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2010年6月

2010年6月29日 (火)

八ッ場ダムの真相に迫る「谷間の虚構」(その1)

 先日、高杉晋吾さんの「谷間の虚構 真相・日本の貌(かお)と八ッ場ダム」(三五館)を読了しました。

 マスコミが沈黙する八ッ場ダムのヒ素問題や地滑り問題について、長年にわたって取材し追及してきたのが、ジャーナリストの高杉晋吾さんです。この5月に出版された高杉さんの著書「谷間の虚構」は、これまでの高杉さんの取材の集大成ともいえるもので、ヒ素と水質問題、地質問題、そして八ッ場ダムの歴史から政官業の癒着と利権構造までを浮き彫りにし、八ッ場ダムの真相に迫っています。

 八ッ場ダムのヒ素問題については、高杉さんの書かれた週刊金曜日の記事をもとに以前もこのブログで取り上げました。以下をご覧ください。高杉さんはこのことを2008年後半に記者会見で明らかにしたそうですが、マスコミは一切調査しようとせず、報道もしなかったとのことです。取り上げたのは、週刊金曜日くらいしかなかったのでしょう。

八ッ場ダムのヒ素問題 

 実は、この記事を書いたとき、私は中和システムなるものについて具体的なことは分かりませんでした。品木ダムに堆積したヒ素を含む中和堆積物をどのように処分しているのかもよく知らなかったのです。しかし、本書にはその恐るべき実態が赤裸々に描かれています。

 八ッ場ダムを建設するためには、強酸性の水を中和させなければなりません。そのままではダムのコンクリートや鉄が腐食して崩壊する危険性があるからです。そこで造られたのが中和システムです。白砂川(吾妻川の支流)に流れ込む湯川・大沢川・谷沢川の酸性水は、中和工場で石灰によって中和され、品木ダムに沈澱します。その中和生成物を浚渫してセメントで固化し、ダム湖周辺の3カ所の処分場に埋めています(そのうちの2つはすでに満杯)。中和に使われる石灰の量は一日60トン!

 問題は、草津の万代鉱から流出するヒ素が湯川に入りこみ、それが石灰で中和されて中和生成物となって品木ダムに溜まることにあります。そのヒ素の量は、年間50トンというとんでもない量です。

 ヒ素は一般的にヒ酸鉄という形で水中に沈澱しており、そのままでは危険性はないそうです。つまり、草津温泉に入っても問題はありません。ところが、中和工場で石灰と混ぜると、加水分解して水溶性のヒ酸塩になってしまう。このヒ酸塩の含まれた中和生成物、すなわち品木ダムにたまった汚泥をアルカリ性のセメントで固めると、ヒ素は水に溶けることになります。

 セメントで固めた中和生成物というと、カチカチに固化したものというイメージがありますが、そうではなく粒状化しているだけとのこと。しかも、本来なら樹脂シートと排水処理施設の必要な管理型処分場で処理しなければならないのに、実態は素掘りの穴に投棄しているのです。山野にヒ素を垂れ流ししているも同然です。さらに微生物が多量に存在する処分場にヒ素を廃棄したなら、毒ガスを発生させることにもなりかねないと専門家は警告します。

 一方、ダム湖には中和生成物が溜まる一方です。というのは、ダム湖に溜まった中和生成物を完全に浚渫するためには年間約3億円かかるそうですが、実際には1億円の費用しか出ていません。そして、上智大学の木川田教授によると、ダムの外にも年間3トンほどのヒ素が流出しているとのこと。このことは、「国交省がひた隠しにする八ッ場ダムのヒ素問題」で紹介した保坂展人さんの以下の記事でも取り上げられています。

スクープ「八ッ場ダム最大のタブー、ヒ素汚染問題」

 品木ダムの中和生成物の処分場は、高杉さんの表現によると「数十万トンの中和生成物の埋立処分場。湯川の品木ダムへの流入口、下から仰ぎ見ると品木ダム湖の西南端の直上に覆いかぶさるような急こう配で汚泥の山が築きあげられている」とのこと。大雨や地震、火山の噴火などでこの汚泥の山が崩壊したなら、そして品木ダムの堤体が崩壊したなら、ヒ素に汚染された大量の汚泥が下流の利根川を駆け下り、途中から武蔵水路を通って荒川下流にまで流れ下ることにもなりかねません。

 また、八ッ場ダムに水を貯めるために発電に利用している酸性水を吾妻川に戻したなら、八ッ場ダムは鉄やコンクリートを腐食させる酸性水になってしまうということについても、詳しく説明されています。中和システムなど意味がないばかりか、有害で危険なものでしかありません。

 この八ッ場ダムのヒ素問題について、いったいどれほどのマスコミが問題にしてきたのでしょうか。ちなみに「八ッ場ダム ヒ素」でネット検索したら、なんと私のブログ記事や保坂さんのブログ記事が上位に出てくる有様です。マスメディアで取り上げているのは、ヒ素を含む中和生成物の不法投棄を問題にした2010年4月22日の朝日の以下の記事くらい。

国交省、ヒ素汚泥を投棄 八ッ場ダム上流の素掘り処分場

 この危険きわまりないヒ素問題について、政・官・マスコミがこぞってひた隠しにしていることこそ恐るべきことでしょう。永遠に排出される無害な状態のヒ素を、大量の石灰で中和して毒物と化して山中に不法投棄し、品木ダムに貯め込んで下流部にもヒ素を垂れ流ししつづけることの危険さ、愚かしさ・・・。まさに中和システムは破たんしています。

つづく

2010年6月28日 (月)

ダム問題の今後

 今日の北海道新聞「月曜考」で、水源開発問題全国連絡会(水源連)共同代表の嶋津暉之さんへのインタビュー記事が掲載されていました。

 昨年の政権交代では、民主党の無駄な公共事業の削減の掛け声とともに全国のダムの見直しが行われましたが、八ッ場ダムでは中止に反対する人たちの大きな抵抗にあっています。では、全国のダムの状況はその後どうなっているのでしょうか。嶋津さんは、全国で実施されている143基のダム事業のうち、とりあえず工事がと止まったのは平取ダム、サンルダムを含め6基だけだといいます。止まったといっても凍結状態で、中止が決まったわけではありません。はじめの掛け声はよかったのですが、実際にはダム中止はかなり苦戦しているという状況です。

