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2012年9月22日 (土)

海自いじめ訴訟の判決は勝訴といえるのか

 昨日の北海道新聞夕刊と今日の朝刊に札幌地裁での二つの裁判の判決について報道されていた。ひとつは沙流川の水害訴訟。こちらは国側の控訴を棄却する判決で、まっとうなものだと思う。

 気になったのが、海上自衛隊員のいじめ訴訟の方だ。昨日の夕刊は「海自いじめ 原告勝訴 札幌地裁 国に150万円賠償命令」とのタイトルだった。北海道在住の元海上自衛隊員の男性が2005年に上司から繰り返し暴行や暴言を受けて休職を余儀なくされ、後に除隊した。男性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、国に精神的苦痛を受けたとして約3400万円の損害賠償を求めたという裁判だ。国側は、「危険回避のための指導で、いじめではなかった」と主張していたという。

 今日の朝刊のタイトルはやや違う。「海自暴行訴訟 国に150万円賠償命令 札幌地裁 いじめは認めず」となっている。裁判長は、「一連の暴行は指導の範囲を逸脱していた」としているのだが、いじめがあったことは認めていないという。また、PTSDについては「危うく死ぬほどの危険には当たらず、PTSDとの因果関係があるとは認められない」と述べたそうだ。

 いじめを認めず、PTSDとの因果関係も認めていないのだ。しかも賠償額はたったの150万円である。はたしてこれが「勝訴」といえる判決なのだろうか?

 自衛隊員のいじめやハラスメントなどの裁判はいくつも行われているが、被害者(あるいは被害者遺族)は自衛隊がいじめを認めようとしないために法廷で真実を明らかしたいと願って裁判を起こすのが常だ。しかし、今回の判決はその肝心ないじめやPTSDとの因果関係を認めていない。しかも、150万円という賠償金額は弁護士費用程度でしかないだろう。

 被害者は、教育係の上司からヘルメットで頭を殴られたり、おまえは役立たずだといった暴言を日常的に受けたとのことだが、恐らくこれはほんの一例だろう。こうした日常的な暴行や暴言を「いじめ」ではなく「行きすぎた指導」と結論づける根拠は何なのだろうか? これは大津の中学生のいじめ自殺事件で、「いじめ」を「けんか」だと思ったと発言した校長の認識とほとんど変わらないのではないか。

 「危うく死ぬほどの危険には当たらず、PTSDとの因果関係があるとは認められない」という判断も驚きだ。日本ではPTSDの前提として「『危うく死ぬまたは重症を負うような出来事』が存在することが必要」とされる場合がある。ウィキペディアでもそのように書かれている。

 しかし、こうした前提自体がおかしいと思う。たとえば以下のサイトでは「残酷な事件、悲惨な事故、執拗ないじめや暴力、そして戦争などが、その引き金」としている。

PTSD(トラウマ) 

 インターネットで「いじめ PTSD」と検索すればさまざまな事例が出てくるように、いじめや暴力はPTSDの原因となっているのが実態だ。

 PTSDの原因は性被害でも顕著だ。週刊金曜日の872号、873号、874号に「ドキュメント『声を聴かせて』」というタイトルで性被害によってPTSDに苦しむ女性のことが、にのみやさをり氏によって取り上げられているのだが、性犯罪被害者らは想像を絶するPTSDと闘っている。被害者は壮絶な精神的苦痛を受けるのである。

 以下は、にのみやさをり氏の「声を聞かせて-性犯罪被害と共に」(窓社)の感想だ。このブログの著者の方は、夫を自死で失ったことでトラウマに苦しんでいるという。家族の自死もPTSDを引き起こす。

声を聴かせて(どこにいるの、今あなたは)

 PTSDは執拗ないじめや暴力、性犯罪、家族の自死でも生じるのであり、「危うく死ぬほどの危険」があったかかどうかだけを判断基準にするのは誤りだ。

 同じく札幌地裁で争われていた女性自衛官の人権裁判では、原告の主張をほぼ全面的に認め、国が580万円の賠償金を支払うという判決が出されて確定した。被害者は現職のままセクハラで裁判を起こしたところ、パワハラを受け退職を強要されたのである。もちろん彼女もPTSDでカウンセリングに通っているのだが、その回数も裁判後のほうが増えたという(週刊金曜日875号36ページの被害者へのインタビューより)。

 被害者は精神的苦痛を受けて長期の通院治療を余議なくされるだけではなく、職を失ったり友人を失うなどさまざまな被害を受ける。これほどの被害を受けて賠償金額が580万円というのは低すぎる。日本は精神的被害があまりに軽視されているとしか思えない。まして今回の150万円という賠償金はあまりに低いと言わざるを得ない。

 ところでこの判決を言い渡したのは、私が「『えりもの森裁判』で不当判決を下したのは石橋俊一裁判長」 という記事で「ヒラメ裁判官」と批判した石橋俊一裁判長である。「ヒラメ裁判官」とはお上の顔色を伺って判決を出す裁判官のことだ。今回の判決は、僅かな賠償金を認めることで形だけは原告の勝訴に見せかけながら、実態は被害者の主張をほとんど無視しているに等しい。自衛隊を擁護した判決といってもいいだろう。

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