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2009年12月26日 (土)

出版差止め裁判の根底にあるもの

 光市事件を扱ったルポ「福田君を殺して何になる」の著者である増田美智子さんと版元のインシデンツ(寺澤有代表)は、被告人と弁護士3人に対し、「出版前に原稿を見せるとの約束をほごにされた」と虚偽の事実を公表したとして損害賠償を求めて東京地裁に提訴したとのことです。また、毎日新聞社に対しても、社説で事実に反する記述をしたとして損害賠償と謝罪広告を求めて提訴したそうです。出版差止め仮処分申し立てについての広島地裁の決定と、毎日新聞社への通知は以下のインシデンツのサイトをご覧ください。

『福田君~』情報

 この件については反訴もありえるだろうと思っていましたが、やはり弁護団による提訴は、著者側は到底納得できないということでしょう。反訴の最大の争点は、「原稿を事前に見せる約束をしたかどうか」ということです。反訴までするからには、著者側はこの点について絶対の自信があるのだと思います。広島地裁による決定では、「この主張を前提とする債権者の差止め請求は理由がない」として弁護団側(福田君)の主張を退けています。そもそも福田君に有利としか思えない内容の本であるにも関わらず、なぜ「約束した、しない」などという単純なことで対立するのでしょう? ここに、疑問が生じるのです。

 この件に関しては「実名報道の是非」だけが一人歩きしてしまったようですが、「実名が少年法違反」というのは、あくまでも法的手段をとるための表向きの理由だとしか私は捉えていません。そもそもことの発端はまったく違うところにあるのではないかと私は考えています。

 その発端のひとつは、弁護団と今枝弁護士の弁護方針の違いによる対立です。弁護団内部で意見の対立があるのは当然のことでしょうし、内部での対立や解任をとやかくいうつもりはありません。問題は、今枝弁護士の解任の仕方にあります。「福田君を殺して何になる」でも、福田君が以下のように語っています。

  「僕は今枝先生の解任には最後まで抵抗していたんだよ。本当は、あのときよりもずっと前から今枝先生の解任の話は出てたから、本田(弁護団)団長に何度も(『解任しろ』と)言われてたけど、僕は『絶対イヤだ』って」

 今枝弁護士が自分の意志で弁護団から抜けるのならわかりますが、そうではありませんでした。弁護団は嫌がる福田君を説得し、今枝弁護士を解任させたのです。穿った見方をすれば、弁護団の内紛解決のために福田君を利用したとも言えるのではないでしょうか。私が一番残念に思うのは、この点です。今枝弁護士が、あえて弁護団の内紛まで自著「なぜ僕は『悪魔』と呼ばれた少年を助けようとしたのか」で言及した理由は、ここにあるのだと思います。

 弁護団が福田君の意思を尊重していないと考えられる点については、「光市事件弁護団への疑問」でも触れましたが、弁護団による増田さんの面会拒否もこの延長線上にあるのでしょう。

 もうひとつ気になるのは、この弁護団の閉鎖性です。今枝弁護士は、弁護団のマスコミ対応について批判的でしたが、私も同じような印象を持っています。弁護士のメディア対応については、弁護団の中心的存在である安田好弘弁護士が「創」2009年11月号で以下のように説明しています。

 「弁護をやるとしたら、メディアに対応しないというのが原則なんでしょうね。なぜかというと、社会を沈静化させるためです。つまり、情報がなければメディアは報道できませんから。しかも弁護側からの情報がなければ、いずれは被害者側だけの報道になってしまうから、どこかで終焉するんです。情報があるから報道が加熱するわけですね。ですからメディアには基本的に対応すべきではない。しかしどうしてもやらなければならない場面があるだろう、と。それはやるべき理由と効果を睨んでやるべきだと思っているんです。・・・」

 しかし、光市事件のように社会的に注目を浴びた事件では、情報を出さないのはむしろ誤解を招き反感を助長するだけのように思います。たとえば、荒唐無稽だと批判を浴びた福田君の供述も、彼の生育環境や精神面についてきちんと説明されなければ一般の人には到底理解できないことです。黙っていたならマスコミは被害者側の主張や記者クラブ情報しか書きません。偏見や憶測が飛び交うことになります。弁護団はマスコミにきちんと対応し、またホームページなどを利用して積極的に情報発信していくべきだったと思います。

 弁護団は後に方針を変えて情報発信するようになりましたが、遅きに失したとしか思えません。マスコミによる偏った報道を信じ込んだ市民の意識は簡単に変えることはできないのですから。この点では、メディア対応を誤ったとしか思えません。

 私自身、「光市事件 弁護団は何を立証したのか」を読むことで、事件の概要と弁護団の主張を理解することができました。また今枝弁護士の書籍やネットでの発言は、多くの人が事実を知るという点で大いに意味があったと私は判断しています。来栖宥子さんがご自身のホームページで弁護団の主張を紹介していますが、こうした情報提供は本来、弁護団がやるべきことだと私は思います。

 増田さんに対しても、もっと誠実に取材に応じていたなら批判的な書き方はされなかったでしょう。増田さんの弁護団批判は、弁護団のメディア対応のまずさに起因するのです。

 今枝弁護士の解任をめぐる福田君の発言、あるいは増田さんの取材を拒否する弁護団についての記述は、弁護団にとっては公表して欲しくないことでしょう。弁護士らが提訴までした背景には、そうした事情があったのではないかと思えてなりません。

 反訴された本田弁護士は「提訴には本の宣伝に利用しようとする意図を感じざるを得ない」とのコメントを毎日新聞に寄せていますが、増田さんは弁護団と本村さんの両者に取材を申し入れて公平な視点で書いており、本の出版が公益目的であることは明瞭です。

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