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2009年7月11日 (土)

「川の樹林化」って何?

 北海道新聞2009年7月8日付夕刊のコラム「魚眼図」で、中村太士氏が「川の樹林化」について書いていました。十勝川の支流、然別川の河畔林が大々的に伐採され、十勝自然保護協会が河川管理者である帯広開発建設部に質問書を出していたこともあり、大いに関心をもって記事に眼を通しました。

 中村氏は、日本の多くの川では洪水撹乱が減ったことで「樹林化」が進んでおり、河原特有の植物(カワラノギク・カワラハハコ・カワラバッタなど)が姿を消しているが、ダムや取水によって流量が低下あるいは安定し、河川改修によって河道(中村氏は「澪筋」と表現)か変動しなくなってきたことが原因だとしています。また、樹木が茂ることで洪水が流れづらくなり氾濫する危険性が増し、流木による堤防決壊や橋・道路などの破壊の危険性が増すと指摘しています。しかし伐採して管理するには多大な税金がかかる。だから、新陳代謝を促す堤防と堤防の間での洪水撹乱が必要だと説きます。

 これ読んで、中村氏は何をいいたいのかと考えこんでしまいました。ここで冷静に彼の論理の妥当性を検討してみましょう。

 中村氏は、北海道の川ではなく、日本の多くの川と言っています。本州の多くの河川は世界的に見ると特異な河川形態を有しています。それは広い砂礫川原をもつことです。ここを生活の場とするのがカワラノギクでありカワラハハコなのです。この砂礫川原は短い間隔で繰り返される洪水によって維持されています。ですから、ダムによって流量が平準化すると他の植物が繁茂しこれらが消失することになりかねません(これについては「新・生物多様性国家戦略」で指摘されている)。なお、北海道の多くの川は、本州と異なり広い砂礫川原をもちません。このことは安定した河畔林となりやすいことを意味します。なぜ中村氏は、北海道の河川の特性を無視し「樹林化」というのでしょう。

 次に核心部分である河畔林が氾濫の危険性を増し、流木化して構造物を破壊する危険性を増す、という指摘についてです。

 明治以来、わが国では川を直線化して水を速く流すという治水がおこなわれてきました。しかし、これは下流部に一気に水を集め洪水被害を起こすことにつながります。このため河畔林が流速を落とすことで下流部の急激な増水を抑える効果が見直されようとしているのです。ですから河畔林によって水の流速が落ち氾濫の危険性を増すとの指摘は未来につながる思考とはならないでしょう。

 百年に一度、あるいは数百年に一度というような大雨による洪水では、河畔林から多量の流木が発生することもありますが、通常の増水程度では大規模な流木化は生じません。流木が生じた場合でも、中流域や下流域の河畔林は上流からの流木を捕捉する役割を果たします。また、流木が橋脚に引っかかって集積し、堤防決壊や橋・道路などの構造物を破壊するという指摘は、川(流域)の特性を考慮したうえでなされなければならないでしょう。川(流域)の特性を見極めて対策を立てるべきであり、河畔林は流木の元とばかり伐採するというのは短絡思考です。

 たとえば日高地方の厚別川流域では、2003年8月の台風10号によって未曾有といわれる集中豪雨に見舞われました。厚別川の上流に建設されていた大規模林道は法面の崩壊でズタズタになりましたが、路上には斜面から流れ出た立木が山となっていました。流木の供給源は河畔林だけではないのです。ここでは流木が橋に引っかかって橋が押し流されるという被害が生じましたが、大量の流木の発生は道路建設による斜面崩壊も関係していました。このとき流出した河畔林は一部であり、とくに中・下流域の河畔林の多くは流されることなく上流からの流木を捕捉するという役割を果たしたのです(光珠内季報:河畔林の消失と流木の捕捉実態参照)。

 また、ダムや堰の設置により河床が低下し河岸が段丘化してしまった場合には、河岸の崩壊によって河畔林が流木化しやすくなります。つまり、大雨によって流されやすい河畔林というのは限られているのです。河畔林や流木による危険性をことさらに取り上げるより、流木が発生する原因や河畔林の働きに目を向ける必要があります。

 さて、中村氏はこのコラムで何を言いたかったのでしょうか? 河畔林の伐採は多大な税金を必要とするとしながらも、河畔林の伐採そのものを否定してはいません。また、ダムや取水などによる「川の樹林化」が問題だとしながら、ダム建設を否定したりダムによる水の管理方法に言及しているわけでもありません。天然林伐採の時もそうでしたが、行政への配慮を欠かさない方のように見受けられます。