 そして、国土交通省の有識者会議のメンバーというのがこれまた疑問。本気でダムを止めるつもりがあるのなら、こういう人選はしないだろうというメンバーになっています。嶋津さんはこれについて次のように言います。

 「有識者会議のめメンバーの中には明らかにダム推進派の人がいます。私たちと同じ立場の人も選ばれるものと思っていたら、誰にも声が掛からなかった。そんな会議で、ダム事業を止める具体的な基準ができるものなのか。見直した結果、やっぱりダムは必要という結論になる可能性もあるのです。自民党政権がつくった計画に民主党政権がお墨付きを与えたら、今度は大手を振ってダムがつくられていく。こうなっては、ダム反対運動にとって暗黒時代です」

 そうですね。昨年の政権交代時のあの勢いはどうなっちゃったんでしょうか。有識者会議のメンバーがダム建設にゴーサインを出してしまったら、ダムを推し進めてきた自民党となんら変わりはありません。本当に安心できない状況です。

 嶋津さんはこんなことも言っています。

 「ダムに頼る治水計画は私に言わせればギャンブルに等しい」「河川改修を進めることで、もっと安上がりで効果的な治水対策は可能です」「節水技術の進歩と人口減少を考えると、今後は水不足ではなく水余りの時代になります」

 確かにダムによる治水など危ういギャンブルでしかないでしょう。洪水が頻発する河川の場合は、ダムではなく河川改修などで対応するというのはもっともでしょう。しかし川というのは本来、たまに襲う集中豪雨などによって氾濫するものなのです。氾濫によって肥沃な土壌が運ばれるのです。川は氾濫するのだという認識のもとに、万一氾濫した場合に被害を最小限に抑える対策をたて、洪水とうまくつきあっていくという考え方も必要です。所詮、人間の手で洪水を抑え込もうなどというのは驕りでしかありません。

 結局、治水・利水などといっても、国民のためにダムをつくるのではなく、税金で甘い汁を吸いたい人たちのために造るのです。

2010年6月27日 (日)

まやかしの国有林保護地域の拡大案

 先日、知人から十勝毎日新聞に国有林の保護地域を今までの2.5倍に拡大するというニュースが載っていたことを教えてもらいました。以下です。

大雪・日高の国有林保護地域、2.5倍の24万ヘクタールに拡大 

 今回の案は、大雪山系と日高山脈に設けられている、原則として人手を加えない「保護林」と「緑の回廊」部分を今までの2.5倍に拡大するというもの。林野庁も、ようやく自分たちが破壊してきた森林生態系の保護に取り組み始めたのかと思ったのですが、この記事に掲載されていた地図をよくよく見て、なんだか国民を馬鹿にしているのではいかと気分が悪くなってきました。

 今回、拡大するという保護地域というのは、既存の保護地域をとりまく部分など、標高の高いところばかりです。ということは、針葉樹林帯上部のダケカンバを中心とした森林です。つまり、これまでもほとんど施業などしてきていない地域なのです。してきていない、というより急峻で施業が困難であったり、木材として適した樹がなく木材生産に適さないところといったほうが適切でしょう。さすが、林野庁の考える案です。

 林野庁が本気で森林の保護を考えるのであれば、これまで木材生産のためにさんざん痛めつけてボロボロにしてしまった針葉樹林帯こそ、保護林としなければなりません。大雪山系でいえば、もう原生林といえるような針葉樹林などほとんどないのですから。

 先日、札幌で行われた日本森林生態系保護ネットワークのシンポジウムでも話しましたが、北方針葉樹林を生息地とするミユビゲラやキンメフクロウ、キタグニオニグモなどは、過度の伐採による針葉樹林の衰退とともに姿を消しつつあります。ところがそのような針葉樹林帯は今回の保護林拡大地域にほとんど含まれていません。大雪山国立公園を特徴づける北方針葉樹林を保護林とせず、高山帯やその周辺部ばかりを保護しても、生物多様性の保護とはいえないでしょう。これじゃあ見せかけだけの保護林拡大です。

 この保護林拡大案は、北海道森林管理局が設置した生物多様性検討委員会の提言がきっかけとのことで、今後開かれる検討委員会にも提示されるようです。委員の皆さんは適切な案になっているのか、保護すべき森林がきちんと含まれているのか、針葉樹林帯の実態はどうなっているのか、是非とも調べたうえで意見を言っていただきたいと思います。

2010年6月25日 (金)

銭函海岸の風力発電計画を考える(その9)

 日本風力開発は去る6月20日に、札幌市の手稲区民センターで住民説明会を開きました。風車建設予定地から最も近い場所にある山口団地の住民など約200人が出席したとのことですが、団地以外の住民を入場させなかったそうです。住民の方たちからは、低周波音による健康被害や自然破壊などについての意見が相次いで出されたとのこと。つまり、住民の多くはこの計画に反対であったり、日本風力開発の説明に納得していないのです。この説明会のことは以下の北方ジャーナルの記事に詳しく書かれています。

【小樽市銭函風力発電計画】札幌で初の住民説明会

 この記事によると、日本風力開発は「風車からは人体に影響を与える低周波音は観測されていない」など、まるで健康被害などないかのように説明しています。さらに風力エネルギー研究所の担当者は、風車の低周波音に関するネット情報はすべて正しくない、観測されていないと説明したとか。これは虚偽説明といえるのではないでしょうか。多くの報告事例があるのにこんな説明を平然とするとは、信じがたいことです。

 で、驚いたのは、日本風力開発はその説明会の翌日である21日に「新エネルギー導入促進協議会(NEPC)に補助金の申請をしていたとのこと。結局住民への説明会は単に「説明をした」というアリバイづくりだったのでしょうか。

 また、北海道新聞の報道によると、日本風力開発は7月に環境影響評調査書をまとめ、11月から設計に入る方針を示したそうです。住民の意見を無視し、あくまでも強行姿勢を貫くつもりでしょうか。

 写真は、5月に道南にイソコモリグモ調査に出かけた際に撮影した風車です。すぐ近くに行ったら風車がすごい音を出しているんですね。遠くから見ているだけではわかりませんが、この音にはゾッとしました。とてもこんな風車の近くには住みたくありません。

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2010年6月24日 (木)

野生化したルピナスは駆除を!

