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2012年11月13日 (火)

内藤朝雄著「いじめ加害者を厳罰にせよ」の主張と問題(3)

学級制度の廃止について

 さて、内藤氏はいじめの解決のためには「学級制度の廃止」と「学校への法の導入(法に基づいた加害者の処罰)」を提唱する。前者はコミュニケーション操作系(シカトする、悪口を言う、嘲笑する等)のいじめに効果を発揮すると主張する。学級を廃止して、たとえば大学のように授業ごとに教室を移動して席を特定せず、食事も好きな相手と好きなところで食べ、班活動なども強制しないようにすることでいじめは効力を大幅に失うという。

 このような発想自体は納得できるものだ。しかし、地方の過疎地などではそもそも学級が一つしかない小学校や中学校、高校が珍しくない。それどころか複式学級で一クラスが数人とか、全校生徒でも数人あるいは十数人などといった小学校すらある。給食も全校生徒が同じ教室で食べ、学年の枠すらすでにない。このような小規模校では、全校生徒での「仲良し」を強制される。力をもった高学年の子どもが下級生をいじめる状況になれば、被害者は逃げ場がない。「学級制度の廃止」は、小規模校に適用できる方法ではない。また、小学校では学級を廃止するのは現実的ではないだろう。

 学級制度の廃止だけでは不十分である以上、「学校に行きたくない子どもが学校へ行かなくても学習を続けられる環境を整える」ことも必要ではないか。通信教育とか、家庭教師による学習とか、フリースクールの充実である。現在でも通信制や単位制の高校があるが、過疎地ではそれらの利用もままならない。今よりもっと手軽に、誰もが学校以外での学習を保証する制度が必要だと思う。

賛同できない加害者への刑事罰

 内藤氏は、市民社会で暴力が目撃されれば警察に通報するのが当たり前だから、それと同じように学校での暴力を警察に通報すべきだという。学校は無法地帯であるうえ市民社会の常識が通用しない「学校モード」に支配されている。しかも学校には教育ムラがあり教師はいじめを隠蔽するので学校内部では解決ができない。だから一般社会のルールを持ち込むのがベストだという。

 暴力系のいじめはすぐに止めさせるべきだという主張はもっともだが、その解決策として刑事罰をいきなり持ち出すのは賛同できない。刑事罰にはたしかに暴力行為をすぐに止めさせる効力はあるだろう。しかし同時にさまざまなデメリットやリスクを伴う。

 まず報復ともいえる刑事罰でいじめの本質的問題が解決されるのかということ。もう一つは子どもの間の紛争の解決を警察という治外法権の国家権力に頼るべきことなのかという問題。警察では裏金が作られ警察官の違法行為も後を絶たないが、内部の犯罪には極めて甘い。捜査では相変わらず自白強要などの違法行為が絶えない。しかもこの国は厳罰化に向かっている。そういうところに解決を委ねるべきなのか。

 私は過去に個人で2回警察に告発・告訴をしている。ひとつは悪質商法を行っている文芸社の詐欺疑惑の刑事告発。もう一つは私の個人情報を不正取得した行政書士への告訴。両方とも証拠資料等を添えて警察に告発状・告訴状を提出したが、警察は受け取ろうとすらしなかった。警察に被害届を出しても、明瞭な証拠がなければ警察はなかなか捜査に乗り出さない。しかし被害者自身がいじめられている証拠まで押さえるのは容易なことではない。被害届を出しても警察が速やかに動かなければ、加害者がさらに被害者を追い詰めることすらあり得るのではなかろうか。女性がストーカー行為で警察に被害を訴えたのに放置され、殺されてしまった事件も複数ある。

 被害届や告訴に警察がきちんと対応し加害者を処罰したとしても被害者は刑事裁判に関われないし、被害への補償もなされない。また、加害者のいじめ行為の根底にストレスが関係しているのなら、動機や背景こそ解明されなければならないだろう。そうした解明がないまま刑罰を与えて、心からの反省や謝罪につながるだろうか。加害者に必要なのは刑罰より精神の安定化であり、カウンセラーや臨床心理士だ。刑事裁判を全否定するつもりはないが、個人間での争いの解決を刑事罰だけに期待するのはいろいろな意味で賛成できない。

 かといって、監視社会にしてしまうのも恐ろしい。少し前の北海道新聞によると、近年は探偵事務所などに依頼していじめの調査をしてもらう親が増えているという。いじめの現場を動画などで撮影して学校に証拠として突き付けることで学校もいじめを否定できなくなるのだ。学校がいじめの隠蔽をする以上、いじめ現場の隠し撮りは確かに有効な方法だろう。しかし、これはどう考えても異常な事態だ。しかも、こうした方法は金銭的に余裕のある親しかできない。

 刑事罰に異議を唱えれば、「それならどうやって被害者を救うのか?」という声が聞こえてきそうだ。次回は刑事罰以外の方法について書いてみたい。

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