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2007年7月20日 (金)

自費出版と販売

 著者がすべてのリスクを負担する自費出版の場合、販売を目的とせず私家本としてつくる場合と、販売を目的としてつくる場合があります。前者は、基本的には印刷屋や自費出版を請け負っている会社で、著者の好みの本をつくればよいことになりますから、トラブルになることはそう多くはないと思います。かつては自費出版といえば、こうした制作請負だけを行うのが主流でした。

 販売がほとんど期待できない私的な内容の著作物、歌集や句集あるいは詩集などは、このような形で出版するのがふさわしいでしょう。また、どうしても編集者に手を加えられるのが嫌だという方も、私家本なら原作のまま本にできます。費用は、本のつくりや編集の有無、印刷方法などによって、かなり差がでてきますから、自分の目的にあった印刷屋や自費出版会社を選ぶといいと思います。ただし、自費出版会社の中には、高齢者に高額の布団を売りつける悪徳業者のように、多額の利益を加算した代金を請求するところもあるようですから、注意も必要です。

 トラブルが生じやすいのは、書店で販売をしたいという場合です。何しろ無名の素人の本は、ほとんど売れませんし、たとえ書店に置かれたとしてもそれだけではまず売れません。ところが、そのようなことを知らない方は、書店販売に過剰な期待を抱いてしまうのです。著者の期待と現実のギャップはかなり大きいというのが現実でしょう。売って出版費用を回収しようなどとはまず考えるべきではありません。

 私が所属している自然保護団体で、活動の記録集を出版したことがあります。ボランティアで活動している自然保護団体は資金がありませんから、本を出す場合は赤字にならないようにしなければなりません。そのためには、自分たちで売り切れる程度の部数をつくり、買ってもらえる値段設定にし、全部売ることで費用を回収する必要があります。そこで編集は自分たちでやり、パソコンの得意な方に普通よりかなり安い費用で版下を作成してもらうことで制作費をなるべく安く抑えました。できた本はすべて自分たちで宣伝・販売したので、売上金は100パーセント収入になります。こうして完売し、若干の黒字になりました。

 一般の人が、自費出版の本を数百部程度つくって売り、費用を回収したいのであれば、このように自分で編集し、版下まで自分で作成するなどして制作費を抑え、さらに自分で販売して大半を売り切る必要があります。印刷屋ではなく自費出版を請け負ってくれる会社に依頼すれば、制作費にマージンが加わりますから、たとえ自分で全部売っても赤字になってしまうでしょう。さらに、販売を委託したら、売上金から手数料などの経費が差し引かれますから、売上収入も自分で売る場合よりはるかに少なくなります。

 何千部、何万部も売れるのであれば別ですが、無名の素人の本はまず、ほとんど売れないというのが実情でしょう。ですから、著名人でない限り、自費出版の本を売って費用を回収しようなどと考えるほうが間違っているといえます。販売によっていくらかでも回収できたらよいと捉えるべきでしょう。

 本を販売したいという方の多くは、恐らく費用の回収ということより、書店に並ぶこと、書店で売ってもらうことに期待を抱くのではないでしょうか。そんな期待を抱いた著者があふれるようになったのが、昨今の自費出版ブームなのです。そして大半の素人をそのような気にさせてしまったのは共同出版社の新聞広告を利用した、大々的な宣伝にあったのではないかと思えます。

 共同出版社の台頭によって、素人の本でも売るのが当たり前というような風潮がつくりだされ、多くの著者が、販売をしない自費出版には興味を示さなくなったのではないでしょうか。これは共同出版のもたらした弊害だと思えて仕方ありません。このような著者が増えると、販売を扱わない自費出版業者は、死活問題にもつながってきます。そこで、販売が困難なことを知りつつ、仕方なく販売や流通も手がける自費出版社が増えてきたという側面もあるように感じられます。

 自費出版の本を、商業出版のように書店で販売すべきか否かということは、とても難しい問題です。たとえ素人の書いた本であっても、販売に値する素晴らしい本もあるはずです。作品というのは読まれてこそ意味があります。その反面、無名の素人の本を売るのはとても大変なことであり、現実には非常に厳しい壁が立ちはだかっているのです。

 商業出版でも、自費出版でも、売れるかどうかは一種の「賭け」です。自費出版社が書店での販売や流通を謳うのであれば、まずは無名の素人の本の販売は非常に難しいことを著者に説明する必要があります。制作請負・販売委託をする自費出版においては、制作も販売もすべてのリスクを著者が負うことになるのですから。

 そのうえで、出版社は販売に値する作品を選び、質の高い編集を行って商業出版に負けないクオリティーの高い本づくりをし、また売れる体制づくりをする必要があります。「編集者に手を入れてもらいたくない」という著者は、出版社ともトラブルになるでしょう。また、私家本なら印刷部数などは著者が決めることになりますが、取次を通じて販売する場合は返品のリスクなどを考えると、そういうわけにもいきません。販売を見込める部数や定価を考慮してつくることになります。著者がすべてのリスクを負担するといっても、私家本とは違った制約がどうしても出てきます。

 こうしたことを考えると、書店販売を希望する著者には「無名の素人の本はほとんど売れない」ということを、もっともっとアピールしていかなければならないとつくづく感じてしまいます。

 大型書店に行き、そこに自分の本が一冊棚差しされているのを想像してみてください。それを赤の他人が手に取り購入する確率は限りなくゼロに近いことを著者は肝に銘じ、書店販売をするかしないかも含め、慎重な出版社選びをしなければなりません。

 売れないという自覚と出版についての基礎知識がなければ、共同出版の甘い誘惑に惑わされてしまいます。

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