ササラダニ研究者の平内好子さんを悼む
昨日のニュースで、ニュージーランド・クライストチャーチを襲った大地震で行方不明になっていた28人の日本人のうち、平内好子さんの死亡を確認したとの報道があった。その報道で、平内さんが土壌性のダニの研究者であったことを知った。
ダニというと動物の血を吸うダニを思い浮かべる人が多いと思うが、吸血性のマダニ類のほかに、植物などについて農業害虫となるハダニもいれば、食品などにつくコナダニもいるし、土壌に生息しているササラダニもいる。日本ではすべてひっくるめてダニというのだが、英語ではダニの総称がMiteで、マダニ類をTickという。中国語でも、マダニ類とそれ以外のダニを区別している。日本人は、生物の分類に関してはあまり細かいところを気にしないようだ。
ダニはクモと同じ「クモ鋼」に属するが、クモとは体つきがちょっと違う。クモの場合は体が頭胸部と腹部に分かれているが、ダニでは頭胸部と腹部が一体となっている。脚はクモもダニも4対だが、ダニの幼体は3対しかない。
土壌性のダニといえば、ササラダニだ。この仲間は実に小さくて愛らしい。たいていは1ミリ以下だから、実体顕微鏡を使わないと識別できない。落葉や菌類などを食べてひっそりと暮らしているのだ。落葉の分解者として非常に重要な働きをしているのだが、あまりにも小さくて人目につかないため、ほとんどの人がその存在すら意識したことがないだろう。
こんなに小さなダニを採集するには、やはりそれなりの方法がある。ツルグレン装置を使うのだ。ツルグレン装置というのは、漏斗の上に底が網になった容器をセットし、漏斗の下にアルコールを入れたビンを置くという簡単な装置だ。容器に落葉や土壌を入れて上から電球で光を当てると、乾燥を嫌う土壌動物は下方に移動し、アルコールの入ったビンに落ちるという仕組みだ。私も自作したツルグレン装置でササラダニの採集を試してみたことがあるが、肉眼ではとても採集できない小さなササラダニを簡単に集めることができる。顕微鏡で見るササラダニのなんとユニークで愛らしいことか。
このササラダニの分類にはまってしまったのが、日本のササラダニ研究の第一人者である青木淳一さんだ。一人で450種ものササラダニを新種記載している。その青木さんの描くダニの図がまた素晴らしい。見とれてしまうような細密で美しい画を描かれるのだ。青木さんについては、是非以下のサイトを読んでいただきたい。
話しが逸れてしまったが、亡くなった平内さんは青木さんの指導のもとに、ササラダニの研究をされていたそうだ。そして、最近も新種記載の論文の下書きを青木さんに送っていたという。ササラダニの世界はまだまだ新種が見つかるのだが、なんといってもこういった小さくて地味な動物は研究者が少ない。その数少ないダニの研究者が亡くなられてしまったことはとても残念だ。ご冥福を祈りたい。
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