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河川・ダム」カテゴリの記事

コメント

2014,3,18付けの北海道新聞夕刊の「魚眼図」中村太士教授「おかしな連鎖」を読んで樹林化、という言葉が引っかかり検索しました。
全くその通りだと思います。
中村教授は洪水になった川を見たことがないんじゃないでしょうかね…
そして、新聞の話は「移動路として機能するから鹿が農作物を荒らす」とありましたが、そんな簡単なものではないという事をご存知で言われていますか?と。
このモヤモヤはどうしたものだか…

たまさん、コメントありがとうございます。

しばらく北海道を離れており、18日の魚眼図を読んでいないので、コメントは差し控えさせていただきます。

いずれにしても、まずはダムや堰などで人間が河川の生態系を大きく壊してしまったことを反省する必要があると思います。

通りすがりにコメント失礼します。

『日本の多くの河川』と表現した中村氏を批判しているにも関わらず、『北海道の多くの河川の河道特性は違うから、中村氏の主張はおかしい!』というような趣旨の内容が書かれていることに違和感を覚えます。
北海道の多くの川の河川特性=然別川の河川特性とは限りません。
ここは一般性ではなく、あくまで然別川自体の河道特性について書いたうえで、(主張が間違っていたら)批判すべきところです。

なお、落差工群が入る前の、過去の然別川は、本州の川と同じく(人によって捉え方は異なると思いますが)広い礫河原が広がる河川だったように思います。

仮に中村氏が上記のような河道特性を知っており、そのうえで、『日本の多くの川(と同様に然別川)では』、と表現している可能性も考えられます。というか、当該河川の川づくりに係っているならば、知っていて当然のことと思います。

十分な検証をせずに、自身の記憶と印象、常識のみに頼って記事を書くことが、果たして論理の妥当性を検証することになるのでしょうか?

相手の言葉尻ひとつを大げさに取り上げて、事実の確認も疎かなまま相手を批判するのは、昨今の低俗なジャーナリズムに共通することだと思います。

自戒も込めて、感想を投稿させて頂きます。
失礼しました。

通りすがりさんへ

>『日本の多くの河川』と表現した中村氏を批判しているにも関わらず、『北海道の多くの河川の河道特性は違うから、中村氏の主張はおかしい!』というような趣旨の内容が書かれていることに違和感を覚えます。

記事の冒頭に書いたように、中村氏のコラムは北海道新聞に掲載されたものです。つまり、読者は基本的に北海道民です。しかし、北海道では「樹林化」が生じる砂礫川原をもつ河川は少数派です。そのような断り書きもなく「日本の多くの河川で樹林化が進んでいる」と書いたなら、読者は北海道でも多くの河川で樹林化が進んでいると勘違いをしてしまいます。したがって、「なぜ中村氏は、北海道の河川の特性を無視し『樹林化』というのでしょう」と書いたのです。


>北海道の多くの川の河川特性=然別川の河川特性とは限りません。
>ここは一般性ではなく、あくまで然別川自体の河道特性について書いたうえで、(主張が間違っていたら)批判すべきところです。

この記事の冒頭で然別川の河畔林伐採のことに触れていますが、それは中村氏のコラムに興味を持ったきっかけとして触れただけです。記事をきちんと読んでいただければ、本文が然別川のことを述べているわけではないことは分かると思いますが。「北海道の多くの河川特性=然別の河川特性とは限りません」という認識は、あなたの早とちりです。


>仮に中村氏が上記のような河道特性を知っており、そのうえで、『日本の多くの川(と同様に然別川)では』、と表現している可能性も考えられます。というか、当該河川の川づくりに係っているならば、知っていて当然のことと思います。

中村氏は一般論としてこのコラムを書いているのであり、然別川のことを書いているわけではありません。このようなことを書くというのは、あなたは中村氏のコラムを読んでいないのですね。


>十分な検証をせずに、自身の記憶と印象、常識のみに頼って記事を書くことが、果たして論理の妥当性を検証することになるのでしょうか?
>相手の言葉尻ひとつを大げさに取り上げて、事実の確認も疎かなまま相手を批判するのは、昨今の低俗なジャーナリズムに共通することだと思います。

上記の発言は、あなたにそのままお返しします。

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