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2012年8月

2012年8月31日 (金)

原発作業員ハッピーさんについての訂正とお詫び

 私は以前「原発作業員ハッピーさんの疑問」という記事を書いた。彼のツイートがとても不自然に感じられたため、本当に原発の作業員であるかどうかに疑問を呈したのである。

 ところで、最近になって辻仁成氏が以下の記事を書いていることを知った。

愛情路線 2012年8月7日 

 また、原発作業員TS氏も最近になってハッピー氏に会ったそうだ。

 http://twitter.com/sunnysunnynismo/status/240062461938651137 

ただいま(^o^)今日はすごい人に会ったでし。オイラの尊敬するハッピーさんにいよいよ会えたでし!オイラは今日も忙しかったんだけど、オイラたちにいつもハートのイラストを送ってくれている茶畑さんの展覧会がいわきでやってるので行ったんでし。

 このようなことから判断して、彼が福島第一原発で働いている方であることは間違いなさそうだ。辻氏によると、熟練の技術者とのこと。だからもちろん募集によって来ている一般の下請け労働者とは違うし、それなりに責任ある立場の方なのだろう。

 TS氏については以前から「おしどりマコ」氏と面識があるとのことだったので本物の作業員であると思っていたが、ハッピー氏については会った人がいるという情報が得られず、かなり謎であった。

 ということで推測による疑惑は取り下げ、ハッピーさんにはお詫びしたい。また、作業員の方たちが大変な被ばくをしながら作業を続けてくださっていることには感謝したい。

 ただし、私がハッピー氏に疑問を持ったのは事実であるし、「原発作業員ハッピーさんの疑問」に書いた疑問がすべて氷解したわけではない。ハッピーさんの原発の状況についてのツイートはすでに報道されていることが基本で、いわゆる内部告発的なものとは違う。守秘義務によって語れないこともあるのだろうが、守秘義務を守っているからこそ第三者から見て彼のツイーにト疑問が生じたり、楽観的に感じることもあるだろう。希望的な雰囲気が濃い書き方にしているために、お咎めがないのかもしれない。

 TSさんにしてもそうだが、彼らは守秘義務によって隠していることがあるに違いない。マスコミ報道と同じで、彼らのツイートの陰には「知っていても表に出さない事実」がいろいろある。現場の状況を知るために作業員のツイートを参考にするのはいいが、意図的に隠していることがあるということも常に念頭において読むべきだ。

 そして何よりも疑問に思うのが、彼らの線量管理だ。彼らは原発事故当初から福一で働いており、トータルでは相当な被ばく線量になると思われる。辻さんの記事にも「被ばく量が多すぎ、原発を去らなければならない時が近づいていて、彼は悩んでいます」とある。当然のことだろう。

 もちろん事故処理のためには熟練の技術者が必要だ。また、作業員自身が定められた被ばく線量を超えていることを承知のうえで、使命感のもとに長期間作業に従事しているという側面もあるだろう。

 しかし、だからといって定められた被ばく限度を超えている作業員をそのまま従事させていていいわけがない。雇用する側も「強い使命感で作業に携わっている人なら、将来被ばくによる健康被害が生じても損害賠償を求めないだろう」などという思惑のもとに作業に従事させていたり、あるいは将来健康被害が生じても賠償は求めない、などという誓約書をとっているとしたなら、それはあってはならないことだ。

 原発事故から1年半が経ち、技術者不足という問題が現実化してきている。先の見えない原発の苛酷事故処理とはこういうことなのだ。福一の処理だけでも作業員不足で大変な状況になりつつあるのに、もし同じような事故が再び他の原発で起きたなら、とても手に負えないのがこの国の現実だ。こうしたリスクを考えれば、再稼働など絶対にすべきではない。

 ハッピー氏は「石棺しかないでしょう」とのことだが、私もそう思う。ただ、プールに燃料棒がある状態では石棺にはできない。すぐに石棺にしたチェルノブイリとは状況が違うのだ。福一は、いったいいつになったら石棺ができる状態になるのだろう。

 現場の声を真摯に受け止めるなら、国も電力会社も再稼働などという危険きわまりないことに血道を上げるのではなく、福一4号機の倒壊防止と、各地の原発の燃料プールの燃料撤去こそ急ぐべきだ。日本列島はいつ大地震や大津波に襲われるか分からない。できる限り早急に燃料をドライキャスクに移すことこそやらねばならないだろう。

2012年8月29日 (水)

マツダタカネオニグモ調査で望岳台へ

 晴天に恵まれた昨日は、十勝岳の登山口である望岳台にマツダタカネオニグモの調査に行った。下の写真は望岳台からの十勝岳。写真では分かりにくいが、火口からはもくもくと噴煙が上がっている。

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 望岳台(標高930m)周辺には岩塊地があり、散策路も整備されている。岩塊地の周辺には植物も豊富で緑岳のように風は強くなく、マツダタカネオニグモの生息適地のように思える。

 ただし、気になるのは活火山で岩塊が新しいということだ。近年も小規模な噴火が起きている。1988年末の噴火では私の住んでいるところでも降灰があって雪がうっすらと黒くなった。新しい火山の場合、かつては生息していたが大規模な噴火で絶滅したということも考えられる。

 岩塊地に向かうべく散策路の入口を覗いてドッキリ。橋が落ちていて通れそうにない。しかしよく見ると、落ちた橋の横に通路がついている。やれやれ・・・。

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 散策路を歩いていて気づいたのだが、道の脇に並べられている石が、何者かによって動かされている。

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 こんな重い石を人がいたずらで動かすとは考えにくい。しかも、何カ所もある。とすると・・・これはヒグマの仕業だろう。アリでも探して石を動かしたのではなかろうか。人間にとってはとてつもなく重い石でも、ヒグマにとっては片手でちょいと動かせるに違いない。くわばらくわばら・・・。

 ちょっと歩くと、ナキウサギの声が聞こえる。ここはとてもナキウサギが多いところだ。貯め糞や貯食もある。ナキウサギの糞は大きさといい形といい正露丸にそっくりだ。

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 目的の岩塊地にはほどなく着いた。こんな場所だ。

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 露岩帯を登りはじめるとすぐに岩の間に張られた円網を見つけた。「おお、ついに生息確認か!」と小躍りしたのもつかの間、隠れ家からするすると網に出てきた蜘蛛はオレンジ色をしていてマツダタカネオニグモとは違う。ニワオニグモの子グモだ。残念!

