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2011年1月18日 (火)

「自衛隊員が死んでいく」が暴く凄まじい自衛隊の内実

 前回の記事では「たちかぜ裁判」のことをお知らせしたが、今日はジャーナリストの三宅勝久さんが書かれた「自衛隊員が死んでいく」(花伝社)という本を紹介したい。自衛隊員の自殺者の多さや、いじめ・暴行・セクハラなどの実態について告発している本だ。

 まず驚くのが、自衛隊員の自殺者の多さだ。三宅さんは自衛隊員(自衛官+事務官等)の自殺者数のグラフを示して説明しているのだが、年間50人ほどだった自殺者が1997年頃から増え始め、近年では90人前後で推移している。自衛隊員の自殺死亡率は、一般の国家公務員と比べると2倍前後だ。自衛隊の自殺率は米軍のそれの2倍を軽く超えているという。

 長期にわたって行方不明になり、懲戒免職処分になる隊員も年間10人はくだらないそうだ。また、自殺以外にも殺人、強姦、強盗といった凶悪犯罪に手をそめる自衛官が後を絶たないという。これらが何に起因するのかは、そのあとに出てくるいじめや暴行の実態を読めば明らかだ。

 自衛官の自殺や死亡事件、ハラスメントなどで裁判になったのは、「女性自衛官の人権訴訟」や「たちかぜ裁判」だけではない。全国で複数の裁判が起こされている。そのひとつに「浜松自衛官人権裁判」(静岡地裁浜松支部)があり、本書でも第一章で紹介されている。

 この事件は29歳の若き自衛隊員が、上司のいじめを苦にして自宅アパートで首をつって自殺したというものだ。遺族が疑問を抱き、真相を明らかにしたいと裁判を決意した。  そこで明らかになってきたのは、上司による信じがたいようないじめの数々だ。本書にもそれらが箇条書きになっているので、その一部を引用しよう。

・「お前はバカなんだから」とののしり、無理難題を押し付けて自宅でやらせる。・自宅で反省文を書かせて提出させ、赤ペンで細かくチェックを入れて突き返す。
・書類に押した印影が少しでも傾いていると怒りだすなど、些細なことに文句をつける。
・宴会で楽しそうに騒いでいたら叱責された。
・終業後、先輩が帰らないため夜遅くまで帰宅できない。長時間のグチや説教を受ける。
・居眠りをとがめられ「反省文100枚を書くか辞表を書け」と迫られた。
・トイレに行くにも「トイレに行きます」と言わなきゃ行かせてくれない。「トイレが長い。さぼっているだろう」などと文句を言われる。
などなど・・・。

 そればかりではない。「直立不動のまま、怒鳴られながら帽子で顔をはたかれていた」という目撃もあるというから、暴行も日常的なのだろう。

 被害者の隊員は、上司のいじめから解放されたイラク派遣のときは一時的に体調も回復したのだが、帰国して元の職場に戻ってからは相変わらずのいじめで憔悴していく。こんなことが黙認されている職場がいったいどれだけあるだろうか。普通の人なら耐えられないだろう。

 「浜松自衛官人権裁判」は、昨年の末に証人尋問が行われた。詳しくは以下のサイトを読んでいただきたい。

浜松自衛官人権裁判 

 第二章は「たちかぜ」の事件。そして第三章は、護衛艦「さわぎり」と「あまぎり」でいじめに遭い、一度は脱走したという元隊員の話だ。このいじめの内容もとにかく凄まじい。たとえばベッドメーキングが完璧でないと朝食に行っている間に上司が全員のシーツをはがし、一番出来の悪いシーツとマットを窓から外に放り出す。放り出された人はマットを背負ってグランドを走らされる。工具の持ち方が悪いといった理不尽な理由で、スパナや棒きれで叩かれるという暴行。これは他の人が見ているところではやらない。この元隊員はいじめがもとで鬱になり、酒浸りになり、そして脱走・・・。こんなことをされていて平気でいられるほうがおかしい。話を聞いただけで、背筋がぞっとしてくる。

 第四章で扱っているのは、厳しく叱責されたために上司を殺害してしまった事件だ。しかし、この加害者も上司によるいじめの被害者だ。いじめさえなければ、人を殺めることもなかっただろう。殺される方も悲惨だが、殺した者も悲惨な状態だったのだ。刑事裁判で加害者には懲役18年の実刑判決が言い渡された。被害者遺族は自衛隊を相手に国家賠償請求訴訟を起こし、勝訴した。いったい何で殺人まで犯してしまったのか。秋葉原の無差別殺人事件を彷彿とさせる事件だ。

 第五章で扱っているのは、自衛官による連続強姦罪だ。ゲームセンターやスロット店で女性を物色し、トイレに入ったのをつけていってスタンガンで脅して個室で強姦するという凶悪な犯罪だ。自衛隊では強姦をはじめ性犯罪が頻繁にあるという。隊員へのアンケート結果によると、女性隊員のうち18.7%が性的関係の強要を受け、強姦・暴行(未遂)は7.4%だったという。単純計算だと自衛隊全体で700人以上が「強姦・暴行(未遂)」の被害を受けたことになるというのだから、とんでもない数字だ。人権意識のかけらもない、異常な職場であるとしか言いようがない。

 丁寧な取材を基に書かれた本書は、自衛隊の恐るべき実態を克明に描きだしている。しかし、裁判になるなどして明らかにされたいじめや暴行、性犯罪などは氷山の一角だろう。

 最後に、本書には取り上げられていないが、「命の雫」裁判を紹介しておこう。沖縄出身の20歳の自衛官が、真駒内基地で暴行を受けて亡くなったという痛ましい事件だ。自衛隊はこの事件を訓練中の事故として処理し、加害者らは送検されたものの刑事責任は問われていない。自衛隊は「徒手格闘訓練」だというのだが、事故というより訓練に名を借りたしごきとしか思えないものだ。そして遺族が事件の真相を求めて札幌地裁に提訴したのが「命の雫」裁判だ。この裁判については以下のサイトをご覧いただきたい。

『命の雫』裁判 

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