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2011年10月19日 (水)

国の方針と矛盾する日本の食品の放射性セシウム暫定基準値

 福島第一原発の事故が起きたあと、私は当然のことながら福島産の米の出荷などはできないだろうと思っていた。ところが、国は事故後に一般食品の放射性セシウムの暫定基準を500ベクレルと決め、汚染された野菜や米が当たり前のように流通されることになってしまった。

 気仙沼市の米ぬかからは370ベクレル/kgのセシウムが検出されたそうだが、これは飼料の暫定基準値の300ベクレルを超えているので家畜の餌には使えない。ところが、人間の暫定基準値は500ベクレルだから流通するという。まったく、この国はどうかしている。

http://merx.me/archives/13154 

 この暫定基準値について10月7日号の週刊金曜日にたいへん興味深い記事が出ていた。垣田達哉氏による「人間よりも東電の利益を優先した国 規制値を下げても供給量は十分足りる」という記事だ。垣田氏の主張の概要を説明すると以下のようになる。

 食品安全委員会は生涯100ミリシーベルト(外部被ばく+内部被ばく)の被ばくで健康に影響が出るという見解をまとめた。これから生まれてくる人の寿命を80年とすると、年平均1.25ミリシーベルトが規制値になる。文科省は子供の学校で受ける年か被ばく量の基準を1ミリシーベルトに抑えるという方針を示している。文科省の基準に従い外部被ばくに年1ミリシーベルトを振り分けると、食品は0.25ミリシーベルトになる。日本の暫定基準値は飲料水、牛乳・乳製品・野菜・穀類、肉・卵・魚、その他の5項目に分類され、それぞれ年1ミリシーベルト(合計で5ミリシーベルト)を超えないように設定されているが、規制値の合計を0.25ミリシーベルトにするためには、暫定基準値の5ミリシーベルトを20分の1にしなければならない。すなわち、飲料水は10ベクレル(暫定基準値は200ベクレル)、一般食品は25ベクレル(暫定基準値は500ベクレル)だ。セシウム以外の核種による被ばくを考慮するならもっと低くしなければならない。

 つまり、外部被ばくを年1ミリシーベルト受けると仮定した場合、食品の暫定基準値を現在の20分の1にしないと、生涯100ミリシーベルトを守れないというわけだ。外部被ばくの程度は住んでいる場所によっても違うし、放射性物質の半減期等も考えるべきだろうから垣田さんの指摘ほど単純ではないかもしれないが、国の方針と実際の暫定基準値の整合性がとれていないというのは確かだろう。

 垣田氏は「本来緊急時の暫定値を定める理由は『他に食べるものがない。食べないと健康を損ねる。だから多少放射能に汚染された食品でも仕方ない』ということのはずだ。ところが今回の日本の原発事故では、緊急時といえる福島の人たちも当初から汚染されていない食品を食べることは難しいことではなかった。汚染されていない食品はいくらでもあった。福島県産の食品でも不検出のものはあった。規制値を厳しくしたからといって、食品の供給不足を招くことはなかっただろう」と書いている。

 私もこの部分については、基本的に賛同する。500ベクレルなどという高い規制値を設定してしまったために、東北や関東産の食品は汚染されていないものと汚染されているものの区別もなされずに一緒にして流通していることが問題なのだ。基準をもっと厳しくして一定以上に汚染されているものを確実にはじいたとしても、大きな混乱が起きたとは思えない。内部被ばくの恐ろしさを考えたのなら、そうしてでも汚染食品を避けるべきだったのだ。ところが、「被災地応援」などといって汚染食品を推奨する動きまである。恐るべきことだ。

 もちろん規制を厳しくして汚染された食品を廃棄したなら食品の絶対量は減るだろうが、それでも「他に食べるものがない」とか「健康を損ねる」などという状況とは程遠かったはずだ。いくら日本の食料自給率が低いといっても、主食の米は自給できている。米はこれまで減反政策で減らしてきたのだから、汚染された米を流通させるなどという馬鹿げたことはやめて、汚染されていない地域の休耕田の復活を優先すべきなのだ。

 垣田氏は規制値を低くすると出荷できない食品が増えて東電の賠償責任が生じるために、規制値を甘くして東電の利益を優先したと述べている。加害者である東電の利益のために汚染食品を流通させて、国民をさらに被ばくさせるなどというのはとんでもないことだ。しかし、私はそれだけではないと思う。汚染されていない地域にまで汚染食品を流通させることで、日本人全体を被ばくさせ、原発事故と病気との因果関係を曖昧にしたいのではなかろうか。どちらにせよ滅茶苦茶な話しで犯罪行為と変わりない。

 暫定基準値とは緊急時に設けられるもののはずだが、国は今の暫定基準値をいつまで維持するつもりなのだろうか。福島の原発事故以来、ガイガーカウンターを持つ市民は増えたようだが、高価なベクレル計は市民が簡単に購入できるものではない。スーパーマーケットなどにベクレル計を設置し、消費者が自分で食品のベクレル数を確認できるようなシステムをつくるなどしなければ、子供たちや若者の健康など守れない。

 この期に及んで「基準値以下だから安全です」などと言っている連中は許しがたい。今の政府のやり方は、市民を安心させるのではなく、不安にさせているだけだ。

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