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 しばらく岩塊地を這いつくばって網を探したのだが、円網を張っているクモはニワオニグモの子グモばかりだった。それと、サンロウドヨウグモ。サンロウさんは岩穴の入口に水平に近い円網を張っている。

 こちらはヒメグモの仲間。たぶんオオツリガネヒメグモだろう。円網ではなく不規則網を張る。

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 というわけで、今回も残念ながらマツダタカネオニグモを見つけることはできなかった。私はタカネコモリグモやナキウサギの調査などで北海道各地の岩塊地を見ているが、今のところ然別火山群とユニ石狩岳の大崩れでしか確認していない。このクモは環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類になっているが、北海道中央高地のごく一部の地域の露岩帯にしか生息していないとしたなら希少性はかなり高いといえるだろう。

2012年8月26日 (日)

帯広市が学園通りの「変則3車線案」を否定

 「生物多様性に富む農高カシワ林の自然」という記事に追記として書いたが、6月21日に十勝自然保護協会と地球環境を守る十勝連絡会が「学園通り」の問題解決のために帯広市に対して3車線化の提案をした。内容については以下参照。

学園通りの拡幅問題で帯広市に3車線化を提案(十勝自然保護協会活動速報)

 ということで帯広市の検討結果を待っていたのだが、8月24日に自然保護団体に対し説明があった。

 まず、自然保護団体の提案した案(自然保護団体は「変則3車線」としていたが、道路構造令と照らし合わせて整理すると「2車線」とのこと)をもとに作成した詳細な図面を示し、自然保護団体の原案は部分的な修正が必要だが、構造的には可能であるとの説明があった。自然保護団体の懸念していた両側の歩道の確保も可能だという。

 であればこの案が採用されてもよさそうなものだが、結論としては否定されてしまった。関係機関(北海道と帯広警察署)の考え方を確認したうえで、将来の推計交通量と危険性の観点から部分的に2車線にはできない、との見解だ。以下が関係機関の考え方。

①学園通は、将来の自動車交通量(H37推計11,400台/日)により、4車線が必要ということで整備を進めており、未整備区間のみ、2車線にすることにはならない。
②安全面や交通の円滑化からも、4車線→2車線→4車線といった変則的な整備は、危険性が増すため、認められない。
③自動車の交通量も多く、大型車も頻繁に通行している。また、学校が多いことから自転車や歩行者の交通量も多いため、安全面には特に配慮が必要である。
④右折や左折専用の規制は、自動車交通量が非常に多い交差点や複雑な形状の交差点以外は、規制を掛けない。市内のほとんどの交差点に表示されている路面標識(→)は、道路管理者が誘導を目的に設置しており、取り締まりの対象外である。

 そして以下が帯広市の結論。

 学園通については、4車線での整備が必要なことから2車線で整備することにはならない。今後も、関係機関と協議を行い、環境に配慮した線形及び幅員の検討をすすめる。

 まず、帯広市が詳細な図面を作成して自然保護団体の案を検討したことについては評価したい。しかし、帯広市の結論には大きな疑問がある。

 平成37年での交通量を11,400台/日と推計し、これを根拠に4車線化が必要であるとしていることだ。道路構造令では9,600台/日以上の場合は4車線以上とするとなっていることが根拠だ。この推計値はH17年から19年にかけて交通体系調査を行い、人口の減少も加味して20年後の予測をしたものだという。

 ところで都市計画課長の説明によると、平成4年の交通推計量調査で学園通りの交通量は平成22年に16,500台/日と推計されたが、実際には約6,000台/日程度だったそうだ。これは「推計がやや過大だった」などというレベルではない。恐ろしく過大に見積もっていたのである。高齢化が進み人口は減る一方であるのに、平成37年に今の2倍近い交通量になるという推計はとうてい信じられない。

 少なくとも現状の交通量では2車線で問題ない。そして、将来的に4車線化の基準である9,600台以上にならないのであれば過剰な整備をしていることになる。

 ダムの根拠となっている基本高水流量なども、過大に見積もられていることが分かっている。道路整備においても、「はじめに整備ありき」で交通量の過大な推定値を出している可能性が高い。もちろん将来の交通量がどのように変化するかは誰にもわからないが、少なくとも過大の可能性がある不確定な推計交通量をもとに、今の時点で4車線化を決めてしまうのはあまりに早計だ。

 安全性についても疑問が残る。都市計画課長の説明によると、特に4車線から2車線に絞るのは問題が多いとのことだった。もちろん4車線の道路が途中で2車線になることが好ましいとは思わないし、交差点でドライバーが混乱する可能性があることは否定しない。しかし、右折や左折の専用レーンについては線形や表示で工夫をすれば大きな混乱が生じるとは考えにくい。それに、今だって4車線が部分的に2車線になっているわけだが、それがもとで事故などが起きているという説明はなかった。

 前回の提案の際に出された都市計画課長の見解は以下である(十勝自然保護協会のサイトより抜粋)。

・このような具体的な提案がなされたのははじめてであり、提案していただいたことに感謝します。
・道路には構造基準があり、今の幅で3車線化できるかどうか確認が必要。公安委員会との関係もある。このため提案が活かせるかどうかを検討しなければならない。
・国の補助事業で行うことを考えているため、補助事業としての基準に合致しなければならない。
・帯広市としてもカシワ林への配慮は必要と考えており、道路を北側に曲げる変更案を提示して住民と話し合ってきたが、住民の理解が得られていない。
・自転車を利用している高校生などが多いため、歩道は南側にもつけたい(現在は北側にある)。歩行者と自転車用の歩道の場合、3メートル50センチの幅が必要になる。
・道路計画が確定していないため、土地買収などはまだ行っていない。
・内部で検討し、検討結果を説明する。内部検討には1か月かかると思う。

 構造基準も、両側3メートル50センチの歩道もクリアできることが分かった。カシワ林も伐らずにすむ。課長の懸念はほぼクリアできる。ところが今回の回答では不確かな「推計交通量」を持ち出して4車線が必要だというのだ。ここには「4車線という計画を変えたくない」という頑なな姿勢が読み取れる。

 今回、推定交通量の説明を聞き思ったのは、「交通量の実態に合わせた整備をする」ということではなく、「幹線道路として整備したい」という机上の構想が先にあるということだ。だから実際の交通量と照らし合わせ「過剰な整備計画だったかもしれない」という視点はない。反省は決してせず、言い訳に終始するというのは日本のお役所の常である。

 北海道では計画した交通量が見込まれないため、暫定2車線にしている高速道路(高規格道路)が普通にある。したがって学園通りにおいても暫定2車線で様子を見るということで十分ではないか。車線減少という多少の不便さは我慢してもらうという柔軟的な思考も必要だろう。

 帯広市には環境保全の側面からぜひ再考してもらいたいと思う。

2012年8月23日 (木)

人類の生活は環境破壊のうえに成り立っている

 8月7日に「えりもの森裁判」のために札幌に行ったのだが、裁判所も大型店も冷房の温度設定を上げていて適度な室温だった。北海道もようやく節電モードに入ったようだ。本来ならもっと早くからこういう取り組みすべきだったのであり、あまりに遅いと言わざるをえない。こうした取り組みが速やかに実施されなかったのは、原発の再稼働を目論んでのことだろう。

 私は真夏に本州に行くことがしばしばあるのだが、いつも憂鬱なのが冷房の効きすぎだ。電車にのってもビルや店に入っても寒いほど冷房が効いていて、カーディガンが欠かせない。長袖で仕事をしている女性もよく見かける。

