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2012年11月14日 (水)

内藤朝雄著「いじめ加害者を厳罰にせよ」の主張と問題(5)

少年法と「人権」派について

 内藤氏は、自らを「人権派である」としながらも、少年犯罪の厳罰化反対を唱える人権派と称する人々を批判している。その部分を以下に引用したい。

 「人権」派が少年犯罪の厳罰化に反対する根拠は次のようなものだ。
 殺人などの犯罪に手を染めた少年は、家庭環境に問題を抱えていることが多く、それが犯罪の原因になっている。また、福祉の切り捨て、男女不平等、「新自由主義」の展開・・・・・・といった現代社会の矛盾もまた、原因とされる。
 そしてさらには、家庭的および社会的な逆境に置かれた少年の「心」を心理学的に理解し、共感することで、少年の刑罰は軽くすべきだという結論に至る。

 しかし、「人権」派の主張は明らかに間違っている。
 統計的に見れば、誰かを嬲り殺しや快楽殺しをするような人物が幸福な人生を歩んできた確率は少ないかもしれない。しかし、逆は必ずしも真ならずだ。
 不幸な生い立ちの少年が、すべて殺人を犯す「心」を持つわけではない。たとえ、家族的・社会的に不遇だったとしても、殺さないこともできたわけだ。にも拘らず、殺人を犯したのは少年の主体的な意思決定によるものである。よって、少年には犯罪の責任があるといえる。(150ページ)

 内藤氏は、「心」の物語は、心理的説明がついた「言い訳」にすぎないという。しかし、私はこの意見には賛同しない。

 もちろん、家庭的・社会的に不遇だった少年のすべてが犯罪者になるわけではない。しかし、親から暴力や虐待を受けつづけたなら精神に異常を来たすのは当然のことだ。光市事件の福田君は精神的な発達が非常に遅れていたというが、それは生育環境によるものとしか考えられない。本来なら治療が必要な状態だし、心の病になったのは本人の責任ではない。

 内藤氏が上記のような考えを持つ根底には、福田君の書いた手紙が影響しているのだろう。以下の手紙だ。

「知ある者、表に出すぎる者は嫌われる。本村さんは出すぎてしまった。私よりかしこい。だが、もう勝った。終始笑うは悪なのが今の世だ。ヤクザはツラで逃げ、馬鹿(ジャンキー)は精神病で逃げ、私は環境のせいにして逃げるのだよ、アケチ君」

 以下の記事にも書いたが、この手紙は福田君を死刑にしたいと目論む検察が拘置所での福田君の友人を利用したヤラセというべきものである。しかも複数やりとりしている手紙の中からごく一部分だけをマスコミがセンセーショナルに取り上げたものだ。

「福田君を殺して何になる」を読んで 

 福田君の不謹慎な手紙については、今枝仁弁護士による「なぜ僕は『悪魔』と呼ばれた少年を助けようとしたのか」(扶桑社)にも事情が説明されている。今枝氏の本から引用したい。

 しかし、これらの手紙はF君自らが進んで積極的に書いたものではなく、拘置所で知り合った友人、A君からの手紙や面会時の発言に触発されて、「迎合」して書いたものなのだ。A君というこの友人はF君から届いた手紙を検察庁に提出し始めた後も、さらにF君を煽りたてて手紙を書かせ、それも次々と検察庁に提出していた。過去の記録にも、F君は周囲の期待に合わせておどけて見せる傾向がある、との記載がある。(210ページ)

 F君は、家族からも「死んで償え」と言われて見放され、裁判でも自分の認識とは違う態様の事実について追及され、さらには、当初、無期懲役の求刑を示唆するような「生きて償いなさい」という検察官の言葉で、検察官が見立てた筋書きを受け容れてきたのに死刑を求刑され、戸惑う孤独な状況の中、数少ない友人にまで見放されるのが怖く、繋ぎ止めておきたい一心から相手が期待するような「ワルぶり」を演じていたのだ。そのような未熟さがあったとはいえ、自分の置かれた状況や立場からは決して発せられるべきではない不謹慎な言葉だったことは、今ではF君もよく理解して反省している。(212ページ)

