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2011年11月27日 (日)

パニックという言い訳の裏にあるもの

 3.11の大震災以来、「パニック」という言葉をどれだけ聞いただろうか。1号機の水素爆発のあと、テレビはライブカメラの建屋の上部が吹っ飛んだ映像を流していた。それなのに政府は爆発という事実の説明を何時間も渋っていた。テレビには御用学者が登場して「格納容器は健全です」という嘘を繰り返していた。

 放射能の拡散予測のために導入されたSPEEDIの計算結果も、速やかに国民に公表されることはなかった。肝心なときに全く役に立たなかったが、これは意図的に出されなかっただけだ。

 爆発が一回にとどまらず相次いだのに、対応はまったく同じだった。この結果、政府やマスコミの報道を信じた多くの住民が被ばくをさける対応をとれずに被ばくした。それらの言い訳としてしきりに使われたのは「パニックを防ぐため」だ。

 さらに、放射能の危険を指摘する人たちに対しては「不安を煽る」と言い、「不安によるストレス」を持ち出して批判する。「パニック」と「不安を煽る」は原発推進派の言い訳に必ず登場する。

 しかし、災害に見舞われれば誰でもパニック状態になるものだ。地震であれ、津波であれ、台風であれ、洪水であれ、人為的な事故であれ、平穏な日常を瞬時に覆すような災害はいずれも人々の気を動転させパニックを引き起こす。津波による被害者を出さないために大地震があれば津波警報を出すし、日本に台風が向かってくればやはり警告を発する。洪水や土砂崩れが予測されればやはり避難勧告を出す。そのときにパニックなどという言い訳は通用しない。人命が先だからだ。

 ところが原発事故はどうだろう? 地震によってすでに放射能が漏れだしていたことを東電の関係者は知っていたのだ。だから社員の家族はさっさと避難した。このときに枝野元官房長官も放射能漏れはないと繰り返して国民を騙していた。福島のテレビ局も爆発の瞬間を捉えていた。それなのに事実を速やかに報道して避難を呼びかけることをしなかった。地元自治体もフクイチの深刻な事態やSPEEDIの情報を知っていた

1号機水素爆発-住民には知らせず逃げた町議会の人々(Urban Prepper)

 事実を速やかに伝え、放射能拡散予測を伝え、適切な避難を呼びかけなかったために人々が被ばくした。原発事故そのものも人災だが、防ごうと思えば防げた被ばくを防げなかったのも人災だ。そして、その度に持ちだされた言い訳が「パニック」だ。天災ではパニックを理由に避難勧告を躊躇することなど決してない。ところが人災となった途端にパニックという言い訳が登場する。

 もちろん突然災害がふりかかったらパニックは生じる。避難のために皆が自家用車で逃げたなら、道路は渋滞して大混乱になるだろう。だから津波で避難するときも、自家用車は利用しないように呼びかけている。パニックまで想定するのが防災なのだ。

 放射能漏れがあったなら速やかに事実を知らせ、ヨウ素剤を飲ませる(本来なら原発周辺の住民にはあらかじめ配布しておくべき)、窓を閉めマスクを着用する、拡散予測を参考に住民をすみやかに避難させる・・・こういったことが、原発事故の防災として想定されていなければならなかったのだ。政府は自分たちの無防備さを隠すために嘘をつき、パニックという言葉で騙しているにすぎない。安全神話を振りまき、防災をおろそかにして住民を被ばくさせた者たちの責任は重い。

 さて、北海道大学の森谷武男さんはご自身のホームページで大地震の予測を公表したのだが、最近になって当該記事が閉鎖されてしまった。その理由が以下の北大地震科学研究観測センターのホームページに掲載されている。  

最近のインターネット上のニュース・週刊誌等の報道に関して

 「将来の地震の直前予測につながる基礎的データを蓄積し研究を進めている段階であり、現在のデータから巨大地震の発生時期やその大きさを科学的に予測できる段階にはありません」「個人的見解とはいえ、現時点で科学的な根拠の薄い地震予測情報が公表され、特に東日本大震災の被災者のみなさまには、いたずらに不安を煽ってしまうような状況を生み出したことにつきまして、お詫び申し上げます」というのが予測情報を封印した理由だ。

