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2012年8月 8日 (水)

シマフクロウ生息地で発破工事を計画している北海道電力

 昨年、「新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書」がとりまとめられた。いわゆる環境アセスメントの手続きである。その後北海道電力は環境調査を実施し、「新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書」を作成して縦覧が7月23日から8月21日まで行われている。そして昨日は新得町の屈足総合会館で「準備書」についての説明会(主催者は北海道で説明をするのは北電)が開かれた。

 縦覧および説明会から明らかになった新岩松発電所新設工事のアセスの問題点について指摘しておきたい。

 事業実施区域一帯は希少動物であるシマフクロウの生息地だ。この新岩松発電所の工事に関してもっとも問題となるのはシマフクロウへの影響だ。だから環境アセスメントにおいてもシマフクロウの実態把握と工事による影響にもっとも力を入れなければならないだろう。

 ところが準備書ではシマフクロウについての情報はすべて非公開になっていて道民は見ることができない。環境保全の観点から極めて重要な種を非公開にして、環境保全の見地から意見を言ってほしいと言われても道民は判断材料がない。これではアセスの意味をなさない。

 ところで北電はシマフクロウの存在についてどう認識していたのだろう。

 事業実施区域一帯にシマフクロウが生息していることは北電も承知していた。そのことは2011年7月8日に北海道が開催した環境影響評価審議会の議事録から知ることができる。この議事録によると、道の担当職員は以下のように述べている(下線は筆者)。

 今回の事業及び規模は道条例の第二種事業に該当するものなので、アセス手続きが必要か、必要でないか判断を行うこととなっています。ただし、今回は事業者である北海道電力が自ら、判定を受けずにアセス手続きを行うこととなりました。これは、既存文献等の調査からこの水系には希少動植物の生息の記録があったこと、企業の社会的責任の観点から判断したことによるものと聞いています。

 北電は既存文献等の調査からこの水系には希少動植物の生息の記録があることを知っており、社会的責任から自らアセス手続きを行ったのである。ところが、北電は希少動植物の存在について、準備書の第11章「方法書についての意見の概要およびそれに対する事業者の見解」で以下のように書いている。

 既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため記載していません。

 「方法書の段階では既存文献で野生生物への影響を確認することができなかった」というのだ。これは道に対する説明と矛盾する。北電は希少動植物の存在を知りながら、準備書に虚偽の記載をしたのだ。

 もうひとつ、昨日の説明会における北電の重大な発言について指摘しなければならない。

 準備書では「地域を特徴づける注目種・群集」の上位性としてオジロワシとクマタカを選定しているが、シマフクロウが選定されていない理由は何か、という十勝自然保護協会事務局長の質問に対し、シマフクロウは調査対象実施区域で確認できなかったので、選定しなかったと答えたのである。

 また出席者から、ここでシマフクロウの声を聞いたとの指摘があった。これに対し、北電は昨年3月から今年2月までの調査ではシマフクロウは確認できなかったと回答した。

 これは驚愕する回答だ。北電の1年間の調査でシマフクロウを確認できなかったというのなら、いったいどんな調査をしたのだろう? これが事実なら杜撰きわまりない調査をしたことを自ら裏付ける発言だ。

 また、「調査対象実施区域で確認できなかった」という発言も聞き逃せない。北電はシマフクロウの生息について専門家4人に意見を聞いているそうだが、専門家らは「調査対象地域に生息していない」などとは絶対に言えない情報を知っているはずだ。シマフクロウの行動圏は広い(環境省のレッドデータブックでは「行動圏は河川沿いに約10~15km」と書かれている)が、事業実施区域の一帯はシマフクロウのコア的生息地なのである。

 北電はシマフクロウの生息について嘘を言っているのだ。

 なぜこのような嘘をついてまでシマフクロウのことを隠そうとするのだろうか? それはシマフクロウが極めて希少な動物であり、この事業がシマフクロウに影響を与える可能性があると捉えているからにほかならないだろう。

 北電が作成したカラーパンフレットである「新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書要約書」の「環境影響評価項目と評価の結果」の中の「騒音」において「建設機械の稼働時間は原則として夜間を避け、可能な限りの低騒音型機械の使用、発破時の防護シートの設置等の対策により騒音の低減に努めます」と書かれている。工事には発破を用いるのだ。

