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2008年9月 8日 (月)

里山とナラ枯れ

 北海道では話題になっていないのですが、本州の里山ではコナラやミズナラ、クリなどが枯れてしまう「ナラ枯れ」が大きな問題になっています。

 「自然と人間」9月号に花鳥賊康繁氏が、ナラ枯れ問題とその防除実験について書いていますので、簡単に紹介しましょう。

 「ナラ枯れ」とは、カシノナガキクイムシ(略称カシナガ)というキクイムシが「ナラ菌」を運ぶことによって引き起こされます。カシナガは、背中にカビや胞子を繁殖させる器官をもっていてそこでナラ菌を繁殖させます。ナラ菌はカシナガによってナラの木に運んでもらいますが、カシナガはナラ菌がつくりだす酵母を餌にしており、双方は共生関係にあります。

 カシナガは交尾や産卵のために健全なナラの木に穴を開けて侵入します。するとナラ菌が大繁殖して導管が目詰まりし、ナラの木を枯死させるのです。羽化したカシナガは集合フェロモンを出して仲間を呼び寄せます。またカシナガの開けた穴からもカイロモンという匂い物質が出て、これもカシナガを呼び寄せます。こうして、マスアタックとよばれる樹木への集中的な加害が起こるのです。

 このカシナガは、最近になって日本に入ってきた外来種ではありません。それにも関らず、なぜ最近になってナラ枯れの被害が問題になってきたのでしょうか?

 花鳥賊氏の説明によると、カシナガは樹齢50年以上の大径木を好んで侵入するそうです。里山が薪炭林として利用されていた頃は、大径木になる前に伐採されていました。ところが里山に人手が加わらなくなって放置された結果、成熟したナラの森林が増加し、ナラ枯れの被害が拡大していると考えられています。

 そこで、考えだされたのがカシナガの出す集合フェロモンを利用した防除法です。カシナガをおびき寄せる区域を設定して、ナラの木に殺菌剤を注入しておき、人工的に合成した集合フェロモンをそこにぶら下げてカシナガをおびき寄せ防除するというものです。まだ実験結果は出ていないようですが、注目されているとのこと。

 この防除法で気になることがあります。ひとつは、人工的につくった集合フェロモンを自然の中で使用するということ。これは人為的に生態系を撹乱することにつながります。また、殺菌剤という薬剤を用いるということも気がかりです。あとで伐採処理するのでしょうけれど、やはり安易に薬剤を使うことには疑問が生じます。

 「虫の大発生をもたらすもの」でも触れましたが、害虫の大発生と人による森林の改変には大きな関係があります。これまで細々と生きてきたカシナガが大発生するようになった要因をつくったのは人間です。不自然な樹齢構成になってしまった里山を、本来の天然林に戻していくような対策こそ望まれます。

 里山の多くが民有林であるという難しさが伴いますが、国が取り組むべき問題でもあるのではないでしょうか。

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