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2009年7月 1日 (水)

生命現象と動的平衡

 私は書店で平積みにされている本を買うことはあまりないのですが、福岡伸一氏の「動的平衡」にはついつい手が出てしまいました。福岡氏の「生物と無生物の間」については「生物とは何か?」でも触れましたが、この本で福岡ワールドに魅了されてしまっていたからでしょう。一般の人には難解な分子生物学を、ご自身の体験談や比喩を取り入れ、畳み掛けるようにわかりやすく伝えていく話術はもちろんのこと、身近な話題を展開させながら「動的平衡」というテーマに収斂させていく構成は、彼の秀でた才能によるものなのでしょう。

 プロローグ「生命現象とはなにか」で、バイオテクノロジーがうまくいかないことについて「それは、端的にいえば、バイオつまり生命現象が、本来的にテクノロジーの対象となり難いものだからである。工学的な操作、産業上の企画、効率よい再現性。そのようなものになじまないものとして、生命があるからだ」と指摘し、生命とは何かと問うのです。そして最終章「生命は分子の『淀み』」で、「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という回答を引き出します。

 「生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである」という動的平衡から発展し、「可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基盤、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす『効果』であるということだ。生命現象とは構造ではなく『効果なのである』」という視点は、はっとするような新鮮さがあります。私達を形づくっている細胞が絶えず入れ替わっているというのは、言われてみれば当たり前のことでありながら、私達がひごろ動物を観察したり生物について考えるとき、ほとんど意識してこなかったことではないでしょうか。

 サスティナブル(永続的)なものは不変であるかのように見えるが、実際には動きながら平衡を保っており、その軌跡と運動のあり方が進化だといいます。そして、生命が動的平衡を保つシステムであるからこそ、バイオテクノロジーによる操作にはなじまないとして、遺伝子組み換えや臓器移植にやんわりと警鐘を鳴らします。このあたりの感性にはとても共感できます。

 生命の本質を見事に描き出し、一気に読ませる本ですが、ひとつだけ誤りを指摘しておきたいと思います。第6章「人と病原体の戦い」の中でヒョウの父親とライオンの母親から生まれた雑種であるレオポンについて、「ヒョウとライオンは厳密に言うと種は変わらない。ヒョウの分類はネコ科ヒョウ属ヒョウ亜種で、ライオンはネコ科ヒョウ属ライオン亜種。つまり種が異なるのではなく、亜種が異なる」と説明しています。しかし、ヒョウの学名はPanthera pardus、ライオンの学名はPanthera leoで、属名(Panthera)は同じですが種小名(ヒョウはPardus、ライオンはleo)は異なります(亜種同士であるなら、種小名は同じでなければなりません)。ヒョウとライオンは自然界では交雑することのない別種であり、レオポンというのは飼育下で交雑させて作り出した雑種です。このあたりは分類学者ではなく分子生物学者である福岡氏のちょっとした勘違いなのでしょう。

 本書で繰り広げられている福岡氏の示唆に富んだ指摘については、追い追い話題にしたいと思います。

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