車山肩のコロボックルヒュッテも、なつかしい山小屋だ。この小屋を建てられた手塚宗求さんは一昨年亡くなられ、今は息子さんが継いでいる。下の写真は、車山肩の遊歩道から見た蝶々深山。なだらかな斜面と湿原の光景は霧ヶ峰を代表する風景だ。

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 こちらは車山湿原。

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 今ではコロボックルヒュッテやクヌルプヒュッテは車でも行けるようになってしまったが、強清水から歩かなければ行けなかったあの頃は、人里離れた別世界だった。とりわけクヌルプヒュッテは、今もほとんど変わっていない。ヒュッテの中に入ると、タイムマシンで昔に戻ったような感覚に襲われる。

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 手彫りを施した家具、食堂のテーブル、薪ストーブ・・・。どれも昔のままで懐かしい。以前はランプだったが後に自家発電になり、今は電気がきている。そんな変化はあるが、小屋に漂う落ち着いた雰囲気とぬくもりは昔とちっとも変っていない。

 変わったものといえば、クヌルプから見える光景。子どもの頃は向かいの車山肩にあるコロボックルヒュッテがよく見えた。しかし、今は小屋の前のヨーロッパトウヒなどが生長して見えなくなっている。木々の生長が、歳月の流れを感じさせる。

 クヌルプヒュッテを経営するのは松浦さんご夫妻と息子さん。この山小屋を建てた松浦さんはご高齢だが、お元気で働いておられた。できればこの小屋が末長く続いてほしいと願わずにはいられない。

 クヌルプに泊まったら必ず行くのが八島湿原だ。今は湿原の周りを木道が一周しているが、昔はもちろん木道などなく、沼の畔まで行くことができた。昨今はシカの食害がひどくなってきたそうで、湿原がすっぽりと柵で囲われていた。

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 霧ヶ峰に草原が広がっているのは、実は長年にわたって人為的に管理されてきたことが関係している。霧ヶ峰の大半は民有地(地元の複数の牧野組合が所有)で、かつては放牧、火入れ、採草が行われていた。父が撮影した昔の霧ヶ峰の写真には、大鎌で刈った草を荷馬車で運んでいる風景を撮ったものが何枚かある。採草が行われなくなってからは、徐々に草原が衰退している。

 クヌルプヒュッテがある沢渡周辺にはミズナラの樹叢がある。人為的な管理が行われる前は、霧ヶ峰高原はこのような森林に覆われていたのかもしれない。

 霧ヶ峰の光景も時代とともに変わっている。自然のままに任せるのがいいのか、人が管理して草原を維持するのがいいのか、判断は難しい。しかし、私の記憶の中の霧ヶ峰はやはりニッコウキスゲの咲き乱れる高原であり、マツムシソウが風に揺れる清々しい高原だ。

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