 30度を超す屋外と冷房の効きすぎた電車や室内を行ったり来たりしているだけで、体調を崩してしまう。古い建物では冷房の微調整が難しいということはあるかも知れないが、それにしても真夏に長袖を着なければならない室温設定は明らかに過剰だし、これほど無駄なこともない。だから、昨今の節電でようやくまともな室温設定になったことでほっとした思いだ。

 私が小学生のときのことだ。友だちの家で遊んでいると、夕方になって室内がかなり薄暗くなってきた。そこで勝手に照明をつけてしまった。ほどなくして友だちの母親が部屋に入ってきたのだが「まだ明るいのに電気なんかつけて、もったいない!」と怒って、電気を消してしまった。私がつけただけに、なんとも決まりが悪い思いをした。

 こんなふうに夕方になってもぎりぎりまで照明をつけないというようなことは、ひと世代前の人たちの当たり前の感覚だった。何につけても「もったいない」という感覚が染みついていたのだ。少なくとも4、50年前は。ところが今はどうだろう。

 知人の家に行ったときのことだ。夕食のとき、台所の電気がつけっぱなしになっていたので消しに行ったところ、家主に「暗くてあずましくない(北海道語で落ち着かない、不快という意味)からつけておいてちょうだい」と言われて驚いた。夜でも昼間のように明るくしていないと嫌だというわけだ。「もったいない」などという意識はかけらもない。ペーパータオルやラップなども使い放題だ。ほんの数十年のあいだに日本人の感覚はここまで変わってしまい、電気を湯水のごとく使うことが当たり前になってしまった。

 原発の賛否の意見の中に、「原発がなくても電気は十分足りているから、どんどん使おう」というものがあったが、「供給余力があるからどんどん使おう」という思考はおおよそ節約ということを考えていない。電力会社は原発を次々と建設し、オール電化住宅などを推進することで意図的に需要をつくりだし、必要以上に電気を使わせようとしてきたのである。人はいちど浪費癖がつくとなかなか止められない。ほんの数十年のあいだに、私たちはとんでもない浪費家になってしまったのである。

 ところで、自然エネルギーであっても発電をするには必ずリスクがある。水力発電であればダムによる自然破壊、下流での河床低下や河川生態系の破壊があるし、海岸の浸食にもつながっている。ダムが洪水を助長することすらある。万一ダムが決壊するようなことがあればもちろん甚大な被害がでる。

 風力発電は建設場所の自然破壊、低周波音による健康被害、鳥類の衝突事故などの問題がある。地熱発電は有毒物質が含まれる熱水を利用するので、地下水や土壌などの汚染の問題がつきまとう。自然破壊、景観破壊の問題もある。また太陽光発電についても以下のような指摘がある。

太陽光発電による環境破壊(がん治療と免疫)

太陽光発電は環境破壊の元凶? (PJ news)

 原発から脱却し自然エネルギーに転換すれば万事オーケーというわけでは決してない。私たちの日々の生活は限りある資源を食いつぶし、環境破壊のうえに成り立っていることを忘れてはならない。こうしたことを考えるなら、少しでも無駄づかいをなくし、できる限りの倹約をすべきなのだ。もちろん電気に限らず、すべての物についてである。

 ケニアのワンガリ・マータイさんが「もったいない」という日本語に感銘を受け世界に発信したのは2005年。

MOTTAINAIとは 

 日本人はあの時、マータイさんの言葉をどのように受け止めたのだろう。他人事のように頭の中を通り過ぎていってしまった人も多かったのではなかろうか。

 自然エネルギーによる発電のための環境破壊などたいしたことはない、と思っている人もいるかもしれない。しかし、人類はこれまでにどれほど自然破壊をしてきたことか。そしてどれほどの生物を絶滅させてきたことか。「たいしたことない」を積み重ねていくうちに自然破壊は広大な面積となり、やがて取り返しがつかないことになる。環境を破壊しつづけるというのは自分たちの生活基盤を劣化させていることに他ならない。そのツケは必ず自分たちに返ってくるのである。

 大量生産・大量消費を改め、節約・倹約を徹底することなしにエネルギー問題、環境問題は語れないし、人類に未来はないと思う。

2012年8月20日 (月)

里山の生物多様性を破壊するトヨタテストコース問題

 トヨタ自動車のテストコースのことについてはこれまでも以下の記事に書いているが、トヨタ自動車はこの秋にも造成に着手しようとしている。

トヨタのテストコースは必要か? 

トヨタ自動車のテストコース造成が公共事業?! 

 この開発事業は、愛知県の豊田市と岡崎市にまたがる里山を破壊して652ヘクタール(東京ドームの141倍)にも及ぶ施設を建設するというものだ。ここには多数の希少動植物が生息・生育している。私は行ったことがないが、サシバやオオタカ、ハチクマなどの猛禽類やミゾゴイをはじめとした多くの絶滅危惧種が生息しているという。

 サシバなどはちょっと前までは里山に普通に見られた猛禽類だが、今では絶滅危惧Ⅱ類になってしまった。こうした生物にとって残された里山はかけがえのない生息地だ。  青山貞一氏が、この問題について分かりやすくまとめた動画を作成した。13分ほどの動画なので是非ごらんいただきたい。トヨタ自動車がいかに独善的に事業を進めているのかがわかる。

21世紀の巨大開発と秀逸な里山破壊 トヨタテストコース

 すでにトヨタ自動車はいくつものテストコースを持っているのであり、まずは必要性に疑問を抱かずにはいられない。こうした開発行為は税金対策ではないかと疑ってしまう。

 生物多様性保全の面から考えても、大企業こそ率先して生物多様性国家戦略を遵守して開発を見直すべきだし、行政はこのような開発行為を規制する立場にある。ところが、この事業では行政(愛知県企業庁)がトヨタと手を組んで開発を進めているのである。

 この動画によると、「環境保全交渉の地元窓口となっていた自然保護団体が条件つきながら開発を容認する声明を発表した」とある。私は若い頃から自然保護運動に関わってきたが、これはかなり驚きだ。生物多様性保全は国をあげて取り組まねばならないことであり、特定の自然保護団体の判断に委ねるようなことではない。

 しかも行政は反対する地権者を裁判に訴えるという暴挙に出ている。中国電力が上関原発に反対する住民を提訴したのと同じ構図であり、スラップ訴訟といえるだろう。また、全国環境保護連盟の岩田薫氏らが刑事告発を行っているほか、行政訴訟も提起している。地元の自然保護団体こそ最後まで主張を貫いてほしかった。

 愛知県は分厚い「レッドデータブックあいち2009」を出している。植物編と動物編に分かれており、植物編は758ページ、動物編は649ページもある。これだけ立派なレッドデータブックを出している都道府県はほとんどないだろう。「発刊にあたって」で、当時の神田真秋知事は以下のように書いている。(一部抜粋)

