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2013年11月14日 (木)

森林を追われたトタテグモ

 前回の記事でキシノウエトタテグモを紹介し、「森林の雨に当たりにくい斜面や崖地などに穴を掘って生活している」と書いたのだが、トタテグモ類の生息地については少し説明が必要だ。

 私が東京に住んでいた頃、キシノウエトタテグモの生息地として思い浮かべるのは崖地だった。クモ愛好者の多くは「崖地に多い」という認識だったと思うし、自分が見ていた生息地も散策路の脇にある崖地だった。だから、「キシノウエトタテの生息地は崖地」「崖地があればキシノウエトタテがいるかもしれない」というように頭にインプットされていたと思う。また、巣穴に両開きの扉をつけるカネコトタテグモもキシノウエトタテグモと似たようなところに棲んでいる。

 ところで北海道にはエゾトタテグモが生息している。しかし、以前はエゾトタテグモの観察例が少なく、住居(巣穴)が確認されたのは1973年になってからだ。この記録は東亜蜘蛛学会(現在は日本蜘蛛学会)の機関誌である「ATYPUS」の61号に掲載されている。それによると、発見場所は阿寒湖周辺の崖地で、横穴式両開きとなっている。

 その後、北海道に住むようになった私は、折に触れ崖地でエゾトタテグモの巣穴を探したのだが、一向に見つからない。しかし家の近くで死体や徘徊している個体を見かけることもあり、生息していることは間違いなかった。生息しているのは間違いないのに崖地で巣穴が見つからないのだから、なんだか狐につままれた気分だった。

 後年、エゾトタテグモが森林に仕掛けたピットフォールトラップによくかかることを知った。ピットフォールトラップというのは地面に穴を掘ってプラスチックのコップなどを埋め込み、地表を徘徊する昆虫などを捕える罠である。また、森の中の地面を掘っていると土の中から立派なエゾトタテグモが出てくるという場面にも遭遇した。

 つまり、エゾトタテグモは崖地に巣穴をつくることは少なく、ふつうは森林の地表に巣穴を掘って棲んでいるのだ。森林の地表は落ち葉や植物に覆われているので、エゾトタテグモの巣穴は簡単に見つけることができない。崖地に巣穴があれば見つけるのは比較的容易だが、森林の地表であれば見つけるのは困難になる。

 キシノウエトタテグモやカネコトタテグモが崖地でよく見られる上、最初にエゾトタテグモが発見されたのが崖地であったため、私はすっかり崖地に巣穴があると思い込んでいた。しかし、崖地の巣穴というのは実は珍しいのである。思い込みとは実に恐ろしい。

 ということは、キシノウエトタテグモの生息地も崖地とは限らないはずだ。池田博明氏の「クモ生理生態事典」では、生息地は家の土台石、敷石の脇、石垣、崖、植え込みの地面、木の根元などとなっている。しかし、これらの生息地はほとんど人為的な環境である。では、もともとはどんなところに棲んでいたのだろうか? 以下のサイトでそのことに触れられている。

キシノウエトタテグモ(東京都環境局)

 ここでは「本来は森の中の地面に生活するクモですが、寺や神社の境内や人家の周辺にも生息しています」となっている。

 キシノウエトタテグモももともとは森林の地面に穴を掘って生活するクモなのだが、道路脇の崖地や建物の土台近くなどにも生息地を拡大したのだろう。こうした場所は雨が当たりにくいという利点もある。そして、そのような人家周辺の生息地こそ人目につくために、キシノウエトタテの生息地は「崖地や建物の土台石」と思うようになってしまったのだ。しかし、崖地や人家周辺というのはこのクモの本来の生息地ではない。

 話しをエゾトタテグモに戻そう。エゾトタテグモの場合、崖地の巣穴は珍しいと書いたが、それは寒さとの関係ではないかと私は考えている。寒冷な北海道ではクモの多くは積雪下で越冬する。雪が積もってしまえば、地表近くでも0度くらいに保たれるのだ。しかし、積雪下にならないような崖地の巣穴はもろに寒さに晒されてしまうだろう。マイナス20度とか30度という寒さに対する耐寒性を持たなければ生きていけない。雪にすっぽり被われる地表の巣穴なら、容易に越冬できる。

 ところで、前述の「クモ生理生態事典」のキシノウエトタテグモの項には「東京・横浜・京都など大都市の中心部に多く, 郊外に行くに従って減少する.」と書かれている。

 本来は森の地面に穴を掘ってひっそりと生活していたはずのクモが、大都市の中心部に多く、郊外に行くに従って減少するというのはどういうことなのだろうか?

 ビルのひしめく大都市といっても、一気に自然が破壊されたわけではない。お寺や神社、庭園、大学の構内、墓地などは人手が加わってはいるもののある程度の樹木が残されてきた。都会には大きな改変を免れた緑地が点々とあり、そこには餌動物もかろうじて生息している。キシノウエトタテグモは、森林からそんな人為的環境へと進出して生き延びてきたのだろう。

 一方、郊外の住宅地は丘陵地や農地などをブルドーザーで崩し、根こそぎ自然を破壊してしまったところが多い。そんなところでは森林から人為的環境に移り住む余裕すらあまりなかったのではなかろうか。

 都会に生息しているからといって、都会の環境が彼らにとって好適な生息地だとは思えない。本来の生息地である森林を追われ、かろうじて残された猫の額のような緑地の中の人為的環境に生き残っているということを忘れてはならないと思う。

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