 A君は福田君に手紙を書かせるために、本村さんの著書「天国からのラブレター」をF君に差し入れ、本村さんに対する反発心を煽っているのである。

 福田君は決して怪物ではないし狡猾な知能犯でもないことは、増田さんや今枝弁護士の本を読めば誰もが理解できるだろう。

 いじめ被害者がいじめのトラウマを抱え込み、長年にわたって大変な苦しみを受けるのと同じように、福田君のように不遇な家庭に育って心の病に陥った加害者もある意味では被害者だろう。犯罪を語る上で、このような加害者の精神的な問題を無視することはできない。

 福田君の不謹慎な手紙に関しては、内藤氏はマスコミ報道を真に受けて真実を見落としているとしか思えない。私にはそれが残念でならない。以下参照。

事実を報じず訂正しないマスコミの怖さ 

 また、神戸の酒鬼薔薇事件の加害者とされる少年も、ほぼ間違いなく冤罪だろう。多くの人がマスコミ報道に騙され、無罪の少年が凶悪犯人に仕立て上げられたのだ。犯罪者とされる少年に、「怪物」や「狡猾な知能犯」がいったいどれくらいいるのだろう? 私にはそのような事例はほとんどないと思えてならない。

 神戸の酒鬼薔薇事件の冤罪問題を封印してはいけない 

 内藤氏は、学校という強制収容所がいじめを生み出していると主張する。前回の記事でも書いたように、人が特異な状況におかれるとどんな残酷なこともしてしまうということはノルウェーの犯罪学者ニルス・クリスティも述べている。学校という特異な環境で生徒が残虐になれることは何も不思議なことではない。

 内藤氏とニルス・クリスティの認識はこの点において同じなのに、加害者への対応は正反対だ。これは内藤氏が徹底的に被害者に寄り添い、速やかな被害者の救済を論じているからだろう。しかし、ひとたび人が特異な環境に置かれたなら、誰もが被害者にも加害者にもなりうる。私たちはいつどこで犯罪被害者やその家族になるかもしれないし、犯罪加害者やその家族にもなるかもしれないのだ。いじめを論じるのであれば、被害者の救済のみに視点を当てるのではなく、加害者も一人の人間であり社会の一員であることを忘れてはならないと思う。

 なお、本書に光市事件の加害者のことを持ち出すのは場違いな感をぬぐえない。内藤氏は福田君のことを持ち出すことで、罰を逃れることしか考えない狡猾な「怪物」少年がいることを強調したかったのだろうが、福田君は怪物ではない。また、酒鬼薔薇事件の加害者は恐らく少年ではなく大人だ。

 福田君は被害者遺族の本村さんに会って謝罪することを望んでいた。しかし、本村さんがそれを拒み続けた。もちろんかけがえのない二人の家族を殺された本村さんの心情は理解できる。しかし、もし二人の間で対話の試みがなされていたなら、あれほどまで本村さんの憎しみが増幅されなかったのではないかと思えてならない。

 もちろん、内藤氏の指摘するように、世の中には罰を逃れるために形だけの謝罪をし「和解」で事をすませようとする加害者もいる。精神的暴力であるモラルハラスメントのように、被害者をマインドコントロールすることによって被害者自身が被害者であると気づきにくくさせている事例もある。モラハラ加害者は自己愛的変質者(ナルシスト)で「症状のない精神病者」ともいわれている。また、世の中にはサイコパスといわれるような異常人格者がいることも確かだと思う。このような人たちは精神病として治療が必要だ。

 経験豊富な調停員(仲裁人)なら加害者が異常人格者であるか否かを見抜けるのではなかろうか。犯罪者の中に稀に異常人格者が存在するからといって、修復的司法を否定する理由にはならない。

 なお、私は刑事罰そのものを否定するつもりはない。とりわけ詐欺商法や暴力団などの組織的犯罪に対しては、警察や検察による捜査はなくてはならないと思う。

 最後に一言。「いじめ加害者を厳罰にせよ」に共感する人は多いと思う。特にいじめを受けたことのある人はそうだろう。そのような人には、是非、ニルス・クリスティの「人が人を裁くとき」も合わせて読んで欲しい。犯罪や刑罰について考える人には必読の書だ。

内藤朝雄著「いじめ加害者を厳罰にせよ」の主張と問題(1) 
内藤朝雄著「いじめ加害者を厳罰にせよ」の主張と問題(2) 
内藤朝雄著「いじめ加害者を厳罰にせよ」の主張と問題(3) 
内藤朝雄著「いじめ加害者を厳罰にせよ」の主張と問題(4) 

【関連記事】
内藤朝雄氏の指摘するいじめの論理と解決への提言

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