 私たちは自然から多くの恩恵を受け、里地里山では人と自然が共生する生活を営んできました。
 しかし、近年の都市化、工業化の進展や大量生産・大量消費型の社会システムの変化が自然環境に様々な負荷をもたらしており、それらを要因とする野生生物種の減少がみられ、その保護は本県のみならず、地球規模での課題となっています。
 平成4年にはブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットで「機構変更枠組み条約」と「生物多様性条約」が採択され、わが国もこれらの条約を締結しました。
 このような状況の中で、本県では、絶滅の恐れのある希少な野生生物種を守り、生物多様性の確保を図っていくため、平成13年度に絶滅のおそれがある野生生物の分布状況や生育状況をレッドデータブックあいちとしてとりまとめました。

 里山の重要性と生物多様性保全の必要性を述べているのである。

 また「レッドデータブックあいち2009動物編」の「ミゾゴイ」の項の「保全上の留意点」には以下のように書かれている。

 丘陵地から山間部に存在する大小の沢筋がこの種の催事場所であることが多く、こうした環境を保全する必要がある。開発や道路建設を行う場合は、生息するすべての生物について調査を行って環境を保全する努力が重要であり、既設の道路や開発部分では環境回復の施策が必要である。

 2005年の愛知万博では当初予定されていた「海上の森」の保護をめぐって反対運動が展開され、オオタカなどの希少動物の生息地を破壊する万博は時代に逆行するとの批判を浴びた。そして、結果的には会場を変更することになったのである。この時の知事が神田真秋氏だ。神田氏はこのような経緯から少しは生物多様性保全に理解を持ったのかと思ったのだが、どうやら彼の生物多様性保全は口先だけだったようだ。

 トヨタのテストコース開発は、神田前知事自身が発した里山の生物多様性保全の精神に逆行するものであり、愛知県のレッドデータブックの記述を反故にするものだ。

 このトヨタ自動車のテストコース問題は、事業主がトヨタという大企業だけにマスコミなどではほとんど報じられない。しかし時代錯誤の自然破壊であり、先進国としてあまりに恥ずかしい行為だ。

2012年8月17日 (金)

福島の昆虫の奇形について思うこと

 つい先日、福島県などのヤマトシジミの羽や目に奇形が生じているという研究結果が発表された。

チョウの羽や目に異常-被ばくで遺伝子に傷か-琉球大(時事通信)

 これを巡ってネット上でさまざまな異論が出ているのだが、批判のためによく引用されているのが以下のサイトだ。

ヤマトシジミの奇形は原発の影響によるものなのか(むしブロ+)

 「むしブロ+」さんは、ヤマトシジミの場合、北限に近い生息地では奇形が多いことが以前から知られていること、サンプルサイズが小さいので統計データの信ぴょう性が低いこと、実験条件の一部が不明であること、昆虫は通常放射線に強いことなどを指摘して被ばくによる影響であるとすることに疑問を投げかけ、鵜呑みにすべきではないと言っているのである。よく読めば分かるが、被ばくによる影響を完全に否定しているわけではない。

 「むしブロ+」さんのような視点は確かに必要なことだし、批判的精神は大切だと思う。ところが、こうした意見が広まると、すぐにこのヤマトシジミの研究自体を否定したりデタラメだ、トンデモだと断言する人が出てくる。明らかに不適切な発言だ。このような短絡的な意見をいう方は、大方「安全サイド」思考の方のように思われる。以下のtogetterのコメント欄でも、「放射脳」などという揶揄表現が出てきて読むに堪えない。

ヤマトシジミの異常は原発事故の影響? 

 一方、8月16日の北海道新聞に「福島のワタムシ 1割奇形」という記事が掲載された。福島第一原発から約32キロ離れた川俣町山木屋地区で採集したワタムシに、通常の10倍以上の比率で脚の壊死、触覚の欠損などの奇形が見られたとのこと。

福島のワタムシ 1割奇形 被ばく原因の可能性 

 ヤマトシジミの研究例を否定する人たちは、ワタムシの事例についてはどう解釈するのだろうか。

 動植物の奇形はもちろん被ばくの影響だけで生じるわけではないが、被ばくが影響することも間違いない。こうした研究の積み重ねによって、今回の原発事故による野生生物への被ばくの影響が次第に明らかにされていくだろう。ヤマトシジミの事例も、今の段階で被ばくの影響ではないと断定してしまうのは早計だ。まして匿名のツイッターで野次るのはどうかと思う。

 福島原発事故による放射能汚染、被ばくのことに関してはネット上でさまざまな意見が飛び交っているが、安全サイドの意見の方と危険サイドの意見の方が相手を否定あるいは批判しあっている感が否めない。

 いろいろな意見があるのは当然だ。しかし、気になるのは断定できない不確定な事象について断定的な発言をし、異なる意見に対して罵倒するかのような批判をしている人をしばしば見かけることだ。

 福島の原発事故による被ばくに関しては、今後どのような影響が出るのか、あるいは出ないのか、誰にも分からないはずだ。同じ原発事故であっても、放出された核種やその量はチェルノブイリとは同じではないだろうし、もちろん原爆とも同じではない。被ばくによる健康被害は数年後に顕著になると言われており、今回の事故による環境への影響、健康被害は未知としかいいようがない(もちろん現時点でも被害が出てきているとは思うが)。

 それにも関わらず、「たいしたことはない」「心配するレベルではない」という人たちはいったい何を根拠にそんなことを言えるのだろう。もちろん、危険サイドの発言をしている人でも「健康な人はいなくなる」などという断定的な発言は控え、理由を示したうえで「可能性がある」「可能性が高い」という表現に留めるべきだ。また、やむを得ず汚染地域に住んでいる人たちに対して「避難しないのはおかしい」などという言い方も慎むべきだと思う。

 それからツイッターやブログなどを読んでいて気になるのは、自分と異なる意見の方に対し誹謗中傷、あるいは罵倒するような発言をしばしば見かけることだ。匿名であるからこそ、安易にこうした書き方をする傾向があるのだろう。内容的には賛同できる記事を書いていても、あまりに誹謗中傷や罵倒のような表現が多いと辟易としてくる。そのような書き方をすることで注目されると思って意図的にそうしているのかもしれないが、私には逆効果に思える。

 不確定なことを断定する人、根拠も示さず感情的な主張をする人、他者を罵倒したり誹謗中傷発言をするような人こそ信頼に値しないと私は思う。

2012年8月16日 (木)

緑岳でのマツダタカネオニグモ調査

 14日は大雪山の緑岳中腹の岩塊地に出かけた。前回の桂月岳に続き、高山の岩塊地でのマツダタカネオニグモの調査だ。

 高原温泉から急坂を登ると、まだ雪渓の残る第一花畑に出る。もう花の盛りは過ぎていて、チングルマは大半が実になっている。ピンクのエゾノツガザクラの花は終わってしまったようだが、アオノツガザクラ(写真上)やエゾコザクラ(写真下)はまだ十分楽しめた。