 今日の北海道新聞の「読者の声」に、「ルピナス力強く土手の斜面彩る」という投書が掲載されていました。庭に植えていたルピナスが増えてきたために、毎年少しずつ自宅前の土手に移植し、それが200株にもなった。また、同じ斜面にフランスギクの種も播いて自己満足しているという内容です。

 「自宅前の土手」とは道路の法面なのか、それとも川の堤防のようなところなのか分かりませんが、おそらく公共用地ではないかと思われます。そういうところに園芸植物のルピナスを植えたのなら、繁殖力の旺盛なルピナスのことですから種子がこぼれてどんどん増えていくでしょう。フランスギクも然り。これだけ生物多様性の保全が叫ばれるようになった昨今でも、このような感覚の方がいるんですね。外来種の野生化に手を貸しているようなものですが、ご本人はなんら問題意識はないようです。それと同時に、こういう投書をそのまま載せてしまう北海道新聞の感覚もどうかと思います。

 この投書を読んで、ある光景を思い出しました。かつて音更川(十勝川の支流)の河川敷にルピナスの群落が出現しました。橋を通る人たちの目を楽しませようと、河川敷にルピナスの種を播いた人がいたのです。その光景を見たときには、さすがにゾッとしました。さらに驚いたのは、ルピナスの群落を保つために草刈りまでしたのです。自然のままにしておくべき河川敷に外来種を持ち込み、そこにあった在来種を刈ってしまうという発想には仰天しました。

 その頃は、この光景にまったく疑問を感じない人が多かったようです。そうそう、河川敷にルピナスの種を播いた方は、国道の路肩にも種播きをしました。おそらく、その方には「外来種」「在来種」などという意識はまったくなかったのでしょう。

 北海道はこのところ急に夏らしい気候になり、道端や空き地など、あちこちに野生化したルピナスの花が目につくようになりました。ニセアカシアの白い花も満開です。でも、前述した投書からもわかるように、こういう光景に問題意識を持つ人は今でも少数派なのかもしれません。「生物多様性」という言葉を頻繁に聞くようになったのに、多くの人は自分の身の回りの外来種や生物多様性の問題はピンとこないようです。

 ルピナスは直根性で深く根を下ろしますので、根こそぎ抜き取ろうとしてもそう簡単に抜けません。野生化してはびこってしまうと、駆除するのはとても大変です。フランスギクなどのキク科植物もおびただしい数の種子をつけて旺盛に繁殖します。法面などに沿ってひとたび国立公園などに入ってしまうと、大変なことになります。綺麗だからといって、園芸植物を人の管理が及ばないところにまで植えるべきではないでしょう。

 環境省は、せめて国立公園内の外来種駆除の方針を明確に打ち出し実行に移さないと、この国は生物多様性保全の後進国となってしまいます。大雪山国立公園の十勝三股のルピナスに対しても、毅然とした態度をとって欲しいものです。

2010年6月23日 (水)

美蔓貯水池の欺瞞(12)一戸あたり2億3000万円の事業

 先の記事までは、美蔓貯水池の農家一戸あたりの事業費が1億5000万円だと書いてきました。これは「美蔓地区国営かんがい排水事業」の総事業費が330億円で、受益農家が215戸という数字から出したものです。この数字というのはかんがい事業と排水事業の両方が含まれているものでした。そして、排水事業はすでに終わっています。とすると、かんがい事業に限った場合、事業費はどうなるのでしょうか?

 ナキウサギふぁんくらぶが情報公開で環境調査や費用対効果等の資料を取り寄せたところ、かんがい事業(頭首工、導水管、貯水池)のみの建設費は、農家一戸あたり何と2億3000万円にもなるということがわかりました。かんがい事業と排水事業では受益者が同じというわけではありません。かんがい事業に限ってみると建設費は270億円で受益農家は116戸だったのです。かんがい事業だけだとこんな莫大な費用になるというのですから、あっけにとられてしまいました。この数字では、とても費用対効果がある、などという話にはならないでしょう。この費用は国だけが負担するのではなく、北海道や受益地の市町村も負担することになります。道民や受益者ではない町民はどう思うでしょうか?

 受益地では現在ももちろん農業が成り立っています。どう考えても「農業用水が足りなくてとてもやっていけない」という状況ではありません。それにも関わらず、農家一戸あたりに2億3000万円もの税金を投入するとは信じがたいことです。しかも、かんがい用水を使うためには農家が自前でスプリンクラーなどの設備投資もしなければならないので、116戸すべての農家が水を使うとは思えません。受益者とされている116戸の農家の実態もわからないのです。

 開発建設部はこの6月からナキウサギの生息地の下にトンネル方式(シールド工法)で導水管を通す工事をする予定になっているとのこと。しかも、この時期はナキウサギの繁殖期です。事業者は何年もナキウサギの調査を行ってきたのですが、なぜナキウサギ生息地での工事を先にやるのでしょうか? そして、何のためのナキウサギ調査だったのでしょうか? まさか、調査を請け負った森林環境リアライズのためではないでしょうね。

 これはあまりにも酷い、ということで、6月21日に日本森林生態系保護ネットワーク、十勝自然保護協会、ナキウサギふぁんくらぶの3団体が、工事の中止と凍結を求めて農林水産大臣に要望書を提出しました。

 どう考えても、工事をすることが目的の事業としか思えませんね。

つづく

2010年6月19日 (土)

サラ金なみの北海道開発局

 My News Japanに北海道開発局の驚くべき実態を告発した記事が掲載されています。

欄干修理代めぐり女性が自殺 遺族が告発する北海道開発局の猛烈取り立て 

 自動車事故で橋の欄干を破損したために、開発局から150万円の修理代を請求された無職の女性が、支払いが困難となり自殺したというのです。厳しい取り立てを苦にして自殺したというのに、開発局は平然と遺族に債務の取り扱いについて確認の手紙を出したというのですから、この感覚自体が理解できませんし、そもそもサラ金なみの取り立てです。無料で読める部分は前半の一部だけですが、それだけでも北海道開発局の異常さがわかります。

 破損しているガードレールや橋など、いたるところにあります。おそらく車をぶつけるなどして破損した人が道路管理者にいちいち届け出ているわけではないでしょうから、その大半は誰が壊したのかわからないのでしょう。そして、壊した人が分からない場合の修理費用は税金から出されているのではないでしょうか。

 北海道開発局といえば、ダムなど無駄としか思えないような大型公共事業に莫大な税金を使ってきたところです。自分たちの事業には億単位の税金を湯水のように使っておきながら、その一方で、収入のほとんどない女性の過失事故でこんな取り立てをするというのはどういうことでしょうか?

