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2013年1月 4日 (金)

すべての日本人に読んでほしい辺見庸氏の「明日なき今日」―下

すべての日本人に読んでほしい辺見庸氏の「明日なき今日」―上 

 辺見氏はファシズムについてこうも述べている。

 ファシズムっていうのは必ずしも強権的に「上から」だけくるものではなくて、動態としてはマスメディアに煽られて下からもわき上がってくる。政治権力とメディア、人心が相乗して、居丈高になっていく。個人、弱者、少数派、異議申し立て者を押しのけて、「国家」や「ニッポン」という幻想がとめどなく膨張してゆく。(中略)
 逆に、「なめられてたまるか」という勇ましい声が勢いづいてきている。ミリタントな、なにやら好戦的な主張が、震災復興のスローガンとともに世の耳目をひき共感を集めたりしています。(88ページ)

 これは今の日本社会に強い危機感を持っている人なら、皆感じていることだろう。多くの民衆はメディアによって完全に操られてしまっている。まさに、この国は狂気によって支配されつつある。

 そうした中で、震災、原発事故を失地回復のチャンスとみて歩み寄る米国。ルース大使の被災地訪問の背景には、同盟国アメリカによる思惑がもちろんある。辺見氏は以下のように述べる。

ルース大使の被災地訪問および米軍の救援活動について米国側は連日すごい広報をしている。「トモダチ作戦」は対日関係、対中国を強く意識し、朝鮮半島情勢をにらんだ、まさに総合的な日米共同オペレーションでした。そういう重要な問題を削いで本土メディアは報じた。(77ページ)

 それを見抜けずにまんまと策略にのせられてしまう多くの日本人。「トモダチ作戦」によって沖縄の米軍基地の問題はどんどん後退している。

 さらに「トモダチ作戦」の裏側にある米国の思惑を、米国に遠慮してなんら報道しないジャーナリストとマスコミ。こうした遠慮は何もジャーナリストに限ったことではない。物事を荒立てず丸く収めたいがために、本当は言わねばならぬことも口に出さないというのが多くの日本人だ。

 マスコミが知っていながら自己規制したこととして、メルトダウンのことにも触れている。

・・・複数の在京メディア関係者から実際に聞いた話で、福島第一原発の事故のときに当初からメルトダウンが起きたことは分かっていたと。でもメルトダウンという衝撃的な用語を使わせない空気が社内にあった。で、メルトダウンという言葉の使用をみんなで避けたと。それがしばらく続いた。(91ページ)

 原発が爆発したあと、NHKテレビには関村直人という東大教授が登場し、「格納容器は健全です」「心配ありません」などと解説していた。メルトダウンを知っていたマスコミは、放射性物質が大量に漏れていることだって当然知っていたはずだ。それなのに、こういう人をテレビに登場させていた。まじめな顔をして茶番劇を演じ、国民を欺いて被ばくに加担したのだ。

 この本では、多くが沖縄問題に割かれている。そして、沖縄と東北、つまり米軍基地と原発という犠牲や差別についても言及している。原発は地元が誘致してきた(つまり拒否することも可能だった)のに対し、沖縄の米軍基地は断じてそうではない。また、原発は中央の単なる被害者や犠牲者というわけではなく、中央政治の加害を支えてきた構造だってあるというのだが、確かにそのとおりだろう。

 こうしたことは多くの人があまり口にしない。しかし、過疎の町村が地域振興の名のもとに原発にしがみついてしまったのは確かだ。原発を誘致した人たちは、過疎の自治体が生きていくために仕方がないというようなことを言うが、本当だろうか? 北海道には過疎に悩む町村がいたるところにある。原発がなければ生きられないというのなら、原発を誘致できない内陸の自治体はとうの昔に破綻しているだろう。しかし、実際にはそんなことはない。結局、それは言い訳でしかないと私は思うし、原発がないとやっていけないからリスクがあっても再稼働に賛成するというのはどう考えても視野狭窄ではないか。到底あの福島の原発事故の反省から出てくる言葉ではない。まるでまだ安全神話にすがりついているかのようだ。原発交付金に目がくらんで原発を受け入れてきた地元首長には、もっと反省があって然るべきだ。

 これに対し、沖縄の基地問題は根本的なところで違う。本土の者にとって沖縄は「捨て石」にされたから仕方ないという犠牲の押し付けの意識がある。そして辺見氏は日本が憲法を変えて軍隊を持つべきだという発想に対し、「中国と戦争をやるのか、ロシアと軍事力を競うのか」「あんなマンモス像みたいなのにどうやって対抗するのだ」と単刀直入に問う。

