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2011年12月14日 (水)

薬事法違反に問われた現代書林の不可解な出版

 「創」2012年1月号をパラパラとめくっていたら「薬事法違反容疑で『現代書林』逮捕事件の行方」という篠田博之編集長の記事が目にとまった。2002年4月に現代書林から出版された「医師・研究者が認めた! 私がすすめる『水溶性キトサン』」という本が、薬事法違反に当たるとして本の著者であるライターと元社員、元社長と現役編集者の4人が逮捕され、このうち元社長と現役編集者が起訴されたという事件について書かれた記事だ。

 この事件については朝日新聞も報じているのだが、警察はこの本が特定の健康食品の効能を謳っていることが薬事法違反にあたるとしているようだ。

【神奈川】効能本、今も転倒に 流通の規制難しく

 私が気になったのは、この事件そのものよりこの出版のいきさつだった。上記の朝日新聞の記事では、5千部の扱いについて以下のように書かれている。

このうち5千部は、出版社「現代書林」の当時の社長武谷紘之容疑者(72)=薬事法違反容疑で逮捕=らが引き取って全国の書店で販売。残りは健康食品販売会社「キトサンコーワ」社長の国安春子容疑者(65)=同=が商品に同封して販売先に発送していた。

 しかし、「創」によると、以下のように書かれている。括弧内の注意書きは私によるもの。

同書は1万部発行されたのだが、同社(注:健康食品メーカー「キトサンコーワ」のこと)がそのうち5000部を買い取っていた。現代書林では、その3年前にも『「水溶性キトサン」衝撃の治癒力』という本を出版。同じように買い取りがなされていた。同社では自費出版の一種と考えているようだが、事前に企画部という部署が交渉をして制作費などを負担してもらうというビジネスのやり方が多かったらしい。

 朝日新聞の書き方では、キトサンコーワが1万部の本をつくり、そのうちの5千部を現代書林が引き取って販売したと理解できる。出版の主体が「創」の記事とは正反対なのがおかしい。しかし、出版社が企業から本を引き取って販売するなどということは考えにくいので、やはりキトサンコーワが買い取る、あるいは制作費などを出資するという条件での出版と考えるのが妥当だろう。

 1万部の発行のうち、その半分にあたる5千部が買い取りなのである。この本の定価をインターネットで調べたところ1,260円だった。キトサンコーワがいくらで買い取ったのかは分からないが、仮に定価で買い取っていたなら1,260円×5000部=6300,000円だ。1,000円で買い取ったとしても5000,000円になる。これだけ払ってもらっていたなら出版社は持ち出しすることなく1万部の出版費用が賄えるのではないだろうか。現代書林が「自費出版の一種」と考えているのも頷ける。

 もし現代書林が実質的に出版費用を負担していないとしたなら、碧天舎、新風舎、文芸社、幻冬舎ルネッサンスなどでやってきた共同出版ビジネスと実質的にはあまり変わらない。

 そこで現代書林では自費出版を募集しているのかと思ってホームページを見たのだが、自費出版を行っているとは書いていない。ただし、「会社情報」から「出版企画募集」というページがリンクされていて、そこに「あなたの企画・原稿をお待ちしております!」と書かれている。つまり、自費出版とは謳っていないが、持ち込み原稿を募集しているのだ。建前は商業出版社だが、実際には「買い取り条件」「制作費負担条件」などをつけていることも多いのだろう。

 現代書林に限らず、表向きは商業出版社であっても、著者などに「買い取り条件」や「制作費負担条件」をつけるようなことは、おそらく多くの出版社でやっていると思われる。

 私は以前から言っているが、「買い取り条件」や「一部費用の負担条件」をつける商業出版自体が悪いとは思わない。しかし、そういう条件をつける場合でも、出版社が何ら費用負担しないというのなら悪質な共同出版(自費出版)商法と何ら変わらないだろう。こういうことがまかり通っている業界というのもかなり末期的な気がする。いずれにしても、ずっと前から大変な不況に陥っている日本の出版業界においては、純粋な商業出版だけで生きていくのはもはや至難の業なのかもしれない。

 なお、この現代書林の薬事法違反に関しての私の感想を一言述べておきたい。本を読んでいるわけではないが、「創」の説明によると、この本は中木原和博・中井駅前クリニック院長が監修、医療ジャーナリスト石田義隆氏が執筆し、健康食品「水溶性キトサン」について医師や専門家の話しをまとめたもので、体験談も収録されているという。また、発売当初は巻末に取扱店のリストも掲載されていたそうだ。(2004年に厚労省が、書籍も一定の基準を満たした場合は広告物とみなすとの見解を示したため、現代書林はリスト部分を切り取っていたとのこと)。

 であれば、すでに絶版になり取扱店リストも切り取られた本が「広告物」に該当するとは思えない。薬事法違反というのは不可解だ。

 ただし、キトサンコーワはこの本と商品をセット販売していたとされており、キトサンコーワが商品の販売に使う目的で高額な費用を投じて本を買い取ったことは確かだろう。現代書林が発売当初に巻末に取扱店のリストを入れたのも、もちろんキトサンコーワから出資してもらったことと関係していると考えられる。キトサンコーワのセット販売については現代書林は関係ないだろうが、キトサンコーワの好条件の買い取りに乗っかって儲けようとしたことが、このような疑惑を呼んだのではなかろうか。どのような経緯で本書が企画され著者・監修者が決められたのか、またキトサンコーワがどの段階から関わっていたのかなど知りたいところだ。

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