 猛禽類は人や車などの往来、騒音、振動、環境の変化などに極めて敏感であり、それらがストレスを与えることが知られている。詳しくは十勝自然保護協会の以下のページにある「林道でのラリーが野生生物に与える影響」をお読みいただきたい。これは自動車ラリーが猛禽類に与える影響について述べているのだが、工事についてももちろん同様のことが言える。

WRC・ラリー問題 

 ところが、準備書では工事に伴う騒音については「測定時間内における変動する騒音エネルギーの平均値」を出しており、発破を用いるにも関わらず平均化した数値を出して環境基準以下だとしているのである。しかも、影響予測地点は「近傍民家」としており、事業実施場所ではない。これは事業実施区域付近に生息する猛禽類への影響を無視した評価だ。

 はっきり言っておこう。今回の事業はシマフクロウという極めて希少でデリケートな鳥類のコア的生息地で、3年半かけて発破を伴うそれなりの規模の土木工事をするということだ。シマフクロウのコア的生息地でこのような工事を行って「影響がなかった」と断定できる事例があるとは思えない。「影響は軽微」「対策すれば問題ない」などと言ってゴーサインを出す専門家の顔を見てみたいものだ。ちなみに専門家の名前は明らかにできないという。非公開の情報に関して道民を代表してアドバイスするのに、名前も出さないとはどういうことか。専門家の名前を非公開にするから御用学者が跋扈するのである。

 今回の発電所新設工事は、既存の発電所の水車・発電機の老朽化に伴うものである。これらの更新に合わせ、既存の施設を解体し、新たに最大出力を大きくした発電所を新設するという。解体と新設を行うからこそ大規模な工事が発生するのである。既存の規模のまま水車や発電機を新しいものに交換するだけなら期間も短くて済むし、環境への影響もずっと低減されるに違いない。

 希少野生生物に影響を与える可能性がある以上、アセスにおいても解体や新設はやめるという選択肢を検討して然るべきだが、北電ははじめから解体・新設を前提に環境影響評価を行っていて新設はしないという選択肢を用意していない。「はじめに事業ありき」のアセスであることは明瞭だ。

 この環境調査を請け負った会社は北電総合設計株式会社で、北電のグループ企業である。説明会で私はこの会社の資本金は北電が100%出しているのではないかと質問したのだが、「準備書の内容とは関係がない」と言って答えなかった。北電総合設計株式会社のホームページを見ると、資本金が3000万円で株主は北海道電力株式会社と書かれている。北電自身が自社の事業の調査をしているようなものだ。これでは公正な調査や評価はとても期待できない。

 ホームページには「主なアドバイザー」の名前も出ていた。動植物関係のアドバイザーとして辻井達一・藤巻裕蔵・斎藤慶介の名前がある。辻井氏の専門は植物であり、藤巻氏と斎藤氏は動物である。後者の2名がもしシマフクロウに関する4人の専門家に含まれているのなら、公正なアドバイスなど期待するのは所詮無理と言うものだ。

 最後に、司会進行をした北海道の職員の不公正な対応についても書いておきたい。質疑応答のいちばんはじめに十勝自然保護協会の事務局長が北電の虚偽記載に関する見解を求める質問をした。ところが主宰者は「意見なので意見書で出してほしい」と言って北電の回答を回避しようとする発言をした。しょっぱなから唖然とする対応だ。次の発言者はこの事業に全面的に賛成するという意見を述べた。明らかに質問ではなく単なる意見である。ところがこの方の意見に対しては北電に回答を促したのである。

 また、専門家の名前を公表しないことに関して北電に説明を求めているのに、主宰者の横に座っていた道職員が主宰者の許可も得ず、勝手に説明をしはじめたのだ。北海道の職員が北電を擁護しようとしているのが手に取るように感じられた一場面である。

 なお、「方法書」に対して十勝自然保護協会は以下の意見を提出している。

新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書への意見書

【8月10日追記】
 アセス調査を請け負った北電総合設計は、泊原発の安全性に関わる地質調査も請け負っていた。しかも北電総合設計には道庁から2人が天下っているそうだ。2008年の「やらせ」にも関わっていた疑惑がもたれている。

北電・泊原発プルサーマル 安全専門会議の3委員 関連業界・団体から寄付金(しんぶん赤旗)

 泊原発の近くには活断層があると指摘されている。

泊原発近くに未知の活断層か(You Tube)

 以下の記事も参照いただきたい。

シマフクロウを消してしまった北電の環境影響評価(十勝自然保護協会)

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