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2007年7月31日 (火)

タカネコモリグモの分布は何で決まるのか?

Takanekomorigumo  日本には高山性といわれているクモがいくつかいます。登山道を歩いていて、よく目につくのは、網を張らずに歩きまわっているコモリグモ類でしょう。日本では高山性のコモリグモとしてタカネコモリグモ、ダイセツコモリグモ、アシマダラコモリグモの3種が知られています。その中でもっとも広く分布しているのはタカネコモリグモ(写真参照。お尻につけている青緑の袋は卵のう)で、北海道や本州の高山帯の砂礫地などに生息しています。

 ただし、ダイセツコモリグモやアシマダラコモリグモが高山帯だけに生息している真正の高山性クモ類であるのに対し、タカネコモリグモは高山帯だけに生息しているわけではありません。

 たとえば、大雪山国立公園の然別湖周辺には、森林帯の中に岩塊地が点在しているのですが、このような岩塊地にも生息しています。標高は約800メートルから1200メートルほどです。つい先日、札幌の手稲山に登りましたが、ここの中腹の標高720メートル付近にある岩塊地にもタカネコモリグモが生息していました。やはり森林帯の中の岩塊地です。

 もっと驚くのは、弟子屈町の硫黄山(アトサヌプリ)です。ここは活火山で、山麓部にはハイマツやエゾイソツツジ、ガンコウラン、コケモモなどの高山植物が広がっていますが、ここにもタカネコモリグモが生息しています。標高は約200メートルです。

 火山の影響を受ける暖かいところにも生息しているのですから、気温によって分布が決まっているわけではなさそうです。エゾイソツツジやガンコウラン、コケモモなどの分布も同様に、気温だけで決まっているわけではありません。これらの植物は強い酸性土壌でも生育できるために、強酸性になっている火山地帯や湿地にも生育できるのです。

 とすると、タカネコモリグモは、岩礫地や火山地帯の裸地、高山の砂礫地など、生物にとって厳しい環境に適応してきた種といえそうです。裸地や岩礫地などの厳しい環境にも棲めるタカネコモリグモは、おそらく氷期には平地まで広く分布していたのでしょう。その後の温暖化による森林の発達とともに、高山や岩礫地、火山周辺の裸地になどに取り残されたのではないでしょうか。

 ところで、高山性の動植物の多くは「氷河時代の生き残り」といわれ、同種や近縁種が北極をとりまくように分布をしていますが、タカネコモリグモは日本と千島列島にしか分布が知られていません。この分布パターンもとても興味のあるものです。

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クモ」カテゴリの記事

コメント

こんにちは
突然のメール失礼します。
タカネコモリグモの分布域についての記事大変興味深く読ませていただきました。アシマダラコモリグモが高山帯だけに生息している真正の高山性クモ類とあるのですが、最近twitter上で利尻島でアシマダラコモリグモのような個体が採集された投稿を見かけまして、分布が気になっています。
大雪山で記録はあるようですが利尻島は島なので少し不思議な気がします。
もしよろしければ北海道におけるアシマダラコモリグモの記録を教えていただけないでしょうか。
お忙しい中ご迷惑をおかけします

九州のクモ屋さん、こんにちは。

私が知る限りでは、アシマダラコモリグモは大雪山系の高山帯でしか確認されていません。生息地は高山帯の風衝地の砂礫地で、高山帯の中でも最も環境が厳しいところです。利尻島の記録は聞いたことがありません。生殖器の確認が必要だと思います。

松田まゆみ様

返信遅くなりました。お答えいただきありがとうございます。
図鑑等に記載されているように大雪山系でしか記録はないのですね。外見だけだとアシマダラに見えましたが、利尻島となると生殖器の確認は必須ですね。興味深いです。
本種の大雪山系での正式な記録は松田様の北海道産クモ類目録にあるのでしょうか。

色々とお尋ねしてしまって申し訳ありません。

九州のクモ屋さん

大雪山系での記録は「北海道産クモ目録」にありますが、「大雪山高山帯のクモ類」(保田信紀、2003、層雲峡ビジターセンター研究報告 第23号)に詳しいデータが記載されています。大雪山系と書きましたが、正確には大雪山北部からトムラウシ山にかけての地域とニペソツ山になります。十勝岳連峰や石狩岳連峰では記録されていません。

大雪山系高山帯のコモリグモの分布については、「大雪山高山帯のコモリグモ類(予報)」(保田信紀、1991、上川町の自然 第15集)および「大雪山高山帯のコモリグモ類(予報2)」(保田信紀、1993、上川町の自然 第17集)で調査結果が報告されています。

なお、同じく保田さんの「北海道の高山に生息する真正蜘蛛類Ⅲ(利尻山)」(1992、上川町の自然 第16集)を見ましたが、アシマダラコモリグモの記録はありません。高山性の種としてはタカネコモリグモのみです。

大きさや外見でアシマダラコモリグモに最も似ているのはハタチコモリグモかと思います。利尻島の記録はハタチコモリグモかもしれません。新海栄一さんの「増補改訂版日本のクモ」の122ページの写真で見比べられます。

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