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 第一花畑から第二花畑を経て、ハイマツの緩斜面をたどると緑岳への大斜面に出る。岩塊の斜面なのだが、ハイマツも結構多い。斜面の中ほどより少し上、標高1850メートル前後のところにハイマツの少ない露岩帯があり、そこが目的地だ(緑岳に向かって右側に崩壊斜面があるが、左側の岩塊斜面に登山道がついている)。

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 前日は雨天だったが、この日は晴れて登山日和になった。岩の間に網を張るマツダタカネオニグモは、晴天になると一斉に網を張り始めることが多い。だから、ここに生息していたならこんな日は網が見られる可能性が高い。

 緑岳の大斜面を登り始めると、風がどんどん強くなってきた。ときどき吹き飛ばされそうな強風に襲われひどく寒い。さっきまでTシャツ一枚で汗をかいていたのだが、長袖シャツを着て、さらに合羽の上着も着込んだ。それでも寒い。

 目的地の岩塊斜面でひとしきり網を探したのだが、結局見つけることはできなかった。やはり大雪山の高山帯には生息していないのだろうか。

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 この岩塊地にはもちろんナキウサギが生息していて、ときおり鳴き声が聞かれる。岩穴には貯食もあった。ハイマツばかりでナキウサギの餌になる植物が豊富とは思えないのだが、どこからかちゃんと植物を集めてきている。こんな厳しい環境で生きているナキウサギの生命力に驚かされる。

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 日本の山は、冬には世界一の強い風が吹くという。これは、ヒマラヤの北と南を迂回してくるジェット気流が日本の上空で収斂するためだそうだ。(小泉武栄:美しく世界的にも得意な日本の山 参照)

 夏でも日によってはかなりの強風にさらされる高山の露岩帯は、円網を張るクモにとっては条件のよい環境ではないのかもしれない。雲海におおわれることが多ければ餌となる昆虫もそれほど捕獲できないだろう。これまでこのクモが確認されているのは森林帯にある露岩帯なのだが、高山帯より森林帯の方がはるかに条件は良いように思える。

 もちろんこれだけの調査では結論づけられないが、大雪山の高山の露岩帯には生息していない可能性の方が高いような気がしてきた。

 高原温泉には、世界でここでしか知られていないダイセツヒナオトギリの群落がある。かつてはもっと広く分布していたもののここだけに取り残されてしまったのだろうか。なんとも不思議な植物だ。

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2012年8月13日 (月)

「黒い雨」と放影研の欺瞞

 NHKは政府におもねった番組が多くて期待はずれのことが多々あるが、8月6日のNHKスペシャル「黒い雨 活かされなかった被曝者調査」は、久々に重要な内容の告発番組だった。

 広島、長崎の原爆による被曝者の調査を行ってきたABCC(原爆障害調査委員会。のちに放射線影響研究所として引き継がれた)は、原爆投下直後に降った「黒い雨」に当たった人たちの調査を行っており、「黒い雨」などの残留放射線の影響について指摘した報告書も出されていた。しかし、放影研は残留放射線の影響を考慮しようとせず、「黒い雨」の調査も隠し続けてきたのである。

 守田敏也さんと「さつき」さんが番組内容を書き起こししている。以下は守田さんによる書き起こし。

明日に向けて(526)「黒い雨 活かされなかった被曝者調査(NHKスペシャルより) 

 以下は「さつき」さんによる書き起こしと感想。

8月6日NHKスペシャル「黒い雨」文字おこし(その1) 

8月6日NHKスペシャル「黒い雨」文字おこし(その2) 

「黒い雨」、納得できない放影研の主張 

 「黒い雨」のことについては毎日新聞に加藤小夜さんの「『黒い雨』被害者切り捨て」という記事が掲載されている。広島の「黒い雨」で被曝した人々は政府に対して「擁護対象区域」の拡大を求めた。また広島市も援護対象区域の6倍の広さで黒い雨が降ったと主張して「援護対象区域」の拡大を求めた。ところが、厚労省の有識者検討会は、多数の被曝者らの証言を無視して対象区域の拡大を認めず、国もそれを追認した。「黒い雨」の被害者は今も被曝者として認められていないのである。

記者の目:「黒い雨」被害者切り捨て=加藤小夜 

 毎日新聞の記事は守田さんも紹介している。リンク切れの際はこちらを参照いただきたい。

明日に向けて(524)「背を向けたまま費学国を名乗るな」(毎日進軍「記者の目」より) 

 もうひとつ、週刊金曜日8月10日号(907号)の「『ヒロシマからフクシマへ』-闘い続ける写真家、福島菊次郎。90歳」という記事から、ABCC(放影研の前身である原爆傷害調査委員会)について書かれている部分を以下に引用しておきたい。

 ABCCは日米合同の委員会と言うが、ペンタゴン直属の軍事機関。巨大な国家機密の暴力そのもの。疫学・生物統計学部では被曝者36万人の戸籍原簿を保管し、被曝地点、熱線を受けた角度、周囲の状況等を地図に落とし、10万人を二年に一度検査し、死亡届が出ると直ちに喪服を着た職員が遺体の提供を遺族にお願いしに行く。僕はABCCを騙して実際に中に入り、どれくらい被曝者が解剖されたかを知るわけです。48年からの二年だけで5592体。あらゆる臓器の克明なプレパラートを作っていた。ペンタゴンは当時、被曝者を核兵器開発の実験材料にするため「一切治療しないように」と通達を出していた。中村さんも奥さんが亡くなったとき、葬式を出すために解剖を受け入れ、3000円もらいました。

 一方、最近になってイアン・ゴッダード氏は日本の原爆被曝者のデータを解析し、低線量被曝による発癌や癌以外の病気について警鐘を鳴らしている。ホルミシス(危険性よりも放射線が健康によいとする説)の疑問点も具体的に示している。また、遺伝子の受けるダメージは低線量被曝が高線量より害があるという推論を裏付ける証拠もグラフを用いて指摘している。

低線量放射線 新しい原爆研究報告 

 原爆被曝者に関する膨大なデータを持ちながら、低線量による被ばく、「黒い雨」による被ばくを徹底的に無視し、被曝者たちを治療もさせずに放置してきた放影研の責任は極めて重い。広島、長崎の原爆被害者はまさにモルモットにされたのである。

 原爆投下から67年経ち、原発事故という惨事を経たいまになってようやく原爆による被害実態が明るみになりつつある。そして何よりも恐ろしいのは、また福島の原発事故で同じことを繰り返そうとしているこの国の姿勢だ。原爆による被ばくの事実がこれほどの年月、隠されてきたのである。日本政府は福島で起こっていること、これから起こることも隠し続けようとするに違いない。

 南相馬市の「ぬまゆ」さんも、原発が爆発したときに雨に当たっている。

大震災と原発事故に・・どう対処する?(ぬまゆのブログ その1)

 そして彼女には原発事故以来、原因不明の不可解な症状が次々と現れている。今日はご自身と友人の脱毛について書いている。

わたくしと、親友の「頭」(ぬまゆのブログ その3)