 自殺に追い込んでしまった責任など微塵も感じられません。こういう体質が無駄な公共事業の邁進にも通じているのでしょうか。ダムなどの大型公共事業で自然を破壊しても、責任などほとんど感じないのでしょう。

2010年6月17日 (木)

札幌合同庁舎に設置された大仰なゲート

 昨日の記事に書いたように、15日に久しぶりに環境省の事務所に出かけたのですが、環境省の入っている札幌第1合同庁舎に入ると、目の前に鉄道の改札口のようなゲートが構えていました。以前はこんなゲートはありませんでした。職員はこのゲートを通って中に入っていくのですが、一般の来訪者はゲートの横にある受付で名前と訪問先を書き、番号札をもらってそれを首からかけなければなりません。一般の人が訪問することの多いお役所で、ここまで厳重な警戒をしなければならないのでしょうか? 首から番号札を下げろというわけですが、これも何とも嫌な気分です。

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 セキュリティ強化ということでしょうけれど、こんなものものしいゲートが本当に必要なのか、首をかしげてしまいます。というか、もし誰かが事件を起こそうとしたなら、来訪者に名前を書かせて番号札を持たせるくらいのことでは何も防げないでしょう。偽名や嘘の用事など、いくらでも書けるでしょうから。で、この設置費用にいくらかかっているのかと思ったら、以下の北方ジャーナルのブログに書かれていました。

撮影禁止?なんでなんで?

 なんと、第1合同庁舎のゲートは2961万円とのことです。このゲートは表と裏の入口にそれぞれつけられていますから、二カ所でおよそ3000万円をかけたということなのでしょう。この大仰なセキュリティゲートなるもの、庶民感覚では、税金の無駄遣いとしか思えないのですが・・・。

 北方ジャーナルの記事によると、この合同庁舎のゲートのことで取材しようとしたところ撮影禁止だと言われたそうです。私は二重になっている玄関ドアの間の部分から撮影させていただきましたが、何も言われませんでした。だれでも行ける公共の建物が何で撮影禁止なのでしょうか? この感覚にも驚くばかりです。どこもかしこも監視社会になりつつあります。

2010年6月16日 (水)

環境省の外来種対策の意識

 昨日は、自然保護団体のメンバー4人(十勝自然保護協会・大雪と石狩の自然を守る会・ナキウサギふぁんくらぶ)が札幌の環境省の事務所を訪問し、大雪山国立公園の十勝三股地区のカラマツ駆除について申入れをしました。

 これについての経緯などは、以下の十勝自然保護協会のサイトを参照してください。

生物多様性締約国会議開催と環境省の見識

 北海道中央部、石狩岳の麓にはカルデラ地形の三股盆地が広がっています。ここにはかつてエゾマツを主体とした北方針葉樹林が広がっていました。しかし林野庁による乱伐で、今では蓄積量がかつての三分の一程度になってしました。林業の最盛期には、三股地区には千人を超える人が住んでいたそうで、小中学校もあり、集落にはカラマツも植栽されました(木材生産目的の植林ではありません)。しかし、林業の衰退(というより乱伐による森林の衰退)に伴い、三股集落から人々が去り、今では二世帯が住んでいるだけです。ところが、集落に植えられたカラマツは大きく成長し、今は土場跡地などに種子が飛散して野生化しつつあります。

 カラマツはもともと北海道に自生している木ではありません。本州から持ち込まれたものですから外来種です。それが国立公園内で野生化しつつあるために、2007年に十勝自然保護協会が環境省に駆除を求めていました。三股の集落があったあたりは林野庁ではなく環境省の土地なのです。しかし、環境省はその申入れに対して何ら動きを見せませんでした。そこで、今年の生物多様性条約締約国会議開催を機に、改めて駆除の申入れをしたところ、昨日の面談となったのです。

 三股のカラマツ駆除について環境省の見解を聞いたところ、以下のような説明がありました。

 「三股の植生がどのようになっているか現況を調べる必要があると考えている。また、地元の街や地域の人たちの意見も聞きたい。そのうえで、植生をどのようにしていくのが望ましいのか考えていきたい。三股をそのままにしておいていいのか、人手をかけるべきなのか検討しなければならないし、時間が少し欲しい」

 カラマツという外来種が国立公園に生育して野生化していることは、今更植生などを調べるまでもない明瞭な事実です。しかし、それに対して環境省としてどうすべきかという明確な姿勢が見えてきません。なんとも頼りない説明です。

 そして、「特定外来生物については取り組みをしているが、三股地区には要注意のものはあるのか」との質問が私たちに対してありました。

 まだ三股地区では確認されていないものの、侵入させないように努力しなければならない特定外来生物としてはセイヨウオオマルハナバチがあります。そこで、セイヨウオオマルハナバチの話題になりました。

 層雲峡にはすでに三年ほど前にセイヨウオオマルハナバチが侵入してしまい、今では黒岳の高山帯でも確認されています。懸念していたことが現実となってしまいました。一度侵入してしまうと、駆除によって駆逐することは不可能に近いのです。三股地区には園芸植物のルピナスが繁茂しており、もしここまでセイヨウオオマルハナバチが侵入したならば蜜源となります。セイヨウオオマルハナバチの高山帯への侵入を防ぐという予防原則の観点からも、蜜源となる外来植物を駆除することが肝要です。このことについては、地元の自然保護事務所の前任者も知っていましたが、ルピナスの駆除については何ら動きを見せませんでした。環境省はウチダザリガニやセイヨウオオマルハナバチの駆除には積極的で、市民などに呼び掛けて駆除を行っています。ところが、不思議なことに国立公園内のルピナスの駆除に取り組もうという姿勢が見られません。なんともちぐはぐに思えてなりません。

 10月には名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議が開催されますが、それまでに環境省としてカラマツ駆除の意志を明確にしてほしいと求めました。

 特定外来種以外の外来種問題については、環境省の意識は低いとしか思えません。もう少し毅然とした姿勢を持ってほしいところです。

2010年6月13日 (日)

朝里ダムの天空の回廊に驚愕

 道南のイソコモリグモ調査旅行の帰りに、小樽の朝里から定山渓に抜ける道道1号小樽定山渓線を通ってみました。この道はこれまで通ったことがなかったのです。もう夕方になっていたのですが、朝里ダムの手前で行く手に目を疑う光景が現出しました。不釣り合いなほど高い橋脚に支えられた高架道路が、ダムの手前をぐるりと一周しているのです。まるで天空の回廊。山の中とは思えない異様な光景です。