 森谷さんはこれまでの研究により大地震と地震エコーに相関性があることを見出していた。そして、ご自身の観測結果から近い将来に非常に大きな地震が起きる可能性が高いと判断したからこそ、根拠となるグラフを示して予測の公表に踏み切ったのだろう。「科学的な根拠が薄い」とする根拠は何なのか? 森谷さんがあえて予測を公表した背景には、自らの研究を3.11の被害の軽減に役立てることができなかったという後悔の念があるに違いない。

 「個人的見解」を持ち出すのもおかしな話だ。森谷さんはご自身のホームページで「1995年に串田嘉男氏によって 経験的に発見された地震前兆現象について考察し,電気通信大学,東京学芸大学,千葉大学の先駆的な観測を参考にしながら,より科学的に発展にさせるために,2002年度から本学理学研究科 地震火山観測研究センターで研究を始めた.」と書いている。つまり、これは森谷さんの私的な趣味のような研究ではなく、北大の地震火山観測センターでの研究なのだ。大学として認めた見解なら公表してもよいが、個人レベルの見解を公開してはいけないなどということになれば、公の機関に所属する研究者は自説の公表すらできなくなる。自説を公表できないなら研究者などやっていられない。まったく馬鹿げた理屈だ。

 そして気になるのが「特に東日本大震災の被災者のみなさまには、いたずらに不安を煽ってしまうような状況を生み出した」という記述だ。東日本大震災の被災者の方たちは、事前に適切な予測や警告があれば、もっと被害を軽減できたのではないか? 再度同じような大地震や大津波の可能性があるなら、再び被害にあわないためにも予測や警告は意味がある。そんな大地震は起きてほしくない、と被災者の誰しもが思うだろうが、天災は気持ちでどうにかなるものではない。ここにも不安やパニックにつけこんだ言い訳がある。

 私はこの閉鎖をめぐって、北大に何らかの圧力がかかったのではないかと思えてならない。その理由が「不安を煽る」だ。まったく馬鹿らしい。いったい何のために地震予測の研究をしているのだろう? 予測によって被害を軽減させるためではないのか? 予測が当たらなかったことによる被害より、予測を隠し対策を怠ったことによる被害のほうがよほど深刻で取り返しがつかない。

 私は、森谷さんの地震エコーが3.11の地震の前兆を捉えていたことを知って、防災に役立てなかったことを本当に残念に思った。予測はあくまでも予測であって、不確実なものだ。不確実だからといって秘密にしていたなら同じ轍を踏むことになりかねない。たとえ不確実であっても、知らせて防災対策をとることに意味がある。

 地震学者の島村英紀さんの書いた以下の記事を読んでほしい。

地震学者・今村明恒の悲運

 関東大震災の前に、近いうちに東京で地震が起き火災被害が甚大になることを予測し、防災対策を具体的に訴えた今村明恒氏の警告が歪曲されて広がり、防災に役立たなかった事例を取り上げている。

 冷静な警告と防災の呼びかけを正しく報じず、扇動的な記事を書いて不安を煽ったのはマスコミだ。その不安を鎮めるために帝国大学の大森房吉は自説をねじ曲げて火消しに努めた。その結果、今村氏の警告は活かされることなく予測が的中したのだ。

 私は今回の北大地震科学研究観測センターの記事を読み、このことがすぐに頭に浮かんだ。今回、森谷さんは自らの見解をご自身のホームページで公表された。マスコミも森谷さんの見解を報道したが、決して歪曲して不安を煽ったわけではない。森谷さんの見解をそのまま伝え、記事によっては疑問視するコメントも載せている。だから北大が火消しに努める必要などないのだ。

研究者「12月から1月、第2の東日本大震災が東北を襲う!」 (NEWSポストセブン)

大震災“的中”の博士「関東近海でM9」と警告!その恐るべき根拠(産経新聞)

 島村さんは「地震学者・今村明恒の悲運」の冒頭で以下のように書いている。

 地震の予知は現代でも難しい。日本では半世紀以上前から国家プロジェクトとして思考錯誤が続いているが、今回の東日本大震災に至るまで、一度も成功したことがない。
 しかし、たとえ地震予知ができなくても、来るべき地震の規模と、被害の大きさを予測し、それに備えるよう警告するのは、地震学者の大事な役目のはずである。

 地震学者としての大事な役目を実行すれば、サイトの閉鎖を余儀なくされるというのがこの国の実態だ。「パニック」「不安を煽る」という言葉の陰に隠れているものを見落としてはならない。

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