 ぬまゆさんを襲った症状は被曝の急性症状である可能性が高い。首都圏でさえ鼻血、下痢、紫斑など、被ばくによる急性情状が疑われる報告が多数ある。ところが、政府は8月10日に楢葉町の警戒区域を解除して、町民に帰還を呼び掛けた。子どもたちの甲状腺の検査も消極的だ。またも被曝者をモルモットにしようというのだろうか。

 被曝者がどれほど事実を訴えても、データを隠し責任逃れのために事実を見ようとしない人たち。ここまで過去に学ばない国であるという現実に、身の毛のよだつ恐ろしさを感じてしまう。

2012年8月12日 (日)

置戸町オンネアンズのナキウサギ

 昨日、地形の研究者らに同行して置戸町のオンネアンズに行った。ここは1928年にナキウサギがはじめて確認された場所だ。山火事のあとに植林したカラマツが食害にあい、罠で捕獲を試みたところナキウサギが捕獲されたのである。「はじめて確認された」というのは「北海道でのナキウサギの生息が捕獲によって学術的に明らかにされた」という意味だ。もちろんアイヌの人たちはナキウサギの存在を知っていたのだろうし、入植者もナキウサギのことを「ゴンボネズミ」と呼んでいて存在を知っていた。

 ナキウサギの生息地といえば、大雪山の高山帯のガレ場を連想する人が多いかもしれないが、低山の森林帯にある岩塊地にも生息している。オンネアンズもそのような生息地のひとつだ。そして、このような低山に点在する生息地こそ道路建設や伐採などによって破壊される危険性が高いのである。

 オンネアンズ川流域は網の目のように林道が張り巡らされているのだが、この日は2カ所の生息地を確認することができた。一カ所は林道の奥にある岩塊堆積地で、規模は大きくはない。ここではナキウサギが噛み切ったベニバナヤマシャクヤクがあった。

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 もう一カ所は、「ナキウサギがはじめて捕獲された場所」と思われるところだ。林道からは岩塊地は見えないが、林内に入ると岩塊のある斜面が点在している。ただし、広大な露岩帯が広がっているわけではなく、航空写真などでは分からない。地形の研究者によると地滑り地形とのことだ。

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 岩塊の中に貯食が見られたほか、噛み切った植物もあった。また鳴き声も2回聞かれた。ここでは今でもナキウサギが生き続けているのである。

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 尾根の上部は平坦地となっており、おそらくここに植えられたカラマツの苗が食べられたのだろう。

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 ここには冷気が吹き出す風穴も見られた。岩の隙間に温度計を差し込むと6度前後まで温度が下がった。

 

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 じっくりと探せば、この一帯にはほかにも生息地があるのだろう。置戸町には中山風穴(春日風穴)もあり、ナキウサギ生息地が点々とある。ナキウサギ生息地に大規模林道も予定されていたが中止になった。これ以上、ナキウサギ生息地を壊すことのないように願いたい。

2012年8月10日 (金)

えりもの森裁判控訴審が結審

 7日は「えりもの森裁判」の口頭弁論があり、結審だった。

 控訴審がはじまってからの経緯については前回の記事に書いたが、原告らが現場の写真を証拠として提出し、価値のある木が多数伐られて現場に放置されていることを示したことに対し、北海道は「写真では場所が特定できない」という驚くべき主張をしはじめた。

 現場を熟知している森林管理者が、原告の提出した現場写真が本件現場であると認めないというのであれば、管理者としての資格がないだろう。「写真では場所が特定できない」などというのは言い逃れでしかないし、まるで私たちが嘘の証拠を出していると言わんばかりだ。

 北海道の代理人である藤田美津夫弁護士は、被告である道職員の説明にしたがって準備書面を書いているのだろうが、弁護士も現地に行っているのである。こういう言い逃れの主張を平然するというのはいかがなものか。いくら依頼人に不利なことでも、事実は事実として認めるべきだろう。

 このために、原告側は自然保護団体のメンバーら4人の陳述書を証拠として提出した。原告が証拠として提出した写真が本件現場のものであることを証言する陳述書だ。被告の言い逃れの主張のために、こんな当たり前のことでいちいち書面を出さねばならないのである。

 被告側はあと一回反論をしたいとのことだったので、最後にもう一度書面を出して高裁での審理が終了する。

 「受光伐」(幼樹・稚樹の育成のために上層木を抜き伐りする)として376本の立木を販売する契約を行ったのに、実際にはほぼ皆伐され403本もが「地ごしらえ」と称して過剰に伐られていたのである。また伐採跡地には一面トドマツの植林がなされていた。常識的に考えれば、おおよそ「受光伐」などと言える伐採ではなく、拡大造林そのものだ。これほどの過剰伐採をしておきながら北海道は証拠も示さずに「損害はなかった」と主張している。

 控訴審での1回目の口頭弁論で裁判長は「いくらかでも損害があったら原判決を破棄せざるを得ない」と述べた。ということは、控訴審では一審の判決を破棄するか否かを判断するというスタンスのように思われる。裁判長にはぜひ常識的な判断をしていただきたいと思う。

判決は10月25日、札幌高等裁判所で午後1時10分である。

2012年8月 8日 (水)

シマフクロウ生息地で発破工事を計画している北海道電力

 昨年、「新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書」がとりまとめられた。いわゆる環境アセスメントの手続きである。その後北海道電力は環境調査を実施し、「新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書」を作成して縦覧が7月23日から8月21日まで行われている。そして昨日は新得町の屈足総合会館で「準備書」についての説明会(主催者は北海道で説明をするのは北電)が開かれた。

 縦覧および説明会から明らかになった新岩松発電所新設工事のアセスの問題点について指摘しておきたい。

 事業実施区域一帯は希少動物であるシマフクロウの生息地だ。この新岩松発電所の工事に関してもっとも問題となるのはシマフクロウへの影響だ。だから環境アセスメントにおいてもシマフクロウの実態把握と工事による影響にもっとも力を入れなければならないだろう。

 ところが準備書ではシマフクロウについての情報はすべて非公開になっていて道民は見ることができない。環境保全の観点から極めて重要な種を非公開にして、環境保全の見地から意見を言ってほしいと言われても道民は判断材料がない。これではアセスの意味をなさない。

 ところで北電はシマフクロウの存在についてどう認識していたのだろう。

 事業実施区域一帯にシマフクロウが生息していることは北電も承知していた。そのことは2011年7月8日に北海道が開催した環境影響評価審議会の議事録から知ることができる。この議事録によると、道の担当職員は以下のように述べている(下線は筆者)。

 今回の事業及び規模は道条例の第二種事業に該当するものなので、アセス手続きが必要か、必要でないか判断を行うこととなっています。ただし、今回は事業者である北海道電力が自ら、判定を受けずにアセス手続きを行うこととなりました。これは、既存文献等の調査からこの水系には希少動植物の生息の記録があったこと、企業の社会的責任の観点から判断したことによるものと聞いています。