 手元の道路地図をみると、道路が丸く輪を描いています。なんじゃ、これ?! どうやら、朝里大橋というループ橋のようです。ループ橋の一帯は駐車場やテニスコートなども整備されており、観光地そのもの。ダム建設によって既存の道路が廃止されループ橋に変更したとのことですが、莫大な建設費を投じてこんな橋をかける必要が本当にあったのでしょうか? こんな大げさな高架道路を造ったのはほとんど観光目的としか思えません。

 このループ橋を過ぎると、さらに斜面にへばりつくような高架橋が現れます。そして朝里トンネルを過ぎて定山渓側に入るとこんどはトンネルの連続。昨年、ここのトンネルで壁面のコンクリートがひび割れを起こし一時通行止めになっていましたが、トンネル内では今でも工事が行われていました。こうやってみると、もともと立派な道路を通すには不向きな地形だったのではないかと思えてなりません。いくら巨大な高架橋や長大なトンネルをつくる技術があるからといって、必要性とか節度というものがあります。

 ループ橋といい、連続するトンネルといい、どれくらいの建設費がかかったのでしょうか。トンネルの復旧工事でもかなりの費用がかかっているはず。費用対効果が知りたいところです。交通量が多いとは思えませんし、途中に札幌国際スキー場がある程度。スキー場とダム観光のための道ではないかと思えるくらいです。とにかく驚きの連続の道路でしたが、いったい誰のお金でこんな道路を造っているのか、多くの人に知ってもらいたいものです。

 ループ橋の写真は撮らなかったので、写真を見たい方は「朝里大橋」「朝里ダム ループ橋」などと検索してみてください。

2010年6月12日 (土)

呆れた森林環境リアライズというコンサルタント会社

 森林環境リアライズというコンサルタント会社のことについては、美蔓貯水池(旧美蔓ダム)のナキウサギ調査で矛盾した報告書を書いているとして問題にしましたが、加森観光によるサホロスキー場の拡張事業においてもとんでもない隠ぺいをしていたことが分かりました。

 私は出席できなかったのですが、加森観光が実施した住民説明会で、環境調査を行った森林環境リアライズの職員が、北斜面にナキウサギの生息地があることを知っていながら調査報告書にそのことを書かなかったと話したというのです。これは明らかな情報の隠ぺいです。この問題について十勝自然保護協会が再調査を申し入れました。以下の記事をお読みください。

サホロスキー場北斜面開発で再調査を申し入れ 

 この事例は、森林環境リアライズというコンサルタント会社が、発注者の意に沿うように事実の隠ぺいも平気でしてしまうということを物語っています。スキーコースにナキウサギの生息情報があるのは困りますからね。恐らくこのようなことはこの会社に限ったことではないでしょう。逆の見方をするなら、このような隠ぺいをしなければ、コンサルタント会社に仕事が来ないとも言えるかもしれません。まともな調査をやって、まともな報告書を書いていたのでは、会社が成り立たない世界なのでしょうか。

 このナキウサギ生息地の隠ぺいについて、もし十勝自然保護協会が指摘していなければおそらく誰も気がつかなかったでしょう。そうやって、公共事業や開発事業の犠牲になり、闇に葬られてしまった希少動植物も少なくないのではないでしょうか。

 サホロリゾート開発問題協議会が北海道に対し、情報公開で非開示となった部分について異議申し立てをしていましたが、北海道知事から非開示の理由説明書が届いたそうです。それによると、希少野生動植物が非公開になったことについて「希少野生動植物保護条例や種の保存法が制定されたことにより、希少野生動植物の盗掘等から保護を図る観点に立ち、希少種の名称や位置等について非開示としたものです。」と説明しています。

 「盗掘等からの保護」とは何と便利な方便でしょう。盗掘等を目的に情報開示をしたとでも思っているのでしょうか。希少動物を脅かすようなことをするために情報開示したとでも思っているのでしょうか。ここまで黒塗りにしてしまったら、コンサルタント会社が不適切な報告書を書いていても見抜くこともできないのです。市民による検証の妨害です。結果的に、地方自治体が「保護」という名の下に希少動植物の生息地破壊に加担しているということにもなりかねません。

2010年6月11日 (金)

渡島半島の森と植物

 遠いということもありこれまで渡島半島にはほとんど縁がなかったのですが、先日のイソコモリグモ調査で、渡島半島の風景はやはり道東とはかなり違って本州の要素が強いことを実感しました。

 なにしろ、植林されているのは圧倒的にスギです。トドマツやカラマツの造林地もあることはあるのですが、でもスギが大半。この風景だけを見たら、なんだか本州に来たような錯覚にとらわれます。もっとも全道に植えられているカラマツも本州から持ち込んだのですから、北海道の造林地は外来の樹種が非常に幅をきかせています。スギにしてもカラマツにしても成長が早いために造林木として使いたいのはわかりますが、やはりもともとそこにない樹種を山に広範囲に植栽するというのはどんなものでしょうか。

 もうひとつ道東や道北と違う印象を受けるのは、やはりブナの存在でしょうか。そのほかにも道南にしか分布していない樹木があります。イソコモリグモ調査のついでに、大千軒岳の登山口まで行ってみました。この写真は登山口なのですが、右側の木はブナで左側はサワグルミ。どちらも私の住んでいる道東にはないので馴染みがないのですが、サワグルミはいわゆるクルミの形をした実をつけません。樹形も日ごろ見慣れているオニグルミとは全く違います。こういう光景を見ると、やはり道南は本州との関連性が強いのだとつくづく感じます。

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 ところで、大千軒岳はシラネアオイの群生地があることで有名です。登山口に行くまでの間の林床にも点々とシラネアオイの優しい藤色の花が咲いていました。山の上の方には大群落もあるようですし、機会があれば登ってみたい山です。体力が一番心配ですが。

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 大千軒岳への林道からの景色もなかなか壮観です。道東では林道を車で走っていても、谷底にころげ落ちたら即お陀仏!という感じの、恐怖感を覚えるような峡谷は少ないのですが、道南の山々はけっこう急峻で、植生だけではなく地形も本州との共通性が感じられました。

