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2008年12月22日 (月)

苦悩することと信じること

 今年は、姜尚中氏の「悩む力」がずいぶん売れたようですね。私も読んでみましたが、確かに今の時代を語るのにふさわしい本なのだと感じました。

 この本では、明治時代に生きた夏目漱石と、やはり同じ時代にドイツに生まれたマックス・ウェーバーの著書を引き合いにして二人の共通点に焦点を当て、それから100年経った今の時代を見つめ、われわれはいかにあるべきかを問いかけています。著者は本書で「悩む」「苦悩」という言葉を使用していますが、「悩む=思い煩う」というよりむしろ「苦悩するほど深く考える」という意味合いのように思いました。

 この本ではマックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を取り上げています。この本、はるか昔の高校生時代に私も読んだことがあります。高校の政治・経済を教えていた先生が「興奮して眠れなかった・・・」と語った本だったのです。当時の私にとってはかなり難解でしたが、自分自身の生きている資本主義社会への懐疑心を大きくした本でした。資本主義の行き着く先を見てしまったような気がしたものです。

 姜尚中氏は、この本の内容を以下のように記しています。

 「要点を言うと、修道院の中での修道士の禁欲的な生活のように、プロテスタント信者が私利私欲を離れて、規則正しく、一切の無駄なく、働く意味の詮索さえ忘れて社会の中で黙々と勤労に励み、結果として富が蓄積されても、それを教授するのではなく、ひたすら営利に再投資することでますます富が蓄積され、資本主知の大きな発展に寄与した-というものです」

 その結果、資本主義の行く末には手段を選ばぬ不公平な競争と苛烈な富の偏りを生み、20世紀の世界戦争の元凶になった「帝国主義」を生みだしたわけです。不公平な競争と富の偏りこそ、大恐慌前夜のような今のアメリカ、そして日本の姿ではないでしょうか。私たちは大変な時代に生きているのです。

 一方、夏目漱石の本は一部しか読んでいないものの、「悩む力」に出てくる漱石の本の多くは読んでいました。ですから、姜氏の言いたいことはよく分かりましたし、私にとっては興味深いものでした。姜氏は、漱石は世の中をある距離感を持って見つめ、時代の本質とそこに生きる人間の内部世界を描いているといいます。文明が進むについて、人間は救いがたく孤立していくという点で、ウェーバーと漱石は共通するところがあるというのです。

 思えば、今から30年以上前の学生時代、受験を終え、自由と時間を手にした学生たちは、青春を謳歌すると同時に多いに悩み考えていたのではないかと思うのです。思い煩う悩みというより、生き方についての苦悩です。そして友人とさまざまなことを語らっていました。しかし、先の見えない今の時代、若者は孤立し、苦悩の中身も変わってきているのではないかと思えてなりません。

 姜氏は、「自我というものは他社との『相互承認』の産物だと言っています。それで「ああ、なるほど」と思いました。人間関係が希薄化し孤立化した若者たちは「相互承認」ができず、自我が確立できないのかもしれません。これはかなり深刻な事態です。では、他者とつながりたいと思うときはどうしたらいいのか? 中途半端に悩むのをやめたり楽観的になるのではなく「まじめたれ」といいます。

 さて、この本で姜氏のいいたいのは、苦悩して精神を病んだウェーバーや漱石は、自分の知性を信じて決して譲らず、自分自身を徹底抗戦して生きてきた人たちであったということです。そして「自我」と「何を信じるか」ということに立ち向かいつづけたということなのです。今という時代に私たちが求められているのは、こうした精神ではないでしょうか。

 他者を承認することは自分を曲げることではない、自分が相手を承認し、相手も自分を承認する。そうした確信を持つことによって、心が開かれ人とつながれる・・・。

 翻って、この世の中はどうでしょうか? 人を騙し、欺くようなことが溢れています。そんな醜い世の中でも、人が「他者を認め信じると」いうことに社会を変えていく原動力があるのかもしれません。

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