 北電は既存文献等の調査からこの水系には希少動植物の生息の記録があることを知っており、社会的責任から自らアセス手続きを行ったのである。ところが、北電は希少動植物の存在について、準備書の第11章「方法書についての意見の概要およびそれに対する事業者の見解」で以下のように書いている。

 既存資料(方法書の段階)では、対象事業による野生生物への影響を確認することができなかったため記載していません。

 「方法書の段階では既存文献で野生生物への影響を確認することができなかった」というのだ。これは道に対する説明と矛盾する。北電は希少動植物の存在を知りながら、準備書に虚偽の記載をしたのだ。

 もうひとつ、昨日の説明会における北電の重大な発言について指摘しなければならない。

 準備書では「地域を特徴づける注目種・群集」の上位性としてオジロワシとクマタカを選定しているが、シマフクロウが選定されていない理由は何か、という十勝自然保護協会事務局長の質問に対し、シマフクロウは調査対象実施区域で確認できなかったので、選定しなかったと答えたのである。

 また出席者から、ここでシマフクロウの声を聞いたとの指摘があった。これに対し、北電は昨年3月から今年2月までの調査ではシマフクロウは確認できなかったと回答した。

 これは驚愕する回答だ。北電の1年間の調査でシマフクロウを確認できなかったというのなら、いったいどんな調査をしたのだろう? これが事実なら杜撰きわまりない調査をしたことを自ら裏付ける発言だ。

 また、「調査対象実施区域で確認できなかった」という発言も聞き逃せない。北電はシマフクロウの生息について専門家4人に意見を聞いているそうだが、専門家らは「調査対象地域に生息していない」などとは絶対に言えない情報を知っているはずだ。シマフクロウの行動圏は広い(環境省のレッドデータブックでは「行動圏は河川沿いに約10~15km」と書かれている)が、事業実施区域の一帯はシマフクロウのコア的生息地なのである。

 北電はシマフクロウの生息について嘘を言っているのだ。

 なぜこのような嘘をついてまでシマフクロウのことを隠そうとするのだろうか? それはシマフクロウが極めて希少な動物であり、この事業がシマフクロウに影響を与える可能性があると捉えているからにほかならないだろう。

 北電が作成したカラーパンフレットである「新岩松発電所新設工事環境影響評価準備書要約書」の「環境影響評価項目と評価の結果」の中の「騒音」において「建設機械の稼働時間は原則として夜間を避け、可能な限りの低騒音型機械の使用、発破時の防護シートの設置等の対策により騒音の低減に努めます」と書かれている。工事には発破を用いるのだ。

 猛禽類は人や車などの往来、騒音、振動、環境の変化などに極めて敏感であり、それらがストレスを与えることが知られている。詳しくは十勝自然保護協会の以下のページにある「林道でのラリーが野生生物に与える影響」をお読みいただきたい。これは自動車ラリーが猛禽類に与える影響について述べているのだが、工事についてももちろん同様のことが言える。

WRC・ラリー問題 

 ところが、準備書では工事に伴う騒音については「測定時間内における変動する騒音エネルギーの平均値」を出しており、発破を用いるにも関わらず平均化した数値を出して環境基準以下だとしているのである。しかも、影響予測地点は「近傍民家」としており、事業実施場所ではない。これは事業実施区域付近に生息する猛禽類への影響を無視した評価だ。

 はっきり言っておこう。今回の事業はシマフクロウという極めて希少でデリケートな鳥類のコア的生息地で、3年半かけて発破を伴うそれなりの規模の土木工事をするということだ。シマフクロウのコア的生息地でこのような工事を行って「影響がなかった」と断定できる事例があるとは思えない。「影響は軽微」「対策すれば問題ない」などと言ってゴーサインを出す専門家の顔を見てみたいものだ。ちなみに専門家の名前は明らかにできないという。非公開の情報に関して道民を代表してアドバイスするのに、名前も出さないとはどういうことか。専門家の名前を非公開にするから御用学者が跋扈するのである。

 今回の発電所新設工事は、既存の発電所の水車・発電機の老朽化に伴うものである。これらの更新に合わせ、既存の施設を解体し、新たに最大出力を大きくした発電所を新設するという。解体と新設を行うからこそ大規模な工事が発生するのである。既存の規模のまま水車や発電機を新しいものに交換するだけなら期間も短くて済むし、環境への影響もずっと低減されるに違いない。

 希少野生生物に影響を与える可能性がある以上、アセスにおいても解体や新設はやめるという選択肢を検討して然るべきだが、北電ははじめから解体・新設を前提に環境影響評価を行っていて新設はしないという選択肢を用意していない。「はじめに事業ありき」のアセスであることは明瞭だ。

 この環境調査を請け負った会社は北電総合設計株式会社で、北電のグループ企業である。説明会で私はこの会社の資本金は北電が100%出しているのではないかと質問したのだが、「準備書の内容とは関係がない」と言って答えなかった。北電総合設計株式会社のホームページを見ると、資本金が3000万円で株主は北海道電力株式会社と書かれている。北電自身が自社の事業の調査をしているようなものだ。これでは公正な調査や評価はとても期待できない。

 ホームページには「主なアドバイザー」の名前も出ていた。動植物関係のアドバイザーとして辻井達一・藤巻裕蔵・斎藤慶介の名前がある。辻井氏の専門は植物であり、藤巻氏と斎藤氏は動物である。後者の2名がもしシマフクロウに関する4人の専門家に含まれているのなら、公正なアドバイスなど期待するのは所詮無理と言うものだ。

 最後に、司会進行をした北海道の職員の不公正な対応についても書いておきたい。質疑応答のいちばんはじめに十勝自然保護協会の事務局長が北電の虚偽記載に関する見解を求める質問をした。ところが主宰者は「意見なので意見書で出してほしい」と言って北電の回答を回避しようとする発言をした。しょっぱなから唖然とする対応だ。次の発言者はこの事業に全面的に賛成するという意見を述べた。明らかに質問ではなく単なる意見である。ところがこの方の意見に対しては北電に回答を促したのである。

 また、専門家の名前を公表しないことに関して北電に説明を求めているのに、主宰者の横に座っていた道職員が主宰者の許可も得ず、勝手に説明をしはじめたのだ。北海道の職員が北電を擁護しようとしているのが手に取るように感じられた一場面である。

 なお、「方法書」に対して十勝自然保護協会は以下の意見を提出している。

新岩松発電所新設工事環境影響評価方法書への意見書

【8月10日追記】
 アセス調査を請け負った北電総合設計は、泊原発の安全性に関わる地質調査も請け負っていた。しかも北電総合設計には道庁から2人が天下っているそうだ。2008年の「やらせ」にも関わっていた疑惑がもたれている。

北電・泊原発プルサーマル 安全専門会議の3委員 関連業界・団体から寄付金(しんぶん赤旗)

 泊原発の近くには活断層があると指摘されている。

泊原発近くに未知の活断層か(You Tube)

 以下の記事も参照いただきたい。

シマフクロウを消してしまった北電の環境影響評価(十勝自然保護協会)

2012年8月 5日 (日)

マツダタカネオニグモは大雪山の高山帯に生息しているか?