 松前公園にも寄り道をしたのですが、ここにはツバキが植栽されていることを知りました。八重桜の花がまだ咲き残る時期に、ツバキの赤い花が咲いている光景はなんとも不思議です。何しろ、新緑と椿という組み合わせなのですから。松前から日本海側にそって北上すると、民家の庭先に常緑広葉樹とおぼしき庭樹が点々と植えられており、赤やピンクの花をつけていました。遠目にはツバキあるいはサザンカの園芸種のように見えましたが、こういう光景も道南独特のものでしょう。

 そういえば道南ではクモの採集記録などがほとんどありません。クモの調査においては空白地帯ともいえるところなのです。本州との共通種で道南だけから知られているクモもあります。いつかじっくりと調べてみたいものです。

2010年6月10日 (木)

イソスミレに迫る危機

 道南のイソコモリグモ調査の折りに、日本海側のとある海岸でイソスミレの青い花が目に留まりました。イソスミレの花を見るのははじめてですが、こんな砂浜に根づいているスミレはイソスミレしか考えられませんのですぐにそれと分かりました。雰囲気はタチツボスミレに似ていますが、花の色はそれより濃い鮮明な青紫です。昨年はずいぶんと海岸に出かけましたが、それでもイソスミレを見ることはありませんでした。あれほど海岸を歩いたのになぜなのか・・・。

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 イソスミレは北海道では南西部に分布し、北限は石狩浜とされています。また花期は春です。昨年はイソスミレの開花時期にはイソスミレの分布していない道東や道北の海岸を調べていたのです。出会えるはずがありません。

 さて、イソスミレは場所によってはかなり大きな群落をつくるそうですが、ここで見かけたのは小さな一株だけでした。ここの海岸には自然の砂浜はあるものの、浸食によって海岸には段差ができています。また、砂丘上には風車が立ち並んでいました。イソスミレは、砂浜と植物に覆われた砂丘との間に残されたわずかな斜面にかろうじて生き残っているかのようでした。イソコモリグモと同じように、海岸浸食によって生育適地がどんどん奪われているのではないでしょうか。

 イソスミレは環境省のレッドデーターブックで絶滅危惧Ⅱ類に、北海道のレッドデータブックで希少種に指定されています。イソコモリグモも絶滅危惧Ⅱ類です。絶滅危惧種に指定されていても、生育適地がどんどん浸食されて減少したなら、人知れず消えていく運命なのではないでしょうか。人為的に改変されず自然の砂浜が残されているからといって、いつまでもイソスミレが生育しつづけられるとは限らないのです。

 余談ですが、イソスミレもイソコモリグモも和名にイソ(磯)がついています。しかし、磯ではなく砂浜に適応してきた生物です。どうしてイソとつけられてしまったのか不思議ですね。ハマスミレ、ハマコモリグモなどに和名を変えたほうがいいのではないかと思えてなりません。

2010年6月 9日 (水)

道南のイソコモリグモ調査

 昨年はイソコモリグモの生息地調査で、道北・道東・日高の海岸を見て回ったのですが、行けなかったのが道南と根室地方、知床半島です。といっても知床半島は岩礁海岸なので、おそらく生息適地はほとんどないと思いますが。ということで、今年は5月26日から28日にかけて渡島半島に調査に出かけました。渡島半島も岩礁海岸が多いのですが、川の河口部などには砂浜もあります。今回は太平洋側の内浦湾(噴火湾)から函館を経て、松前から北上するコースをたどりました。

 札幌から南下してはじめに砂浜が現れるのは内浦湾です。内浦湾にはけっこう長い砂浜が続いており、以前、通りかかったときに1カ所だけですが立ち寄ったことがあります。その時はイソコモリは確認できなかったので、もう少しきちんと見たいと思っていたのです。幅が狭く浸食を受けて段丘状になっているところではやはり巣穴は見つかりません。3カ所目に降り立った砂浜で巣穴を発見。ここは幅も広く、生息に適した環境ですが、密度はそれほど高くないようです。おそらくかつては内浦湾の砂浜海岸に広く分布していたのでしょう。しかし、今は生息している場所が限られているようです。当然といえば当然ですが、海岸浸食による生息地の減少はこの内浦湾にも押し寄せています。このまま浸食や改変が進めば、やがて生息地が消えてしまう可能性もあります。

 函館湾は、かつては生息地があったのかも知れませんが、今はほぼ壊滅状態です。松前半島の先端も岩礁海岸ですので生息不可。松前から日本海にそって北上していき一番はじめに確認できた生息地は松前町の小鴨津川河口でした。ここから積丹半島の付け根の岩内までの間で約10カ所ほどの海岸を調べましたが、8カ所でイソコモリを確認できました。ほとんどが川の河口部の小規模な砂浜なのですが、こんな砂浜でも細々と生きています。イソちゃんはなかなか逞しい! これで渡島半島にも点々と生息地が隔離分布していることが明らかになりました。といっても、温暖化などで海面が上昇したならこういう生息地は消えていくのでしょうね。道南のイソちゃんたちは、いつまで生息していられるのでしょうか。

 ちょっと驚いたのは、なんと海岸の砂浜に橇が置いてあったこと。挽馬用の橇のようですが、砂浜で挽馬の訓練をしているのでしょうか。バギー車よりダメージは少ないかもしれませんが、巣穴の上を橇で走られたなら、イソちゃんにとってはさぞかし迷惑なことでしょう。

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2010年6月 8日 (火)

深刻な若者の読書離れ

 小田光雄さんの執筆されている「出版状況クロニクル25」を読んでいて、大学生の読書離れに触れた記事が目に留まりました。大学生協の「第45回学生の消費生活」に関する実態調査によると、まったく本を読まない学生が何と約4割。また4割から5割の学生が、専門書もそれ以外の本や雑誌も、一カ月に一冊も買わないそうです。

 大学生の一カ月の書籍費は、30年前の1980年は自宅生が4,240円で下宿生が5,350円。それが現在は自宅生が2,000円で下宿生が2,370円とのこと。こうやって比べてみると、一昔前の学生はずいぶん本を買っていたのですね。親からの仕送りが減り、アルバイトや奨学金で何とかしのいでいる学生も多いと聞きますから、書籍への投資が減るのはわかります。それにしても、この数字はどうなんでしょう・・・。本の値段は高くなっているのに、書籍費は半減です。たぶん、彼らは携帯電話やファッションなどにはそれなりの投資をしているはずです。しかし、本には投資しないわけです。コミュニケーションの手段や価値観が変わったといえばそれまでですが、「若者が本を読まない」ということに危機感を持たざるを得ません。いったい何から知識を得ているのでしょうか? それとも知識を得ること自体をしなくなっているのでしょうか?