・・・九条死守より軍備強化のほうが客観的合理性を書くのです。だからだから米国の軍事力に頼れ、日米安保を強化しろ、沖縄は我慢しろ、というのは絶対に違う。その逆です。身体をはった徹底的なパシフィズム(平和主義、反戦主義)が僕の理想です。九条死守・安保廃棄・基地撤廃というパシフィズムではいけないのか。丸腰ではダメなのか。国を守るためではなく、パシフィズムを守るためならわたしも命を賭ける価値があると思います。(113ページ)

 この意見に私は深く頷く。なぜ日本人はそれほど武力を持ちたがるのだろう。いつまでも安保にしがみついてアメリカの言いなりになっていることこそ諸悪の根源ではないか。米軍基地を否定せずに沖縄問題の真の解決はありえないと私も思う。かつて鳩山首相は普天間基地移設について「最低でも県外」と言ったが、沖縄の負担を減らせばそれでいいという問題では決してない。

 原発の安全神話、米軍の抑止力神話、経済成長神話を生みだしはぐくんだ土壌については次のように言う。

 神話を信じているほうが、悩まなくてすむからね。自分の頭で考え、疑り、苦しみ、闘うという主体的営みの対極に神話はある。皇軍不敗神話、天皇神話もそうです。神話は、われわれの思惟、行動を非論理的に縛り誘導する固定観念や集団的無意識、根拠のない規範にもなる。(119ページ)

 これはまさに日本人の特性ではないか。原発事故による放射能汚染もまったく同じだ。安全神話を信じていたほうが悩まなくていい。だから、真実を見ようとしないし、避難した人たちを批判すらする。原子力ムラにとって、これほど神話を信じたがる日本人を操るのは訳もないのだろう。日本全体が悪魔によるマインドコントコールに覆われているかのようだ。

 結局、この国はもうどうしようもないところにまで、つまり破滅の手前まで行ってしまっているということなのだが、この先、社会が闘争化していく現象が日本にもいつかくるのではないかとの予感があるという。そして、そのためには「一回、完全に滅亡し崩壊しないと駄目だという思いがありますね」という。部分的な滅亡ではなく、徹底的な敗北を経験しなければ新しいものは生まれてこないという考えだ。

 あれほどの原発事故を起こしておきながら、選挙で原発安全神話を振りまき原発を推進してきた自民党に投票し、まるで何事もなかったかのように安穏と暮らしている人たちがそれなりにいることを思うと、そうなのだろうと辺見氏の言葉に同意せざるを得ない。部分的被害では懲りないし、何も反省しない。棄民政策すら気づかない。

 徹底的に滅亡し崩壊しなければ新しいものが生まれないとしたなら、その時に日本には人が住めるような場所があるのだろうか? 大地震も原発事故も必ず繰り返される。そして、新たな原発過酷事故が起きたなら、あるいは福島第一原発の4号機が倒壊したなら、いったい誰が収束作業をするのだろう? 日本人はどこに住むというのか。汚染されていない食べ物など手に入るのだろうか。原発事故は地震や津波からの復興とは根本的に違う。核戦争と変わらないのだ。新しいものが生まれる土壌すら失われているのではなかろうか。

 だからこそ、「明日なき今日」をすべての日本人に謙虚な気持ちになって読んで欲しいと思う。

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コメント

謹啓、ヒトラーのナチス党もムッソリーニのファシスト党も民主的なルールに基づき有権者により政権を確立し結果的に国民を奈落の底に突き落としました。日本人も堕落したマスメディア、官僚、政治家、ブラック企業の発信する情報を盲信せず己で情報収集し判断すべきと愚考致します。スポーツやら芸能やらの論点隠しの為のスペクタクルに惑わされず国家の危機存亡に関する論争回避をさせてはなりません。
私は茨城県笠間市で茨城一区の有権者ですが放射能汚染問題に関し福島伸享元代議士に再三再四メール、私信を送付しましたが無視黙殺され続け
案の定、前回の半分以下の6万8千票で落選されました。敬具

日本のマスメディアの堕落は著しいですね。これだけインターネットの発達した社会になっても、まだその堕落が分からず信じている人たちが沢山います。徹底的に滅亡するまで気づかないのだとしたら、なんと情けなく恐ろしいことでしょう。

殆んどの日本のに於ける学校教育では、理性は最小限に押さえられて、感情面が強調されている。そのため、知識を受け入れるが、考えようとしない人間が製造されている。「教育とは洗脳だな」と言っても、キョトンとして、教育と洗脳の知識は有るが、教育とは何ぞや? 洗脳とは?、を考えない。 学校出て、視野狭い会社、趣味社会、新聞の見出し、テレビで日々暮らしていると。日本人が出来上がる。

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