 3日は大雪山の桂月岳に登ってきた。黒岳の石室からすぐの山だが、これまで登ったことはなかった。

 今回の登山の主たる目的は、マツダタカネオニグモ(Aculepeira matsudae)の生息調査だ。このクモは岩の積み重なった岩塊地に生息するのだが、今のところ北海道中央高地の然別火山群一帯と、ユニ石狩岳(ユニ石狩川コース)の登山コースの途中にあるガレ場でしか確認されていない。然別火山群の生息地は標高がおよそ1000~1200メートル前後であり、ユニ石狩岳の生息地は標高約1300メートルだ。どちらも山地ではあるが森林限界より上の高山帯というわけではない。

Matsudatakaneoni3


 岩塊地はもちろん大雪山の高山帯にもある。私はこれまでにニペソツ山の前天狗岳の岩塊地や白雲岳の山頂近くの岩塊地でこのクモがいないかと探したことがあるのだが、見つけることができなかった。

 桂月岳も山頂付近には岩塊地がある。そこで、調査に行ったのだ。山頂付近の岩塊地はこんな感じ。

P10400101


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 面積的にはそれほど広大ではないものの、大きな岩の積み重なりがあり生息が可能と思われるのだが、残念ながら見つけることはできなかった。

 このクモに大変よく似た近縁種のAculepeira carbonarioidesは、北米大陸ではアラスカ、カナダのほかロッキー山脈の岩塊地に生息しており、コロラドでは標高11.000フィート(メートルに換算すると3,353メートル)のところにも生息しているという。ロッキー山脈では高山帯の岩塊地にも生息しているクモなのだ。

Map of Aculepeira carbonarioides 

Mountain spider - Aculepeira carbonarioides 

 北米大陸での分布から考えるならば、北海道の高山帯に生息していても何らおかしくはない。ところが、不思議なことに今のところ北海道では高山帯からは見つかっていないのである。

 然別火山群での観察では、このクモは天気のよい日には岩塊の間に円網を張って中央に止まっているのだが、天気が悪い日は網もほとんど見られない。桂月岳に登った日も霧がかかっていてほとんど日が差さなかった。この天気では生息していたとしても網を張っていない可能性が高い。

 大雪山の高山帯で見つからないのはそもそも生息していないのか、それとも見つけられないだけなのか・・・。この疑問を解くためには晴天の日に岩塊地のある高山帯を調べなければならないのだが、年齢とともに体力の方は自信がなくなる一方だ。

2012年8月 2日 (木)

消えゆく光景-空を覆うアキアカネ

 ここ数日、アキアカネがよく目につくようになった。アキアカネとは、いわゆる赤トンボのことだ。今の季節はまだ赤くはなっていないので赤トンボだと思っていない人がいるかもしれない。

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 アキアカネは、真夏の暑い時期に高原などに移動することが知られている。私が住んでいるところは十勝地方北部のやや標高の高いところで、真夏でも30度を超える日は非常に少ない(ゼロの年もある)。ここ数日、北海道は各地で30度を超える暑い日が続いている。暑さに弱いアキアカネは、暑い平地を逃れて大雪山系に避暑にやってきたのだろう。

 私には忘れられないアキアカネの思い出がある。それは長野県の霧ケ峰の光景だ。

 私が生まれたのは長野県の上諏訪だ。私の両親は「霧ケ峰は自分の庭」と言うくらい霧ケ峰によく出かけ、隅々まで知りつくしていた。そんなわけで、東京に引っ越した後も夏休みにはしばしば家族で霧ケ峰に行ったものだった。

 私がまだ小学生の頃はビーナスラインなどという自然破壊道路はできておらず、上諏訪から霧ケ峰に行く道はまだ砂利道だった。バスは土埃をあげながら角間新田の集落(山岳小説家の新田次郎の故郷である)を通り抜け、エンジンをふかせながらジグザグの山道をあえぎあえぎ登っていく。霧ケ峰に行くというのはバスに一時間ほど(子どもの頃にはそれ位の時間がかかったように思えた)揺られることであり、子どもの私には遠足気分だった。私はバスの車窓から見る風景が大好きだった。

 どんどん標高が上がるにつれて白樺が現れ、車窓から見える植物の種類は里とは違って高原らしさが漂ってくる。バスの終着である強清水(こわしみず)は、あちこちに高原の花が咲き、下界とは別世界だった。

 強清水からスキー場の斜面を登ったところに「忘れ路の丘」と呼ばれている丘がある。小ぢんまりとしたスキー場があり、昔からグライダーの練習場になっていた。丘の一帯は広大な草原が広がっており(といっても霧ケ峰はどこも広大な草原ばかりだったが)、「霧鐘塔」という鐘がぽつんとたっている。「霧ヶ峰」という名前がつくほど霧の多い高原のため、方向を知らせる目的で建てられたそうだ。今ではこの一帯は柵に囲まれた遊歩道しか歩くことができないが、かつては丘を自由に歩きまわることができた。

 強清水のバス停に降りた途端に迎えてくれるのがアキアカネだった。そして忘れ路の丘のアキアカネの大群は、それはそれは見事だった。とにかく青空をバックに無数のアキアカネが舞っている。大群というより、広々とした草原一面にアキアカネが乱舞しているといったほうがいいだろう。捕虫網を振り回さなくても網の中に勝手に入ってきたし、頭にも服にも止まった。そして帰りのバスの中にも必ず数匹のアキアカネが紛れ込んでいた。だから私にとっては「夏の忘れ路の丘=アキアカネの乱舞する丘」だった。

 アキアカネはどこにでも見られる普通種のトンボで、夏の高原では群れ飛ぶ姿が見られるが、あれほどの空を覆うようなアキアカネを私は知らない。

 霧ケ峰には今でもそれなりの数のアキアカネが避暑にくるのだろう。しかしその数はずっと減ってしまったのではなかろうか。昨今はアキアカネがすっかり減ってしまったと聞く。

 アキアカネは稲刈り後の水田に産卵し、卵で冬を越したあと春に水を張った田んぼで幼虫時代を過ごす。稲作と大きく関わっている種だけに、その減少には人為的な要素が大きく関わっているのだろう。アキアカネの減少については以下のような見解がある。

稲の苗箱処理剤が赤トンボを減らしていた(月刊現代農業)

神戸で激減!最普通種のアキアカネ(神戸のトンボ)

アキアカネの激減について(日本蜻蛉学会 和田茂樹さんより)(身近な水辺の自然探偵団2002)

 稲作の拡大とともに大群をつくるようになった生物とはいえ、あの夏の風物詩である高原の乱舞が過去のものとなってしまったのなら何とも寂しい。

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