 私は本を読むのは好きですが、それほど多くの本を読んでいるというわけではありません。とはいうものの、学生時代には比較的本を読んだ方だと思いますし、「本を読まない」などという生活は考えられませんでした。専門書というほどではなくても、自然に関する本をよく読みました。野鳥など動植物に興味を持っていたのですが、自然にまつわる興味深い本がたくさんあったのです。休日は野に山に海岸に・・・と外をうろつきまわって野鳥などの観察にいそしみ、平日は大学の往復と読書の生活といっても過言ではありません。

 大学の図書館もよく利用しましたし、ちょっと時間ができたときのために、必ずといっていいほど本の一冊は持ち歩いていました。卒業してからもその習慣は変わらず、通勤の電車の中でもしばしば本を読んでいました。今でも、でかけるときはよく本を持ち歩きます。でも、昨今では電車で本を読んでいる若者はほとんど見かけません。携帯電話をいじっているか、眠っているか(高齢者に席も譲らず!)です。ちなみに、2年前に行った北欧では乗り物で本を読んでいる若者をよく見かけましたし、携帯電話をいじくりまわしている若者などほとんど見かけませんでした。日本とはずいぶん違います。

 今の大学生は調べたいことなどはインターネットで済ませてしまうのかも知れません。でも、本というのはインターネットの断片的な情報とは違って奥が深く、存在感があります。一人の著者の研究や考えが順序だてて書かれていますから、著者の視点や主張、論理の展開がはっきりと伝わってくるのです。本には著者のさまざまな体験や人生観、思想などが詰まっていて独自の新鮮な世界があります。さらに、本を読むことで自然に読解力がつき、文章を書く力が備わってくるのだと思います。いくらネットで瞬時にして様々な情報が得られたとしても、やはり本を読まないということにはなりません。

 きちんとした文章を書けない学生が増えていると聞きますが、これも本を読まないことや携帯メールの独特の短い文章ばかり書いていることと関係しているのでしょう。いくら試験で良い点数をとっても、大学生にもなってきちんとした文章が書けないのでは、どうにもなりません。卒論の指導をする教官はさぞかし大変なことでしょう。それに、社会人になって仕事が務まるのか、このさき日本語はどうなるのかと心配になってきます。  

2010年6月 7日 (月)

研究者と御用学者

 世の中には自然について研究している方がたくさんいます。たとえば生物に関しては生態学とか分類学とか生物地理学とか、さまざまな関わり方をしている研究者の方たちがおり、多くの方が大学や研究機関などに所属しています(もちろんアマチュアの方もたくさんいますが)。ところで、大型公共事業などによる自然破壊は、研究対象としている生物の生息地を破壊してしまうことになります。こうした現実は研究者にとって見過ごすことはできません。ならば生物系の研究者の方たちが自然保護運動に積極的に参加しているかというと、決してそうではありません。

 もちろん、中には自然保護団体の代表や役員などを務めて頑張っている研究者の方もいます。自然破壊、環境破壊に対する意識の強い方たちは、黙っていられないのです。自分のフィールドが破壊の危機にある場合などもそうでしょうね。しかし、大半の研究者は自然保護運動に積極的に関わってはいないのです。個人的には、研究者の責任としてできるかぎり保護するために意見を言って欲しいとは思います。でも、なかなかそうはなりません。

 理由はいくつかあると思います。とても忙しくてそこまで手が回らない、という人も多いでしょう。日本の研究者の待遇は決していいとは思いませんから、時間的にゆとりがないというのはよく分かります。また、無言の圧力のようなものもあるのかも知れません。国立大学を退官されたある先生によると、やはり自然保護や環境保全に関して自由に物を言えない職場環境があるとのことでした。退職してようやく自由に物を言えるようになったそうです。また、大学の先生は学生の就職の世話もしなければなりません。自然保護運動に関わっていると、必然的に公共事業の環境調査などを引き受けるコンサルタント会社と良好な関係を保てませんから、そのような会社への就職の世話ができなくなります。大学の教員が自然保護に積極的に関わっていても、いいことなどないのです。堂々と自然保護運動に関わっている現役教員というのは、すごい存在なのかもしれません。

 恐らくそういう事情を知ってなのでしょう。大型公共事業を行っている行政機関や、環境調査などを請け負っているコンサルタント会社などは、大学の教員に巧み近づいて利用しようとすることがあります。自然保護や環境保全などで発言している教員などにアドバイザーを委託したり、環境調査を委託するなどして取り込んでいくのです。大学の研究室は潤沢な研究費があるわけではありませんから、アドバイザーや委託調査などによる収入はありがたいのです。また、委託調査は学生の卒論などにも利用できるので一挙両得です。指導教官として論文の共著者になることで業績も増やすことができ、昇進にも有利になります。教員自身はそれほど意識していないのかもしれませんが、こうやって徐々に癒着関係ができてきます。

 この癒着関係が明瞭になると、御用学者と呼ばれる存在になってしまいます。こんな具合ですから、御用学者とそうではない研究者をきっちりと線引きできるわけではありません。しかし、表向きには環境保全の重要性をアピールしながら、行政と仲良くして行政の主催する検討会とか委員会などの常連になり、行政の意を汲んだ判断をすることが仕事のようになっている完璧な御用学者もいます。退官して大学という足かせから逃れたのに、自然保護や環境保全で毅然とした態度をとれないどころか、御用学者となってしまう研究者など何とも情けないですね。

 ただ、そういう歴然とした御用学者は全体の研究者の数から見れば、ごく一部なのでしょう。おそらく多くの生物系の研究者は自然破壊について危機意識や問題意識は持っているものの、時間的に、また職場環境などによって積極的に自然保護に関われないのだと思います。大雪山国立公園で建設が強行されようとした士幌高原道路の反対運動の際は、地元の帯広畜産大学の研究者をはじめとして何人もの研究者が積極的に反対運動に関わりましたし、複数の学術学会が建設反対の意見書を出すなどの行動をとりました。多くの研究者に、自然を守らなければならないという意識があるのは確かなのだと思います。

