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2010年8月19日 (木)

光市事件の出版差し止め裁判はどうなっているのか

 裁判の報道でいつも不思議に思うことがあります。それは、社会的に注目を浴びている裁判であっても、初公判や証人尋問、それに判決の時くらいしかマスコミが傍聴に来ないということです。そして判決について報道されても、裁判の中で具体的にどのような主張があったのかまではなかなか報道されません。マスコミ報道からは、たいてい判決という裁判所の判断しか分からないのです。

 熱心なジャーナリストは、自分が関心をもっている裁判などはこまめに傍聴したり関係者に取材をするのですが、そうしたジャーナリストがいなければ、裁判の様子などが報道されることはほとんどありません。また傍聴しただけでは、原告や被告が裁判所に提出した書面でどのような主張をしているのかを具体的に知ることもできないのです。

 つまり、裁判は原則として公開されているとはいっても、当事者の方たちが情報を提供しない限り、裁判で何が問われどういう主張が繰り広げられたのかなどは、一般の人たちが知ることはできません。

 光市事件のことを扱った「福田君を殺して何になる」の著者の増田美智子さんとインシデンツの寺澤有さんに対し、福田君が出版差し止めの仮処分の申し立てを行い、また提訴した時にはマスコミもこぞって報道しました。しかし、その裁判が現在どのようになっているのかは、当事者にしか分かりません。

 そこで、増田美智子さんに裁判についての感想を伺ったところ、以下のようなコメントを寄せていただきました。裁判でどのような主張がなされ、それをどう感じているのかを知っていただくために、紹介させていただきます。

 なお、光市事件についてはこのブログのカテゴリーの「光市事件」を参照してください。

                 **********

【著者の増田美智子さんからのコメント】

 今回福田君側が提出した準備書面および陳述書で、彼らは寺澤さんの責任を糾弾しています。その内容は、私がインシデンツから本を出版することは取材当初から決まっていたことであり、寺澤さんの指示のもとで福田君をだまし、取材目的であることを秘して、単行本を出版した、というものです。

 私は、光市母子殺害事件の取材を始めた当初から、取材に行き詰まると寺澤さんに相談してきました。私にとっては初めての事件取材であり、そのうえ福田君の弁護団から取材妨害を受けるなど、それまでの取材活動では体験したことのないことが多かったため、事件取材に慣れていて、信頼のおけるジャーナリストである寺澤さんに、個人的に相談していたのです。

 そもそも、寺澤さんが出版事業を始めたのは2009年2月のことであり、私が取材を始めた2008年4月当時、寺澤さんは出版事業を行っていませんでしたし、その予定もありませんでした。取材当初は、書くべきことがあれば週刊誌か月刊誌で、と考えていたくらいで、単行本にまとめることは考えてもいませんでした。そのことはこちら側の陳述書からも明らかです。

 にもかかわらず、彼らがこのような主張をしてくるのは、私と寺澤さんの信頼関係を断ち切ろうという狙いがあるのだろうと思っています。実際には、私が寺澤さんの指示のもとで取材していたと言うことなどないのですから、上記のような批判は寺澤さんにとっては至極迷惑な話です。こうした的外れな批判を投げることで、私と寺澤さんの関係を揺さぶっているのだと思います。

 寺澤さんは経験も豊富で、取材先からの嫌がらせの訴訟にも慣れていますが、私はそうではありません。私を孤立させれば、裁判を有利に進めることができると考えているのでしょう。

 この裁判では、福田君側から根拠のない難癖をつけられ、こちら側が証拠を提出しつつ反論する、ということの繰り返しです。私が福田君に報道関係者であるという身分を隠して近づいた、という批判には、私が福田君に対して、何度もフリーライターであると名乗っている手紙を証拠に提出しましたし、単行本の出版を隠していた、という批判に対しても、単行本の出版前の2009年8月に、福田君に出版の予定を知らせた手紙を証拠として提出しています。

 だから、福田君側の主張も少しずつ変わってきており、今では出版予定を隠していた、という主張はありません。最近は、死刑制度への疑問を書いていないのがけしからんだの、福田君の弁護人の名前を一覧で載せたのがけしからんだのといった、言いがかりとしかいいようのない批判ですら、臆面もなく書いています。ここに来て、彼らの批判の矛先が私から寺澤さんにシフトしたのは、そろそろ批判のネタが尽きてきた、ということでもあるのだと思います。

 私の最大の過ちは、福田君の弁護団を甘く見ていたことです。単行本の出版前に、広島で足立修一弁護士、新川登茂宣弁護士と、私、寺澤さんの4人で話し合いました。その時は、福田君の弁護団の面々は、福田君のために弁護活動をしていると信じて疑っていませんでした。だから、真摯に話せばきっとわかってくれると思い、日帰りでわざわざ広島まで話し合いに行ったんです。

 結局その話し合いは平行線に終わり、単行本の出版の直前に出版差し止めの仮処分を申し立てられたのですが、その仮処分申請すら、単行本が出版され、彼らがその内容を読めば取り下げられると思っていました。単行本の内容は福田君にとっては情状的に有利なものであり、弁護団が福田君の死刑回避を願うのであれば、当然取り下げるものだと思っていたのです。

 しかし、裁判を通じて彼らの主張を知るにつれ、自分の認識の甘さを実感しました。今は、弁護団は、福田君の死刑云々よりも自らのメンツが大事だとしか思えません。

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