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2012年12月29日 (土)

イソコモリグモの未来は如何に・・・

 先日届いた東京蜘蛛談話会の会誌「KISHIDAIA」にはイソコモリグモ関係の報告が複数掲載されていた。その中でも興味をひかれたのは、谷川明男さんと新海明さんによる「今そこにいるイソコモリを大切にしよう」という報文。谷川さんと新海さんは日本各地のイソコモリグモ生息地を訪ねて採集を行い、遺伝子解析を行ったのだが、その概要が説明されている。

 内容をかいつまんで紹介しよう。

 イソコモリグモは北海道と本州に生息している。北海道では磯海岸を除きほぼ全周に生息地がある。本州の日本海側では青森県から島根県まで分布し、太平洋側では青森県と岩手県北部、そして茨城県に分布する。これらの44カ所でイソコモリグモを採集し遺伝子解析を行ったところ、AからFの6つの系統群に分けることができた。

 これらの6つの系統群はAグループ(北海道・青森県および岩手県北部の太平洋側・青森県と秋田県北部の日本海側)とBグループ(青森から新潟県までの日本海側)が一部(青森県と秋田県北部の日本海側)で重なっているほかは、異所的に分布していることが分かった。また、海岸間の集団構成には大きな違いがある。

 つまり、日本のイソコモリグモは遺伝子レベルで6つのグループに分けられ地域ごとに分化しているが、ひとつの海岸(一続きの生息地)内では遺伝子構成の違いが少ない。このことから、イソコモリは移動能力が低いクモであると推測される。

 クモはバルーニングといって空中飛行をすることが知られており、種によってはかなり遠方まで移動することができる。しかし、イソコモリグモの場合はそのような移動はしないようだ。

 北海道と東北北部に生息するイソコモリが、同じグループであることも興味深い。おそらく海水面が低下して北海道と青森が陸続きになったときに、北海道のものが南下したのだろう。イソコモリグモの分布拡大には海水面の低下による生息地の拡大が大きく関わっていたに違いない。私はミズグモもおそらく同じようにして海岸沿いに分布を広げたのではないかと推測している。

 私はここ数年にわたって北海道のイソコモリグモ生息地を回って見てきたが、小さな入り江の砂浜などに隔離分布しているところがいくつもあった。しかし、そのような生息地が破壊などによって絶滅してしまったなら、まず回復することはできないだろうと思っていた。今回の谷川さんと新海さんの解析は、まさにそのことを証明している。

 イソコモリグモは、時には孤立したほんの小さな砂浜で生き続けている。この逞しさによって、絶滅と分布拡大を繰り返しながら何万年も生きてきたのだろう。しかし、海岸線がどんどん護岸され、あるいは浸食によって削られていく昨今、イソコモリの将来は決して安泰ではない。

 もし、ふたたび氷期が訪れて海水面が低下し、隔離されていた生息地が砂浜で繋がったなら、絶滅してしまった生息地にもイソコモリが復活するかもしれない。しかし、次の氷期が訪れる以前に護岸や海岸浸食などによりイソコモリが絶滅してしまう可能性の方が高いのではなかろうか。あるいは原発事故や核兵器による放射能汚染によって、人類を含む地球の生物は絶滅の危機に瀕するかもしれない。

 人類の近代文明は何万年も生き続けた種を簡単に絶滅に追いやってしまう。人類の罪ははかり知れない。

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