 地球温暖化に関しても同様のことが言えるのではないでしょうか。温暖化の研究をしている気候学者の多くはまじめな研究者なのだと思います。そして自分たちの研究結果からIPCCの報告書を基本的に支持しているのだと思います。国の行っている不適切な温暖化対策を批判するなどの行動を起こす気候研究者はあまり(ほとんど?)いないようですが、外野席がそれを批判することにもなりません。温暖化を放置したらどのような影響があるか(例えば生態系や農作物にどのような影響を及ぼすか)を予測したり、具体的な対策(省エネや自然エネルギーの利用など)を提言するのは別の研究者の仕事でしょうから。気候研究者の役割は、研究結果を明らかにすることです。そしてその結果、かなりの確率で人為的二酸化炭素の放出によって温暖化が生じていると考えられるのなら、「二酸化炭素の放出を削減すべき」と提言するところまでが研究者の責任であろうと私は思います。もしかしたら気候研究者の中にも御用学者といえる立場の方がいるのかもしれませんが、お金や名声を目的にデータを捏造するなどして、嘘と知りつつ温暖化を主張している研究者がいるとはちょっと思えません。常識のある研究者ならそんなことはとてもできないでしょうし、やったところでバレてしまうでしょう。

 ところが、地球温暖化を唱える研究者はそれだけで御用学者であるかのように受け止めてしまう方もいるようです。化石燃料の使用による二酸化炭素の増大が近年の地球温暖化の原因となっていることを認めず、人為的温暖化説は陰謀だと主張する人たちです。クリーンエネルギー産業などに携わる人たちの中には、確かに温暖化説を利用してお金儲けをしようと企んでいる人もいるのでしょうし、温暖化対策の名の下の陰謀がないとは思いません。でもでも、純粋な温暖化の研究まで陰謀だと疑ってしまうのはどうなのかと思います。

2010年6月 6日 (日)

森林シンポジウムの報告

 昨日は、このブログでもお知らせしていた日本森林生態系保護ネットワーク(Confe)によるシンポジウム「森林と生物多様性」でした。実は、先週は何かと多忙だったうえに風邪をひいてしまいました。そんなこんなで体調があまりすぐれない上、私の報告用の電子紙芝居(パワーポイント)も出かける直前まで修正しているという有様でした。今日は、このシンポジウムでの話の内容をごくかいつまんで紹介します。

 はじめの講演は、はるばる屋久島から来ていただいた手塚賢至さんによる「世界遺産屋久島における生物多様性保全への取り組み」。私はこれまであまり意識していなかったのですが、九州の最高峰は屋久島の宮之浦岳(1936m)です。屋久島は海抜0メートルから1900メートルという標高差をもつために、亜熱帯から亜高山帯までの垂植生の直分布が見られます。亜高山帯の植生が見られるといっても、もちろん北海道とは全く違っており、針葉樹はスギやヤクタネゴヨウです。屋久島は雨量が多く、生物多様性に富む島なのです。そして屋久島の中でも原生的な自然が保全されているのは西部地域とのこと。世界遺産に登録されているところは原生的な自然が残されている場所が中心で、東部地域などではスギの人工林へと植生が変えられてきており、屋久島本来の植生への復元を目指しているとのことでした。

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 二番目は、世界的な植物学者である河野昭一さん(写真)による「生物共生系の世界を探る」というタイトルでの講演。植物と昆虫の共進化について分かりやすい写真を使ってのお話でした。たとえば、花の一部で紫外線の反射率を変えて昆虫を誘引しているとか、昆虫に蜜というお駄賃をあげることで自分を守ってもらうとか、花粉を納豆のように粘らせて昆虫の体に付着させるようにしているとか、種子をアリに運んでもらうとか、とても興味深いお話でした。こうした共進化はダーウィンの自然選択説だけで説明するのは難しいのではないかとのことですが、確かにそう思います。花にそっくりの色や形をしたカマキリなど、ほんとうにどうやって進化したのかと思うと不思議でなりません。

 予定では「花に魅せられ50年」―河野昭一さすらいの半生記―という講演も入っていたのですが、こちらは時間の関係で省略。その代わり、資料集の中に波乱に富んだ植物学者の研究人生が収録されています。私は、こうした話はお酒を飲みながらの席で河野先生ご自身から何回か聞かせていただいていますが、こちらの話を聞きたかった参加者も多かったのでは・・・。

 活動報告として、私が大雪山国立公園での伐採問題について話したほか、広島の金井塚務さん(広島フィールドミュージアム主宰)から、沖縄のやんばるの森でのオキナワウラジロガシの調査報告がありました。Confeでは、何と日本の北の端と南の端で調査活動をしているのです。

 やんばるの森はイタジイを主体とする常緑広葉樹林です。イタジイなどの多くの広葉樹は伐採しても切り株から芽が出て再生します(これを萌芽更新といいます)。ところがオキナワウラジロガシは、ほとんど萌芽更新をしないのだそうです。そこでオキナワウラジロガシの分布を調べると、湿度の高い谷沿いに多く生育しており、種子(大きなどんぐり)は落果と川の流れによって散布されることがわかりました。このどんぐりは乾燥に弱いのですが、斜面の上から流れてくる土砂や落ち葉を板根(板状になった根)が受け止めることで湿度の高い土壌が形成され、そこでどんぐりが発芽できるようになっています。さらに、オキナワウラジロガシはヤンバルテナガコガネやケナガネズミなどの生息場所としても重要な存在です。ですから、沢筋の植生が破壊されてオキナワウラジロガシがなくなってしまうと生物多様性に大きな影響を与えることになります。やんばるでも北海道と同じように無残な皆伐が行われ、網の目のように林道が造られているので、そうした貴重な自然がどんどん壊されているのです。

 最後は市川守弘弁護士による、「日本の森を守るための提言(案)」の骨子について説明がありました。市川弁護士は全国各地の自然保護運動に取り組んでいますが、道南のブナ林や日高のえりも地方での伐採が止まっているなど、その成果が着実に現れています。行動していかないと、森は守れません。

 参加者はおよそ70名くらいだったでしょうか。嬉しいことがありました。私のブログにコメントを寄せてくださるBEMさんが、ブログに掲載したお知らせを見て参加してくださったのです。終わったあとで挨拶に来てくださいました。そして、さっそくご自身のブログでも報告してくださいました。ブログの内容からとてもまじめで誠実な方だと感じていましたが、実際にお会いしてよりその印象を強くしました。ありがとうございました。どこかで「鬼蜘蛛おばさん」を見かけた方は、声をかけてくださると嬉しいです。

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