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2013年2月21日 (木)

ダムで砂礫を止められた札内川で砂礫川原再生はできるのか?

 札内川は日高山脈に源を持ち、帯広市の東で十勝川に注いでいる河川だ。北海道には礫の多い川は多くないのだが、札内川は勾配が急で流れが速く、大量の礫を運ぶ川だ。ところが近年、河川敷にヤナギが茂るようになり、以前見られたような玉砂利が広がる砂礫川原が激減している。

 河川の砂礫地には特有の生物がいる。私の専門のクモの例では、カワラメキリグモ、ゴマダラヒメグモ、キシベコモリグモ、ハイタカグモなどがそれに当たる。植物では、カワラハハコ、カワラノギク、ケショウヤナギなどが知られている。鳥類ではセグロセキレイ、イカルチドリなどが礫川原に生息している。

 河畔林が繁茂すると、当然のことながら砂礫川原に生息・生育している動植物が減っていく。そこで、北海道開発局は、札内川の砂礫川原の再生事業を提案し、十勝川水系河川整備計画の変更案にそれを盛り込んだ。

 絶滅危惧種などを守るためのこうした取り組みを評価する人がいるかもしれない。しかし、ちょっと待ってほしい。まず、自然再生事業をする際には、どうして札内川は樹林化したのかという原因の解明がなされなければならない。原因の解明がなされなければ、その場しのぎの事業になりかねないし、同じことが繰り返される。

 実は2010年7月31日に、北海道大学大学院環境科学研究院教授の平川一臣さんによる「川とは何だろうか?」という講座が開かれた。この話しの舞台は札内川とその支流の戸蔦別川だった。この時の話しについては以下の記事にしているのだが、平川さんは戸蔦別川や札内川の姿が以前とはまったく変わってしまったことについて、写真をつかって説明された。

平川一臣さんによる講座「川とは何だろうか?」 

 川の姿をすっかり変えてしまった原因をつくったのは、ダムである。札内川では1998年に多目的ダムである札内川ダムの運用が開始された。また、戸蔦別川では1970年代から次々と砂防ダムを造ってきた。これらのダムによって上流から流れ下ってくる砂礫が止められてしまったのだ。

 ダムによって砂礫の供給がストップすると、ダムの下流では川底にあった礫がどんどん流されてしまう。このために川底(河床という)の位置が低くなっていく。こうした現象を河床低下と呼んでいる。ダムなどの構造物の下流では、まず河床低下が見られる。河床が低下すると、流路と高水敷の間に段差ができ崖状になる。融雪や大雨などで増水すると、崖の部分が水で削られていき礫も流されてしまう。ダムでせきとめられた札内川は、このような運命をたどっているのである。

河床低下と河岸崩壊 

 川底に堆積している砂礫層が流されてしまうと、やがて基盤が露出してしまう。戸蔦別川では、すでに基盤の粘土層が露出しているところがある。基盤は岩盤のこともあるし、粘土層や火山堆積物のこともあるのだが、軟らかい火山堆積物の場合はすごいスピードで川底が削られて峡谷のようになってしまう。十勝川水系、芽室川支流の渋山川がその事例。以下のサイトの写真を参照していただきたい。

第3日目:河床低下減少について② 

 このようになると、いくら護岸工事をしても崩れてしまい工作物で制御することはできなくなる。これが自然の摂理なのだ。

 札内川ダムがない頃は大雨が降って川が増水すると河川敷が洗われ、砂礫川原が出現するということを繰り返してきた。しかし、ダムは洪水調節の役目をするので大雨が降っても増水が抑えられてしまう。この結果、ダムから下では撹乱が生じにくくなり、河川敷にはヤナギなどが繁茂してしまう。河畔林は融雪期の増水程度では流木とはならないので、茂る一方となる。こうして、川原は樹林化してきたといえるだろう。つまり、砂礫川原が減少し河畔林が繁茂した背景には、ダムによる河床低下と洪水調整がある。

 こうして樹林化してしまった河川敷を、再びかつてあったような砂礫の川原に戻すことはできるのだろうか? 帯広開発建設部は砂礫川原再生のために、「札内川技術検討会」を立ちあげて検討してきた。そこで提案された方策が、以下だ。

礫河原再生の方策 

 ここでは、以下の再生方法が検討されている。
1.札内川ダムからの疑似融雪出水放流
2.砂州上部の掘削
3.水際掘削
4.砂州上の樹木の間引き
5.河原へのツルヨシの生育促進
6.ケショウヤナギの生育特性を踏まえた対策

 1は、融雪期にダムの水を放流することで川の水量を増やし、それによって生じた礫河原にケショウヤナギを定着させようという発想だ。しかし、これはケショウヤナギを増やすことにつながっても、川の樹林化そのものを防ぐことにはならない。

 2および3は、流路に沿って河畔林を帯状に伐採し、その部分を掘削するというもの。この方法では確かに一時的には砂礫川原が出現すると思われる。しかし、増水のたびに掘削部の砂礫が流されていくことになる。上流からの砂礫の供給がないのだから、やがては砂礫も尽きてしまうだろう。

 4の間引きも一時的な効果はあるかもしれないが、頻繁に間引きをしなければおそらくすぐに元の状態に戻ってしまうのではなかろうか。5のツルヨシの生育促進も、オノエヤナギの定着を抑制するだけで、以前の砂礫が広がっている河川の再生にはつながらない。

 結局、ダムで砂礫の流下を止めてしまった以上、下流では砂礫は減る一方なのだ。河川敷に堆積した砂礫はすぐにはなくならないだろうが、次第に減っていくだろう。つまり、どこかから砂礫を運んでこなければ、やがて砂礫川原は衰退していく運命にある。永続的に砂礫川原を維持するのなら、ダムに堆積した礫をダムの下流部に定期的に運ぶか、ダムを壊すしかない。永遠に続けなければならない事業になるだろう。

 河川管理者はもちろんこうした川のしくみやダムの弊害がよく分かっている。ところが、「札内川技術検討会」では、札内川ダムがあることを前提として話しを進めているので、ダムという原因について突き詰めて議論することはしない。樹林化した原因に目をつむって、小手先の対処療法を試みてみようということだ。なぜなら、原因を突き詰めてしまえば新たなダムづくりに矛盾が生じてしまう。だから大元の原因については極力触れないのだろう。

 人が川のバランスを崩してしまったのなら、川の生態系に留まらず海岸にまで影響が及ぶ。ダムによる弊害が深刻であることが分かってきたからこそ、欧米ではダムの撤去まで行われるようになったのだ。

 ところが日本の河川管理者はダムに起因する自然再生事業を提案する一方で、さらなるダム建設に突き進んでいる。北海道ではサンルダムや平取ダムだ。開発局は過去の教訓から何も学ぼうとしないのである。利権で固まったムラ社会だから、理屈だとか自然の摂理などは無視しなければならないのだろう。実に愚かなことである。

続く

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